巧妙なストッパーの正体とは
白か黒かだけでは、社会ではやっていけません。
正義の押し付けが行き過ぎ、捻じれて極まった先に、争いも生まれます。
- そんなこともあるよね。
- そういう捉え方もあるよね。
- 自分にはその視点はなかったよ、ありがとう。
- 共感はできないけれど、それもありだね。
個人の集まりである社会には、いろいろな濃淡のあるグレーが存在し、対他者には、許容する力が必要です。
同じように、自分自身に対しても、中庸という視点は大切です。
こうあるべきと決めつけることは、自分の自由な発想や行動を自分で制限することにもつながり、結果的に苦しさ・生きづらさが生まれることもあります。
- こんな自分もいいよね。
- できない自分でもOK
生きるのが楽になります。
でも、ひとつだけ、グレーにしない方がいいことがあります。
それは、心の奥底で、本当にやりたいと思っていることに対してです。
それが、世の中に対する発信やアイデア、社会をもっとよくしていきたいという想いから生まれているものであれば、なおさらです。
自分の中で温めているだけでは、なんの意味もありません。
外に出してはじめて、自分以外の他者から何かしらの反応があり、場合によっては強い共感・共鳴となり、社会に広がっていくのです。
もしくは、すでに次のような状態の方もいるのではないでしょうか。
- やりたいことは分かっているのに、なんとなくまずは近いことをやって様子見をしている。
- 半分意図的に、保険をかけるように遠回りをしている自分を自覚している。
- やりたいことの中には含まれているけれど、これが本当にやりたいことではない。
キャリアの中で無駄になるものはありません。
点と点は、数年後もしくは何十年も後に、思わぬ形で線や面となっていくので、その時々で納得した選択だったのであればOK。
もしくは、目標までの道のりが長いので、やりたいことのために必要なことを細分化して優先順位をつけて、まずは足元のこのスキルを習得する、というステップを自分で描けている人は例外かもしれません。
でも、ある程度の材料(スキルや経験)は揃っているのに、何年も足踏み状態。
もういい加減、核心を進んでみませんか?という段階にある人。
実は世の中には大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、本当にやりたいと思っていることについて考えた瞬間、次のような言葉がスラスラ~と自分の頭の中に流れてきませんか?
- とはいえ、
- いや~でもさ、
- まだお金が無いから、
- 今は〇〇だから仕方がないよね、
- またタイミングがあれば、
- さすがに無謀でしょ
- 今の状況でどうやってやるの?
- 失敗したらどうするの?
不思議なことに、本当に挑戦したいことであればあるほど、前例がない場合であればなおのこと、これらの言葉は強く前に出てきます。
反対に、自分にとって容易いこと、すぐ挑戦できるようなこと、既に経験しているようなことに対しては、まったく出てきません。
これ、一体何なんでしょうね。
こたえは、自分の中にある“マインド”です。
マインドという言葉は、いろいろな場面で少しずつ異なったニュアンスで使われています。
マインドコントロール、マインドフルネス、マインドマップ、ビジネスマインドなど、さまざま。
「心・精神・意識」という意味で使われることが一般的ですが、今回はマインドの語源に近い、思考・考え、知性にコントロールされた「自分の頭の声」として捉えたいと思います。
その頭の声の中でも、今回お伝えしたいマインドを、
自分の思考に巧妙に隠れている、自分自身へのストッパー と定義します。
また、自分の中にある声やもう一人の自分として、インナーペアレント、ビリーフ、シャドーなど、心理学の世界ではいろいろな見方や表現があると思いますが、今回は人が挑戦するときに登場する要素として限定し、捉えていこうと思います。
ちなみに今回お伝えするストッパーは、“なんか違うかも・・”と瞬時に思ったり、嫌な予感がしたりといった「直観」とはまた別の性質のものです。
(余談ですがこの直観、実はとても有効で、ビジネスでも大いに活用されていることが研究データでも示されています。詳しくはこちらの記事をご覧ください)
“マインドさん”はこんな人
さて、私たちは何かに挑戦するときに、意識的にも無意識的にも、日々このストッパーと付き合っています。
まず、全員がもっている代表的なものが、ホメオスタシス(恒常性)です。
ホメオスタシスとは、生物が自分の体内環境を、生存に適した一定の範囲内に保とうとする性質のことです。
何かしらの外からの影響や体内環境の変化を受けても、私たちの身体は、体温を保ったり、自律神経を整えたり、免疫システムが働くことで、自分の生命を維持しています。
