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日本にあるゴルフ場は2,000コース以上。その数は、世界でもトップ5に入るほどです。
その中には、広く知られた名コースも数多くあります。
この「ゴルフ名コース解剖」では、そんな名コースとして知られるコースについて、その理由をコース設計の視点からご紹介していきます。
第3回は、名古屋ゴルフ倶楽部・和合コースです。
中日クラウンズの舞台となる中部地区最古のゴルフコース
日本で現存する民間最古のゴルフトーナメント「中日クラウンズ」。
これまでにアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤーの「BIG3」をはじめ、ピーター・トムソン、グレグ・ノーマン、セベ・バレステロス、デービス・ラブ3世、リー・ジャンセン、ジョン・デーリー、フレッド・カプルス、ジャスティン・ローズ等々数多くの海外一流選手が出場したことから、「日本のマスターズ」「東洋のマスターズ」とも呼ばれてきました。
そして、大会の舞台となってきたのが中部地区最古のゴルフコースである名古屋ゴルフ倶楽部・和合コースです。
日本を代表する設計家である大谷光明が設計したこのコースは、東京GC、川奈ホテル・大島Cと並んで大谷の代表作と言われています。
今回は、トーナメントの行方も左右する上がり3ホールを中心に、名古屋GC・和合Cをご紹介していきましょう。
名古屋GC・和合Cの概要
和合コースがあるのは、名古屋市郊外の東郷町和合。コースができる前は、皇室御料林となっていた場所です。
それまで三大都市のひとつでありながらゴルフコースが無かった名古屋は、転勤先としても不人気でした。
名古屋のゴルファーは、当時京都にあった京都カントリー倶楽部・山科ゴルフ場にまで、わざわざ足を運ばなければならない状況。
「名古屋にもゴルフコースを」と、名古屋の財界の名士であった松坂屋社長・伊藤次郎左衛門が旗振り役となり、動き出します。
更には当時彼が会長を務めていた名古屋ロータリークラブの有志も出資し、株式会社名古屋ゴルフ倶楽部を創立。前出の和合の土地15万坪を買い求めました。
しかし、設計を依頼された大谷光明は現地を見分し、用地の狭さや地形の厳しさ、加えて小石混じりの粘土質という土壌の悪さから、関係者へ「名古屋を代表するコースを造るには相応しくない」と伝えます。
それでも諦められない地元関係者は、用地を買い足して大谷を説得。1928年8月に工事が開始されました。
懸案である土壌改良には、近隣にある陸軍部隊からかき集めた軍用馬の馬糞をコース中に敷き詰める策を講じます。
こうして1929年9月15日に朝香宮殿下、同妃殿下の御台臨を仰ぎコースは開場。
1938年にはウォルター・ヘーゲンとジョン・カークウッドが来場し、プレーを披露しました。
戦後は中日クラウンズのほか、日本オープンや日本女子オープンといったトーナメントの舞台にもなっています。
住所:愛知県愛知郡東郷町和合
開場:1929年
運営:株式会社名古屋ゴルフ倶楽部
ヤーデージ:6,557ヤード パー70(※Cグリーン使用時)
設計者:大谷光明
誘惑の裏に罠がある左ドッグレッグ~No.16~
Blue:388Y White:368Y(※Cグリーン使用時)
250Y付近から、ほぼ90度左に曲がるドッグレッグホール。
20ヤード近い打ち下ろしでもあるため、ロングヒッターであれば1オンチャレンジの誘惑にかられます。
しかし、ティーイングエリアからグリーンを狙った先、および林からフェアウェイに抜ける付近には高い木がそびえており、当たってしまえばトラブルは必至です。
「ならば、コースなりに刻みで…」というところですが、それも簡単には許してくれません。
ティーショットがコーナー左にあるバンカーより手前だと、2打目で左の林がかかりグリーンを直接狙えません。
逆にコーナーの先まで行った場合、今度はフェアウェイにある2本の木がスタイミーになり、こちらも頭を悩ませることになってしまいます。
刻む場合でも、打ち下ろしを計算した縦の距離感を求められるのです。
