そのエントリーシートは、もう限界かもしれない【前編】学生の悩みと統計データから、システムエラーを紐解く
新卒一括採用の代名詞ともいえる、エントリーシート。本当に有効なのか、あたりまえを疑ってみると、さまざまなエラーがみえてきました。
成果の上がらない新卒一括採用の謎
日本の新卒一括採用の就職活動は、世界からみても特殊です。
企業インターンシップ、説明会、エントリーシート(以下ES)から最終面接まで、毎年、企業も学生も駆け抜けます。
そして、デジタル化・オンライン化など時代の変化はあるものの、学生の就職活動の中身そのものは、もう20年以上も大きく変わっていません。
むしろ、就活サイトの充実したコンテンツや、SNSでのリアルな口コミ、大学キャリアセンターや新卒エージェントの手厚いフォローなど、今の就活生は、あらゆる情報とサポート体制が揃っています。
これだけ整っていたら、企業と学生のマッチングの精度が上がり、自社で活躍できる人材を獲得でき、結果的に企業全体の生産性も上がるはず。
しかし、蓋をあけてみると、採用活動は一部の企業に応募が集中し、大手・大企業は質の面で、中小企業は量の面で、それぞれ母集団形成がうまくいっていないのが毎年の印象です。
そして、離職率は3年で約30%。これが事実です。
なぜでしょうか。企業も学生も決して怠けているわけではなく、むしろ日本人は世界的にみても、よく働きます。
ということは、現在の就職活動・採用活動の仕組み自体に、エラーがあるのかもしれない。
一度、今までの“あたりまえ”を疑ってみることはアリかもしれません。
今回の記事は、特に「量的な母集団形成の課題解決」「選考プロセスと評価指標のブラッシュアップ」「入社後の人材育成」の領域を担当されている人事のみなさん、そして就活支援側のみなさんと一緒に考えていきたい内容です。
エントリーシートがしんどい学生のリアル
現状把握のために、まずは、現在の就職活動において、多くの学生が難しさを感じているポイントについてみていきたいと思います。
結論から言うと、「自分と企業を結び付ける」ことです。
具体的には、「企業研究の情報と自分の強みをつなげたESを作成する」プロセスです。
このプロセスについては後述するとして、自己理解のための自己分析よりも、仕事理解のための企業研究の方が、圧倒的に苦戦します。
そして、自分に適した仕事が分からない、自分のやりたい仕事がみつからない、ESが書けない、という悩みにつながっていきます。
学生調査によると、
就活生の悩みの断トツ1位は「自分に適している企業はどこか」わからないことで、多くの就活生が就活序盤での企業選びに苦労している
という調査結果が出ています。
なぜでしょうか。
考えられることとして、まず就職活動が始まるまで、社会や仕事について自分で調べる学生がほとんどいないからです。
そして、まだ自分が経験していない未知のことを、少ない判断材料の中から、あの短期間で選択しなければならないからです。
少し話が逸れますが、私たちは、社会の仕組みやお金の流れ、仕事の種類や内容について、現在の義務教育や高等教育では、一部例外を除いてほとんど学ぶ機会がありません。
自ら情報を得ていかない限りは、日本社会の全体像が把握できない教育構造になっていることも、根本原因のひとつではないでしょうか。
グローバルな視点からみても、日本人全体の課題かもしれません。
今この記事を読んでくださっている人事のみなさんも、入社してからようやく、社会全体に対して、自分の属する業界や職種の位置関係、実際の仕事内容、自社が提供できる付加価値が見えてきた人も多いのではないでしょうか。
30代40代でも、さまざまな業界・職種に転職しないかぎり、他業界の仕事はよく理解できていないというのが一般的だと思います。
本題に戻りましょう。そのような基礎知識がない状態で、一斉に就活が始まります。
筆者はこれまで、キャリアコンサルタントとして大学生の就職支援をしてきましたが、ESの中で多くの学生が最後まで悩み、空欄で残しがちなのは、「志望動機」です。
リクナビが提供するOpenESを採用している企業では、志望動機を書かずに済むケースもありますが、最後の追加質問の項目で設定されていたり、結局は選考初期の段階で志望動機が必要な場面が出てきたりします。
特に、文系の学生が、どれも同じような志望動機になるのは、就活あるあるです。
理系の学生でも、自分の原体験や大学での研究分野、企業のサービスや商品から影響を受けた出来事などが、そのまま動機に直結し、目的を明確に書ける学生を除き、全体的に苦戦する傾向にありました。
これは、過去に筆者が就活支援でやってきたことの自戒を込めた記事にもなるのですが、そこには、就活生が陥りやすいワナが潜んでいます。
「業界には興味があるが、この企業だからこその魅力がわからない」
「サービスの内容で、競合他社と差別化している部分がわからない」
「面接で、他社でも実現できるのではと突っ込まれたときに切り返せない」
このような悩みをもつ学生が多いです。
企業研究をして企業のサービスの付加価値や方向性を理解するのは、素晴らしいことです。
