AI研究最前線vol.11 AIの「カンニング」防止策

AIモデルが本当に「求めるAIモデル」になっているのか。その評価のためには、課題の内容だけではなく提示方法も考える必要があるようです。

  

「このAIは、数学のテストで90点を取ったAIです」

そう言われると、何だかとても賢そうなAIであるように聞こえます。

(もちろん、何の数学のテストなのか?によって変動するとは思いますが。)

ですが仮に、もしその「90点を取ったAI」が、すでにテスト問題とその答えを見ていたとしたらどうでしょうか。

 

8月27日、Google DeepMindが「AIのカンニングを防ぐ」ための取り組みを発表しました。

【Piloting the world’s first double-blind AI evaluations】

https://deepmind.google/blog/piloting-the-worlds-first-double-blind-ai-evaluations/

世界初となる、最新のAIモデルに対する「double-blind」評価の試みです。

 

AIモデルの開発においては、モデルの能力を比較するために「ベンチマーク」と呼ばれる共通試験がよく使われます。

ところが、この「ベンチマーク」の利用には、大きな問題があります。

 

そもそも現在広く使われている生成AIは、インターネット上にある大量のデータを使って学習しています。

そのため、ベンチマークに含まれる問題そのもの、あるいはそれによく似た問題が、AIを学習する際のデータに紛れ込んでしまう可能性があります。

大学入試の問題を、受験者が事前に見てしまっているようなものです。

人間も勉強をする際に、過去問などを使うことがありますが、過去問ではなく実際の入試問題を見てしまっているとしたら、それは本当に正しく実力が測れていると言えるのでしょうか。

 

そこでGoogle DeepMindが考えたのが「評価のための問題そのものを、モデル開発の場面から技術的に隔離した状態にしてしまえば良い」というアイディアでした。

今回の試みでは、いくつかの企業(Singapore AI Safety Institute、OpenMined、AVERI、MLCommons)と協力し、Google社のAIであるGemini Flash Liteモデルを秘密のベンチマークで評価しています。

ポイントは、暗号技術を使うことによって、AIモデルを開発するGoogleが問題を見ないことはもちろん、モデルを評価する側にも、Googleが作るモデルの中身を見せない、という点です。

これが「double-blind」と呼ばれる理由です。

 

ところで、少し前にこちらのメルマガでご紹介した、OpenAIが発表した「A scorecard for the AI age」。

AI研究最前線vol.7「AIの人事評価制度」を設計するとしたら?

 

このscorecardでは、AIを「ベンチマークで何点取ったか」だけで評価するのではなく、

「実際にどれだけ有用な仕事を完了できたか」
「成功した仕事にはいくらかかったか」
「その結果をどれだけ信頼できるか」

などを見るべきだという考え方が示されていました。

OpenAI社はこれを「Useful Intelligence per Dollar」という考え方で整理しています。

 

こちらもAIを評価する新たな基準ではあるのですが、今回のGoogle DeepMindの発表は、これとは似ているようで、少し違います。

scorecardが「AIの何を測るべきか」という話なら、今回のdouble-blind評価は「その測り方自体を信用できるのか」という話です。

 

つまり、AIが進化するにつれて、「どんな指標で評価するか」だけでなく、その評価結果は、本当にそのAIの実力を表しているのかまで考えなければならなくなってしまったのが現状です。

かつてここまでAIが成長する前は、単純に「上手く翻訳できるのか?」という課題に対する成果を見ていればよかったのですが、今ではそのような単純なタスクでは、AIモデルの性能を評価することができなくなってしまいます。

実際に、すでに公開された特定のタスクに対する正解率は、多くのAIモデルにとって「100点満点を取れるテスト」になってしまっていました。

 

これはまるで、特定のKPIに最適化する営業マンのようなものです。

例えば人事評価で「営業件数」をKPIにすれば、営業件数を増やす行動が促されますし、あるいは採用試験で特定の問題形式を使い続ければ、その問題への対策が上手な人が高得点を取るようになります。

評価指標を作ると、人もAIも、その指標で良い評価を得る方法を学びます。

ですが、「評価点が高いこと」と「本当に欲しかった能力が高いこと」は、必ずしも同じではありません。

汎用的に、何にでも使えるAIが欲しいのに、特定の問題に特化したAIになってしまうのは本末転倒です。

真に求める「理想状態」を作るため、評価指標を常にブラッシュアップしなければいけないのは、人間もAIも同じなのかもしれません。

 

 

P.S.

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大学にてデータサイエンスを学ぶ傍ら、多くの人にデータ分析の面白さを伝えたいと日々奮闘中。