ジョブ型の違和感はコレだ ③Z世代×新卒ジョブ型採用の相性とは

ジョブ型×新卒採用。導入する企業が増えていますが、Z世代の本音や悩みの背景を観察すると、工夫が必要なポイントが明らかに。

本来のジョブ型とは異なる”日本式ジョブ型”

前回までの記事は、ジョブ型について、個人の視点よりも、社会全体・企業全体に焦点を当て、「組織」としての課題や注目ポイントについてみてきました。(前回の記事はこちらから→その①その②)

今回は、現在多くの企業で導入・検討が進められている「ジョブ型新卒採用」について、Z世代の価値観・考え方・あまり表面には出てこない悩みなどを考察しながら、どのような点に工夫が求められてくるのか、考えていきたいと思います。

 

まず、日本企業のジョブ型新卒採用の現状について整理します。

改めてジョブ型雇用とは、「あらかじめ明確化された職務に対して人を雇用すること」です。

株式会社ヒューマネージが実施した2024年3月卒予定の大学生・大学院生を対象とした企業の新卒採用に関する動向調査によると、全員を「職種別採用」で採用する企業は39.3%、さらに一部の職種で職種別採用を選択している企業を合わせると、約6割(60.6%)の企業が「職種別採用」を実施しているようです。

また、実施企業の内訳では、大手企業ほど導入割合が大きいことがわかっています。

ここで注目したいのが、「職種別採用」という言葉です。

職種別採用とは、希望する「職種」への配属が約束されている採用です。

そのため、実際の「担当職務」が応募時点で明確に決まっているわけではありません。

これは、本来の欧米のジョブ型とは異なります。

例えば、KDDIでは、従来型の配属が決まっていない採用方法である「OPENコース」とは別に、「WILLコース」として、職種別採用を実施しています。

全部で14職種あり、ネットワークインフラエンジニアで採用された場合、実際の業務は、

  • 技術企画・技術開発
  • 支援システム開発
  • エンジニアリング
  • R&D

となっており、いずれかの職務に配属されることになります。

そのため、ジョブ型のような個別の職務記述書があるわけではありません。

KDDI以外にも、多くの企業が新卒採用に職種別採用を導入しています。

≪導入事例≫

日立製作所 

  • 新卒だけでなく全社員に適用
  • 初任給は一律ではなく、技能や経験、職務内容などを考慮した個別設定

富士通

  • 従来のメンバーシップ型と併用
  • 配属をどこまで約束するかの違いにより4つのコースを設定

 

ジョブ型採用と職種別採用を同義として捉えている人もいますが、両者は別物です。

今までの新卒採用でも、職種別採用は存在していましたが、今回改めて注目され、給与体系を紐づける企業が出てきたことで、よりジョブ型に近いシステムにはなっています。

しかし厳密に言えば、欧米型のジョブ型新卒採用とは異なり、職務記述書も運用している日立製作所がもっとも近いといったところでしょうか。

つまり日本のジョブ型新卒採用の実態は、ジョブ型の要素を一部応用した「独自の採用方法」ということになります。

まず、この認識を統一し、以下「日本式ジョブ型」として記載していきたいと思います。

 

Z世代が置かれた環境とホンネ

Z世代とは、1990年代半ばから2010年代序盤までに生まれた世代のことで、現在の10代~20代半ばの若者層を指します。

入社5年目あたりまでの若手社員、そして現在就活中の学生が、まさにZ世代です。

まずは、これから多くの企業が日本式ジョブ型採用で獲得していくことになるZ世代の価値観・考え方・悩みなどを、さまざまなデータやこれまでの学生支援の経験から読み解いていきます。

※ただし、彼らがすべて当てはまるわけでなく平均像も存在しないので、あくまで傾向があるという点を事前にお伝えしておきます。

はじめに、みなさんはZ世代にどのような印象をお持ちでしょうか。

そもそも世代に分けて考えること自体に賛否両論あるかと思いますが、メディアでは“個の時代”の代表として扱われることが多いため、個性や自分自身を大切にし、多様性を受け入れている世代というイメージが強いのではないでしょうか。

