【病院向け】離職率を下げる人事評価制度とは?構築ポイントを徹底解説!
離職率を下げたいなら人事評価制度を導入すべし!今回は、構築時のポイントや病院が導入するメリット、注意点まで詳しく解説します。
- 給与や待遇などの労働条件を改善しているけれど、医療従事者の離職が絶えず悩んでいる
- 離職率増加を防ぐ対策として、人事評価制度を導入すべきか迷っている
- 人事評価制度を構築するうえで意識すべきポイントがどこか分からない
上記のように、人事評価制度の導入が、どのようにして離職率低下につながるのか効果やメリットについて知りたい方も多いのではないでしょうか?
実際のところ、離職原因を把握していても、適切な対処を行い質の高いサービス提供や、効率的な経営ができている病院は数少ないです。
医師が中心となって病院を経営しているところでは、仕組みを一から変えるための時間を確保するのも難しいでしょう。
しかし、人事評価制度の構造を理解し、適切に構築できれば離職問題も解決できます。
具体的には、人事評価制度の軸である「評価・等級・賃金」の3つの制度を見直すことがポイントです。
現在では、病院の70%が人事評価制度を導入していると言われており、実際に看護師の離職率が半減したという事例もあります。
人事評価制度を構築することで、離職問題のみならず教育・組織開発の問題解決にもつながるため、なによりも優先度の高い課題と言えます。
そこで今回は、以下の内容について解説していきます。
- 人事評価制度とは
- 病院における人事評価制度の課題とは
- 人事評価制度を構築する際の3つのポイント
- 病院が人事評価制度を構築するメリット
- 人事評価制度を構築する際の注意点
本記事を読み終えれば、人事問題の悩みが解決でき、より充実した労働環境へと変えることができるでしょう。
そもそも人事評価制度とは
そもそも人事評価制度とは、経営目的や企業理念を実現するために作られた、合理的な人事管理の仕組みのことを表します。
主軸となるのは、以下の3つの制度です。
- 等級制度:職員を等級で序列分けする概念
- 評価制度:基準を設けることで職員の仕事ぶりを適切に評価する概念
- 賃金制度:等級や評価に応じて賃金・報酬・手当を設定する概念
このように、人事評価制度の構築には等級・評価・賃金の3つの制度の仕組み化が重要です。
なかには、思いつきや個人の好みといった主観的な要素で人事管理を行う病院もありますが、人事評価制度の取り組み方によって経営状態が大きく変わるので、論理的に考えなければなりません。
例えば、人事評価制度がない病院の場合、以下のようなことが想定されます。
- 役職に就くための基準がないことから、「なんであの人が主任なの?」という不満が多くなる
- 評価基準が明確でないことから、「頑張っているのに評価されない…」などモチベーション低下につながる
- 給与や報酬が上がる基準がないと、意欲的に取り組む職員が少なくなる
考え方や価値観というものは人それぞれであるため、基準が設けられていなければ不満が出るのは当たり前ですし、仕事を頑張る意味や目的も失われてしまいます。
近年では、個々の働き方や労働環境を重視した取り組みが求められているため、人事評価制度を導入する病院は増加傾向にあります。
病院における人事評価制度の課題とは
人事評価制度の構築を考えるまえに、病院が抱える課題について理解しておきましょう。
病院が抱える人事評価制度のおもな課題は、以下の2つです。
- 年功序列型の給与形態
- 人事評価制度の構築が不十分
それでは、詳しく解説します。
年功序列型の給与形態
年功序列型の給与形態は、病院の財政面と職員の生産性を考えると最適な仕組みとは言えません。
具体的な理由は以下の通りです。
- 勤続年数の増加とともに給与を上げ続けなければならない
- 能力のある若年層の労働意欲がそがれてしまう
- 生産性や能力の低い職員でも給料を上げなければならない
このように、年齢や勤続年数を基準にしてしまうと、職員は「頑張っても頑張らなくても給料が変わらない」「ならば、ほどほどに仕事をして長く勤めることだけ考えよう」という思考に陥りやすくなります。
つまり、年功序列型の仕組みを続けているかぎり、能力や生産性の低い職員の増加や、人件費の上昇が起きる可能性が高いのです。
では、世間の動きはどうなっているのか?
