採用面接での「笑顔」は武器になるのか?「直観」を科学すると

採用面接において、「真顔」よりも「笑顔」で応答するほうが、面接官に好印象を与えて「採用意図」を高めることができるのだろうか?

  

採用面接での応募者の表情や雰囲気で面接官の心証は変わるのか?

 

最近では、採用面接にAIの導入が進み、アバターによるオンライン面接なども普及してきているようです。

 

AI面接官と人間の面接官のどちらと面接をしたいかと考えると、「AI面接のほうが緊張しなくてよい」とか「やっぱり生の人間による面接のほうが自分のことをきちんと評価してくれそう」とか、人によって意見は分かれると思います。

 

このような時代だからこそかもしれませんが、応募者や面接官の表情や雰囲気といった、客観的に評価しにくい要素(無意識に直観が働く要素)に改めて注目が集まってきます。

 

私自身も、大学という組織で働いていたので、面接官を務めたこともありますし、また、何度も転職しているので、被面接者の経験もあります。

 

特に、面接官としての評価に被面接者の表情や雰囲気が影響しているような気がしていたので、この問題を取り上げてみようと思ったわけです。

 

ところで、「賢者の人事」のなかに、「面接官の直観を鍛える方法」という動画があります。

 

この動画で、採用面接において「候補者を直観的に判断したほうがよい状況」として、次の二つがあげられています。

 

① 自社の「企業風土」「組織風土」「社員気質」「固有のシステム」などへの候補者の適応可能性の「肌感覚」

 

② 面接やインターンシップでの候補者の「言葉づかい」「声の変調」「ボディランゲージ」「行動」面での違和感

 

今回の記事では、この②に関連して、もっともシンプルですが、もっともわかりやすい研究の成果(矢﨑・竹部 (2024))を紹介しようと思います。

 

それは、「採用面接において、被面接者は笑顔を積極的に表出したほうが良いのであろうか?」というもので、面接官の「採用したいという意図」にそれがどう結びつくのかを解明しようとしています。

 

「面接では話の内容、中身が評価されるのだから、被面接者の表情が、笑顔でも真顔でも、評価にそれほどの影響はないよ!」

 

ところが、実験結果によれば、そんなことはなく、「笑顔」か「真顔」かで、面接の結果が大きく変わる可能性があるようなのです。

 

どのような仮説をたてたのか?

 

研究グループは、関連する先行研究の知見を参照しながら、次のような研究前提と研究仮説をたてており、これらが実際にはどうなのかを実験で明らかにしようとしています。

 

前提1 笑顔条件の方が真顔条件より知覚される人柄の良さが高いだろう

 

前提2 笑顔条件と真顔条件で知覚される能力の高さに違いはないだろう

 

仮説1 笑顔条件の方が真顔条件より採用意図が高いだろう

 

仮説2 この傾向は知覚される人柄の良さによって説明されるだろう

 

仮説3 この傾向は人柄を重視している程度の高い会社で顕著だろう

 

どのような実験を行ったのか?

 

就職活動中の学生(女性)2名が応募者役を演じ、面接質問に回答をしている動画(約3分)を制作しています。

 

これを、30歳以上の正社員・会社役員・経営者359名に、面接官になったつもりで、オンラインで見てもらい、いくつかの質問に回答してもらうという実験でした。

 

シナリオは、「自己PR」「学生時代に最も力をいれたこと」「最後に一言」という構成で、面接官側の指示は字幕で表示され、応募者役の回答はすべて同一内容(文言)になっています。

 

2名の応募者役の学生に、リクルートスーツで、シナリオ通りの共通した回答を、「常に笑顔で話す(笑顔条件)」と「常に真顔で話す(真顔条件)」の二種類で行ってもらった動画(合計4種類)が用意されました。

 

そして、各回答者にはその中の1本が割り当てられて視聴してもらいます。

 

動画を視聴した後、回答者に次のような質問をしています。

 

動画をきちんと視聴して回答しているかどうかをチェックする質問などを通して、有効回答を絞り込み、234名(女性96名、男性135名、その他3名、平均年齢41.3歳)の回答が分析に用いられました。

 

どのようなことがわかったのか?