また、いつの時代もお馴染みのセリフですが、“最近の若い人たちはよく分からない”、あるいは“あまりにフランクな対応に困惑している”と悩んでいる人事や育成担当者が多いという話もよく聞きます。

今回は、彼らの現状について、顕在している部分を整理し、併せて潜在している心理的な部分についても考察していきたいと思います。

 

① SNS・デジタルネイティブ特有の悩み

≪表の姿≫

Z世代の一番の特徴は、デジタルネイティブ世代であることです。

生まれたときからデジタル環境があり、スマホも物心ついた頃から使っている世代です。

その上の世代は、人生の途中でデジタルが自分の生活に入ってきたため、暮らしが便利になった、世界が広がった、本や辞書を読まなくなった、仕事の効率が上がり反対に忙しくなった等、さまざまな変化を経験していますが、Z世代はそれが既にある世界に生まれてきたので、変化も感じようがなく、比較対象がないので便利さという感覚そのものが存在しない、ということを想像すると、違いがわかりやすいでしょう。

では具体的に、彼らがどのようにソーシャルメディア・SNSを日常のツールとして使っているかをみてみましょう。

マイナビのライフスタイル調査によると、Z世代が使用している割合が多いものは、

1位 LINE

2位 Twitter

3位 YouTube

4位 Instagram

5位 TikTok

という結果が出ています。

テレビを観ない、一人暮らしの場合は所有していない人も多い世代のため、最新のニュースはTwitterで仕入れ、中高年層がGoogle検索などインターネットで情報収集しているものを、YouTubeやInstagramで代替し、ネットの役割も兼ねて使いこなしている世代です。

もちろんインターネットも使用しているようですが、大学のレポート資料を探すために使用したり、動画をみるためのテレビの役割として利用したりしている割合も多く、近い将来ここにChatGPTが加わる世代になりそうです。

また、興味深いのが、TwitterとInstagramのアカウントを複数もっている人が約3割いることです。

アカウントの使い分けは、この世代の特徴といえそうです。

≪みえにくい本音≫

このようなソーシャルメディア・SNS環境で育った若者は、一見、思うがまま自由に情報発信・交流しているようにみえますが、実はそうでもありません。

中学生・高校生の多感な時期に、数えきれない炎上や誹謗中傷をみてきている、もしくは実際に経験している人も少なくないからです。

SNSを通して自分が疎外される、または心無い言葉を投げかけられる痛みを知っている人も一定数います。

そのため、不特定多数に見られる“オフィシャル”なアカウントでアップする写真は、他者の目・世間の目を意識した自分を発信。

一方で、気心知れた友人同士では、今は映える写真よりも、素の自分らしい写真・リアルな投稿が主流のようです。

ただ、どちらにしても、いいねをもらうことで承認されているという安心感を得る心理は、強く根づいている印象です。

アカウントの使い分けにより、リアルの間柄には知られたくない趣味・プライベートの世界の自分と、学校や会社などのリアル・外向けの世界の自分とを分けて、安心・安全の居場所をつくるという手段は、SNS環境下で自分の心を守るための自然な流れのようにも感じます。

筆者も学生に聞いてみたことがあるのですが、やはり使い分けが一般的という認識でした。

具体的には、中学・高校・大学の友人別、趣味で分ける、知り合いと繋がらない用、など。

理由としては、自分の投稿が相手にどう見られるか考える、話題に興味のない人や関係ない人がいると気を遣うなど、配慮という側面もあるようですが、根底には、もし周囲に理解されなかったら、受け入れられず批判されたら、怖いし傷つきたくない、という心理も隠れていると感じます。

その思考回路はSNSに限らず、他のリアルなコミュニケーションにも影響します。

まわりからどう見られているかを気にするため、他人ありきの自分の発言や行動になりがちです。

そのため、何かひらめいたりオリジナルの発想があったりしても、それが他者に受け入れられるかどうか、という他者評価の分厚い壁があり、その壁を気にせず突破する人は、案外少数派のような気がします。