しかし、企業視点の選考を意識するあまり、正直そこまで理解が進んでいない企業の魅力と、自分の強みを無理やりこじつける文章を書くために、エントリーの時点から、貴重な就活の時間を費やしているケースが多くみられます。
学生がESを完成させるためには、作業時間だけで少なくとも1社あたり1~2時間程度かかり、設問が多い企業や志望度の高い企業だと、考える時間も含めて数日かかることもあります。
ESの提出期限は日程が重なることも多いため、数週間は夜遅くまでESにかかりきりになる学生もいます。
歴史が生み出した 志望動機の”カタチ”
なぜ、このカタチができたのか。流れを振り返りましょう。
・履歴書による学歴採用が一般的な時代が続く
・1991年 はじめて大手企業が人物重視の採用を目的にESを取り入れる
・履歴書よりも学生の個性を引き出せるため、急速に普及する
・同時に、就活はオープンであるべきだという動きが広まり、学歴不問採用がはじまる
・大手企業や人気企業に応募が集中し、ESがスクリーニングの役割に変わっていく
・基本の質問項目に、自己PR・ガクチカ・志望動機の3点セットが定着する
・ESの回答から深堀する、企業視点での非構造化面接スタイルが確立
・各企業で実施された面接の口コミやデータをもとに、就活対策ビジネスが発展
・就活支援企業が提供するノウハウやテンプレートを就活生が活用
参照:NIKKEI STYLE 日本独特の就職活動、歴史と背景は / コトバンク エントリーシート
このような流れのもとに、現在のESの「型」が生み出されたと考えられます。
1990年代前半は、生産年齢人口もピークを迎えており、学歴に関係なく誰でも応募できるようになった一方で、大手企業に応募が集中したため、履歴書よりも個人のさまざまな側面を知ることができるESが、徐々に書類選考の役割にシフトしていきます。
その後もESは大きく形を変えることなく定着し、大企業から中小企業まで、「選考の入口はESから」という流れが、特に疑いもなく一般化していきました。
同時に、就活ビジネスが発展したことで、就活塾や攻略本、対策メディアなどが生まれ、企業側と支援ビジネス側の情報の相乗効果により、主に大手企業・人気企業に内定するためのESや面接のカタチがつくりあげられていったように感じます。
どれもこれも同じ文章でうんざり、サークルの大会やアルバイトでの数字目標達成エピソードばかりで聞き飽きているという人事のみなさんも多いかと思います。
しかし、学生に非はなく、支援者側を中心に、私たちがこの流れを生み出してしまったということを自覚しなければならないと思います。
そして、このカタチの実態として、学生の就職活動における努力の方向性が微妙にズレてしまっている気がします。
例えば志望動機を考える際に、真面目な学生ほど、いつのまにか「選考通過のための材料集め」をしており、就活ナビサイトの業界マップや各企業のHPを手がかりに、この後の面接で突っ込まれるかもしれない想定質問を視野に入れながら、企業と自分とを一致させるロジックを考えます。
この作業をしんどいと感じる学生がものすごく多いのが事実です。
私たちは、すっかりこの就活プロセスに慣れてしまっていますが、企業の採用活動の最大の目的は、「入社後に戦力になる人材を予定人数獲得すること」であるはずです。
その目的を考えたときに、テンプレートを活用し、結果的に皆が同じようなことを言う志望動機の内容は、優秀な人材を見極めるための有効因子なのでしょうか。
また、学生が入念に対策してきた回答の矛盾を見極めるための面接官の労力と時間は、採用の目的に対して、本当に費用対効果が高いのでしょうか。
忘れがちな事実ですが、企業における一人当たりの採用コストは約50万円前後といわれています。
また、昨年就活を終えた23卒学生調査によると、
企業で社会人がどのように働いているかについて理解できている
あてはまる 7.7%
どちらかといえばあてはまる 38.3%
社会や経済がどのように動いているのかについて理解できている
あてはまる 6.2%
どちらかといえばあてはまる 32.3%
という結果になっており、学生は就職活動を終えた段階でも、社会や仕事の理解が進んでいないと感じていることが、データとしても示されています。
出典:「2023年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」リクルートマネジメントソリューションズ プレスリリース
あの短期間の就職活動で、学生も相当なエネルギーを削がれるわりには、成果が出ない。
事前の企業インターンシップや、カジュアル面談があったとしても、学生側からの情報収集や企業研究には、限界がありそうです。
問題の本質は、どこにあるのでしょうか。
学生の心理からみる選考システムエラー
次に、この課題を、採用側の視点から考えてみたいと思います。
みなさんは選考過程において、自社に対する学生の理解度を、どこまで重要視されていらっしゃるでしょうか。
志望動機は、学生の何を測るために設定されていますか?