近年、社会情勢は大きく変化しており、民間企業は年功序列型から成果型へ、つまり能力主義の考え方に切り替わりつつあります。
コロナの影響により病院の需要は今までにないほど高まっていますが、いつまでも安定が保証される時代ではないですし、人口が減少し続けている日本では若者は貴重な存在です。
病院は一般企業とは違いビジネスの意識が薄い(利益を追求しない)傾向にもありますので、遅れを取らないように、一刻も早く年功序列型の仕組みから脱却する必要があります。
人事評価制度の構築が不十分
評価や等級の基準が定められていても、内容が合理的に作り込まれていない場合は、人事評価制度を導入した際の効果が半減してしまいます。
というのも、
- 評価基準の決め方
- 目標設定の立て方
- 評価の仕方
- 等級の定め方
これらの設定が重要だからです。
もともと多くの病院では、個人で立てた目標が達成できているかどうか、年に2回ほどの面談を行うことで評価を行っていました。
この場合、個人目標の達成度を評価することはできても、「病院の理念実現につながるような取り組みができているかどうか」「キャリアアップにつながるような目標設定ができているかどうか」「なにをもって昇給・昇格となるか」などは、基準がないため判断できません。
また、評価者の主観的要素が入ってしまうため、目で見て分かる言動が判断基準となってしまいます。
では、このような状況が続くと、どのようなデメリットがあるか?
想定されるデメリットは以下の通りです。
- 頑張りが評価されていないと感じ、仕事のモチベーション低下につながる
- 評価される側が評価結果に納得できないと、評価者との人間関係が悪くなる
- モチベーションの低下や人間関係のもつれがあると、チームがまとまらず離職にもつながる
病院では、チーム医療の推進が重要視されていますが、これは大病院に限らず、中〜小規模の病院でも同じことです。
医師・看護・薬剤・リハビリ・技師・事務etc…
これらすべての部署において、一人ひとりが仕事にやりがいを感じ、向上心を持って取り組むことができなければ、病院全体の質は上がるどころか下がる一方と言えます。
近年では、従来の評価制度が見直され、病院の約70%が新たに人事評価制度を導入していますが、適切に構築・運用できているケースはまだ少ないのが現状です。
離職率を下げる人事評価制度のポイント
前述した通り、「評価・等級・賃金」の3つの制度が連動した仕組みづくりにするのが大前提であり、それぞれ適切な基準を設けることが重要です。
離職率を下げる人事評価制度のポイントは以下の3つです。
- 行動・役割・能力の評価
- クリニカルラダーの設定
- 賃金制度との連動
ここでは、具体的に何をしたらよいのかを解説していきます。
行動・役割・能力の評価
人事評価は感覚的に行うのではなく、「行動・役割・能力」の3つを大項目とし、合理的に評価するのがポイントです。
具体的には、以下のような項目を評価シートでまとめてチェックしましょう。
<行動>
- 就業規則を守れているかどうか
- 上司の指示に適切に対応できているかどうか
- 業務を遂行する姿勢があるかどうか
- チームで目標を達成しようとする態度や行動があるかどうか
- 高い目標に向かって努力する姿勢があるかどうか
<役割>
- 与えられた仕事を期限・時間通りに遂行できたかどうか
- 効率的に仕事を進めているかどうか
- 仕事の質や完成度が高いかどうか
- 部下のモチベーションを高めたりスキルが上がるような指導ができているかどうか
<能力>
- 病院が求める知識や能力が備わっているかどうか
- 業務の遂行に必要な判断力が備わっているかどうか
- 設定した目標を達成するために計画を立てているかどうか
- 部下を適切な方向に導く指導力があるかどうか
これらの項目を細かくチェックすることで、一人ひとりの能力値が明確になるだけでなく、問題点も浮き彫りになります。
「あの人よりも頑張っているのに、なぜ評価されないの?」という方がいても、就業規則が守れていない・時間通りに仕事ができていないというような状況を評価シートで示すことができれば、評価結果に対する不満を減らすことができます。
このようにして、一人ひとりが自分の課題と向き合い、仕事に対するモチベーションを高めることができれば、病院全体の質も向上し、より良いサービス提供ができるでしょう。
クリニカルラダーの設定
クリニカルラダーを設定することで、職員の能力やレベルが可視化され、モチベーションの向上につながります。
*クリニカルラダーとは、はしごを上るように1段1段キャリアを上げていく仕組みのことです。
- あの人は仕事ができないのに、なんで主任になれたのだろう?
- 私のほうが仕事ができるのに、なんで同じ待遇なの?
- 業務以外になにが評価されているの?
このように、なにをもって仕事ができると言えるのか?
等級制度に基準がないと曖昧な評価になってしまい、不満が生まれるきっかけにもなります。
医療従事者のなかでも看護師の離職率はとくに高いですが、こういった不満の蓄積がきっかけで、いじめに発展したりと人間関係のもつれが原因で退職する方が多いのが現実です。
では、どのように構築したら良いか?