メディアでは他人の目を気にしない自由な世代という特徴がフォーカスされていますが、実はそうでもないのが現場感です。

よって、「まわりの評価ありきの自分の価値観」ということになり、それは本人の本当の価値観とはいえないケースもあります。

実際は、デジタル環境をうまく活用することで自分の興味のある分野を探求していく力や、日本だけでなく世界中の情報収集にも長けており、プログラミングや音楽、アートなどの分野、その他あらゆる社会課題に対しても、それぞれが豊かな発想力、新しい着眼点をもっている世代です。

インスタやTikTokに代表されるように、コミュニケーションの方法がテキストよりも映像中心のため、視覚的な発信も、上の世代では思いつかなかったアイデアが生まれています。

ありのままを出しても否定されない、という経験をすること、もしくはどんどん発信していきたいと思える安心できる環境が必要だといえそうです。

 

② 個性の尊重は当たり前、でも自分には自信がない

≪表の姿≫

Z世代は、みんな違ってみんないい、という考え方を、学校教育やソーシャルメディアを通した世界中の情報から学んでいる世代のため、自分らしさを重んじることや他人を尊重することを大切にしています。

多様性、LGBTQなどのテーマに強い関心をもっているのも、この世代です。

そのため、不公平・差別といったものに敏感で、おかしいと思ったことには匿名で声を上げる人も多いです。

≪みえにくい本音≫

このように他者・社会に対しては、多様性を重んじますが、肝心の自分自身については、自信がない人が多い印象があります。

こんなに素晴らしい才能があるのに、と支援側が思っていても、私なんて周りと比べたら全然ダメ、と、自分で作り上げた他人軸でとことん自己否定が続く学生と出会うことも少なくありません。

考えられる背景として、SNSを通して、身に付けているスキルやもっている技能、アウトプットした成果物など、「条件付き」で比較され、評価される経験をし続けている彼らは、素の「なんでもない一人の人」としてそのまま受け入れられる喜びや安堵感、という世代関係なく人が求めている部分の経験が少ないのではないでしょうか。

そのため、多様性を重んじていても、結果的に公の自己発信は没個性になっている場合もあります。

オープンな場では、ありのままではよくない、ということです。

ここでもやはり、まわりの評価の壁、他の人より目立ってしまうことへのハードルがあり、受け入れられるかとても不安、でも認められたいし自分も自由に表現したい、という心の声が、炎上覚悟でも自らの価値観を発信している人や、社会課題に対して強いメッセージを発してオリジナル商品を生み出しているような企業への「共感・憧れ」として現れているといえそうです。

 

③ 現実的で無理をしない、無駄な衝突もしない理由

≪表の姿≫

ずっと停滞しているデフレ社会しか経験していないのも、この世代の特徴です。

どこか社会や上の世代を冷静にみており、発言の矛盾にも敏感。

過度な期待をせず、無理なく手に届く現実的な選択をする印象があります。

成長志向はありますが、競争、がむしゃら、のようなワードからは遠く、ハングリー精神のようなものはあまり見られません。

バブル世代からすると、少し大人しいと感じる人もいるのではないでしょうか。

デフレ経済の影響で節約の意識も強いので、良くも悪くも足るを知る世代です。

少し年齢が下がりますが、同じZ世代である高校生の価値意識調査によると、「今の自分は幸せか?」という質問に対して、約8割が「幸せ」・「どちらかといえば幸せ」と回答し、2014年以降もっとも高い結果となっています。