 

1.笑顔の有無と「人柄の良さ」「能力の高さ」「意欲の高さ」の受け止められ方

 

まず、2名の応募者役の間で、回答に有意な差がなかった(応募者役によって回答傾向に偏りがなかった)ことが確認されています。

 

その上で、「人柄の良さ」「能力の高さ」「意欲の高さ」を回答者がどう評価したかについて、「笑顔条件」と「真顔条件」の結果を比較しています。

 

その結果、「人柄の良さ」の評価については、「笑顔条件」(平均 7.94、標準誤差 0.11)、「真顔条件」(平均 6.59、標準誤差 0.12)の間で有意差がありました。

 

しかし、「能力の高さ」「意欲の高さ」の評価では、両者に有意差はありませんでした。

 

つまり、「人柄の良さ」の評価については「笑顔条件」のほうが有意に高くなっていて、「前提1」が正しかったことがわかります。

 

一方で、「能力の高さ」(前提2)や「意欲の高さ」の評価については、笑顔であるか真顔であるかは評価に影響しませんでした。

 

2.笑顔の有無が「採用意図」を高めたか?

 

次に、仮説1の「採用意図」に関する結果は、「笑顔条件」(平均 6.97、標準誤差 0.15)、「真顔条件」(平均6.50、標準誤差 0.16)で、「笑顔条件」のほうが「採用意図」が有意に高くなっています。

 

笑顔で回答するほうが、真顔で回答するよりも「採用しようという意図」を高めるようです。

 

3.「採用意図」を高めるのは、笑顔が「人柄の良さ」に対する受け止め方を高めることによるのか?

 

では、「笑顔」だとどうして「採用しようという意図」を高めるのでしょうか?

 

研究グループは、両者の間に、「人柄の良さ」という要素が介在しているのではないかと考えています(仮説2)。

 

このことを、ちょっと専門的な方法ですが、ブートストラップ法(ブートストラップ標本数:2000)を使って確かめています(興味のある方は論文本体をご覧ください)。

 

それによれば、「笑顔の有無」が直接的に「採用意図」を高めているのではありません。

 

「笑顔の有無」が「人柄の良さに関する知覚」を高め、その「人柄の良さに関する知覚」が「採用意図」を高めていることが明らかになったと報告しています。

 

簡単に言うと、「笑顔が採用意図を高めるという効果は、直接的にではなく、「知覚される人柄の良さ」という要素を経由して現れている」ということを示しているわけです。

 

4.笑顔が「採用意図」を高めるという効果は、人柄を重視する会社ほど顕著に現れるのか?

 

最後に、仮説3(笑顔が「採用意図」を高める効果は、「人柄を重視している程度の高い会社」ほど顕著に現れる)を検証しています。

 

「職場で人柄が重視される程度が高い(平均より1標準偏差高い場合)」会社(人柄重視度高群)と「職場で人柄が重視される程度が低い(平均より1標準偏差低い場合)」会社(人柄重視度低群)で、それぞれ、笑顔条件と真顔条件での採用意図の得点をみています。

 

その結果、「人柄を重視する程度の高い会社」では、「笑顔条件」(平均 7.36、標準誤差 0.20)、「真顔条件」(平均 6.25、標準誤差 0.23)となって、「笑顔条件」のほうが有意に高くなっています。

 

一方、「人柄が重視される程度が低い会社」では、「笑顔条件」と「真顔条件」との間で、「採用意図」に有意な差がみられませんでした。

 

したがって、仮説3も支持されたことになります。

 

さらに研究してほしいこと

 

研究結果から、「採用面接で笑顔を表出することは、よい結果をもたらす」「笑顔の表出は知覚される人柄の良さ(の評価)を高め、結果として、採用意図を高める」ことがわかったと著者たちは述べています。

 

また、「笑顔が採用意図を高めるのは人柄の良さが重視される職場においてのみである」こともわかったといいます。

 

同時に著者たちは、この研究の限界についても述べています。

 

まず、女子大での研究ということで、被面接者役の学生が二人とも女性であったことをあげていて、被面接者役が男子学生であった場合に同様の結果になるかどうかわからないといいます。

