AI研究最前線vol.6 AI企業が守りたいものは「AI」ではないって本当?

AI企業が守っているのは、AIモデルではなく、AIモデルが持つ「知識」でした。

  

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今の学生の多くは「入社した会社に一生勤めよう」とは考えていません。

実際に多くの研究室同期や先輩後輩が複数回の転職をしていますし、私が入った会社でも、3年後までに転職した人が多くいたと記憶しています。

少なくとも「ほとんど辞めない」という状況ではありませんでした。

かくいう私も、大学院へ戻ったことを転職と表現して良いのかはわかりませんが、少なくとも3年目が終わると同時に退職しています。

 

企業にとって重要な資産の一つであるところの「人」が居なくなってしまうというのは、企業にとって大きな痛手になります。

社員が長年培ってきたノウハウや経験、組織に蓄積された暗黙知は、簡単には真似できない企業の財産なはずです。

そのような環境の中で、どうやって良い人材を取るか?そして長く働いてもらうか?はとても重要な課題になっていますが、それはさておき。

 

実は今、AI企業でも全く同じことが起きているようなのです。

もちろんAI企業でも優秀な社員をどうやって引き止めるか?というのは重要な課題なのですが、それだけではなく、AIの持つ「知識」をどうやって守るか、が重要な課題になってきているというのです。

 

例えば、ChatGPTを提供するOpenAI社が持つAIモデルは、非常に大きなパラメータを持つ、とても複雑なモデルです。

複雑なモデルだからこそ、私たちの質問に答えてくれたり、絵を描いたり喋ったり、たくさんのことができるわけですが、その分消費電力もとんでもないことになっています。

私たちユーザもサービスを使うためにお金を払う必要がありますが、その金額ではとても賄えないほどの電気代がかかっている(そのため、大赤字である)という話も聞いたことがあります。

 

ですが仮に、もっと小さなモデルで、小さな消費電力で、ChatGPTと同じ性能を出すことができるモデルが作られてしまったらどうなるでしょうか。

 

このような技術は古くから研究されており、「蒸留」という名前で呼ばれています。

ウイスキーなど蒸留酒の「蒸留」と同じです。

先生となる大規模なモデルの知識を蒸留して、より小さなモデルにそのエッセンスを反映させようとするものであり、性能を維持しながら計算コストを下げることがでいるため、多くの研究や製品開発で活用されてきました。

 

しかし、近年、この技術の使い方が変わり始めています。

実際にOpenAIの利用規約に記載があるように、本来は「本サービスのソースコード又は基礎となるコンポーネントの発見、リバースエンジニアリング、逆コンパイルについて試みたり、他者を支援したりすること」は禁じられています。

にもかかわらず、アメリカ発のオンライン経済メディアであるBusiness Insiderに、以下の記事が掲載されていました。

【This AI shortcut could destroy the industry’s profits】

https://www.businessinsider.com/distillation-problem-ai-industry-anthropic-openai-2026-7

こちらの記事では、蒸留の技術がAIの経済性を脅かす、というテーマについて紹介されています。

競合他社(ほとんどの場合、すでに業界を席巻しているAI企業)のモデルの出力をさまざまな手段で取得し、より安価なモデルにその知識を反映させようとしている、という状況が述べられていました。

このような「蒸留」が成立してしまえば、高いコストをかけて開発したAIモデルは安価にコピーされてしまうため、利益が全く出なくなってしまいます。

さらに、OpenAIやAnthropicが競合他社による蒸留を重要なリスクとして捉えていることが報じられています。

確かに、これまでAI分野でリーダーシップをとってきたアメリカからすれば、大変な脅威です。

モデルそのものはコピーできなくても、出力を使うことで「知識」や「推論応力」をコピーできてしまうことが、企業のリスクになる。

つまり、「知識の流出」が企業価値に直結すると言えます。

 

これまで多くの企業が取り組んできた「知識を守る」ということが、ついにAI企業においても重要なテーマとなりました。

「企業・組織の競争力は何か」という問いは、これからも重要なものであり続けるに違いありません。

 

 

P.S.

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大学にてデータサイエンスを学ぶ傍ら、多くの人にデータ分析の面白さを伝えたいと日々奮闘中。