その理由として、

「戦争がない国に住んでいるから」

「衣食住に困らないから。夢を持つことができるから」

「当たり前の生活を不自由なくできているから」

「家族と仲良く暮らせているから」

「友達に恵まれているから」

と、日々の暮らしの何気ないことに幸せを感じられているようです。

引用・参照:「高校生価値意識調査2022」リクルート進学総研調べ

また、タイパという言葉にも表れているように、自分の好きなことやプライベートの時間も確保するために、無駄のない方法、とことん効率を求める傾向もあります。

≪みえにくい本音≫

無理をしないもうひとつの背景として、努力してまで親しくなろうとしない、あえて疲れるような衝突は避ける、という選択をとりやすい環境であったことも大きいと感じます。

少し社会全体の視点になりますが、今は都心に限らず地方でも近所付き合いがなくなり、自分の心を許す友人や家族だけのコミュニティで過ごしている人も多いため、価値観の異なる人と意見を交わしたり、一時的に誤解が生まれ関係がこじれたりしても、互いを理解しようとする“わかりあいのプロセス”を踏むことで、コミュニケーションを深めていく経験が、他の世代と比べると極端に少ないです。

価値観が合わない人がいることは当たり前で、それ自体にはとても理解があり寛容ですが、実際のコミュニケーションとして、価値観の合わない人をどう受け入れて共存していくか、ということには少し消極的な動きがあるように思います。

そのため、とことん話し合う、対話を諦めない、といったようなステップには踏み込まず、自分から離れるか、あらかじめ境界線を引く。

ストレスとなりそうなことを事前に選択しない、という対処方法としてのメリットもありますが、これも不安や怖れの感情の裏返しのようにも感じます。

 

まとめると、

Z世代は「相反する感情が同居している世代」といえます。

ある意味、とても複雑で生きづらい。

彼らの特徴の多くは、育ってきた社会の「環境」に影響されている部分が大きいです。

特にデジタル化の影響は、多くの恩恵もありますが、すべての世代が、本来コミュニケーションってどういうものだっけ、という基礎に立ち返らなければならなくなった、とも捉えられます。

彼らに対して、淡々としている、冷静、マイペースというイメージをもつ人もいると思いますが、心の奥底は、生身の人間のリアルなコミュニケーションや温かいつながりを、とても渇望している印象があります。

しかも、それに輪をかけるように、コミュニケーションで多くのことを得られるとても大事な時期を、コロナ禍の環境で過ごしたわけです。

時として、自分自身を外側の条件ではなく、一人の人として受け入れてほしい、という奥底の想いが歪み、強い自己顕示欲や承認欲求、権利の主張となって現れることも多いように感じます。

また、“嫌われたくない”が起点になった、必要以上に協調性を重視する思考も持ち合わせている印象です。

メディアで騒がれる迷惑行為のニュースなどをみて、批判的な意見をもっている上の世代もいると思いますが、とても複雑に環境要因が絡んでいるため、一言で片づけられる問題ではなく、日本社会全体の内側が満たされていない現状が、彼らを通して映し出されているように感じます。

 

仕事に求めるものは、安定とつながり

次に、Z世代の働くことへの考え方をみていきたいと思います。

まず、仕事に対する優先順位が変わってきています。

出典:マイナビ『2023年卒大学生のライフスタイル調査』

人生において優先度の高いものという問いに対して、17年卒は「家族>仕事>自分」だったのに対して、23年卒は「家族>自分>仕事」と、仕事よりも自分を優先している結果となっています。

これは先述のZ世代の特徴とも一致します。

生きるために働くのであって、働くために生きているわけではない、という変化です。

バランスという観点では、良い流れともいえます。

プライベートもしっかり確保し、無理なく両立が可能な選択をする傾向にあります。

これも全員ではないですが、出世や積極的なキャリアアップというよりは、自分の好きな仕事で安定した暮らしを確保できることの方が重要である点も、この世代の特徴です。

次に、コミュニケーションについての傾向です。

働き方に関するKDDIの調査によると、Z世代は「出社」を希望する割合が多いことが分かっています。

リモートワークにアレルギーがない世代だけに少し意外かもしれませんが、コロナ禍で社会人1年目を経験した年代は特に、毎日出社し対面でのコミュニケーションを希望している割合が多い結果となっています。

