シリーズ「ビジネスエゴグラム」~エゴグラムから見えるコミュニケーションの特徴~
シリーズ「ビジネスエゴグラム」。シリーズ3回目は、エゴグラムから見えるコミュニケーションの特徴について注目していきます。

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長い歴史と確かな実績を持ち、ビジネスの現場に活用する企業も増えてきている性格分析手法の「エゴグラム」について詳しくご紹介していくシリーズ「ビジネスエゴグラム」。
シリーズ3回目は、エゴグラムから見えるコミュニケーションの特徴について注目していきます。
エゴグラムとコミュニケーションの密接な関係
性格診断テストによって自我の状態を5つのタイプに分類し、それを図表化する「エゴグラム」。
その誕生のきっかけは「異なる自我を持つ人同士の交流(コミュニケーション)の分析」に着目し、アメリカの精神科医エリック・バーンが提唱した「交流分析(TA Transactional Analysis)」といわれる心理療法でした。
それぞれが持つ自我の違いを定量化して明確にすべく、バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが考案したのがエゴグラムなのです。
そのため交流分析の理論においては、エゴグラムで分かる自我とコミュニケーションとの密接な関係が説かれています。
次の章では、エゴグラムが生まれる元となった「交流分析」についてもう少し深掘りしてご紹介しましょう。
またこのシリーズはご自身のエゴグラムを知ることでより分かりやすく、そしてこれからの生き方に役立つ内容となっています。
気になった方は、弊社経営人事パートナーズで開設している無料のエゴグラム診断サイトでぜひ一度エゴグラムをチェックしてみてください。
エゴグラムが生まれる元となった「交流分析」とは
エリック・バーンがアメリカで「交流分析(TA Transactional Analysis)」を創案したのは、1950年代のことです。
日本では1970年代に九州大学心療内科のメンバーがアメリカから理論を持ち帰り、より日本人にマッチした考え方を加味するといった努力が重ねられてきました。
交流分析は他の精神分析方法とは異なる特徴が何点かあります。
最も大きな特徴は、自分自身の内面と同じくらいに人と人との交流(コミュニケーション)に焦点を当てていること。
これについて後ほどさらに詳しくご紹介しましょう。
2つ目は難解な専門用語を用いず、解説も記号や図式を用いて表現されるということです。
3つ目は「今、ここ」という点を最も重視する点。
他の精神分析においては、その多くで本人の過去に焦点を当てて分析することが重視されます。
対して交流分析で重視するのは現時点、「今、ここ」での自我状態やコミュニケーションです。
これらの特徴によって交流分析は多くの人が理解しやすい精神分析方法として、精神医学の世界のみならずビジネスシーンや学校教育、社会福祉など幅広い分野で活用されています。
続いては交流分析におけるコミュニケーションの見方の中でも、特徴的な考え方についてご紹介しましょう。
交流分析におけるコミュニケーションの見方1:構造分析
特徴的な考え方の一つ目は「構造分析」です。
交流分析においては、私たちの心は親・大人・子供の3つの「自我状態」(自分のあり方)に分かれた構造とされています。
そして人それぞれの心の特徴を、自我状態の構造を分析するという形で把握しようというのが構造分析です。
例えば約束の時間に待ち合わせをしていた相手が遅刻してきた時、あなたならどのような反応をされるでしょうか。
①遅刻してきた相手に対する批判的な気持ち
②急いでやってきた相手を思いやる気持ち
③遅刻の原因や相手の過去の振る舞いを分析したい気持ち
④相手が来てくれたことを素直に喜ぶ気持ち
⑤相手に腹は立つが、我が身を振り返ると怒ることもできないと抑制する気持ち
このような気持ちのいずれかを持たれるのではないかと思います。
また、これらのうち複数の気持ちが入り乱れるという方も多いかもしれません。
構造分析においては、先に挙げたような反応はそれぞれ以下のような自我状態に基づく反応と考えられています。
【親(P)の自我状態】
