ジョブ型の違和感はコレだ ④解決策は、カタールW杯日本代表にあり?

結局、これからの日本にはどのような組織が必要なのか?日本中が熱狂した2022FIFAワールドカップ日本代表にヒントがありました。

  

組織力は外せない、日本には日本の戦い方がある

ジョブ型について、これまで社会全体の視点、人事の視点と組織の視点、Z世代の価値観をもとにした新卒採用の視点で、それぞれ考察してきました。(前回の記事はこちら→その①その②その③)

では、結局どのような組織の形に可能性があるのか、本記事は最終回として、ここまでみてきた結論を頭に入れながら、一方でジョブ型・メンバーシップ型の概念に囚われすぎず、考えてみたいと思います。

これまで3回にわたりお伝えしてきたことをまとめると、次のようになります。


「個人の力」はより発揮できるように。

ただし、一人ひとりが個別に才能を発揮すれば終わりではなく、能力と能力、資質と資質、人間力が共鳴できる環境が必要。

それにより、新たなものが生まれたり、磨き合えたり、イノベーションが起こる。

「組織」は柔軟に。

変化していくためには、縦型組織では限界がある。

そのため、すべてジョブ型の考え方では組織が活性化せず、ハイブリッド型は必要だけれども、単純な組み合わせでもない。

一方、個性を活かすはずなのに、「社会全体」の視点では、日本企業が横並びでジョブ型推進に向かって同じベクトルを向いている不思議。


このように整理してきました。

それぞれの企業に合う方法を見極めていく必要がありますが、どのような解釈の仕方がありそうか。

  • 採用(入口)は、ハイブリッド型もしくはジョブ型の限定導入
  • 組織(プロセス)は、配置転換も含め、メンバーシップ型の考え方を活かす
  • 評価(出口)は、成果主義でも年功序列でもない、新しい形が必要

企業の規模や業種によりますが、このような解釈が、選択肢のひとつとしてありそうです。

 

ハイブリッド型で選ばれる26人

ところで、みなさんは昨年のFIFAワールドカップをご覧になりましたか?

筆者もabemaTVで、元W杯日本代表の本田選手による玄人にも素人にもわかりやすい解説と痛快なコメントを聴きながら、楽しく観戦しました。

ドイツ・スペインという強豪国に勝ち、正直ほとんどの人が予想もしていなかったグループステージ首位突破、ベスト8は叶いませんでしたが、日本中が感動とエネルギーをもらったかと思います。

さて、サッカーのルールについては素人ながら、W杯を観戦するのが好きな筆者。

今回の日本代表チームをよく観察すると、ここに今後の日本企業の組織を活性化させるヒントがあるように思います。

(サッカーに詳しい方からすると細かい表現や定義の間違い、この場合は当てはまらないという突っ込みもあるかもしれませんが、そこは大目にみていただけると幸いです。)

前半は筆者の視点で、後半は、W杯を率いた森保監督とWBC優勝を指揮した栗山監督の対談を参考に、組織について考えさせられるエッセンスをお届けします。

正解はないですが、どなたかの新しいアイデアの材料になればと思います。

 

W杯は4年に一度開催されます。

4年の間に日本代表メンバーは都度招集され、次のW杯の切符を手にすると、開催直前に最終メンバーが選出されます。

プロサッカー選手であれば憧れる大舞台、力を出し切ることを皆がめざしています。

選手たちは普段は各クラブチームに所属しているので、籍はそれぞれクラブチームにあります。

日本代表の半数以上はZ世代。

その上の世代のW杯経験メンバーも含めて、完全実力主義の環境で鍛えられた海外組も多く、さまざまな戦い方を経験しているプロフェッショナル人材です。

日本代表としてW杯で戦い、終わったら解散、そして各クラブチームへ戻り、またそこで経験を積みます。

 

サッカーには、ポジションと主な役割があります。

  • ゴールキーパー【GK】:ゴールを守る
  • ディフェンダー【DF】:守備をする
  • ミッドフィルダー【MF】:守備も攻撃も担当する
  • フォワード【FW】:攻撃をして点をとる