その他、コミュニケーションがとりやすい方法としては、圧倒的に「対面」が求められていることがわかります。

個人の安定した生活を優先しながらも、社会人として企業では対面を中心としたリアルなつながりも欲している、という世代であるようです。

 

Z世代の育成で外せないポイントとは

さて、このような傾向をもつZ世代を採用したときに、どのような考慮・工夫が必要でしょうか。

ポイントは3点です。

①メンターや上司等による定期的な対面フォロー

特にコロナ禍で学生生活、新卒1年目を過ごした世代は、対面のつながりの大切さを感じています。

入社後いきなりリモートワークからスタートしていると、リアルだからこそ得られるビジネスの感覚を掴みにくく、コミュニケーション方法も限られます。

そのため、些細なことも含めて振り返りや相談ができるメンターとの定期的な面談や、自分の中でため込む時間が長くならない配慮も最初の段階では必要です。

それは適宜リモートでも応用できます。

出所:デロイトトーマツ 2022年Z・ミレニアル世代年次調査

トーマツの調査によると、5年以上勤続意向群・2年以内離職意向群の職場満足度に関する質問に対して、Z世代では、従業員ファースト、サステナビリティ、上長の指導・成長機会といった視点で乖離があることがわかっています。

比較対象として、その上のミレニアル世代では、帰属意識の観点でもっともギャップがみられています。

世代ごとに“組織に期待する着眼点”が明確であるという特徴が見られ、これらは各世代の人材リテンションを考える上で注目すべき点

としています。

また、興味深いのが、Z世代のトップ3の理由が、内発的なものというよりは、総じて外発的もしくは受動的な要素であることです。

その意味でも、受け入れ側の対応・育成方法に工夫が必要だといえそうです。

 

②伝え方や問いの投げかけは、明確な目的とセット

30代以上の世代は、「まず自分でやってみて分からなかったら聞いて」という上司の指示は、わりと抵抗なく受け入れてきたかと思います。

しかし、Z世代は、まず解がほしい傾向にあります。

これもデジタル化の影響ですが、分からなかったらネットで調べて情報がすぐ取得できてしまうので、幼少期から、未知のことを失敗しながら何度もトライする、という経験が少ないです。

もちろん全員ではないですが、失敗から学ぶ機会の減少で、失敗しないように先に学ぶクセがついており、失敗したくない、あの失敗は大したことではなかった、もしくはあの失敗があったから気づけた、という実体験が少ない人は、失敗したときの立ち直り方を身に付けられていないケースもあります。

反面、良さとしては、合理的なプロセスが得意な点です。

無駄なことを嫌う特徴も手伝い、依頼される仕事の目的、自分がこれから行うことへの意味付けを求める傾向にあります。

そのため、何かプロジェクトを任せる際には目的が明確であることが重要で、それは上の世代やKGI設定が苦手な組織の場合は学ぶべきところでもあります。

ただ、すべての仕事がそんなに短期間にこたえが出るものばかりではなく、何が正解かもわからない手探りの連続です。

試行錯誤が得意な人にはこれは当てはまりませんが、ビジネスにおいては長期的視野があることを理解してもらうことも必要です。

 

③理不尽さがなければ、むしろ本音・直球は必要

ある程度関係が構築されてからにはなりますが、厳しさも必要です。

ここでいう厳しさとは、言いにくいことも本音で伝えるということです。

また、社会人として甘さがあると言われるZ世代ですが、時代遅れといわれる慣習と、いつの時代も変わらず大切な礼儀・言葉使い・人間性は、まったく別の問題です。

叱ったら会社に来なくなってしまった、という事例もあるようですが、気を遣う・とにかく褒める等は、長い目でみたら育成の視点では逆効果です。

幼少期から、直球で対峙してくれる人が一人でもいたかどうかによりますが、厳しくても上辺だけでない言葉というのは、きちんと相手に響きます。

厳しさといっても、支配的な態度やお局のような言動は、威圧的でハラスメント要素もあり、今は誰も求めていませんが、相手に関心をもつ昭和的な人間臭さやお節介、不器用でも嘘のないコミュニケーションを先輩・上司から積極的にはかっていくことが、この世代こそ必要なのではないかなと思えてなりません。

