とあるリーダーの事例から分かるキャリアパスの“正しい”考え方

今回は実際にあった事例をもとに「正しいキャリアパスの考え方」について解説します。方向性に迷っている方は、是非続きをお読み下さい。

とあるリーダーの事例から分かるキャリアパスの”正しい”考え方

「俺はこの役職を降りる事にしたよ」

これは昔、私の同僚でそれまで苦楽を共にしてきたFさんが、リーダー役から降りる事を決意した時の言葉です。

とは言っても、Fさんは会社を辞めたわけではありません。

実はあることを機に、Fさんは自分なりのキャリアパスを描き始めたのです。

今回はそんな昔の同僚の事例をお伝えしながら「キャリアパスの考え方」について掘り下げます。

もしあなたが

  • 職場で進むべき方向性に迷っている
  • キャリアパスの考え方がわからない
  • いま与えられている役割が自分に合っているか分からない

と感じていたら、今回のFさんの事例が参考になるかもしれません。

夏の組織と冬のFさん

夏の組織と冬のFさん

私がいた会社は、当時で言うところの東証一部上場を果たしていましたが、まだ創業10年も立たない若い会社でした。

組織の成長には春夏秋冬のように一定の流れがあり、部署やチームはもちろん、そこに関わる人それぞれにも独自の流れがあります。

そういった意味で、その会社はまるで「春〜夏」へと移り変わるような、とても勢いのある時期にいたと言えます。

組織全体が勢いに乗って急成長している時期であり、全国あちこちにドンドン新店舗が作られていました。

このような時期においては、必然的に活気があって明るいタイプが活躍しやすくなります。

ここで、冒頭のFさんに話を戻しましょう。

Fさんは別の支店で、私と同じくチームマネジメントを任されていた方です。

そんなFさんは

  • 行動する前にまず状況を分析する。
  • 基本的に根拠や確信がなければ行動を起こさない。
  • コミュニケーションよりも効率を重視する。

といったタイプでした。

これは春夏秋冬における「冬」の特性であり、組織においては改善や効率化によって利益を伸ばす時期(これから春を迎える前の冬眠の時期)に活躍しやすい特性と言えます。

つまり、その時の組織全体の流れ(夏)とは真逆の特性を持っていたのです。

時として熟考せずに突き進んでしまうチームには必要な存在なのですが、急ピッチで成長しているような組織においては、望まれないブレーキ役になってしまう事も多いのです。

Fさんの周りからの評価

そんなFさんに対する周りからの評価は「行動力が乏しく決断力のないリーダー」でした。

「確信が無いと動かない」という特性は、勢いのあるチームとの衝突を生み出します。

部下からアドバイスを求められると、チベーションを上げるような言葉ではなく、理論的な言葉ばかりで感情を伝えることができません。

チームが「さあやるぞ!」と活気に溢れている中でも、Fさんはなかなか動こうとしません。

その割に細かなところまで目が向くので、部下に対する指摘はとても細かい(笑)

「あの人は自分が動かないくせに、他人に対しては口うるさい」

Fさんに対して、そんな反感の声が大きくなる事も止むを得ない状況でした。

しかし、私は日々の業務を通じて、Fさんの良いところも沢山知っていました。

普段から部下に言えないような話も共有していたため、余計に理解しあえる部分もありましたが、それ以上にFさんの仕事に対する知識の豊富さ、数値管理の緻密さに対してはいつも尊敬するばかりでした。