①遅刻してきた相手に対する批判的な気持ち→CP(批判的な親)
②急いでやってきた相手を思いやる気持ち→NP(保護的な親)
【大人(A)の自我状態】
③遅刻の原因や相手の過去の振る舞いを分析したい気持ち→A(大人)
【子供(C)の自我状態】
④相手が来てくれたことを素直に喜ぶ気持ち→FC(自由な子供)
⑤相手に腹は立つが、我が身を振り返ると怒ることもできないと抑制する気持ち→AC(順応する子供)
そして、様々な出来事における各反応の強弱が、各自の自我状態の特徴の表れという訳です。
なおエゴグラムにおいては、それぞれの自我状態はP・A・Cの3つからさらに細分化されたCP・NP・A・FC・ACの5項目の数値によって示されます。
交流分析におけるコミュニケーションの見方2:ストローク
特徴的な考え方の二つ目は「ストローク」です。
英語で「ストローク」とは、「打つこと・一撃、なでる」といった意味合いがあります。
水泳で水をかく動作や、ゴルフやテニスでボールを打つ動作を指す言葉として聞き覚えがある方もいらっしゃるでしょう。
まとめると、「外部からの動きによって与えられる刺激」に関する言葉です。
交流分析ではこの意味から派生して、「相手の存在や価値を認める言動や働きかけの事」をストロークと定義しています。
そしてストロークは、「人間が生きていくために必要な心の栄養」と考えられているのです。
ストロークには
・相手を認めることで喜ばせ、温かい気持ちにさせる「肯定的ストローク」
・反対に相手を叱るなどして不愉快な気持ちにさせる「否定的ストローク」
の2種類があるとされています。
「肯定的ストローク」の具体例としては、相手をなでる、さする、握手する、抱擁するといった動作。
さらには、ほめる、励ます、微笑む、うなずく、あいさつをするといった言動が挙げられます。
対する否定的ストロークには、叩くといった動作や、叱る、怒るといった行いが含まれます。
そして交流分析で否定的ストローク以上に悪質なものとされているのが、相手の存在を低く見たり、無視したりするような振る舞いです。
実例としては殴る、蹴るといった暴力。また、嫌味を言う、けなす、無視、仲間外れといったものが含まれます。
いじめやパワハラのようなこれらの行為は「ディスカウント(値引き)」と呼ばれ、交流分析においても人として戒めなければいけないとされているのです。
交流分析におけるコミュニケーションの見方3:基本的構え
特徴的な考え方の三つ目は「基本的構え」です。
これは学校に入るころまでに身につけるとされている、自分自身と他人についての感じ方に関するものです。
生まれたばかりの子供は1人では生きていく事はできず、非常に不安な状態にあります。
そこで、母親の愛情やふれあいが必ず必要です。
その時に母親からの愛情が与えられると、「大事にされている自分は、大切な存在に違いない。私はOKなのだ」という自分自身への信頼が生まれます。
そしてその後、母親のみならず父親などからも適切な育て方をされることで自分自身への信頼は増し、さらには「他者や自分を取り巻く世界も、きっとOKに違いない」と感じるようになります。
ところが、母親の愛情やふれあいが必要な時に不適切な反応や拒否的な態度をとられると、「自分は大切な存在ではない。私はOKではないのだ」という考えが芽生え、自分への信頼を持つことができません。
さらには周囲から不適切な育て方をされたりすると、「他者や自分を取り巻く世界も、OKではない」という考えを持つようになってしまいます。
こうして「自己と他者それぞれの、OKかOKではないか」が作る4つの組み合わせのいずれかを、基本的な構えとして身につけるとされているのです。
ちなみに人間の脳が発達する基礎工事は、おおむね3歳くらいまでには終わるとされています。
したがって、この基本的な構えが身に付くもととなるP・A・Cの3つの自我状態が備わる基礎工事も、同じく3歳ころまでには終わります。
正に「三つ子の魂百まで」という訳です。
ここからは4つの基本的な構えそれぞれの特色について、もう少し詳しくご紹介しましょう。
●私はOKではない・他人はOK
この構えをとる人は自分に劣等感があり消極的な態度をとってしまうため、自分はOKであると自認する人々と共にいる事を苦痛に感じてしまいます。
