採用試験でも「蛙化現象」︕︖応募者が企業にドン引きするポイント

採用試験において評価をつけられるのは応募者だけ!なんて思っていませんか?試験方法や採用担当者の言動、態度…応募者は見ています。

「蛙化現象」は企業と応募者の間でも起こり得る

少し前に、「蛙化現象」という言葉が話題になっていたことをご存じでしょうか?

これは若い女性たちの間で使われている言葉で、⾃分が好意を抱いていたはずの⼈(主に男性)が、ちょっとしたことがきっかけで魅⼒的でないと感じてしまい、気持ちが冷めてしまうことを意味しています。

例えば、

・訪れた店で上手く対応できていなかった

・デート中にダサいつまずき方をした

・ふとした時の表情に冷めてしまった

というような、本当に些細なことです。

言葉自体は昔から既に存在していたもので、おそらく王子様がカエルになってしまうおとぎ話が由来となっています。

最近になってSNSで話題になり、メディアからも注目を集めることになりました。

話題になったということは、きっと身に覚えがある方もそれだけ多いのでしょう。

女性目線で語られやすい話ですが、男女逆の場合も大いにあり得るシチュエーションですから、男性でも経験されたことのある方はいるかもしれません。

自分自身でも原因がよく分からない、うまく説明ができないけれど、何故かそうなってしまったということは意外と多いですよね。

今でこそそのような考えにたどり着きましたが、初めてそのような特集を見た際、私は「若い女の子の心は難しいなあ…」としか感じませんでした。

しかしその数日後、ある体験をしたことがきっかけで、蛙化現象は恋愛に限られた話ではないと気がつくことになります。

今回はこの場をお借りして、その時の体験についてお話しさせていただこうと思います。

本当にあった蛙化体験

先日、フリーランスでライティング関連の業務を請け負う私は、とある企業の求人に応募しました。

フリーランスといえど、私の場合は正社員やアルバイトの方々と同様、自分で仕事を探して応募をするということがよくあるのです。

今回見つけた求人は、以前から私が関心のあった業界に関する文章を作成するお仕事でした。

説明文は簡素なものでしたが、選考の過程で詳しいことがお伺いできれば、それだけでも良い経験になりそうと思って応募したのです。

まず、ライティングに関するテストがありました。

マニュアルがかなり複雑で少し苦労しましたが、なんとか合格することができ、企業からのヒアリングに対する回答を経歴と合わせて提出します。

それもパスすると、次はリモートによる面談がありました。

これは就業前の最終確認のための面談とのことだったので、実質ほぼ内定を頂いていた形になります。

ここで双方が契約の内容を確認し、合意すれば契約に進むとのお話でした。

しかし、ここで私にとって予想外のことが起こります。

最初に私が見ていた求人の内容と、面談で提示された契約内容が、少し異なっていたのです。

その理由については、業務内容に合わせた契約になっているということを丁寧に教えていただきました。

面談のお相手は今後一緒に仕事をしていくメンバーだということで、しっかりとしたご説明でした。

求人に大きな嘘を掲示していたわけではありませんし、何より私は、今回のお仕事の内容にとても興味を持っていました。

多少のことは目をつぶってでも、一度はやってみようかなと思っていたところに、その瞬間が訪れます。

面談のお相手が言いました。

「では後ほど私と、私たちよりも上流の者がいるチャットグループにご招待しますね!」

上流…

上流…?

