
今年4月以降、「退職代行に関するニュースが妙に多いな!」と思ったことはありませんか?
数年前まではインターネット上でネタにされていたようなサービスであったのに、近年はすっかり一般的になったのかと感じている方も多いかもしれません。
筆者もその一人です。
退職代行の利用者は、やはり若い世代の社会人に多いようですね。
これについて、
- 最近の若者は常識がなってない!
- Z世代は打たれ弱すぎる!
- 若い人たちは我慢が足りなすぎる!
と、怒りをあらわにしている先輩社会人の声もよく聞かれます。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
今回はこの「退職代行」というサービスについて解説するとともに、「最近の若い人」との向き合い方について考えてみたいと思います。
そもそも、退職代行とは
退職代行とは、2018年頃から徐々に知名度を上げてきたサービスです。
今年に入ってからは、4月ごろから検索数が徐々に増え始め、ゴールデンウィーク明けから更にキーワードの人気度が高まっていることが分かります。
これはおそらく新卒で入社した社会人だけでなく、退職代行に関するニュースを目にした上の世代の社会人による検索数も増えているでしょう。
退職代行サービスでは、その名の通り退職に関する諸連絡や手続きを委託することができます。
その委託方法や形態は様々あるようですが、今回は最も一般的に周知されていると思われる民間の退職代行サービスについて取り上げていきます。
サービスを利用する際の流れとしては、大まかにこのような手順だそうです。
利用者目線で考えれば、退職代行に連絡をするだけで退職に関する申し出や今後についてのやり取りはすべてショートカットできます。
「退職代行に依頼したら、『今日からもう会社に行かなくていい、すべてこちらに任せて!』と言ってもらえた!」
…という方もいました。
利用する際の料金は2万円~5万円程度の企業が多いとのことです。
筆者の身近に利用経験者はいなかったのですが、各ニュースで取り上げられているように
「退職代行を利用する若者が急増し、業者へ申し込みが殺到!」
…といった現象が事実ならば、これを利用して退職したという人はたしかに存在するのでしょう。
実は、このサービスについてかなり前から注意を促す声が多くありました。
というのも、退職代行サービスというのはあくまで「退職についての連絡などを代行するサービス」であり、実際に企業と退職者の間でトラブルになった場合に対処してもらえないというケースがあるようです。
退職代行の多くは法的な影響力をほとんど持っていないため、退職の申し出に対して企業がスムーズに従ってくれるとは限りません。
例えば、以下のような例があります。
- 会社が退職を認めない
- 退職金や未払い給与を受け取れない
- 懲戒解雇にされてしまう
- 会社から損害賠償を請求される
このようなことになってしまった場合、民間の退職代行では対応しきれず、労働組合や弁護士などの力を借りなければ解決しきれない可能性があります。
(※最近ではこういったトラブルに備え、弁護士による退職代行サービスもあるそうです。)
また、こういったトラブルだけでなく、
- 代行業者と連絡が取れなくなった
- 想定外の追加料金が発生した
- 依頼前にも関わらず、委託を断ったことによりキャンセル代を請求された
など、サービスを提供している企業そのものに問題があったり、詐欺行為に巻き込まれてしまったりすることもあるようです。
やはり、自分自身の人生に関わることですから、第三者に丸投げするという行為はリスクを伴っているということが分かります。
ただ、サービスを活用したことでスムーズに退職することができたという方もいるようですから、一概に良くないサービスであるとは言い切れないというのが実状でしょう。
退職代行に対する世間の反応
今回、退職代行の利用経験者の声を知るため、SNSなどで少々リサーチをしてみました。
代行を利用したことにより、簡単かつスムーズに会社を辞めることができたという方は決して少なくありません。
しかし、別のサービスのための集客的な内容が多かったり、何故利用に至ったのかなどの詳細が語られていなかったりと、信憑性の高いものを多く集めるのはなかなか難しかったです。
「何か特別な事情や深刻な理由があって利用した」
というよりは、
「お金を支払えば面倒なやり取りや嫌な思いをせずに済むため利用した」
という方が多い印象を受けました。
一方で、退職代行に対して批判的な社会人の意見は多く見られます。
新社会人に対するなかなか手厳しいコメントから、後輩の業務を押し付けられてしまったという愚痴まで、実に様々な内容がありました。
「退職代行サービス各社の名前がユニーク過ぎて笑ってしまう、真剣さに欠ける」といったコメントもあります。
実際の現場でのエピソードだけでなく、各メディアで取り上げられたことから世間からの関心がかなり高まっていることが分かりました。
その中でも一部、一定の理解を示す声や、今後の日本の社会・企業としての体制を憂うような声も聞かれます。
退職は、退職届を提出するか、もしくは自分自身で上司へ申し出るのが常識と考える方は多いでしょう。
ただ、
- 職場や上司に問題があり、そうすることがどうしてもかなわない状況
- 心身に不調を抱えてしまい、自分自身で申し出ることが難しい状況