そのような本音を言い合える信頼関係を一人でもいいから社内で築く経験ができれば、表裏のないつながりを感じることができ、変容が大きい世代だと筆者は捉えています。

 

ジョブ型新卒採用と相性がいいのは「入口」のみ

このようなZ世代の学生を、多くの企業が「日本式ジョブ型」新卒採用で獲得しようとしています。

大企業を中心に、この動きは今後も増えるでしょう。

実際に、Z世代はジョブ型に興味をもっています。

彼らを職種・職務ありきで採用した場合、どのような点でマッチしそうか、もしくは工夫が必要か、企業側の視点から考えていきたいと思います。

 

≪相性がいい点≫

①職種・諸条件が事前に決まっていることで、安心感をもってもらえる

自分の希望する職種や勤務地が決まっている安心感・安定感は、Z世代にはマッチする点です。

特に勤務地の確約は不安の解消にもなり、応募時のハードルが下がります。

内定辞退の対策のひとつにもなるので、採用の入口としては今後も求められていきそうです。

 

専門分野を発揮できる環境を募集時からアピールできる

一部の技術系AI系の専攻学生に限られますが、最初から専門分野で活躍することができるという点は、学生にとって魅力的に感じられます。

倍率も上がるため、やりたいことが明確な場合は、大学在学中の勉強・研究にも力が入ることになり、相乗効果が期待できます。

 

≪工夫が必要な点≫

①入社後の人間関係を希薄にしない

特に大企業の日本式ジョブ型で入社すると、縦型組織のため横の関係が構築されにくくなります。

社会的なつながりや対面コミュニケーションも必要だと感じている世代にとっては、ジョブ型組織は潜在的なニーズとは逆行しているとも捉えることができます。

業種にもよりますが、ものづくりなど発想力が求められるビジネスの場合、他職種との情報交換などができる機会をつくることは必要です。

また、自分の仕事さえまっとうしていればいいという考え方は、組織においては通用しない場面もあるため、必要に応じてオープンに意見を交わし合える仕組みは求められそうです。

 

②本人の希望と職務が乖離したときの対応

読者のみなさんの中に該当する方もいると思いますが、入社時の志望職種を20代に一通り経験した先に、もっと極めていきたいか、他に興味のある分野が登場し方向転換を考えるか、というキャリアの分岐点が30歳前後にやってくる人も多いです。

その場合、社内で配置転換ができる余地をもっておくことはポイントです。

実際に職種別採用を導入している企業でも、「初期配属を確約」という場合も多く、裏を返せば、その後は適性をみて配置転換の可能性もあるということになり、入社後は従来の適材適所になっているケースもあります。

これは、うまく保険をつけた採用方法で、「入口だけジョブ型のような仕組み」を導入し、解釈を工夫したひとつの選択肢だと思います。

ここまでをまとめると、入口の戦略として、適所適材の採用はZ世代の考え方と親和性がありますが、入社後は適材適所やメンバーシップ型の組織の考え方も応用した方が、彼らが活躍できる可能性が高まるといえます。

 

③新卒一括採用とどう差別化していくのか

また、欧米の新卒ジョブ型雇用ともっとも異なる点は、大学の在り方です。

欧米に限らず世界各国では、大学で専攻した分野に就職することが一般的です。

学生は大学在学中に長期インターンシップや職業訓練をし、自分の将来の仕事につなげるために勉学に励んでいます。

働くことについて具体的に考えはじめる年齢が日本に比べてずっと早く、なかでも大学進学のシステムが特殊なドイツでは、小学校4年生、なんと9歳の頃に大学進学のための進路選択があります(それはちょっと早すぎる気もしますが)。