水を得た魚のごとく

そんなある日のこと、組織の成長に合わせて私のチームも生産性向上を図ろうと、現場の基幹システムを一新することが決まりました。

このプロジェクトには、莫大な予算がかかっているため失敗は許されません。

その結果、私とFさんは現場を離れ、半年間ほどプロジェクトに付きっきりになります。

1日中パソコンの前に座り、細かなデータを確認しながら、同時にゼロからマニュアルを構築しなければならないこの作業は、私にとって地獄の日々でした・・・。

そんな地獄の日々において、物理的にも精神的にも支えてくれたのがFさんだったのです。

Fさんは私の目が届かないような部分まで目を通し、いつの間にか作業を終わらせてくれていた・・・なんて事も度々ありました。

私からすると「なぜそんな細かな作業が平気でできるんだろう?」と感じていましたが、Fさんにとっては当たり前で、むしろ充実した時間だと感じていたようです。

組織全体の流れの中では評価されづらいFさんが、1つのプロジェクトの中に、自分に合った流れを見出した瞬間だったのでしょう。

結果としてプロジェクトは無事に完了し、運営にも差障りなくシステム移行を行うことができたのですが、これはFさんの存在がなければ絶対になし得ない事でした。

思い切ったフィードバック

そんな背景もあり、私は次第に「Fさんが正当に評価されていない現状を、何とかして変えなければならない!」と勝手に感じるようになりました。

私は今でこそコーチングを生業としていますが、当時は知識もスキルも全くありません。

そんな状態で、無謀にもFさんに感じることをフィードバックすることにしました。

どんな時にFさんを頼りに感じるか?逆にどんな時に不誠実さを感じるか?などを本人に伝えましたが、今となって考えれば、かなり思い切ったことを行っていたと思います。

そんな私の言葉にFさんも戸惑っていたようで、最初はなかなか受け取ってもらえないように感じましたが、時間をかけて接していくことで徐々に変化が現れました。

するとそれから数ヶ月後のこと、Fさん直属の部下が「最近Fさんがしっかりと話を聞いてくれるようになったんです!」と、私に報告しに来てくれたんです。

少しずつではありますが、それまでのFさんには見られなかった行動が垣間見られ、周りのFさんに対する評価が変わっていくのを感じました。

「これでFさんが正当に評価される!」と思ったら私はとても嬉しくなり、ホッと安心しました。

そして更に数ヶ月が経ったある日、Fさんが僕に伝えてくれたのは・・・

「俺は今の役職を降りる事にしたよ。人を管理して分かったけど、俺はやっぱ現場が好きなんだよね。細かな作業を黙々とこなしている方が性に合ってるみたい。」

でした。

正直、私は一瞬だけ頭が「?」になりました。

「これからリーダーとして頑張って行くよ!」の流れじゃないんかい!とツッコミを入れそうになりましたが、私はすぐに納得がいきました。

丁度この頃、会社内では「マネージャー」と「プレーヤー」といった、明確なキャリアパスが整備され始めた頃だったからです。

Fさんは上司との面談を経て、現場のプロフェッショナルとして「別角度から自分らしく活躍できるコースを選んだ」ということですね。

少し長くなりましたが、これがFさんとのストーリーです。

Fさんは周りからの評価、自分の情熱のある分野、私からの少し強引なフィードバックなどを経て、最終的にプレーヤーとしての道のりを選びました。

では、あなたは自分のキャリアパスについて、いまどのように考えていますか?

その考え方のヒントを、Fさんは教えてくれた気がします。

なぜキャリアパスが重要なのか?

なぜキャリアパスが重要なのか?

そもそもキャリアパスとは、個々の仕事における方向性と成長の道のりです。(基本的には、会社が提示したものをキャリアパス、自分の理想を提示したものをキャリアプランとして分けています)

これは単に仕事の結果だけでなく、個人の満足度、モチベーション、そして自分自身のライフスタイルに直接影響を与えます。

Fさんの事例を見ても、キャリアパスと向きうことが大切だと分かりますが、改めてその重要性を整理しておきましょう。

1.目標の明確化

明確なキャリアパスは、仕事において「この選択が正しいのかどうか?」というチェックリストの機能を果たします。

これにより、目指すべき具体的な目標や、目標達成のためのステップをクリアに保つことができるでしょう。

2.充実感

自分に合ったキャリアパスを選択することで、仕事における満足感と充実感が高まります。

アメリカの心理学者エドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏が提唱した「自己決定理論」によると、人は自己決定の度合いが高くなるほど、よりモチベーションが高まり、自発的に行動するようになると言われています。

つまり、キャリアパスを通じて自分の選択を示すことで、その道のりに対する興味関心や成長意欲が増すということです。

これは、結果的に個人の幸福度にも影響するでしょう。

3.将来の不安の軽減

また、長期的なキャリア計画を持つことは、将来に対する不安を減らします。

Fさんの事例からもわかるように、自分に合ったキャリアパスを選択すると、仕事の効率だけでなく、明確な意図のある決断が可能になります。(実際、役職を降りると決めたFさんの表情はとても明るく頼もしさを感じました)

彼の決断は、自身の強みを活かし、仕事における満足感を高める選択だったはずです。

このように、キャリアパスは単なる役職選択ではなく、個人の生産性・決断力・やりがい・幸福などと密接に関連しています。

では、Fさんのように自分らしいキャリアパスを描くには具体的にどうしたら良いのでしょうか?

その1つの答えが「徹底した自己分析」です。

自己分析の重要性

自己分析の重要性

ここでいう自己分析とは、自分自身の強み、弱み、興味、価値観の理解を意味します。

私はコーチングクライアントに「毎日5分の自己分析」をオススメしているのですが、これは最近のAIやリスキリング界隈でもよく聞くようになった「メタ認知」を促すためです。

メタ認知(メタにんち、英:Metacognition)とは、「メタ(高次の)」という言葉が指すように、自己の認知のあり方に対して、それをさらに認知することである。引用:Wikipedia

自己分析とは、まさにメタ認知を鍛える作業であり、メタ認知を鍛えることで、キャリアパスにおける自身の方向性、必要なスキル、起こりうるメリット・デメリットなどを俯瞰することが出来るようになります。