その時、自分の中にあったはずのこの仕事に対する興味やモチベーションが、一気に0になってしまったのです。

その時は、それがどうしてなのか全く分かりませんでした。

ただ、この場で「上流」という言い方をされたことに違和感を覚えたのです。

「上流って階級などに使う言葉ではないのか?」

「上長とか上位の者とか、いくらでも言い方はあるのにどうして上流?」

そんなことをぐるぐると考えているうちに、面談は終了しました。

この言葉遣いの正誤については、人によって様々なご意見があると思います。

使い方として、日本語的に大きく間違ったものではないことも分かります。

意味は伝わりましたし、相手が伝えたかったであろうことは伝わりました。

しかし、この時の私の心にはストンと落ちない、ものすごい引っ掛かりを残すキーワードになったのです。

少なくとも、一緒に文章に関わるお仕事をする上では無視できない、大きな違和感を感じてしまいました。

その方とのチャットルームを開くと、用意していただいた契約書とともに、ダメ押しで「上流の者と~」というメッセージが届いていました。

それを見た瞬間、「今回の契約は見送ろう」と思ってしまい、すぐにその旨をお伝えすることにしました。

お断りの連絡と謝罪に対する先方からのお返事は特になく、無言でチャットから削除された形でした。

行き違いで届いた契約書を確認してみると、応募した企業とは異なる、まったく知らない企業の名前が記載されていました。

結果的に、契約をしなくて良かったと思ってしまう出来事となったのです。

蛙化を引き起こす要素は1つではない

蛙化現象は若く揺らぎやすい恋心の象徴のような言い方をされていますが、私は少し違うものではないかと考えています。

蛙化現象とは、何か引っかかることや嫌だと感じていた要素が時間をかけて複数積み重なった結果、最終的にほんの些細なことが引き⾦となって起きてしまう現象ではないでしょうか。

例えるならば、「アンバランスに積まれたジェンガにたまたま触れてしまった服の袖」のようなものであると思うのです。

つまり、蛙化現象が起こった場合、その原因となる要素は1つだけではありません。

今回の私の出来事を例に考えてみます。

私の行動を順に示すと、このような形です。

①求人を見て、仕事に興味を持つ

②求人へ応募

③提示されたテストへの解答

④ヒアリングに対する回答

⑤リモートによる面談

⑥契約のお断り

そして、後から改めて考えて気がついたことですが、各工程において私が引っ掛かりを感じたポイントがありました。

①実際の業務のことは分かりやすく記載されているが、契約までのプロセスに関する詳細が書かれていないことへの不安

② -

③説明が無いまま、複雑で分かりづらいマニュアルを用いたテストを解かせることに対する疑問

④ -

⑤契約内容に対する落胆と「上流」

⑥契約への不信感

私が「上流」というキーワードで蛙化現象を発動する前に3つ、全体では5つものポイントがあることが分かります。

私がもし「上流」というキーワードに引っ掛かりを感じていなければ、今回の蛙化発動地点は⑥になっていたでしょう。

まさに塵も積もればなんとやらというお話で、今回はたまたま4つ目で発動ラインを超えてしまったということになります。

おそらく私は、この出来事を人に話す際はあたかも「上流」という言葉が気に入らなかったから辞退したかのように語るでしょう。

そして、「いや、そんなことで!?」と言ってもらえることを期待するのです。

これは、メディアの取材に対し過去の蛙化エピソードを面白おかしく話していた女の子たちに近い部分があると思います。

しかし、実際にはそこに至るまでにいくつものポイントがあり、そのすべてが要因となって、蛙化現象が引き起こされていたのです。

逆に言えば、「上流」以外のポイントで一切違和感を感じることがなければ、アンバランスなジェンガは積み上がっていないわけですから、今回のような展開にはならなかったでしょう。

