今回は「難しい知識を使わずに、誰でもコーチングが出来る方法」について詳しく解説します。
コーチングとは、簡単に言うと「傾聴や質問を用いて、相手の目標達成を促す手法」です。
最近は人材育成の手法として、取り入れる企業が増えており、私自身コーチとしてとても嬉しい限りです。
ただ、コーチングという言葉を使うと、とても難しい専門スキルのように聞こえませんか?(実際専門スキルは必要なのですが)
しかし、私は「誰もが一度は、他人にコーチングを施した経験があるはず」と考えています。
なぜなら、本人が意識していないだけで、傾聴や質問を使って、結果的に他人の行動を促すことはよくあるからです。
あなたも誰かに相談をもちかけて、たいしたアドバイスをもらったわけでも無いのに、なぜか身軽に動けるようになった経験はありませんか?
いわゆるコーチとは、この一連の流れを、意図的に起こせる人のことだと私は考えています。
つまり、本来は誰でもコーチになれるんです。
だからこそ、今回は「誰でも出来るコーチング」にこだわってみたいと思います。
ちなみに、コーチングのやり方で一般的に使われるのは「傾聴」「承認」「心理学を用いた話」「現在地とゴール地点を確認〜行動計画を立てる」といった類のものです。
今回はそういった話ではなく、少し異なる視点から
- 自分のクセを見つける方法
- コーチとしての心構え
- 難しいテクニックを使わずに誰でもできるコーチング3ステップ
をお伝えします。
20の悪い癖を知る
コーチングについてお話しする前に、あなたに知っておいてほしいことがあります。
それは多くの人に共通する「20の悪癖」についてです。
あなたにもこんな癖がありませんか?
<20の悪癖>
- 極度の負けず嫌い。
- 何かひとこと価値をつけ加えようとする。
- 善し悪しの判断をくだす。
- 人を傷つける破壊的コメントをする。
- 「いや」「しかし」「でも」で文章を始める。
- 自分がいかに賢いかを話す。
- 腹を立てているときに話す。
- 否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う。
- 情報を教えない。
- きちんと他人を認めない。
- 他人の手柄を横取りする。
- 言い訳をする。
- 過去にしがみつく。
- えこひいきする。
- すまなかったという気持ちを表さない。
- 人の話を聞かない。
- 感謝の気持ちを表さない。
- 八つ当たりする。
- 責任回避する。
- 「私はこうなんだ」と言いすぎる。
以上。
これはエグゼクティブコーチングの第一人者と言われている、マーシャル・ゴールドスミスの著書「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」より、引用したものです。
いかがでしょうか?心当たりのある項目はありましたか??
かくいう私にも、痛い言葉がいくつかあります・・・。
なぜこの話をしたかというと、現時点であてはまる項目が多ければ多いほど、コーチングの精度を上げることが困難になるためです。
世間でよく言われる「傾聴・質問・承認」や「心理学の知識」をいくら覚えても、これらの悪癖の前では、効果が薄まってしまいます。
自分を守りたい気持ち・・・
ちなみに、これらの悪癖は全て「自己防衛反応」と言えます。
自分が不利な立場にならないよう、何とかして自分のことを守りたい気持ちから生まれる癖ですね。
結論、本当に効果の出るコーチングを行うには、これらの悪癖を1つでも自覚し、手放していくことが最短の道のりであると言えます。
もちろん、全てを手放すことは簡単ではありません。
まずは「自覚できているか?」だけでも確認しておきましょう。
コーチングは既に始まっている
さて、自分の癖を少しでも自覚できたら、コーチングの準備に入ります。
仮にあなたが部下を教育する立場であり、その方法としてコーチングを用いる必要があるとします。
その場合、まずはどんな準備から始めますか?
- 部下と話す日時や場所を決める。
- 部下をどうやって導くか考える。
- 部下にどんな質問をするか考える。
といった具合でしょうか?