そのため、なかなか親密な関係を作ることができません。
結果として人間関係で孤立し、憂うつになったり、後悔したりすることが多くあります。
その他の行動パターンとしては、
・他人を挑発して不愉快な気持ちにすることで、相手に自分はOKでない事を確認させる
・頼りになる人の指示通りに動き、忠誠を尽くす
といったことがあります。
エゴグラムはNPとACが高い一方でCPとFCが低い、N型となるのが典型です。
「私はOKではない・他人はOK」のエゴグラムパターン
自分を抑えてでも他者との関係をよくしようというNPとACの機能が表れているためで、内部に気持ちの矛盾が溜まりやすくなります。
●私はOK・他人はOKでない
この構えの特色は、自分とソリのあわない人は排除しようという傾向がある事です。
他人は自分のために動くものという考えがあり、長年の友人や自分に尽くした部下であっても自分の不利益になると見るや平気で切り捨てることができます。
その他の行動パターン例では、
・相手をOKでないと見なして、押しつけがましく援助する
・身内など親しい関係の人に対して無知だとあざ笑ったり、欠点を取り上げたりする
・自分に都合が悪い事が起こると、他人に責任転嫁する
などがあります。
エゴグラムはCPとFCが高くNPとACが低い、逆N型になりやすい傾向です。
「私はOK・他人はOKでない」のエゴグラムパターン
他人を批判し自分をアピールしようとするCPとFCの働きが際立つためであり、周囲との摩擦を生みかねません。
●私はOKでない・他人もOKでない
人生は無価値で何も良い事は無いと感じる、絶望的で虚無的な構えです。
この構えをとる人は他人が与えようとする愛情や注目を拒否します。
そして自分の殻に閉じこもり、他人と交流することを止めてしまうのです。
本来、生まれて間もない時に親子の間で形成されるべき基本的な信頼関係が築かれなかった場合、このような構えとなってしまいます。
行動パターンとしては、
・愛を求める欲求が特に強いため、相手が自分を愛してくれることをいつも確認しないと安心できない
・正しく人を愛するすべを身につけていないため、むしろ相手の拒絶を招くことを行ってしまう
といったことがあります。
典型的なエゴグラムはNPを底としてACへ上っていく谷型。
「私はOKでない・他人もOKでない」のエゴグラムパターン
P・A・Cの3つの自我で見た場合はPやAの機能が低い反面、Cの機能が比較的高いのが特徴です。
NPが低いため周りとの温かい交流がもちにくく、また自分を肯定できない自我がACの高さに結び付いています。
●私はOK・他人もOK
人間同士の共感による血の通った交流ができる、理想的な構えです。
また自分の利益のために他人を支配し利用するといった人間関係ではなく、親密でありながらも互いに相手への配慮を行う間柄を作ることができます。
エゴグラムの代表例はNPを頂点にACへと緩やかに下っていく山型で、PやAの機能が高いのが特徴です。
「私はOK・他人もOK」のエゴグラムパターン
他人との心の通う交流を行うことができる上、ある程度のFCの高さもあるため自分を適切に表現することができる自我状態と言えるでしょう。
エゴグラムで「私はOK、他人もOK」と思える自分へ
シリーズ3回目となる今回は、エゴグラムと交流分析、コミュニケーションの関係についてご紹介してきました。
4つの基本的構えの中で理想的とご紹介した「私はOKである・他人もOKである」という構え方。
実は親からの躾や愛情だけでこの構え方を備えられるケースは稀であり、身につけるには個人が様々な方法で自己を訓練することが必要だとされています。
言い換えれば、いつからであろうとも「私はOK、他人もOK」と思える自分になることができるということです。
そのためにまず必要なのは、自分のエゴグラムを把握する事。
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今回の記事を読んでよりよい人間関係の構築のためにエゴグラムの導入を検討したいという際は、ぜひお気軽にご相談ください。
※参考資料
中村和子ら著「わかりやすい交流分析」第二版,チーム医療,2007年
杉戴作ら著「交流分析入門」第二版,チーム医療,2007年