代表メンバーは合計26人、それぞれのポジションで適切な人数が選ばれます。

今回の日本代表では、GK・DFは固定されていますが、MF・FWは、MF/FWとして選ばれました。

発表時点では誰がどちらのポジションかは細かく決まっておらず、試合当日の采配まで分かりません。

さらに、DFの中でも、フィールドの中央を守るセンターバックと左右を担当するサイドバックに分かれ、MFも、ボランチと呼ばれるセントラルハーフのポジションや、フォーメーションによっては、DF要素のある左右のウイングバックのポジションもあります。

その他、トップ下といわれるMFの中でも最前線のポジション、そしてトップの位置にいるFWはストライカーになります。

そのため、最初の代表メンバー発表時点では、

  • GKはジョブ型
  • DFは職種別(日本式ジョブ型)
  • MFとFWは、ジョブ型の解釈も少し含まれたメンバーシップ型

そしてチーム全体ではハイブリッド型の構成になっている、と表現することができます。

 

しなやかな組織

次に実際の試合について。

サッカーは1チーム11人で戦います。

GKは1人ですが、それ以外のポジションは、その日の試合の戦術によってフォーメーションが変わるため、配置人数が変わります。

解説で、4-4-2、4-2-3-1といった数字を耳にすることがあるかと思いますが、GK以外のフィールドプレーヤーの配置を表しており、4-4-2であれば、DF4人、MF4人、FW2人ということになります。

最初の配置の段階では、その時々の戦術に合わせて1つのポジション(仕事)に1人の選手が紐づくジョブ型の要素があります。

しかし、ひとたび試合に入ると、その後はまったくジョブ型ではありません。

試合中はFWがDFの仕事をすることもあれば、MFやDFがゴールを決めることだってあります。

フォーメーションがあっても、互いの位置を確認しながらフィールドを縦横斜めに移動し、各自が臨機応変にその場の状況に対応するわけです。

監督から試合前やハーフタイムにおおまかな指示があっても、野球と異なり、試合中は選手一人ひとりが自分の頭で考え、試合を組み立てていくことが求められます。

また、対戦相手の状況や自チーム選手のコンディションをみて、前半と後半でフォーメーションが大きく変わることもあります。

この柔軟な動きに対応するためには、試合中も選手同士のコミュニケーションが必須です。

互いにプロフェッショナルなので、年齢関係なく、試合中は年下が年上に指示を出すのも当たり前。

カタール杯でも、特に勝利したドイツ戦・スペイン戦では、話せるタイミングがあれば、常に選手同士で共有や確認をしていた場面が印象的でした。

もしこれがジョブ型組織で、自分の決められた範囲の仕事しかしません、となれば、コーナーキックのときもDFは攻撃に参加せず遠くで自陣を守り続け、相手に攻められてもFWは一切ディフェンスしないことになります。

現実にはあり得ませんが、確実に勝率は下がります。

そして、チームの目標はひとつ、「試合に勝つこと」です。

そのため、相手チームの状況や自チームの選手の組み合わせによっては、本来のポジションではなく、あえてサポート役にまわる選手も出てきます。

本当は本来のポジションで活躍したいけれど、チームのことを考えるとその役回りが必要であるというタイミング。

今回のカタール杯でいえば、伊東純也選手(14番の金髪の選手)がその役割を多く担当されていました。

伊東選手はW杯予選で最多の4得点をあげた本来は攻撃的なポジションの選手です。

けれど、ご本人はその役割をしっかり認識し、チームのために活躍。

このチームへの貢献を、もし誰もみていなかったり気づいていなかったりしたら、心理的にはとてもタフな状況ですが、それを周囲がしっかりクローズアップし、評価している状況であること。

企業で応用したときに、組織として決して落としてはいけないポイントです。

今回であれば、監督はわかっているし、他選手も意図を理解しています。

解説の本田選手も、黒子に徹していた時間が長かったけれど、それを許容して、とても貢献していた選手として評価されていました。

 

