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あなたは「ジョハリの窓」をご存知でしょうか?
昔から人材育成や企業研修などでよく扱われるので、一度は聞いたことがあるかもしれません。(研修講師からすると定番ネタです)
ジョハリの窓は、自己理解やコミュニケーション能力の開発において、とても重要な考え方なのですが、定番ネタだからこそ「ああ、またこの話か」といった感じで、サラッと流されてしまっているような気もします。
しかし、ジョハリの窓をしっかり実践していれば、少なくともコミュニケーションの分野においては他にやることはない・・・と言っても過言では無いのです。
私自身も、コーチングを行う上でジョハリの窓を常に意識しています。
今日はそんなジョハリの窓について、基礎知識と共に、人事評価やリーダーシップに適用する方法をお伝えします。
ジョハリの窓とは?
ジョハリの窓は、人間の自己認識を分析するための心理学的モデルです。
1955年にアメリカの心理学者ジョセフ・ルフトとハリー・インガムによって開発されました。(ジョハリという名前は、考案者たちの名前である、ジョセフとハリーを組み合わせて作られました。)
このモデルは、自分で自分自身をどのように認識しているか?また、他人が自分についてどのように認識しているか?を明らかにすることを目的としています。
そんなジョハリの窓は
- 開放の窓
- 秘密の窓
- 盲点の窓
- 未知の窓
の四つの領域で構成されています。(詳細は後述します)
組織における重要性
組織においてジョハリの窓は、特にコミュニケーションとチームビルディングの点で重要です。
このモデルを利用することで、自己理解と相互理解の両方を促進することができるからです。
例えば、開放の窓を拡大することによって、より風通しの良いコミュニケーションが可能になります。
また、リーダーが自身の秘密の窓や、盲点の窓を理解することは、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
ジョハリの窓をチームに落とし込むことで、信頼性の高い組織文化を築くことができるでしょう。
認識が異なる4つの窓
ジョハリの窓の大きな特徴は、認識の仕方を以下のような4つの領域に分類していることです。
1.開放の窓
これは「自分も・他人も分かっていること」です。
共有されている知識、スキル、情報など、自分自身と他人の両方が認識していることを指します。
2.秘密の窓
これは「自分は分かっているが、他人は分かっていないこと」です。
他人に明かしていない、個人の情報、感情、経験などを指します。
3.盲点の窓
これは「自分は分かっていないが、他人は分かっていること」です。
他人からは一目瞭然だけれど、本人が自覚していない振る舞いなどが含まれます。
4.未知の窓
これは「自分も・他人も分かっていないこと」です。
この領域には、未発見の才能や潜在能力、将来の可能性などが含まれます。
この4つの窓をバランスよく管理することで、より健全な組織運営が可能になります。
それぞれ、もう少し詳しく見ていきます。
「開放の窓」を拡大する
開放の窓の目的は、名前の通り組織内の情報や認識を開放し、風通しを良くすることです。
組織にジョハリの窓を活用する場合は「いま現在、どれくらい開放の窓が開いているか?」を確認することから始めます。
人は自分が知らないことに対して不安を感じたり、必要以上に懐疑的になることがあります。
特に「Aさんは知っているけれど、Bさんには伝わっていない・・・」といった状況が生まれてしまうと、Bさんにとっては非常に居心地の悪い環境になりますよね。
みんなが知っておくべき情報を、適切なタイミングと分かりやすい方法で公開し、誰でもアクセスできるような環境に整えるだけで、安心感や信頼感を生み出すことができます。
開放の窓を大きくする具体的な戦略
開放の窓を拡大するための戦略には、以下のようなものが考えられます。
1.自己開示の促進
経営陣やリーダーから自己開示を始めることで、他の従業員もオープンな態度を取りやすくなります。
自己の経験や感情、考えを共有することがポイントですが、自己開示を促す具体的な方法は、後述の「秘密の窓」でお伝えします。
2.フィードバックの促進
フィードバックを目的としたミーティングなどを通じて、互いの行動やパフォーマンスについて率直な意見交換を行います。
これは互いの理解を深めるのに役立ちます。
3.教育と研修
コミュニケーションスキルやチームワークに関する研修を通じて、従業員が自己開示の重要性と方法を学ぶことができます。
「秘密の窓」と自己開示の効果
「秘密の窓」は、個人が他人に明かしていない思考、感情、経験などを含む領域です。
この領域を解放するには、個人が自分自身と向き合い、秘密を明らかにする理由とメリットを理解する必要があります。
ちなみに、多くの人が秘密にしたがるのが「感情」です。
例えば
- プロジェクトに対する強い不安
- 上司や同僚に対する怒り
- 自分自身のスキルに対する羞恥心
といった感情ですね。
これらを少しでも開放することができれば、自分に対する自信はもちろん、他人のサポートを得やすい環境を作ることができます。
なぜなら、自己開示は他人からの自己開示も促すことができるからです。
これは「好意の互恵性(返報性)」と言い、一方がポジティブな自己開示を行うと、他方も同様に自己開示を行いやすくなる現象です。
秘密の窓は、その他全ての窓の根底にあります。
そのため、秘密の窓を開放すると、そのまま他の3つの窓を開放・拡大することにつながります。
従業員に自己開示を促す方法
では、具体的にどうやって自己開示を促せば良いのでしょうか?