どちらにしても、いかに学生のうちに専門性を高めてスキルを上げられるかが、将来の仕事に直結するので、この期間が勝負です。

日本のようなモラトリアム的な学生生活を送り、人によっては勉強よりもサークル・アルバイト中心、新卒で入社する企業は卒業した学部とは何の関係もないという状況は、他国では見当たりません。

そのため、日本の新卒入社1年目で行うことは、海外ではインターンシップも含めて大学在学中にある程度巻き取られており、すでに即戦力になります。

一方で、社会人のイロハも含めて本当にゼロからのスタートが日本の新入社員です。

そのため、日本式ジョブ型といっても、就活生は全員が実際の職務に求められる水準に達しているわけではなく、基礎的な知識とスキルがある、程度のものになります。

日本でも、三省合意改正により、2025年卒からインターンシップと新卒採用の連携が一定条件のもと可能になり、大学でのキャリア教育の見直しが明記されましたが、世界各国のように大学の延長線上に企業・仕事が直結しているという意識に変えるような仕組みとはまた少し異なり、どのような形になっていくのかはまだ分かりません。

多くの企業は一部の職種以外は従来の新卒一括採用を継続しているハイブリッド型のため、このような状態で、どのように両者を運用していくのかという点は、不公平・矛盾の視点をもつ世代には特に、納得できる構造と説明が必要になってきそうです。

 

課題の根本は同じ、互いの“中庸”が落としどころ

世間ではいろいろと言われていますが、世代ごとに表面に出てくる特徴は違っても、そんな短期間で人間の本質が変わるわけもなく、ひとりの人としての悩み・葛藤の場面は、あまり変わりません。

むしろZ世代は育ってきたデジタル環境が作用している部分が大きく、背景がより根深い、というのが学生と対峙してきた筆者の見解です。

一方で、互いに見習った方がいい点も多く、いいとこどり、という考え方は必要です。

例えば、ビジネスにおいて、ときに忍耐は必要、けれど理不尽な我慢は不要。

前者は30代半ば以降の年代が鍛えられており、後者はZ世代が得意です。

どちらも取り入れられれば、互いに1歩進みます。

また、失敗を活かして根気強く継続していく力と、まったく新しい発想力。

これも互いにうまく融合できれば、DXを中心にビジネスがうまれます。

どちらが遠慮することもなく、中庸をとっていくことがポイントになりそうです。

また、コミュニケーションについては、上の世代が再度基礎に立ち返るチャンスです。

嘘のない真摯な姿勢が、結局はすべての世代に良い影響を与えることになるのではないでしょうか。

次回はまとめとして、結局どのような組織がこれからの日本に必要なのか、あるスポーツの日本代表を参考にして、ひとつこたえを出してみたいと思います。

 

< PR >

人材採用でこんなお悩みはありませんか?

✓ 採用面接で適切な質問が思いつかず、面接のたびにいつも苦労して考えている。

✓ 評価の基準が明確でなく、一貫性がないと感じる。

✓ 評価の公平性に疑問を感じている。

✓ 優秀な人材を見極めるのが困難である。

✓ 質問を考えることや評価に時間を取られている。

こんなお悩みをもつ人事部の皆様むけに、今日の面接からすぐに役立つ資料「構造化面接100の質問集」を無料でご提供しています。

経験豊富な人事の専門家が作成したこの質問集は、あなたのお悩みへのベストな解決策です。

的確な質問と明確な基準により、候補者の本質やスキルを一貫性をもって評価し、公正な選考プロセスを実現することができます。

ダウンロードはこちらからどうぞ。

Who is writing

大学卒業後、人材業界にて法人営業・キャリアコンサルティングに従事。
20代~60代まで幅広い年齢層のキャリア・メンタル相談を経験する。
その後、企業の新卒採用代行、大学生の就職活動支援、さまざまな生きづらさを抱えた学生と向き合う伴走支援に携わり、現在の社会構造と人の活かし方に疑問をもつ。
また、人にかかわる問題の根底は「教育」にあると考え、幼少期の教育・子育て分野にも
キャリアを広げている。
2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)