「はいはい、上司のことですね」と、自分の中で消化して終わっていた程度の話だと思います。

つまり、蛙化現象の最終的な発動ポイントとは別に、もっと重大な改善されるべき問題点が複数個隠されているということにもなります。

これにより、なぜ蛙化現象がつまらない小さなきっかけにより起こってしまうのかも明らかになりました。

恋愛においても求職においても、相手の嫌な部分を多少は許容しようという無意識の働きかけがあるということです。

完璧な存在を求めているわけでは決してないのですが、自分の許容範囲を超えてしまった途端に、ガラガラと崩れ去ってしまうのですね。

蛙化現象を引き起こさせないために企業ができること

正直に申し上げて、自分から進んで応募したお仕事に対して、

「ああ、契約をしなくて良かった!」

「選考を通過しなくて良かった!」

という思いは、あまりしたくありません。

にもかかわらず、私の経験上だけでも、そのような出来事は何度かあるのです。

ちょっとした言葉遣いの誤りや言い間違い、覚え間違いというのは、誰にでもあることだと思います。

これだけ上流上流と大げさに書いておきながら今更何を言っているんだと思われてしまうかもしれませんが、他人のそういった間違いを深追いしたくはありません。

そういった小さなミスよりも、注視したい部分があります。

企業として、社会人として、最も求められているのは「誠実性」ではないでしょうか。

そしてそれは、求職者に対する説明の量や正確性、表現、態度、あらゆる部分で推し量ることができます。

採用試験において評価をつけられるのはいつだって応募者であり、企業の方が優位であると思われがちですが、実際は応募者も企業を審査しているのです。

例えば、企業が自社についてアピールをする際、以下のようなポイントを紹介するでしょう。

・経営理念

・沿革

・実績

・自社で働くメリット

しかし、インターネット社会となった現代では、その多くは文書やデータ、動画など、人と一切接することなく手に入れられる情報になります。

実際に応募者がいる場合、企業との接点が生まれるのは、

・メールでのやり取り

・電話、チャット

・面接時の対話

といった場面です。

そして、こうした接点において蛙化現象は発動しやすいと言えるでしょう。

こういった機会に応募者は、

・この企業で働いているのはどんな人か

・この企業はどんなシステムやプロセスを採用しているか

・自分の期待や想像との差異がないか

・求人に記載されていた内容に嘘はないか

というようなことを確認することができます。

そこに至るまでに応募者に対して何らかの形で誠実さを欠いていた場合、蛙化発動の危機となり得るでしょう。

企業情報や求人広告において、多少「盛った」内容が掲載されているのはよくあることです。

しかし、0を10とするような書き方や、まったく嘘のような内容では、その時点で求職者を裏切っていることになります。

そうなった場合、必ず採用が決定する前にその嘘は明らかになってしまいます。

せっかくの人材を逃してしまうかもしれません。

そうなってしまうよりは、誠実に正しい情報を記載しておくほうが、背伸びしているよりもずっと良い結果につながるはずです。

「多少給料が安かったり、勤務時間が長かったりしても、それでもこの会社で働きたい」と思ってもらえる方が素敵ではないでしょうか。

また、応募者に対する態度にも誠実性は求められます。

応募者にとって、採用担当者は企業の象徴とも言える存在になります。

そのような人が、いい加減な説明をしたり、礼節を欠いた話し方をしていれば、企業に対する憧れや信頼が崩れていくのは当然のことです。

令和の時代となっても、未だに採用試験で圧迫面接や無神経な質問があったというニュースを耳にすることがありますが、そのような自覚が持てない人を窓口にしている場合、企業のマイナスイメージにしかなりません。

さて、採用人事に配属させ面接官を任せるとしたら、どのような人材が最適でしょうか。

これは私の妄想にすぎませんが、もし自分が経営者であったら、

・自社の経営理念や特徴についてよく理解している

・人の話をしっかり聞ける

・想像力がある

・社内で部下から信頼されている

というような方にお願いしたいですね。

おそらくこれは、業界や募集する職業によっても異なるかもしれません。

「自社はどんな会社で、求職者からはどんな会社だと思ってもらいたいか」という点を突き詰めると、企業によって異なる様々な選択ポイントがありそうです。

そして、忘れてはいけない「誠実性」。

それらを意識することで、つまらない小さな理由で人材を逃すようなことは無くなるでしょう。

蛙化現象は、企業の準備と努力で発動を抑えられるということです。

ここまで書き終えてから、

「いや待てよ、それって恋愛でも同じなのでは?」

ということに気がついてしまいましたが、思考の無限ループにはまりそうなので、今回はこちらで失礼いたします。

Who is writing

日本橋学館大学リベラルアーツ学部卒業。
学生時代を関東で過ごした後、東北の田舎に帰郷。嫌々地元で就職を決めたら、うっかりとんでもないブラック企業に入ってしまった!
絶望的な環境からなんとか抜け出し、個人事業主として働き始めて早5年。現在は、ブラック企業撲滅を目標にライターとして活動中。
本当はお芝居や音楽、歴史が好き。