以下に、いくつかの方法をお伝えしておきます。
1.安全な環境の提供
これが自己開示に最も重要な要素です。
無言の圧力や、暗黙の了解といった雰囲気がある場所で、自己開示をする人はいません。
安全であり、受け入れられると感じる環境でこそ「話してみようかな・・・」と思うことができます。
2.フィードバックと承認
人材育成の現場で、たまに「自己開示した人がいるのに、誰も反応しない」というシチュエーションを見かけます。
これでは自己開示をしてくれた本人の心が、それまで以上に閉じてしまいます。
フィードバックと言っても、何か特別なことを伝える必要はありません。
かける言葉に迷ったら「伝えてくれてありがとう!」だけで十分です。
肯定的なフィードバックと承認を行うことで、他の従業員も自己開示を行う勇気を持ちやすくなります。
3.ワークショップの開催
自己開示を目的としたワークショップを通じて、従業員が自分自身についての情報を共有する機会を作ります。
ワークショップのメリットは「自分が抱えている秘密は、多くの人にとって大したことではない」という事実に気づけることです。
私はこれまで「こんなこと、誰にも言えない!」と強く感じている秘密ほど、実は他人にとっては全く大したことがない・・・というケースを沢山見てきました。
自己開示によって秘密の窓が開き、組織内の信頼とコミュニケーションが強化され、より効果的で協力的なチームワークが促進されます。
「盲点の窓」で他者の視点を理解する
「盲点の窓」は、他人は分かっているが、自分自身は分かっていない特徴や行動を指します。
この窓は「縮小すること」が目的であり、自分が気づいていない認識を自覚することで、組織内のコミュニケーションと人間関係を改善します。
盲目の窓を明らかにする方法はとてもシンプルで、今すぐに行うことができます。
なぜなら「他人のフィードバックを受け入れるだけ」だからです。(とはいえ、それが難しいのですが・・・)
重要なのは、フィードバックに身構えるのではなく、成長と学びの機会として受け止めることですね。
また、自己評価と他者評価を比較することも有効です。
自分の行動や態度について自分で評価を行い、そのあと他人視点から評価を受けることで、自己の見落としている点や誤解している点を発見できます。
健全なフィードバックの強化
フィードバックは、以下のポイントを意識することで、より効果的で健全なものになります。
- オープンなコミュニケーション: フィードバックにおいては、オープンで正直なコミュニケーションを基本とし、従業員が自己の感じていることや考えていることを、安心して表現できる環境を作ることが重要です。
- 継続的なフィードバックの提供: フィードバックは、年に一度の評価の時だけでなく、継続的に行われるべきです。これにより、従業員はリアルタイムで行動の調整を行うことができます。
- 建設的なフィードバックの重視: フィードバックは単なる批判ではなく、改善のための具体的な提案やサポートを伴うべきです。これにより、従業員は成長に向けて前向きなステップを踏み出すことが可能になります。
フィードバックを受け止める心を養うためには「コーチングのやり方」を学ぶことも効果的でしょう。
盲目の窓の縮小は、自己認識の向上に直結し、組織内のコミュニケーションの質を高めてくれます。
「未知の窓」と潜在能力の探求
「未知の窓」は、自分も他人も分かっていない、潜在的な能力や情報を含む領域です。
この未知の領域には、個人の隠れた才能や、チームの可能性が眠っていることが多いです。
ジョハリの窓において、最終的に目指すのがこの未知の窓の開放であり、そのためには「開放の窓」「秘密の窓」「盲目の窓」を開放・拡大しておく必要があります。
隠れた才能や潜在能力を明らかにする方法
未知の窓に隠れている才能や、潜在能力を明らかにするためには、以下のようなアプローチが有効です。
1.多種多様な経験を促す
従業員に異なるプロジェクトや役割に参加する機会を与えることで、彼らが新しいスキルを発見し、潜在能力を開花させることができます。
2.コーチングを通じて引き出す
マネージャーやコーチからのフィードバックや指導を通じて、従業員が自己認識を深め、未知の能力を発見する手助けをします。
3.心理学などの利用
一部の組織では、パーソナリティテストや能力評価などの心理学を用いて、従業員の隠れた才能や潜在能力を明らかにすることがあります。
従業員のタイプについては、こちらも併せてご覧ください。