など、どうしてもそうせざるを得なかったというケースに対しては仕方のないことであり、取るべき最終手段であると考えている方は多いと思います。
しかし、そのような考えを持っている中で、突然自分の会社へ退職代行から電話がかかってきたらどう思うでしょうか。
昨日までは一緒に働く仲間だったはずなのに、突然裏切られたと感じてしまう方もいるかもしれません。
- 会社に対して不満があったのではないか
- 遠回しに労働環境や周囲の人物に問題があると言われているようだ
- 自社が一般的な方法で辞めることができないブラック企業であると思われているようだ
といったように捉えてしまう方もいるでしょう。
そのため、会社の中堅~ベテランとして働く世代の社会人こそ、この退職代行に対して不信感や嫌悪感を感じる方が多くなるというのは、ある意味当然であるといえます。
退職者の中には、退職を申し出る前から何となく予兆があったり、辞めることをそれとなく匂わせたりするケースがありますが、そういった前触れがまったくなかった場合はやはり戸惑ってしまいますね。
近年は新卒で入社した会社をすぐに辞めてしまう方も増えていると言われていますから、そのような場合はますます退職者に対してモヤモヤとした嫌な感情を持ってしまいそうです。
今後更に退職代行を利用する方が増えていけば、このような形で嫌な思いをしてしまう方々も増えてしまうかもしれません。
退職代行を利用する「最近の若者」とはどんな人か
ここまで、上の世代の社会人ほど退職代行に否定的な方が多いと分析しました。
ここからは、退職代行を実際に利用する方々について考えてみます。
あえて嫌な言い方をする形になってしまいますが、「最近の若者」という言葉を使ってみたいと思います。
「まったく最近の若い者は…」という表現を、一度も聞いたことが無いという方はおそらくいないでしょう。
余談ですが、筆者は「古代エジプトの壁画に『最近の若者は…』と描かれている」という都市伝説的な話が妙に気に入っています。
これについての真偽は定かではありませんが、どの国のどの年代においてもこのような愚痴を言う年長者が存在するという話には、妙な信憑性があるように思えるのです。
それほどに、自分と違う時代を生きてきた人というのは、まるで理解できないと感じている方が多いということなのでしょう。
しかし、すべての世代の人はそのように思われていた経験があるはずなのです。
少しずつ変化し、進化してきた人類の歴史を見れば当たり前のことなのですが、それを分かっていても完全に理解し許容するのは難しいということかもしれません。
ここからは、2000年前後に生まれたZ世代の特徴を中心に「最近の若者」について考えてみたいと思います。
まず一つ、Z世代の特徴として挙げておきたいことがあります。
それは、インターネット上で提供される無形商品やサービスへの抵抗感が少ないということです。
SNSや動画サイトを無料で活用でき、サブスクリプションサービスで映画や音楽を楽しめるようになった現代。
私たちが以前活用していた書籍やテキスト、CD、DVDといった「物」は、現代において活躍する場は少なくなりました。
一方で、インターネット上でより多くの文章や動画、音楽がいつでも楽しめるようになっています。
つまり、若い世代にとっては、見たい情報が簡単かつスマートに手に入りやすい時代です。
そして、自分の娯楽のためにサブスクの定額料金を払うように、形がないサービスにお金を払うことに対して抵抗感のある方が少ないのではないかと考えます。
「会社を辞めるために第三者にわざわざお金を払うなんて…」
と考える上の世代に対し、
「お金を払って簡単に解決できるなら合理的である」
と考えるZ世代が存在するのは、当然のことといえるかもしれません。
ただ、そのような時短や手軽さ、合理性を重視している一方で、会話などの直接的なコミュニケーションや、職場での人間関係に関してはあまり重要でないと考えている傾向が高い気がします。
これは決して会話が下手だとか、思いやりや協調性がないとかいう話ではなく、シンプルに社会での経験が十分でないということだと思われます。
安易な気持ちで退職を決意し、退職代行を利用するような人は、それによって自分にどういった影響を与えるか、自分自身が周りにどのような人間だと思われるかということについてはあまり深く考えていないのかもしれません。
そのため、いくら先輩方から
「そんなに早く辞めてしまったら自分のためにならないぞ」
「そんなサービスを使って辞めたら、先輩たちがどんな気持ちになるのか考えないのか」
…といったお説教をされても、あまりピンとこないのではないでしょうか。
後出しの話になってしまいますが、既に退職を決意した後の評価やコミュニケーションよりも、教育・指導をする段階での対処が必要とされていたと言えるでしょう。
それを分かってもらうためには、これから先で様々な経験を積んでもらう他ありません。
そして私たちも、すべてのZ世代がそういった特徴に完璧に当てはまるわけではないことも理解しておく必要があります。
ここで一旦少しご自身のことを振り返っていただきたいのですが、目上の方に対して失礼なふるまいをしてしまったり、社会人としてよくない振る舞いをしてしまったり、
「その時は気がついていなかったけれど、今思えばとんでもないことをしてしまったな…」
という過去の経験はありませんか?