本能的に生命維持を第一に考えるため、命を脅かすものは敵となり、自動的に維持装置が働くようなイメージです。
このホメオスタシスという考え方は、身体的なことに限らず、心理的な側面でも使われます。
変化を拒み、今までと同じ状態=コンフォートゾーンを維持したいとする心理です。
新しいことが億劫、大変だし面倒くさいと感じてしまうのは、この働きがあるからとも言えます。
ヒトは変化を嫌う生き物、というのは本能的に備わっているもので、心身ともに前提として存在するんだということを知っておくと、また捉え方が変わってくる人もいるかもしれません。
しかし、人が本当にやりたいことに向き合おうとするとき、このホメオスタシスだけでは片づけられない根深いストッパーがあるような気がします。
今回は、このストッパーであるマインドを擬人化して考えてみたいと思います。
そのまんまですが、“マインドさん”と名付けましょう。
切り離して捉えることで、何か気づきがあるかもしれません。
それでは、マインドさんはどんな人物なのか、一緒にみていきましょう。
≪マインドさんの主な性格・特徴≫
- 超ネガティブ
- できない、がデフォルト
- とにかく怖がり
- いつも最悪の失敗や悲惨な結末を想像する
- 変化が嫌い、現状維持バンザイ
- リスクが大嫌い
- 大好物は、べき・ねば・否定
- 他人の評価を異常に気にする
- もっともらしい反対意見を他所からもってくる
- 今、自分が1番言われたくない痛いところを指摘してくる
さて、どうでしょう。
みなさんも、このマインドさん、思い当たる節がありませんか?
突然、自分の目の前にズドーンとやってきて、しばらく居座ってくるとき、やたらと話しかけてくるとき、ありませんか?
マインドさんは、あなたをさまざまな角度から、説得・納得させるプロフェッショナル。
AIよりも精緻に、抜群のタイミングと言葉のチョイスで、あなたの挑戦をとめにかかります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
まず、比較的分かりやすく表面に出てくるのが、①~⑥です。
- 超ネガティブ
- できない、がデフォルト
- とにかく怖がり
これらは自覚しやすいので、認識しやすいと思います。
- いつも最悪の失敗や悲惨な結末を想像する
- 変化が嫌い、現状維持バンザイ
- リスクが大嫌い
これらは、リスクヘッジとはまた別物で、先述のホメオスタシスの要素と重複する部分もあるかと思います。
- 大好物は、べき・ねば・否定
- 他人の評価を異常に気にする
⑦~⑧になると、自分以外の周囲の人や情報などの要素が入ってきます。
そして、最後の⑨~⑩。
- もっともらしい反対意見を他所からもってくる
- 今、自分が1番言われたくない痛いところを指摘してくる
一見すると、とても賢明な判断にうつります。
でも、それがトリック。
マインドさんは頭の回転が速く賢いので、本当にもっともらしいことを言ってくるのです。
だから、あー、確かにそうだよね、と妙に納得して、挑戦をやめてしまうのです。
自分にとって最も耳が痛いこと、今1番言われたくないことを指摘してくるとき、静かに内省をしなければ、それは誰の声なのか、なかなか見極めが難しい要素です。
また、①~⑩の登場頻度や受けとり方は、人それぞれです。
なぜなら、一人ひとりの中に登場してくるマインドさんは、それぞれ性格にも強弱があるからです。
どれかの特徴が異常に強く出る人もいれば、満遍なく網羅している人もいるでしょう。
それは、個々の育った環境や、大切にしてきた考え方、思い込みの種類によっても異なってきます。
マインドさんは、知らないうちに自分自身で育ててきている側面もあります。
幼少期の親の言葉や学校で学んできたことなど、どんどん頭は吸収しているので、自分の奥底の心の声をブロックするための強い言葉として浸透していきます。
親・親戚・先生・友達・上司・メディア。
世間の声という言葉がありますが、その声の中身って、だいたいネガティブではありませんか?
マインドさんの凝縮です。集合体。それはそれは、とても強力。
それらも、私たちは何十年も、意図せず自分の中に取り込んできています。
このように、私たち一人ひとりの中に登場してくる、マインドさん。
擬人化して距離をとって捉えることで、冷静に認識することができます。
ところで、あなたの場合、マインドさんは、あなたに対してどれくらいの影響力をもっていますか?
ひょっとして、自分の選択をマインドさんに支配されていたりしませんか?
これからも、マインドさんに主導権を握られた人生を歩みたいですか?