であれば、その準備は半分正解で、半分間違いであると言えます。
なぜならコーチングは、コーチングセッションを行う前から既に始まっているからです。
そう考えると、もっと前にやっておくべき事があるんですね。
・・・なんて言うと抽象的に聞こえますが、決して難しい話ではありません。
コーチングの準備として、まずやっておくべきことは以下の3つです。
- 敬意を持って接すると決める。
- 相手は変わると信じる。
- 自分も正直でいることを許す。
1.敬意を持って接すると決める。
まず、コーチングを行う相手がどんな立場であっても、敬意を持って接すると決めてください。
あなたが、心から尊敬する人と同じように接しましょう。
これは単なる「承認」ではありません。
コーチングの最中に「そうだね、その通りだね」とか「素晴らしい意見だね!」と言う必要もありません。(もちろん言っても良いのですが)
相手に対して、敬意を持っているかどうか?ただそれだけです。
2.相手は変わると信じる。
「どうせ、こいつは変わらないだろ」と思いながら、コーチングを行うことには全く意味がありません。
本当に変わらない場合を除き(具体的には後述の「コーチングの成果を底上げする秘訣」で説明します)目の前の相手は必ず良くなっていく、と信じましょう。
とは言え「必ず変えてやる!」なんて考える必要はありません。
むしろ、他人を変えることは絶対に不可能です。
あなたのコーチングが変化のきっかけになるかもしれませんし、あなたとは全く関係のない人との関わりの中で、変化を起こすかもしれません。
どんな出来事が起点になるかは分かりませんが、いずれにせよ「目の前の相手は良い方向へ変わっていく」と信じることです。
「私がきっかけじゃないのなら、私のコーチングは意味が無いじゃないか!」と思うかもしれませんが、そうではありません。
あなたの関わりは、相手にとって必ず何かしらの影響を与えているからです。
まずは「信じる!」と決めてください。
3.自分も正直でいることを許す。
極端な話、コーチングは質問をするだけで完結することができます。
「コーチは余計なことを言うべきではない。質問こそが本来のコーチングだ」とおっしゃる方もいるくらいです。
しかし、私は少しだけ考えが異なります。
なぜなら、コーチングはコミュニケーションであり「フィードバック」によって完成すると思うからです。
あなたからのフィードバック(反応)が、相手の思考や行動に影響を与えます。
もちろん、先の20の悪癖から生まれるようなフィードバックではありません。
ここでいうフィードバックは「あなたが素直に感じたことを伝えること」です。
相手の話に喜びを感じたのであれば「自分も嬉しい」と伝え、何か違和感を感じたのであれば「困惑している」と伝えることです。
「もっとこうした方が良いんじゃないか?」ではなく、あくまで壁打ち相手として、オープンな状態でいることが重要です。
以上を実践するだけで、コーチングの結果は変わります。
本を読んでコーチングについて学んだり、わざわざコーチングスクールに通って、資格を取得するようなことに比べたら、よほど簡単な準備ではないでしょうか?
コーチングの具体的な3ステップ
ではいよいよ、具体的なコーチングのやり方について解説します。
今回は「誰でもできること」を目的としていますので、シンプルに3ステップで解説します。
が、その前に1点だけ、知識として覚えておいてほしいことがあります。
それが「オートクライン」と呼ばれる効果についてです。
オートクラインとは医学用語なのですが、コーチングでは「話し手が自分の言葉を自分で聞きながら、勝手に気づきが促される効果」のことを指します。
このオートクラインが、コーチングにおいて「質問が重要」と言われる所以です。
つまり、コーチングの目的の1つは「相手が自ら話を進めることで思考が整理されたり、気づきを得るために、話しやすい環境をつくること」と言えます。
これまでお伝えした、悪癖の自覚や事前準備は、相手が話しやすい環境を作ることを目的としています。
その上で、以降の3ステップは「相手の気づきをより促進させること」を目的とします。
このオートクライン効果を念頭に置いて、次の3ステップを進めてみてください。
ステップ1.決まった質問をする
私がコーチングに関する指導を行う時、よく質問されるのが「相手に何を質問して良いかわからない」といったことです。
質問はとても奥深いものです。
どんな角度から質問を行うか?で、相手の思考に大きく影響を与えるからです。
ただし、今回はあまり深く考えず、事前にいくつかの質問パターンを準備しておきましょう。
<質問の具体例>
- 「この状況において、あなたにとって最も重要なことは何ですか?」
- 「あなたの理想的な成果はどのようなものですか?」
- 「この問題に対して、どのような解決策が考えられますか?」
- 「その答えを知っているのは誰だと思いますか?」
- 「過去に似たような状況に直面した時、あなたはどのように対処しましたか?」
- 「これから最初に取り組むべきことは何ですか?」
- 「実行に移すタイミングとして、ベストなのはいつだと思いますか?」
- 「この計画を実行する上で、どのような支援が必要ですか?」
- 「この経験から、あなたは何を学びましたか?」
- 「もしもう一度やり直すとしたら、何を変えますか?」
など。
もちろん相手の状況によって質問は変わりますが、これらはどんな場面でも使いやすい質問です。
特に最初のうちは、特別な質問をしよう!と頑張る必要はありません。
むしろ形式的な質問の方が、最終的に相手の思考と視野を大きく広げる可能性があります。
ステップ2.質問を続ける
ステップ1で、相手から何かしらの返答が返ってくると思いますので、それに対してまた質問を繰り返しましょう。
先の決まった質問から選んでも良いですし、相手の返答に合わせた質問をしても結構です。
この際のポイントは以下の3つです。
ポイント1.質問の「作りかた」も決めておく。
新たな質問を行う際には「質問の作り方」を知っておくと良いでしょう。
具体的には「何?誰?いつ?どうやって?」を軸に、質問を考えると作りやすいです。
ポイント2.質問をそのままにしない。
コーチングのやり取りで陥りがちなのは「相手が質問に答えないまま話が進むこと」です。
相手の気が向くままに話してもらうことも必要なのですが、質問から生まれるであろう気づきの確認も大切です。
返答が質問に対する答えになっていない場合は、もう一度同じ質問を繰り返すなど、1つの質問に対して丁寧に話を進める必要があります。
ちなみにケースによっては、本人が無意識で話題を変えようとしたり、曖昧な返答を繰り返すことがあります。
そういった場合は「答えることにどんな抵抗がありそうですか?」や「答えてしまうと、何が起こりそうですか?」といった質問をすることで、本人の無意識の領域にアプローチし、深い気づきを得られることがあります。
ポイント3.相手に興味を持つ
そして1番重要なのが、この「相手に興味を持つ」です。
相手に興味がない状態では、良い質問はできません。
- 相手はなぜそう答えたのか?
