今回は「自己肯定感が低い部下をサポートするための具体的な戦略やテクニック」を紹介します。
これにより、従業員個人の成長を促し、同時に職場全体の生産性と満足度を向上させることを目指します。
さて「自己肯定感」という言葉は、最近でこそ様々なメディアで聞くようになりましたが、いつ頃から使われるようになったのでしょうか?
Googleの検索トレンドが調査できる「Google Trends」を使って、過去10年における自己肯定感の検索数を調べたところ、以下のような結果が出ました。
検索数が伸び始めたのが2016年9月頃なので、自己肯定感が世間的に意識されてから、まだ10年も経っていないと言えます。
その後、コロナの影響なのか?2020年4月以降グッと伸びていることが分かりますね。
(私が自己肯定感を意識し始めたのは、組織内でマネジメントを行なっていた2013年頃なので、世間の流れと大きく変わらないのもまた興味深いです。)
自己肯定感とは、自分を肯定する力であり、自尊感情という言い方もします。
自己肯定感が高い従業員は、新しい課題に前向きに取り組み、チーム内のコミュニケーションを円滑に行う傾向があります。
一方、自己肯定感が低い従業員は、不確実性や失敗を恐れ、創造的なリスクを避けるでしょう。
これは、個人だけでなく、チームや組織全体の成果にも悪影響を及ぼす可能性があります。
今回はそんな自己肯定感について
- 自己肯定感が低い人の特徴
- 自己肯定感が低い部下との接し方
- 自己肯定感を上げる具体的な方法
などをお伝えします。
自己肯定感を高めることは、従業員が自分自身と職場に対して、肯定的な関係を築くための第一歩となるでしょう。
自己肯定感が低い部下の特徴
いわゆる自己肯定感が低い従業員を見極めたければ、自分を表現することを躊躇い、会議ではあまり発言をしない傾向がある人を探すのが早いと思います。
他にも、以下のような特徴があります。
- 自分の意見に自信を持てず、他人の意見に流されやすい。
- 決断を下す際にも躊躇し、たとえ簡単な決定であっても他人の意見を求めがち。
- 失敗を極度に恐れるため、リスクを取ることを避ける。
- 創造的なアイデアや新しいアプローチに対しても消極的な姿勢を示す。
彼らは、自己能力を過小評価し、自分が果たしている役割やプロジェクトの重要性を理解していないことが多いです。
これらの行動は、チームの意思決定プロセスに影響を及ぼし、組織全体の成果にも影響を与える可能性がありますよね。
ただし、こういった表現をすると「内向的な人=自己肯定感が低い人」と見られがちですが、決してそういうわけではありません。
パっと見は明るくて、時に威圧的で自信がありそうな人も、実は自己肯定感が低いことがよくあるからです。
確かに、内向性は自己肯定感の低さにつながりやすい要素ではありますが、内向的であっても自己肯定感の高い人はいくらでもいます。
上記の例はあくまで分かりやすい要素であり、見た目や雰囲気だけでは判断ができないことも理解しておくべきです。
自己肯定感の低さがビジネスに与える影響
自己肯定感の低さは、個人だけの問題ではなく、ビジネス全体にも大きな影響を及ぼします。
まず、自己肯定感が低い従業員はモチベーションが低下しやすいため、生産性の低下につながることがあります。
彼らの頭の中は「自分はいつも間違えてばかり」「自分は評価されるに値しない」「どうせ自分の代わりはいくらでもいる」といった、ネガティブな言葉で一杯です。
だからこそ、自分の能力や仕事に価値を見出せず、エネルギーと情熱を仕事に活かすことができません。
さらに、自己肯定感の低さはチーム内のコミュニケーションにも影響を及ぼします。
自己肯定感が低い人は、自分の意見やアイデアを積極的に共有しないため、チームの意思決定プロセスにおいて参加できず、チームワークや士気に悪影響を及ぼすことがあります。
このように、自己肯定感の低さは個人のパフォーマンスだけでなく、組織全体の成果にも影響を及ぼします。
自己肯定感が高い人は、そもそも自己肯定感という言葉にピンときません。
そのため「自己肯定感なんてのは言い訳だ!」と考えてしまう人も多いのですが、当事者本人にとっては「そう考えるしかない」という状況に陥っているのです。
そのため、経営陣やリーダーは「たかが自己肯定感・・・」と思わずに、従業員の自己肯定感を高めることに注力する必要があります。
小さな成功を祝うことの重要性
では、自己肯定感の低い部下と向き合うには、どうしたら良いでしょうか?