心の声を聴きわけるコツ
マインドさんに説得されるがまま、なされるがままにしないためには、どうすればいいのでしょうか。
ある意味、自分の中に飼っているマインドさんを制すればよいのですが、具体的にどうすればいいのか。
まずは、マインドさんを静観することです。
振り回されないこと。
なるほど、マインドさんはそう思っているんだな。
それはそれとして、私はどうしたいの?
と、自分に問いかけてみてください。
きっと最初の数回は、すかさずマインドさんが答えると思います。
多い人は数十回、しつこく出てくるかもしれません。
でも、根気よく繰り返していくと、最後に残るのが、自分の本当の気持ちです。
純粋な心の声ともいえるでしょう。
自分の気持ちに嘘をつかないとは、このことかもしれません。
そして、やりたいこと・挑戦したいことに限定するならば、
最後に残っている気持ちは、自分の心が喜んでいる、ワクワクした前向きなものであるはずです。
もしくは、その逆。
最初にぱっと自分の心に浮かんだことを、そのまますぐに実践してみることです。
最初の声が、自分の本当の心の声です。
2番目の声は、もう既にマインドさんが巧妙に入り込んでいます。頭の声です。
この1番目の声は、直感ともいえるでしょう。
とても小さなこと、例えばいま何が食べたいか、どちらが欲しいか、どこに行きたいか、という日常の些細なことで十分なので、直感をすぐ行動にうつす体験を繰り返していくと、マインドさんが説得にやってくる余地がありません。
これらが習慣になると、日常的に自分の頭ではなく、心と向き合うことができるようになるので、外側の事象に振り回されることが少なくなり、とても楽になります。
かといって、マインドさんは自分の中からは消えるものではなく、敵ではありません。
自分の中からなくそうと思って抗うと、逆効果です。
けれど、うまく主導権を握っていくことはできます。
マインドさんが正常な働きをしてくれれば、それは頭の声として、私たちは経験や知識として蓄えてきた思考の力を賢く利用し、生きていくことができます。
大事なポイントは、マインドさんが優位になりすぎて暴れそうになったときに、しっかり切り離して認識できるかどうか、ということです。
あ、また登場しましたね。
まずは、これだけでOKなのだと思います。
仮にこのマインドさんを認識して、スルーできたとしても、それでも行動しない、挑戦しない場合は、頭ではやりたいと思っているけれど、心ではたいしてやりたくないと思っているか、やりたいのではなく、やらなければならないとどこかで思ってしまっているパターンかもしれません。
だから、本当に心からやりたいわけではないのです。
でも、どちらにしても、自分で動いてやってみないと分かりません。
やってみないと、自分がどう感じているか、その先どうしたいかは一生実感できません。
もし、長年温めてきたことに挑戦してみて、想像していたことと違ったとしても、私たちはいくらでも軌道修正できるのです。
むしろ、それを知るタイミングが早ければ早い方が、残りの人生の時間を、また別の可能性のために使えます。
やるか、やらないか
最後に、あるホスピス医の気づきをご紹介したいと思います。
これまで3500人以上の看取りをされてきた医師、小澤竹俊氏の著書「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」によると、小澤氏が患者と向き合う中で、多くの人が人生の最期を迎えるときに後悔することは、自分がやりたかったことをやらなかったことであり、共通して口にすることは、「やっておけばよかった」という言葉であることに気づかれたそうです。
自分の人生の後悔は、家族の誰かのことでもなく、恋愛でもなく、過去の失敗でもなく、
自分が本当はやりたかったこと なんですよね。
特に2024年を迎えてからは、いつ誰の身に何が起こるか本当にわからない、と感じている人は多いと思います。
ある意味、自分の中のマインドさんがいつもよりも静かな状態になっている人もいるかもしれません。
だからこそ、今やりたいことは何か、挑戦してみたいことは何か、ずっと見て見ないふりをしてきた想いは何か、一度ゆっくり時間をとって、自分の心に真剣に問うてみるタイミングにきているのではないでしょうか。
できるか、できないか、それはたいした問題ではない。
やるか、やらないか、それがすべてだ。
これは昔から有名な格言ですが、本当にそのとおりです。
世の中で次々と大きな挑戦をしているように見える人たちも、自分で事業を立ち上げ活躍している人たちも、最初の挑戦は、本当に小さな1歩からです。
そして1歩でも踏み出してしまえば、その後、自分の中にマインドさんが登場する頻度やささやきの種類は、ぐっと少なくなります。
行動に対するストッパーが徐々になくなっていくのです。
なんて身軽な世界!
自分の中の巧妙なストッパーに気づき、そろそろ足踏みから卒業してみませんか?
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