Fさんが、どれだけ自己分析を意図的に行ったか?は分かりません。

しかし、彼はいくつかの適性が異なる仕事や、周りからの評価などを通じて、結果的に自分の強みと情熱がどのような環境や役割に適しているか?を理解したはずです。

今回は自己分析を行う上で、指標となる項目をいくつか挙げておきます。

<強みと弱み>

自己分析を行う時は、まず自分の「強み・得意なこと」から分析することを強くオススメします。

好きなこと、価値観は抽象度が高く、人によってパッと見つからない事も多いためです。

また、自己分析に慣れていない人が「弱み」から入ると、どうしてもネガティブな方へ意識が向いて、気分が落ち込むことがよくあります。

仕事での評価、タスクの完了スピードや質、周りの反応から、まずは強みから分析を始めると、自信を持ってキャリア開発に臨めるでしょう。

ある程度強みが分かったら、その上で弱みにも目を向けておいてください。

分析にかける程度のイメージは「強み7:弱み3」ほどの割合で良いでしょう。

ちなみに、Fさんの場合は「分析力と計画性」が強みであることを認識し、これを活かす役割を選択したと言えます。

<情熱と興味>

強みと弱みが分かったら、次に「何に対して情熱を感じるか?」を分析します。

多くの場合、情熱と聞くと「寝る暇も惜しんで夢中になること」をイメージしがちですが、ここでは「興味のあること」でも結構です。

仕事の中で、他の業務より興味のあること、人との会話が盛り上がるテーマ、少しリサーチに熱が入る分野などを探してみてください。

Fさんの場合は「現場での仕事(細かな業務の遂行・改善とそれに伴う情報集めなど)」が情熱にあたります。

情熱を感じる分野での仕事は、モチベーションの維持や仕事の満足度を高めてくれます。

<価値観>

情熱は、好きなことです。

それに対して価値観は「信念」であり、自分が信じているポジティブなものと言えます。

実は、私たちがいま住んでいる場所も、仕事も、仕事のやり方も、使っているガジェットも、全て価値観から生み出されているのですが、そこに気づいている人はあまり多くありません。

自分の価値観を知る方法はいくつかありますが、最も簡単な方法としては「身の回りにあるものの共通点」を探すことです。

試しに、仕事のデスク周りに置いてあるものや、パソコンのデスクトップに固定しているものを眺めてみてください。

そこには優先している何か、があるはずです。

→価値観についてはこちらも併せてお読みください。

個人の価値観と一致するキャリアパスを選択することで、職業生活における意義と満足感を高めることができます。

Fさんの場合は「自分の空間や時間」に重きを置き「自分が手足を動かすことで仕事がうまく行く」という信念があったように思います。

その結果、より実務にフォーカスした役割を選ぶことで、自身のキャリアに新たな意味を見出しました。

以上がキャリアパスを描くための、自己分析の方法です。

まとめ:Fさんが教えてくれた大切なこと

まとめ:Fさんが教えてくれた大切なこと

今日、私がコーチングを通じて人材育成を行う中で、Fさんは私に大切なことを教えてくれました。

それが「キャリアパスは組織全体の流れと、自分独自の流れが重なった部分に見えてくるものである」ということです。

キャリアパスは決して、企業が一方的に提示した単なる職務条件ではありません。

役職名や給与形態だけに目を向けてしまうと、無機質なロードマップのように見えてしまいますが、実はその中に自分だけが通れる独自のルートが隠れている・・・と私は考えています。

そう考えるとキャリアパスを通じて、今はまだ見えていない道のりを模索する、一種の冒険のような感覚が得られるかもしれません。(冒険が好きでなければ「あなたが最も得する道」でも結構です)

Fさんは、自分に合わないリーダー役から離れ、自分の強みを活かせるプレーヤーとしての道を選びました。

これは、自分自身の幸福と成功のために重要な決断でした。

もしあなたも「自分のキャリアパスを見つけたい!」と思ったら、今回のFさんの事例を参考に、まずは自己分析から始めてみてください。

自分自身の強み、弱み、興味、価値観を理解し、それに基づいて目標を設定し、行動計画を立てることが必要です。

Fさんのように、時には役割を変え、新たな挑戦を受け入れる勇気も大切ですね。

最適なキャリアパスを見つけることは、仕事だけでなく人生全体の充実につながります。

自分自身の可能性を最大限に活かし、満足のいく仕事を行うための第一歩を踏み出しましょう!

Who is writing

岩下 知史(いわした ともふみ)

職業:メンタル&ビジネスコーチ、ライター。

クライアントは経営者、会社役員、ドクター、看護師、個人事業主〜主婦まで多岐に渡る。

大学卒業後は主にホテル業界に従事、東証一部上場企業にてチームマネジメントに携わり20名ほどの部下を抱える。

離職率の高いホテル業界で、人材教育へのプレッシャーから躁鬱病を経験するも、それまで一度も予算達成したことがなかったチームを常勝チームへと成長させる。

その後2015年に独立、様々な成功と失敗体験を積む中で「教育」に情熱があることを再認識し、経験・人脈ほぼゼロの状態から、コーチング、ライティング、Webマーケティング、研修講師業などを通じて本格的に人材教育業界へ。

2020年からは世界で100万人が活用しており、MicrosoftやIBMといった有名企業に人材育成ツールとして導入されている「ウェルスダイナミクス」において、専属のメルマガライター兼・日本に3人しかいない公認トレーナーを務める。

その間は1,000人以上のビジネスパーソン、有資格者の指導にあたり、2022年にトレーナーを卒業〜現在に至る。

人生のミッションは「自ら思考・選択・行動できる人材を育てること」、趣味はギターと筋トレ、心理や精神世界に関する読書、娘と遊ぶこと。