また、選考過程のどのタイミングでの評価指標にしていますか?
最初のESなのか、最終面接なのか、基準はあるのでしょうか。
具体例でみていきましょう。
2人の応募者がESに回答しました。
Aさん:自社の仕事の内容を詳しく理解できており、大切にしている考え方が自社の理念と一致している
Bさん: 職種理解や自社への興味はまだ漠然としていそうだが、本人の資質や今までの経験で乗り越えてきたプロセスが、自社の今後の経営戦略に必要な人物像と一致している
一次選考で、どちらの学生を通過させますか?
結局のところ、どちらの学生も通過にしませんか?
むしろBさんは、仕事の内容を伝えながら、自社と合うと思う点をフィードバックするとともに、強みを発揮できる可能性があることを、企業側からアピールしたい人材ではないでしょうか。
確かに、どれだけ熱心に企業研究をしているかで、自社への志望度を確認する、ロイヤルティを測る、という視点もあるのかもしれません。
しかし、戦後から続いた終身雇用がいよいよ立ち行かなくなっており、人材の流動化が社会全体の課題となっている時代です。兼業・副業する人も増えており、企業の雇用の在り方も多様化しています。
今まで質問することが当たり前だと思っていた項目も、これからの時代のニーズや企業の採用課題によっては、一度見直していく必要があるかもしれません。
また、前提として忘れてはならないのが、中途採用とは異なり、まだまだ社会の全貌が見えていない学生にとっては、エントリー時点から志望度が高い企業は数えるほどであるという点です。
ついつい知名度や年収、条件面から探してしまうのは、当然の心理だと思います。
選考過程を経るなかで、徐々に企業の魅力に気づき、共感ポイントが増えていき、最初はあまり興味がなかったけれど、今はこの企業で働きたい、という熱意につながってくるのではないでしょうか。
つまり、あの短期間の選考過程でさえ、「学生の志望動機は変化する」ということです。
最終面接の時点で、入社したい理由が明確になっていればいいので、
・当社を知ったきっかけ
・興味をもったきっかけ
・現時点で該当のある人は、当社でやってみたいこと
応募の入口は、この程度の方が、自然なカタチなのかもしれません。
よって、学生が自社で働く姿を具体的にイメージしてもらえるようサポートをし、志望度を上げる役目は企業側にあると感じます。
実際に、“やりたい仕事は今のところ漠然としているが、自分の価値観や強みは把握できており、安定して働けるところを探したい”というニーズをもつ学生は相当数います。
真面目な学生や慎重な学生ほど、企業に自分を当てはめるという思考回路から、「この会社ちょっと興味あるなあ。でも、志望動機を考えるの大変だし、あまり時間もないから、エントリーやめておこう」と、そもそもファーストフックにかからないことは、学生の応募数に苦戦している企業ほど、非常にもったいないことです。
母集団形成の直接的な解決策は、ターゲット人材の再定義や、HP・SNSを活用した情報発信のアップデート等があると思います。
ただ、応募にたどり着くまでのプロセスを前向きに疑うと、私たちがつくり出してしまった、企業が主、学生が従、という主従関係から派生した「採用・就活のあるべき姿」のエラーも、母集団形成に間接的に影響する、根深い原因のひとつではないかと、学生側と企業側それぞれの実態に向き合ってきた現場の経験から感じます。
科学的人事データが、前提を覆す!?