ここまでを企業の組織に置き換えてみましょう。

日本代表チームは、企業でいえば社内プロジェクト型の組織となります。

実際はプロジェクトの内容にもよりますが、入口としては、社内でハイブリッド型の小さな集団ができるイメージです。

元々の本業(所属部署)があり、このプロジェクトのために必要な各プロフェッショナルを集めます。

そのためには、それぞれの担当ジョブの定義が必要で、併せてチームにおける役割の定義も必要です。

そこに抜擢される人材は、社内人材をベースに、まったく該当者がいなければ一部業務委託の外部人材、もしくは新たに採用が必要なこともあり得ます。

コアメンバーは、プロジェクトが終了した後に、社内に学びやノウハウを還元するという役割まで考えるならば、社内人材の方がいいでしょう。

実際の仕事では、プロジェクトの目的・目標に向かって、それぞれが意見を出し合い、インプットもアウトプットも互いに積極的に行うことで新しい発想が生まれます。

スタートアップの要素が強ければ、自分の主な役割だけでなく、さまざまな仕事も兼務・共有し、皆で立ち上げていく必要があります。

年齢はバラバラ。

年上を敬うという礼儀の部分は当然必要ですが、ビジネスにおける上下関係はなし。

年功序列はなく、適任であれば年下がマネジメントをすることも異論のない組織となります。

 

評価の考え方

次に、評価軸について取り上げたいと思います。

サッカー日本代表に単純に成果主義だけをもってくると、どうでしょうか。

単純に結果だけをみると、ゴールした人がもっとも成果を上げ、アシストした人も次に成果を上げた、ということになってしまいます。

しかし、この見方だと、その日のコンディションもあれば、運にも左右される。

どのようなポジションで戦うかによっても、まったく結果が変わってきます。

MF、DFの評価軸が曖昧になり、しかも負けた場合は評価が不可能、という現実的ではない判断基準になります。

実際はこのようなことはなく、サッカーの場合、毎試合ごとに各選手がそれぞれのポジションで果たす役割や、チームに対してどのような働き・貢献をしたかというパフォーマンス評価として点数がでます。

10点満点で、一般的には6.0が平均といわれています。

また選手の実力は、さまざまな観点で分析されています。

例えば、

  • 利き足だけでなく逆足の精度
  • 攻撃参加の度合いや守備意識
  • 加速の速さ
  • 走行距離
  • シュート力や決定力
  • パスの視野
  • クロスの精度
  • 積極性、冷静さ

などなど、他にもたくさんの項目があります。

 

企業でも同じことが言えます。

企業で働くということは、チームで仕事をすることの方が多いです。

その場合の成果は、誰と仕事をしたか、どのような心理状態の環境で仕事をしたか、そして事業に関わるタイミングと運、これらの要素で結構変わってきます。

成果主義だけに頼ると、クライアントの都合で特需に恵まれ、その成約数がそのまま目立った成績として評価されることもあります。

では、成果主義は結果主義ではない、という視点で捉えるとどうでしょうか。

各々が自分のポジションに対して、どれだけのパフォーマンスを発揮できたか、ということになります。

それぞれのジョブで求められる「スキル・資質」と、組織の中でのポジションに対して求められる「役割」をそれぞれ細かく定義し、その両者に対してパフォーマンスをしっかり果たせているかという視点で評価すれば、少しは公平感が出るのではないでしょうか。

プロジェクト型の組織の事例に限られますが、例えば、マネジメントはその時々のプロジェクトで適任な人が任期付きで行い、ある程度は勤続年数ベースの給与体系があるとしても、プロジェクトチームの各役割と求められるジョブの定義により+αの待遇が変化すると、若手でもそのプロジェクトの適材であれば、給与に反映することができます。

一律の昇級の概念がないので、各自が自分にできる役割ともっている資質(強み)を積極的に磨くことになります。

定義の可視化が重要ですが、ジョブや役割の特性として、組織の中では目立つことはないが影の立役者・キーマンも、きちんと評価される制度が必要です。

 