個人の自己肯定感を高める詳しい方法は後述しますが、まずはリーダーが部下の小さな成功を認識し、認めることが大切でしょう。
小さな成功を祝うことで、彼らは自分の努力が認められていると感じ、自信を持って次の課題に取り組むことができます。
成功を認め祝う際には、具体的で正直(かつポジティブ)なフィードバックを提供することが重要です。
特に自己肯定感が低い部下の場合、単に「良いね!」「すごいね!」と言われても、何がすごいのか?本人の思考と結びつかないため、伝わらないことがよくあります。
フィードバックを行う際には「あの仕事の〇〇の部分はとても良かった。おかげで□□のような結果につながった。」といったような、具体的なシチュエーションを交えると良いでしょう。
もし褒めることに抵抗があったら?
ちなみに「部下を褒めるのが苦手・・・」というリーダーは結構多いです。(私もその一人でした。)
その場合、リーダー本人も自己肯定感を高める必要があるかもしれません。
そういった方は、自分に対してストイックであることが多いので、まずはハードルを目一杯下げてください。
褒める基準を「期待以上のことが出来た時」ではなく「物事が少しでも前進した時」といったように、どんどんハードルを下げてみましょう。
また、最初は違和感があっても「よくやった、ありがとう!」を口癖にすることも大切です。
このように、小さな成功を祝う文化を職場に根付かせることで、チーム全体の士気と生産性を高めることができます。
信頼と期待を明確にする
小さな成功を祝うことができたら、次に意識したいのが「期待感」です。
自己肯定感の低い部下と接する時によくあるのは、相手に気を使いすぎて、何も言えなくなることです。
「こんなことを言ったら、またモチベーションを下げてしまうのではないだろうか?だったら、何も言わずにそっとしておこう・・・」といった具合ですね。
残念ながらこれは、自己肯定感が低い部下と向き合う上で最悪な方法と言えるでしょう。
明確な目標に対する期待は、従業員が自分の仕事に対する方向性を理解し、それに基づいて自主的に行動するための基盤提供です。
大切なのは単にプレッシャーを与えるのではなく、本人にとって「やればできるかも」と思えるような期待をかけることです。
その際には「必ずできる!(その回に出来なかったとしても、次の回にはできる!)」と相手を信じる信頼の心も必要です。
リーダーが従業員の判断や能力を信頼していることを伝えることで、部下は自分の存在が重要であると感じ、自己肯定感の向上につながるでしょう。
思慮深いフィードバックの提供
建設的なフィードバックの提供は、部下の成長と自己肯定感の向上に欠かせません。
良いフィードバックは、従業員が自己認識を深め、自分の強みと改善点を理解する機会を提供します。
フィードバックは具体的で、ポジティブな側面と、改善が必要な領域の両方をカバーするべきです。
例えば、以下のようなイメージです。
- プロジェクト管理能力に関して:「いつもプロジェクトの納期を守り、チームを効率的に率いてくれてありがとう。リスク管理の面では更に改善ができると思うので、次のプロジェクトではリスク評価をもっと早い段階で行ってみましょう。」
- プレゼンテーションスキルに関して:「あなたのプレゼンテーションはいつも情報が豊富で説得力があります。今後はもう少し聞き手との対話を増やすことで、より伝わりやすくなると思います。次回は質問を積極的に取り入れてみてください。」
- チームワークとコミュニケーションに関して:「チームメンバーとのコミュニケーションにおいて、あなたは常に明確で礼儀正しい態度を取っていますね。ただ、時にはもっと積極的に自分の意見を表明することも大切です。次のミーティングでは、自分のアイデアをもっと前面に出してみましょう。」
など。
フィードバックは、部下が自分自身をよりよく理解し、職務においてより効果的に行動するための指針となります。
これらがリーダーとして、自己肯定感の低い部下と向き合う方法です。
では続いて、本人が自己肯定感を高めていくために有効な方法についてお伝えします。
自己肯定感を高める具体的な方法
「自己肯定感を高める」と一言で言っても、そのためには具体的なプランが必要です。
以下に、実用的な10の方法を紹介します。
1.ポジティブな自己対話の促進
これが最も取り組みやすく、最も効果的な方法でしょう。
ポジティブな自己対話を行うには、自分の頭の中で使っている否定的な言葉を、肯定的な言葉に置き換えることが効果的です。
例えば「私は〇〇ができない」と思う代わりに「今が〇〇を学ぶチャンスだ」と考えることで、取り組む姿勢が変わります。
「そんな事では何も変わらなそう・・・」と思われるかもしれませんが、私たちの行動は、日々頭の中で繰り返されている言葉によって生み出されています。
このように自己肯定的な言葉を日々の思考に取り入れることで、確実に自己肯定感が高まり、ポジティブな行動変化が促されます。
2.成果を記録する