- いまこの瞬間にどう感じているのか?
- 何が相手をそうさせているのか?
- 変化する可能性があるとしたら、何がきっかけになりそうか?
といった視点を常に持って、相手に対する興味を示しながら進めると、自然に良い質問が生まれると思います。
そのために事前準備として「相手に敬意を示す」「相手が変わると信じる」ことが重要なわけです。
ステップ3.フィードバックを行う
最後にあなたが感じたことを、以下のようなイメージでフィードバックします。
- 〇〇の部分で弱々しさを感じた or とてもワクワクしているようだった。
- □□の話の時に、話しづらそうにしていたように見えたが、改めて伝えたいことはありますか?
- △△さんはこうやってやったら、うまくいったみたいだよ。(第三者の事例)
特に3つ目の「第三者の事例」は効果的で、かつ使いやすいと思います。
自分の話(主観)として「こうしたら良いよ」ではなく、あくまで第三者の話を用いることで、相手は客観的な視点から受け取ることが出来るからです。
しかしながら、もしこの段階で「話を聞いたら何だか腹が立ってきた」「余計なことを言ってしまいそう」といった気持ちが湧いてきたら、無理にフィードバックをする必要はありません。
その場合は「今回は時間を取ってくれてありがとう。気づいたことがあればまた教えてください」という、感謝の気持ちでセッションを完了するだけでOKです。
以上が、誰でもきるコーチングの3ステップでした。
これらのステップを意識するだけでも、かなりコーチング精度を上げることができますが、最後に「コーチングの成果を底上げする秘訣」をお伝えしておきましょう。
コーチングの成果を底上げする秘訣
ここまでの話をまとめると、以下の通りです。
- 自分の悪い癖を自覚する。
- コーチングの前に事前準備(敬意・信じる・オープンでいる)を行う。
- コーチングの3ステップ意識する。
その上で、コーチングの成果をさらに底上げする秘訣があります。
それは「コーチングが必要のない人には行わないこと」です。
これは具体的に言えば「自分に問題がないと思っている人」ですね。
どんなに優秀なコーチであっても「他人を変えることはできない」です。
いつか行動が変わるようなきっかけを与えることはできますが、最終的に自分を変えられるのは自分だけです。
そういった意味で「変わろうとしない人」「変化を求めていない人」に対して、コーチングを行なうことは得策ではありません。
この意見にあなたは「いや、そういう人にこそ、コーチングで気づきを促すべきなのでは?」と思うかもしれません。
しかし、これは決して諦めではなく「彼らにとって変化のタイミングが今ではないから」という意味です。
そういったケースでは、変化を彼らのタイミングに委ねることも、リーダーとして大事な決断になります。
まずは「変わりたいけど変われない」という方を、優先的にサポートすることで、コーチングの成果を底上げすることができるでしょう。
まとめ:コーチが必要のない世界
というわけで、今回は「難しい知識を使わずに、誰でもコーチングが出来る方法」をお伝えしましたが、いかがだったでしょうか?
私自身コーチとして活動していますが、最終的には「コーチが必要のない世界を作りたい」という思いがあります。
コーチに頼ることなく、またコーチングという言葉を使わずとも、誰もが当たり前に自分自身と他人をコーチングできるような、そんな環境を作ることができれば、今よりもっと良い社会になると考えているからです。
そのために、今回はなるべく専門用語を使わず、ハードルを下げたコーチングのやり方をお伝えしました。
あまり難しく考えずに、チャレンジして頂けたら嬉しい限りです。