 

この点は、とても興味深いので、ぜひ、研究を継続してほしいものです。

 

この研究を読んで、私自身は、「女性の回答者と男性の回答者の間で、回答パターンに違いがあったかどうか」という点に興味が湧きましたが、この点については、この論文では触れられていませんでした。

 

女性面接官がみる女性応募者の笑顔と男性面接官がみる女性応募者の笑顔では、反応が異なるように思えるからです(男性応募者の場合も興味深いですね)。

 

また、この実験では、事前に被面接者に関する「エントリーシート」などの情報が回答者に配布されているわけではありませんから、対面する前に「理性的」に情報を解読する機会が与えられていません。

 

その点で、まさに、面接での口頭によるアピールだけに基づいて「直観的」に「採用意図」を判断しているわけです。

 

「笑顔」は面接官の「直観」にたしかに働きかけているといえるようです。

 

余談ですが、このように「笑顔(表情)を作って会見や面接に臨む」といったことは、海外では「印象管理(impression management)」という研究分野で研究されています。

 

株主総会やプレスリリースの場面などで、会社を代表してメッセージを発する人たちが研究対象になることが多いです。

 

しかし、採用面接でも、意図的に表情や話し方をコントロールされれば、印象管理ということになるでしょうから、研究の対象になることでしょう。

 

私からのメッセージ

 

この研究を読んで、私も自分の経験を振り返ってみて、その結果に納得することになりました。

 

最初に述べましたが、私は、何回か転職しながら大学教員として人生を過ごしてきましたので、被面接者の立場でも、面接官の立場でも、採用面接の場を経験してきました。

 

さらに、官庁の主宰する研究プロジェクトや事業プロジェクトのヒアリング審査の場でも面接官を経験してきました。

 

今思うと、不思議なことが何回もありました。

 

毎年実施される大学院入学試験の面接試験で、志願者の志望理由や面接時の表情、態度はさまざまなのですが、それぞれの志願者に対する評価点は、ほとんどの面接官が一致するのです。

 

大学院入試だけではなく、プロジェクトのヒアリング審査の場でも、プレゼンに対する面接評価点が、面接官の間でほとんど一致するのです。

 

事前に評価点について客観的基準を打ち合わせているわけではありません。

 

この経験は、どうやら今回紹介した研究成果で説明がつきそうです。

 

ここでは「笑顔」でしたが、表情や身ぶり、態度、自信度といった要素が面接官の「直観」を発動させるのだと私は思います。

 

さらに、その「直観」の結果が、個人を越えて複数の面接官に共有されていたことに改めて驚きました。

 

たかが「笑顔」されど「笑顔」、「笑顔、恐るべし」ですね。

Who is writing

神戸大学名誉教授・東京理科大学名誉教授/株式会社経営人事パートナーズ 海外文献リサーチャー

研究者としてのキャリアは、 教育学としての科学教育学から。

その後近代科学の異文化性を中核に据え、 異文化としての科学と人間の関係性を、 教育という切り口から研究してきた。

約40年、 合計4つの大学で教員を務め、定年退職を機に、 教育活動、研究活動の中で最も好きで、最も専門的スキルをみがいてきた、 海外文献の調査 探索 検索収集・分析・要約の活動をフリーランスとして行っている。

未知の研究領域 (人文社会科学系) について学ぶことは、 自分の知的好奇心を満たせることなのだが、 現代社会の中で、このような活動と成果を求めているセクターがあることがしだいに明らかになってきて、 その顕在的・潜在的なニースにささやかながら応えられることが楽しいしうれしい。

教育学、歴史学 、 人類学、 民族学、 民俗学、 社会学、 人材開発、 言語学、 コミュニケーション、 などなど、 知らない分野の研究を覗いてきたが、今回は、HRM や人事採用に関する海外文献の調査研究ということで、 また新しい世界を覗ける機会を得てわくわくしている。

HRM や人事採用については、アウトサイダーであるが、 であるがゆえに、インサイダーの方々とはちょっと違った見方も示せればよいかなと思ったりしている。

チャレンジできる仕事に出会えて感謝。