成果を記録することは、自己成長の可視化に役立ちます。
たとえば、毎日の業務での小さな達成を日記やアプリで記録することで、時間の経過と共に自分の進歩を明確に確認できます。
この習慣は、長期的な目標に向かうモチベーションを維持するのに役立ち、自己肯定感を高める効果があります。
日々の成果を認識することで、自分自身への理解を深め、確実な自信を得ることができるでしょう。
3.目標設定と達成の祝福
これは例えば、週に3回のジョギングを目標として設定し、それを達成したら好きなスイーツを食べるなど、小さなご褒美を自分に与える方法です。
ポイントは「目標を細分化し、達成のハードルを下げること」です。
ジョギングであれば、いきなり10km走る!ではなく、まずは1kmからスタートするなど、何があっても達成できるようなレベルから始めてみましょう。
このように具体的で達成可能な目標を設定し、達成した際に自分を祝福することで、自己肯定感が高まり、今後の挑戦意欲も増します。
4.スキルアップの機会をつくる
スキルアップの機会をつくることは、自信を高める重要な手段です。
例えば、最近であればAIを活用したデジタルマーケティングを学ぶなど、新たなスキルを身につけることで視野を広げ、自分の可能性を感じる良い機会となります。
スキルアップは個人の自信向上だけでなく、組織の生産性向上にも直接的な影響を与えます。
5.フィードバックの積極的な受け入れ
先ほど、リーダーから部下への明確なフィードバックについてお伝えしましたが、フィードバックされたことを素直に受け止めることも自己肯定感の向上には重要です。
多くの場合、自己肯定感が低い人は「嫌なフィードバックをされたらどうしよう」と、勝手に頭の中で不都合なイメージを膨らませます。
しかし、フィードバックを成長の機会として捉えることで、ポジティブなセルフイメージを構築することができます。
6.ストレス管理の技術の習得
ストレス管理の技術を習得することは、心の健康を保ち、ポジティブな状態を維持するために重要です。
例えば
- 毎朝10分間の瞑想を行う。
- 疲れた時に小休憩を入れるクセをつける。
- 散歩・読書・ドライブなど、気分をリフレッシュさせる方法はいくつも作っておく。
など、ストレス管理技術を身につけることで、どんな状況にもポジティブに対応できるようになります。
7.上司や経験豊富な人との関係構築
経験豊富な上司やメンターとの関係構築は、個人の成長と自己肯定感の向上に役立ちます。
例えば、新入社員がベテランの上司から定期的にサポートを受けることができれば、個人の成長は大きく加速します。
社内だけではなく、外部に信頼できるメンターを見つけても良いでしょう。
8.同僚とのコミュニケーションの強化
とある研究では「給料の額よりも、社内における友人の数が仕事に対する幸福度・充実度を上げる」ということが分かっています。
同僚との交流を深め、仕事に関する相談やアイデア共有を行うことは、自分自身の適正な評価を保つことに繋がります。
9.時間管理と優先順位の設定
あなたも経験があるかもしれませんが「予定していたことができなかった」という状態は、必要以上に自己評価を下げてしまいます。
基本的ではありますが、各タスクに期限を設定し、優先度に基づいて業務を進めることで、達成感を高める=自己肯定感を高めることに繋がっていきます。
仮に、不意のトラブルでスケジュール通りにいかなかったとしても「今日できたこと」にフォーカスすることで、健全に自己評価を行うことができるでしょう。
10.自分の長所と短所を認め、受け入れる
自己肯定感の低い人には、意外に「完璧主義」な人も多いです。(完璧にできない自分には、価値がないと思っているため)
しかし、高過ぎる基準を自らに設定すると、現実とのギャップから自分に対する評価を大きく下げることになります。
これを避けるためには、自分の長所と短所を認めることです。
まずは自分の短所に対して、必要以上の期待感を持つことをやめましょう。
その代わり、長所に対しては今以上に期待をすることで、結果のバランスを取ることができます。
以上が、自己肯定感を高める10の方法でした。
まとめ:自己肯定感を高める職場環境の構築
今回は「自己肯定感の低い部下をサポートする方法」についてお伝えさせて頂きました。
組織が自己肯定感を高める職場環境を構築するためには、ポジティブで支援的な文化を育むことが不可欠です。
これには、リーダーとして
- 部下の小さな成功を認識し祝福する。
- オープンで正直なコミュニケーションを促進する。
- 部下の個人的な成長を支援する。
といったことが必要となります。
ただし、現場がどれだけ課題に対する認識を持っているか?によって、その効能は大きく変わります。
特に、自己肯定感のような目に見えないものを改善する場合は、結果を焦ることなく、組織全体で取り組んで頂きたいと切に願います。
是非、あなたの職場でも自己肯定感に注目して、人材育成を進めてみてください。