ティーショットに成功してもそこから狙うグリーンは砲台になっており、それを合計10個ものバンカーが取り囲んでいます。
コースの誘いに乗って安易な攻めをすれば、痛い目に遭いかねないホールなのです。
世界的に知られた池越えのパー3~No.17
Blue:175Y White:159Y(※Cグリーン使用時)
和合の名物ホールである池越えの美しいパー3。
アメリカ・ゴルフマガジン誌がまとめた「The 500 World’s Greatest Golf Holes」の中でも、世界のベスト500ホールの一つとして紹介されています。
とは言え、紹介される理由はその美しさばかりではありません。
実際、池とグリーンは離れているため、クラウンズで戦うトッププロからすればさほどプレッシャーにはなりません。
プロにとっての本当の敵は2つ。ひとつはグリーン周りです。
2グリーンの場合の一般的なグリーンの広さは450㎡と言われる中にあって、クラウンズで例年使用されるCグリーンはそれより小さい417㎡で、かつ砲台型。
そのグリーンを、深い両サイドのバンカーがしっかりとガードしています。
そしてもう一つの敵は「風」。さえぎるものが無い池を風が吹き抜けているのです。
強烈なアゲインストともなれば、通常から3番手も上げて打つこともあるとか。
ジャッジをしようにも、グリーン周辺は木々に囲まれているため、それを難しくしています。
1989年に当地で行われた日本オープンでは、最終日の17番ホールでティーショットを左の深いバンカーにいれた尾崎将司が、そこから起死回生のチップインバーディ。
前年に続く日本オープン連覇に結び付けました。
今年のクラウンズでも、17番でそのようなドラマが生まれるかもしれません。
カップインまで気の抜けない最終ホール~No.18
Blue:435Y White:413Y(※Cグリーン使用時)
男子ツアーのコースとしては、決して距離がある方ではないフィニッシングホール。
ティーショットを右バンカー方向に打てば距離をかせげるのですが、右サイドは浅いOBラインがグリーン付近まで続いています。
そのため、狙いは左側のNグリーン方向がベスト。
しかし、左サイドにはアゴが高い2つのクロスバンカーが並んでいるため、そちらにも注意を払わなければいけません。
2打目付近のフェアウェイは左から右に傾斜していて、つま先下がりのライからグリーンを狙うことになります。
こちらのグリーンも砲台で、左右には深いガードバンカー。
加えて、複数のマウンドによる傾斜が入り組んだグリーンであるため、乗せた位置によっては3パットの可能性もあります。
ちなみに昨年2023年の中日クラウンズ最終日において、18番はホールアベレージ4.311の最難関ホールとなりました。
優勝争いをする選手にとっては、カップインまで気の抜けない最終ホールとなることでしょう。
長いだけがコースの難しさではない
今回は、名古屋ゴルフ俱楽部・和合コースをご紹介してきました。
6,557ヤードというセッティングは、今の男子レギュラーツアーにおいては突出した短さです。
それにもかかわらず、いまだに容易な攻略を許さないコースでありつづけています。
私が和合とダブらせるのは、アメリカにあるメリオンGCの東コースです。
世界のゴルフコースランキングでもTOP20から外れることのないそのメリオンGC・東コースで2013年、32年ぶり5度目の全米オープンが開催されました。
その時のセッティングは、全長6,996ヤード・パー70。
これでも、前回からは全長を450ヤード以上長くしたのです。
「いったいどのような優勝スコアになるのか…」期待と不安の中で行われた大会の優勝スコアは、ジャスティン・ローズの+1。
悪天候の影響もあったとはいえ、評判通りの手強さを世界に知らしめることとなりました。
そして既に、2030年、2040年、2050年の全米オープン、2034年と2046年の全米女子オープンの開催が決定済みです。
「長いだけがコースの難しさではない」、関係者が熱意と苦心の末に作り上げた名古屋GC・和合Cは、静かなたたずまいの中でその事を雄弁に語っている気がします。