ネガティブな筆者はこういったことを考え始めると本当にキリが無く、若い頃の失敗を思い出しては自己嫌悪に陥ります。
しかし、今となってはこれも自分自身の大切な経験の一つ。
今少し大人になってそれに気がつくことができたのは、これまで様々な会社で揉まれ、諸先輩方に育てていただいたおかげです。
現代における「最近の若者」も、更に経験を重ねていけば徐々に「最近の若者」からは遠ざかっていくでしょう。
しかし、そのころにはまた新たな世代の「最近の若者」が現れているはずです。
これからの日本の社会を背負う世代は、今社会人になったばかり。
今後社会の中で様々な経験を積み、成長していくことで、我々にもこの世代の更なる特長が少しずつ見えてくるのではないでしょうか。
時代の変化と社会が取るべき対応
「まったく最近の若者は…」
と言われ、良い気分になったことがある方はあまりいないでしょう。
それにもかかわらず、いつの時代、どの世代においても、新しく社会に参加してきた若い人はこういった冷たい目で見られてしまうシチュエーションは多くあります。
これはどうしてでしょうか。
「常識」というものは、時に非常に曖昧な定義のように思えてしまうことがあります。
生まれ育った国が異なればまったく別の常識を持っているのと同様に、生まれた時代が違うことでそこにギャップが生まれるのは当然のことです。
上の世代にとっては、若い世代に対して「よく分からないから、何となく気に入らない・怖い」といった感情を抱いてしまう要因になってしまっているかもしれません。
しかし、それは若い世代から見ても同じことです。
自分にとって当たり前に思えることや、自分が育ってきた時代の常識がそのまま他人に難なく理解されるものであるとは限りません。
悪いケースにおいては、今まで当然だと思っていたことが、現代において大変非常識なことであるという場合もあります。
そして更に言えば、すべての人がそういった世代ごとの特徴に当てはまるとは限らないということも理解しておかなければいけません。
相手の年齢や世代を取り上げて差別的な発言をしたり、相手に嫌な思いをさせたりする行為は、「エイジハラスメント」と呼ばれています。
「ハラスメント」という言葉がよく聞かれる昨今、「何でもかんでもハラスメントじゃないか…」と感じ、生きづらさを感じてしまう方もいることでしょう。
そもそも、時代の流れとともに変化しているそれを完璧に理解した上で立ち振る舞うというのは、誰もがすぐに出来ることではありません。
それでも、私たちは変化する時代に取り残されないための努力をする必要があります。
見知らぬ相手に対していきなりすべてを理解し、尊重し合おうとするのはとても難しいことです。
少しずつコミュニケーションを取り、社会の一員として共に働きながら徐々に見出していくべきだと思われます。
そういった中で、お互いの価値観や考え方、社会人としての意識は少しずつ変化していくのではないでしょうか。
世代間の隔たりや考え方の違いというのは、どうしても無くすことのできないものです。
自分自身は一般常識を理解し尊重できる、これまでもこの先もずっと正しい社会人であると自信を持って言える方はどのくらいいるでしょうか。
退職代行を利用する若い人の中には、自分の能力を過信し、何に対してもモチベーションを持てず仕事への誠実さもないというような人もいるでしょう。
しかし、そういった方とは別に、早々に会社や労働環境に見切りをつけていたり、職場の人間関係に耐えかねてそういった選択をした人がいることも否定できません。
「すぐに辞めてしまうなら、入社しなければよかったのに…」
という小言は、裏を返せば、
「すぐに辞めてしまうような人材を入社させなければよかったのに…」
ということにもなります。
退職代行を利用する人たちへ苦言を呈するよりも先に、そういったリスクの高そうな人材を避け、自社に適した能力を持つ人を見極め、育成していく必要があります。
どのような人材を入社させるか、どのような社会人を育てていくか、どのように指導を行っていくかというのは、やはり社会や企業の大きな役割であるといえるでしょう。
<PR>
株式会社経営人事パートナーズでは、採用するべき人材を見極めることのできる、科学的な根拠のある採用選考のシステムを開発し、ご紹介しております。
90分の無料相談会も実施しておりますので、お気軽にこちらからお問い合わせください。