例えば、
- レベル1:助言や指導のもと業務が遂行できる
- レベル2:1人で業務が遂行できる
- レベル3:業務を遂行しながら部下に指導もできる
というように、期待される能力や役割を段階的に示すことで、キャリアアップに必要なことが明確になります。
*参考画像:日本看護協会
人間は分からないことがあると、なんで?どうして?と疑問を抱くようになり、いずれは「妬み(ねたみ)・嫉み(そねみ)・僻み(ひがみ)」へと変化していきます。
これが、人間関係が崩れる原因の一つです。
できることを増やしてクリニカルラダーのレベルを上げることで、やりがいも大きくなり職員の満足度も高められます。
目的や目標がないものを長く続けることは難しいですが、クリニカルラダーのように指標となるものがあれば、モチベーションを高く保ちつつ、人材教育にもつながるでしょう。
賃金制度との連動
評価システムやクリニカルラダーの設定が決まったら、賃金制度と連動させましょう。
具体的な取り組みは、以下の通りです。
- レベル1:基本給150,000円
- レベル2:基本給160,000円+研修費免除
- レベル3:基本給180,000円+研修費免除+教材費免除
なかには、現状維持を望む方もいるかと思いますが、給料や待遇面に明確な差をつけることで、積極性のある職員のキャリア支援が可能です。
医療従事者は労働量と賃金が見合っていない!という問題がよく取り上げられますが、キャリアラダーとともに給与が上がることを明示すれば、職員の不満も減らせるでしょう。
そして、病院が抱える人事問題の一つである「年功序列型の給与形態」からの脱却も図れるので、一石二鳥と言えます。
賃金制度と連動するメリットをまとめると以下の通りとなります。
- 意欲のある職員のキャリア支援ができる
- 給料が上がらないという問題の解決になる
- 年功序列型の給与形態から脱却できる
繰り返しになりますが、「評価・等級・賃金」の基準を設定したうえで、それぞれの関係性を明確にするのが人事評価制度を構築する際のポイントです。
病院が人事評価制度を構築するメリット
病院が人事評価制度を構築するメリットは、以下の3つです。
- 人件費を削減できる
- 人材の適材適所が可能
- 離職率を下げられる
人事評価制度を構築することで、ありとあらゆる無駄を省き、合理的な経営が可能となるので病院と職員の両方にメリットがあります。
それでは、詳しく解説します。
人件費を削減できる
人事評価制度を導入することで、年功序列型の給与形態から脱却できるため、人件費の削減につながります。
人件費が下がる理由は以下の通りです。
- 年功序列型でなくなるので、職員全員の給料を年々上げる必要がなくなる
- 年功序列型でなくなるので、職員の高齢化が進んでも関係ない
年功序列型の給与形態の懸念点は、業績や職員の生産性に関係なく、給料を上げ続けなければならないことです。
一般企業であれば、利益を上げることで人件費を賄うことができますが、病院は利益より社会貢献を重視する(ビジネスだと割り切れない部分がある)ため、固定費である人件費は最小限に抑えたいものです。
一方、人事評価制度は、年齢・勤続年数という要素を無視できるため、人件費を削減して安定した経営を可能にします。
人材の適材適所が可能
人事評価制度を導入すれば、職員一人ひとりの能力や人格を的確に評価できるため、人材の適材適所が可能です。
病院では、以下のようなケースが多く見られます。
- 医療者として優秀な人を管理職にする
- 年齢や勤続年数で役職を決める
このような配置の仕方は、一見ごく普通のこととして捉えられがちですが、合理的な方法ではありません。
なぜならば、「医療者として優秀な人材・経験が豊富な人材=管理職などの役職に適している」ではないからです。
現場仕事と管理職では必要とされる能力はそれぞれ異なるため、医療者として優秀な人が必ずしも管理職に向いているとは限りません。
プレイヤーとマネジメントでは、「畑違い」といったところです。
そこで重要なのか、役職にふさわしい人間かどうかを正確に判断する仕組みです。
人事評価制度を導入すれば、マネージメントスキルや経営能力が高い人材を適切に役職に配置することができるので、「この人じゃダメだったかな?」「力不足だったかな?」というような人材のミスマッチを防ぐことができます。
離職率を下げられる
人事評価制度を導入することで、少なくとも「人間関係・給与・モチベーション」の3つの問題を改善することができるため、結果的に離職率を下げられます。
具体的な改善例は、以下の通りです。
- 評価基準があることで評価に対する不満が起きにくく、良好な人間関係を築ける
- 昇進や賞与の基準があることで、給与が低い・上がらないという声を減らせる
- 仕事の目的が明確になるためモチベーションの維持・向上が図れる
個性や価値観といったものは人それぞれなので、誰がどこで不満を感じるかまでは把握しきれません。