未知の窓を開放することで、従業員は自分のキャリアにおいて新たな道を発見し、組織は多様な才能を活用することができます。
ジョハリの窓を用いた人事評価
ジョハリの窓が使えるのは、人材育成だけではありません。
人事評価に組み込むことで、より公平で効果的な評価システムを構築するのに役立ちます。
1.開放の窓&秘密の窓の拡大を促す
人事評価のベースとなる情報を集めるにあたり、従業員が「開放の窓」と「秘密の窓」を通じて、より多くの情報を提供するよう促すことで、評価プロセスの透明性と精度を高めることができます。
2.自己評価と他者評価のバランス
例えば、自己評価に関しては「秘密の窓」と向き合い、他者評価は「盲目の窓」と向き合うことで、自己認識と他者認識をバランスよくチェックすることができるでしょう。
3.「未知の窓」に重きを置く
今現在、目に見えている部分だけではなく、従業員の潜在能力や未開発の才能に注目し、それらを伸ばすための機会を提供することが、長期的な成長と組織全体の強化につながります。
ジョハリの窓を人事評価に取り入れることで、従業員の自己認識を高めると同時に、組織全体のパフォーマンスと満足度の向上が期待されます。
リーダーシップ開発におけるジョハリの窓
ジョハリの窓は、以下のようにリーダーシップ開発においても重要な役割を果たします。
- 開放の窓:リーダーのチームに対する責任感の強化
- 秘密の窓:リーダーの積極的な自己開示
- 盲目の窓:リーダーの自分に対する健全な評価
- 未知の窓:リーダーの能力を大きく伸ばすきっかけ
リーダーシップスキルを向上させために、ジョハリの窓は非常に有効なのです。
開放の窓を広げる責任を持つ
リーダーは、チームや組織全体のバランスを常に意識する必要があります。
結論を申し上げると「開放の窓=リーダーの器」です。
チームがリーダーの器以上に大きく成長することはありません。
細かな情報が行き届くような仕組みづくりはもちろん、明るく活気のある雰囲気づくり、お互いがオープンに接することができる安心感など、その全てがリーダーの器の範囲内で拡大します。
つまり、自分のチームにおける開放の窓の領域を広げようと思ったら、リーダーは自分の器を広げることに責任を持たなければなりません。
秘密の窓を積極的に開示する
従業員に自己開示を促す際、まずリーダーが積極的に自己開示する必要があります。
チームビルディングがうまくいかないチームでは、リーダーの仕事がブラックボックス化していることがよくあります。
そういったリーダーの場合、部下が大事な報告を怠ったり、チーム内での情報共有が著しく滞ったりします。
リーダー業務の全てを開示するわけにはいかないものの、部下の間で「あの人は普段何をしてるんだろう?」と思われるのは避けたいところですよね。
自身の業務進捗や結果、今感じている感情などをオープンにすることで、部下とのコミュニケーションがスムーズになり、信頼を獲得することができます。
盲目の窓を自己評価の基準にする
リーダーに必要な思考は「どうしたら自分が勝てるか?」ではなく「どうしたらチームとメンバーが勝てるか?」です。
だからこそ、リーダーになると自己評価よりも、他者評価の重みが増しますよね。
そんな時に使えるのが盲目の窓です。
先にお伝えした通り、リーダーは他者からフィードバックがもらえる機会を増やし、他者視点から自分を健全に評価するようにしましょう。
未知の窓を開けて飛躍する
リーダーが未知の窓を開くことで、得るものの大きさは計り知れません。
それまで全く気づいていないことが明らかになるかもしれませんし、既に気づいてることを改めて自覚するかもしれません。
いずれにせよ、リーダーの器が広がることは間違いないでしょう。
成長したリーダーの器が、再度開放の窓に影響を与え、チーム全体のレベルが上がっていく・・・という循環が起きていきます。
これらの例から分かるように、リーダーがジョハリの窓を効果的に利用することで、自己認識を深め、チームとの信頼関係を強化し、組織全体の成長を促進することが可能です。
まとめ:個人とチームの可能性
さて、今回は「ジョハリの窓」についてお伝えしました。
研修では定番のネタですが、実はものすごく重要であり、ジョハリの窓を意識するだけで、十分にチームビルディングできることが伝わっていれば幸いです。
シンプルな理論なだけに、効果を体感しやすいと思いますので、是非ご自身のチームでも活用してみてください。