チームファーストが個人ファーストになる

さて、ここから後半です。

YouTubeを観ていたら、おすすめに出てきた森保監督と栗山監督の対談番組。

数か月後にWBCを控えた栗山監督が、一足お先にW杯を終えた森保監督にインタビューをオファーし、実現した対談とのことでした。

その後、WBC日本代表は、漫画のような展開で優勝。

興味があったので観てみると、今のジョブ型推進の流れについて、または組織づくりについて、立ち止まって考えされられるキーワードがありました。

まず、個性を生かした起用法について対談するなかで、栗山監督から、代表メンバーを選ぶときの基準(当落線上の選手の決断も含めて)はあったか?という問いに対して、

森保監督のこたえは、「チームファースト」。

組織でひとつの目標を達成するためには、チームで戦うという視点はやはり必要。

このチームファーストには、チームで勝つために選ぶ、という意味と、チームのためになる存在を選ぶ、という2つの意味があるように思います。

そして、このように追加されました。

チームファーストが選手ファーストになり、

チームファーストは日本ファーストにもなる

チームのための選択が、結果的に選手のためや日本のための選択になる。

この言葉は、多くの示唆に富んでいると筆者は感じます。

また、どんなに調子が悪くても変えないと決めていた選手はいたか?という栗山監督の質問に、

「キャプテンは変えていない」と森保監督。

今回であれば、キャプテンの吉田麻也選手。

日本代表のような、自分の意見をしっかり言語化でき、それぞれ能力が高くプライドもあるプロフェッショナル集団をまとめるには、核となるブレないリーダーシップをとれる人材が必要です。

これは企業の組織にも応用できる部分です。

吉田選手はZ世代にとって相談しやすく、監督と若手との潤滑油にもなり、チーム全体をモチベートできる精神的支柱として、監督からもメンバーからも信頼されているということが、画面からでも伝わってくるお人柄です。

そして、監督としての在り方として心がけていることについては、

作った自分を見せても選手には伝わらない

状況をみたうえで、言いにくいことも、直球・本音で自分の言葉で相手に届ける、というコミュニケーションが土台にあることがわかります。

前回の記事でも取り上げましたが、特にZ世代とのコミュニケーションこそ、嘘のない言動が何より大切であることが監督の言葉からも伝わってきます。

また、今回のW杯には、監督の他に分析担当も含めた10人のコーチ陣がいたようです。

それぞれの専門分野で独立しており、コーチ陣こそジョブ型採用です。

そして、その道のプロであるコーチは全員意見が異なることはよくあり、それを遠慮なく言い合える環境であることなど、チームの目的のために互いがフラットで信頼し合える組織であることが大切だと述べられていました。

その他にも、まだまだ多くの気づきがあります。

特に管理職の方々や、人事のみなさん、ご興味あれば是非ご覧になってみてください。

引用・参考:SAMURAI監督対談

 

個人は潰さず組織も生きる方法が、各企業の「個性」

いま、人的資本経営が注目されています。

人の可能性を信じて投資すること。

日本の生産年齢人口の分布をみれば、日本企業はどの年齢層も“総活躍”していく必要があります。

そのための人事の配置・育成の仕事は、これまで以上に重要な役割になります。

どんなに欧米の考え方を取り入れたとしても、日本人の民族性として、自分だけがのし上がればいいというよりは、共同体として成し得たことを全員で喜び分かち合うという精神が根本にあります。

心理的安全性が保たれた心に余裕がある環境であれば、相手を慮ることのできる人が多いです。

個人は潰さず、組織も活性化する方法で、職務・職能だけではない、人の活かし方に関する新しい発想が求められているように思います。

個を重んじる時代として、個人の能力が発揮しやすくなる仕組みを積極的に取り入れていくことは必要ですが、組織の考え方は、すべてグローバル基準に変えようとするのではなく、日本人特有のDNAの活かし方を工夫することと、活かすための環境を整える方が、日本ならではの組織力としてグローバル市場でも成果が出るのではないかと思います。

まだまだ筆者も抽象的な表現に頼るところがありますが、4回にわたりジョブ型の違和感を取り上げてみて、日本だからこそ実現できる組織の在り方があると考えます。

 

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Who is writing

大学卒業後、人材業界にて法人営業・キャリアコンサルティングに従事。
20代~60代まで幅広い年齢層のキャリア・メンタル相談を経験する。
その後、企業の新卒採用代行、大学生の就職活動支援、さまざまな生きづらさを抱えた学生と向き合う伴走支援に携わり、現在の社会構造と人の活かし方に疑問をもつ。
また、人にかかわる問題の根底は「教育」にあると考え、幼少期の教育・子育て分野にも
キャリアを広げている。
2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)