- 上司と部下の仲が悪い
- チームがうまくまとまらない
- 頑張っているのに給料が上がらない
- 何のために仕事をしているのか分からなくなる
実際問題、このような不満から離職につながるケースは多々あります。
もちろん、一人ひとりの能力の問題もありますが、自分には何が足りないのか?何を解決すればいいのか?これらを示してあげるのがマネジメント側の役割でもあります。
人事評価制度を通して、人間関係・給与・モチベーションに関わる問題を少なくすることが、離職につながるキッカケを減らすうえでは重要です。
人事評価制度を構築する際の注意点
人事評価制度を構築する際の注意点は、以下の3つです。
- 教育システムも構築する
- 求める役割と成果を定義する
- 評価と教育を連動させる
評価制度や賃金制度を構築して満足してはいけません。
病院の内部状況をより良いものにするためには、理念の定着や教育にもこだわる必要があります。
それでは、一つひとつ解説します。
教育システムも構築する
前述した通り、現場仕事と管理職は全くの別物ですので、管理職に適した人材がいない場合は教育することも重要です。
管理職は、病床利用率や平均単価と言った経営指標を目標にし、各部門リーダーと連携をとりながら組織運営を行います。
そのためには、
- 人材を育成する能力
- 各部門と連携する能力
- 経営指標をもとに方針を決める能力
このような、病院全体の状況を把握し、組織を動かす能力が必要です。
人材の適材適所も重要ですが、教育が行き届いていない場合は、「人が育つ仕組みづくり」も行いましょう。
求める役割と成果を定義する
人が育つ仕組み作りを行ううえで、まずは役職者に求める役割や果たすべき成果を定義することが必要です。
これらが明示されていない場合、役職者のとるべき行動の方向性がブレてしまいます。
例えば、
管理職であれば、病院の描くビジョンを実現するために立てられた計画を職員全員に共有し、他部門と協力しながら目標達成に導くことが求められます。
しかし、病院における管理職としての役割を理解していなければ、
- 年度目標と計画の共有
- 他部門とのコミュニケーション
- 進捗状況の管理
といった行動をとることができなくなります。
人によっては、一つの部門にばかり指示を出したりと、行動に偏りが生じるかもしれません。
したがって、個々の能力の程度に関わらず、役職者としてすべきことを明確にしておくことが重要です。
評価と教育を連動させる
人事評価制度は、ただ運用するのではなく応用することが重要です。
というのも、ただ評価するだけでは組織は成長しないからです。
例えば、部下に評価結果だけを伝えてフィードバックはしないという上司がいたとします。
普段はあまりコミュニケーションをとらないため、部下は業務上の課題や日常的な細かな改善点に気づくことができません。
こういったケースでは、評価はただの評価で終わってしまうため、それ以上でもそれ以下でもなくなります。
では、どのようにしたら良いか?というと、
上司は、部下を成長させる意識を持たなければなりません。
具体的には、普段から積極的にコミュニケーションをとることで、部下が抱えている課題や悩みの解決をサポートするよう心がけます。
最終的な評価では、
- どこが良かったのか
- 何が悪かったのか
- 今後はどうすれば良いか
この3つをフィードバックすることで、部下の成長を促進させることができます。
また、上司も部下から信頼される人間になれるよう努力することになるので、結果的にお互いの成長につながります。
評価して終わりではなく、教育まで行う。
これが、人事評価制度の真のあり方であると考えられます。
まとめ
今回は、病院の人事評価制度問題について解説しました。
- 病院における人事問題として、年功序列型の給与形態や人事評価制度が導入されていないことが挙げられる
- 人事評価制度を導入することで適切な評価システムが構築でき、離職率低下や社員の満足度向上を図ることができる
- 人事評価制度の導入後は、評価のみならず教育面の構築もすべきである
社会情勢の変化により、企業の社内システムの再構築は急務となっていますが、人事評価制度を導入していない病院もまだまだ多く見られます。
一昔前は終身雇用が当たり前の時代でしたが、近年は財政的な安定が保証されなくなり、病院は人材不足問題にも悩まされています。
そこで重要なのが、人事評価制度の導入です。
職員の働きを適切に評価する仕組みを取り入れることで、年功序列型の給与形態から脱却し、職員一人ひとりのパフォーマンスアップを図ることができます。
人事評価制度の構築により離職率が半減した事例もありますので、今一度、人事システムの見直しを行うことをおすすめします。
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