ここまで、いかがでしょうか。
・志望動機は基本の質問だから、必ず聞いていた
・自社への興味度と企業研究の度合いは、重視していた
・志望動機の評価指標とタイミングは自社では明確になっている
・もはや志望動機は聞いていない
いろいろな反応があるかと思います。
ところで、採用時のデータと、入社後のデータをどのように分析されているでしょうか。
今回の採用が適切だったのか、どこで判断されていますか?
入社後に戦力となって活躍している人材を、採用選考時に、どのような指標でどのように評価していたのか、具体的に検証はされているでしょうか。
ここで、ひとつ興味深い研究データをご紹介したいと思います。
アメリカの心理学者が、約80年にわたる人事心理学の研究データをもとに、応募者の選考における 19 種類の異なる採用指標が、入社後の職務パフォーマンスをどこまで予測できるか、それぞれの予測妥当性をメタ分析に基づき研究したものです。
人事選考については、19 世紀初頭から、あらゆる研究がされてきました。
実用的価値の観点から、人事評価手法の最も重要な特性は「予測妥当性」、つまり「応募者の将来の職務遂行能力を事前に予測できること」であるといわれています。
言い換えれば、選考過程において、有効性の高い採用指標を適切に活用して採用すれば、高いパフォーマンスを発揮する社員が増え、結果的に企業全体の利益に結びついていく、ということになります。
当研究は、米国経済の労働者の中間層 62%に適用される中庸データのため、日本経済でも幅広く応用が利きます。
参照:ジョン・E・ハンター / ロンダ・F・ハンター 共著「ジョブパフォーマンスの代替予測因子の妥当性と有用性」、フランク・F・シュミット / ジョン・E・ハンター 共著「人事心理学における選抜方法の妥当性と実用性:85 年間の研究成果による実践的・理論的意義」
それでは、具体的に研究結果をみていきましょう。
まずは、入社後の職務パフォーマンス予測の有効性が高い3つの選考指標です。
総合1位:認知能力テスト(IQテスト) 0.51
2位:ワークサンプルテスト 0.54 ※経験者採用に限るため、新卒には向かない
3位:構造化面接 0.51
これらの指標が、入社後の職務パフォーマンスを比較的高く予測するという結果です。
ワークサンプルテストは職務経験が必要であるため、新卒採用で実際に応用できるのは、認知能力テストと構造化面接になるでしょう。
さらに、これらを適切に組み合わせると、さらに有効性が上がるという研究結果も出ています。
構造化面接とは、あらかじめ評価基準と質問項目を決めておき、どの応募者にも同じ質問を同じ順序で行う面接手法です。
現在では Google をはじめ、採用に取り入れる企業も増え、日本では構造化面接の一部要素を用いたコンピテンシー面接として知られています。
では、志望動機にも通じる指標「仕事への興味・関心」の有効性は何位でしょうか?
17位:仕事の興味・関心 0.1
18位:筆跡 0.02
19位:年齢 -0.01
なんと、19位中、17位。有効性数値、たったの0.1。
学生の仕事への興味・関心の度合いは、入社後の「戦力」を測る指標としては、ほとんど役に立たないことが分かります。
これは、少し意外な結果ではないでしょうか。
いったん仕事につくと、その人の仕事の質やレベルは、興味によって決定されることはないという、非常に興味深いデータです。
「あの内定者は、うちの事業に興味をもってくれているし、やる気もありそうだから、入社後の活躍が楽しみだ」と考えることは、よくありそうな場面かと思いますが、実際には何の保証もないことが結果としては示されています。
ただし、あくまでパフォーマンス予測の観点であり、離職率やエンゲージメントとはまた別の尺度になることを加えておきたいと思います。
前編はここまでです。今回はESの中でも、特に「志望動機を問う必要性」に注目し、学生と企業それぞれの視点からお送りしました。
後編では、これからの時代どのような変化が起こるのか、すでに明らかになっている事実をもとに、ES全体の存在意義について、さらに人材獲得競争の時代に、自社にあった選考・採用のポイントはどこにあるのか、具体的にみていきたいと思います。
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