【What Research Says Vol.2】5因子モデルによるパーソナリティ特性群への反応パターンで各個人をグループ分けできるのか?

パーソナリティ特性の人事への適用は一般的であるが、そこから更に少数のパーソナリティタイプを特定・分析する新しい研究群について紹介する。

パーソナリティ特性群への反応パターンで各個人をグループ分けできるのか?

人事採用や人事配置において、適性検査(とりわけパーソナリティ特性に関する検査)の利用は一般的で、いわゆるパーソナリティ特性のFive Factor Model (FFM) (神経症傾向(N)、協調性(A)、外向性(E)、勤勉性(C)、開放性(O))が中心となっている。

そのようなパーソナリティ特性群への各個人の反応パターンに基づいて、少数のパーソナリティ・タイプ(プロファイル)を特定し、それぞれのプロファイルの特徴を明らかにしようとする研究群が近年増えてきている。しかも、新しい分析方法である潜在プロファイル分析とか潜在クラス分析という方法を利用している。

【原著】

Yin, K., Lee, P., Sheldon, O.J., Li C. & Zhao, J. (2021), Personality profiles based on the FFM: A systematic review with a person-centered approach. Personality and Individual Differences, 180, 110996. 

五因子モデルに基づくパーソナリティ・プロファイル:個人に焦点化したアプローチに関するシステマティック・レビュー

 

本論文の理解を助ける予備的情報から

本論文では、「潜在プロファイル分析」という研究方法を使った研究論文をサンプルにして、その知見を取りまとめている。

この論文自体は、この方法を使ってはいないのだが、読者は「潜在プロファイル分析」について理解があることを暗黙の了解として記述されている。

そのため、以下の論文要約を理解していただくためには、予備的知識として、「潜在プロファイル分析」や分析で入手できるプロファイルの数がどのように決まるのか、に関する情報があったほうがよいと考え、論文本体の要約説明の前に、この点について、簡単なイメージを提示しておくことにする。

まず、従来の研究で多くみられる、「変数中心アプローチ(variable-centered approach)」と、この論文で取り扱う近年の「個人中心アプローチ(person-centered approach)」の違いをイメージするために、仮想データ(図1)をみてほしい。

FFMの5因子、それとの関連を調べたい変数がならんでいる。

ここで、変数中心(Variable-centered)アプローチでは、変数間の関係性に興味の中心があり、個人中心(Person-centered) アプローチでは、パーソナリティ特性(反応)の似たもの同士を集めてグループ分けすることに興味の中心がある。

両者の特徴を比較しながら眺めると表1のようになろう。

次に、「潜在プロファイル分析」である。

これは、個人中心アプローチで利用される分析方法で、いくつかの専用の分析プログラムが開発されており、さまざまな研究分野で使われてきている。

ポイントは、サンプル集団に複数の潜在グループ(プロファイル)があると仮定し、そのグループ(プロファイル)数を決めて、それぞれにサンプル集団の個人を自動的に振り分けることである。

具体的にプロファイルの数をどうやって決めるのかについては、コラムを見ていただこう。

たとえば、図1の仮想例のようなデータを潜在プロファイル分析にかけて、研究者が3つのプロファイルが存在すると判断したとしよう。

そこで得られた3つのプロファイルの特徴とそこに割り振られた個人の割合(%)をイメージすると図2のようになろう。

プロファイルの指標について、「レベル」[1]と「形状 (shape)」[2]という用語が使われることがあるが、同じく、仮想例の各プロファイルについて、「形状(shape)」のイメージを描いてみると、図3のようになろう。

「形状」の違いがわかっていただけると思う。


[コラム]

潜在プロファイル分析では、どうやってプロファイルの数が決まる?

①専用の分析プログラムにデータを入力する

②コンピュータは、各プロファイル数に対応した理論モデルと実際のデータ(実測値)を比較する

③理論モデルと実測値が、統計的に有意差がないほど一致するのはプロファイル数がいくつの場合か?

④研究者がその判断を下すために必要な統計的情報をコンピュータが出力してくれる

⑤判断の根拠となるいくつかの指標や基準を踏まえて、研究者が最終的にプロファイルの数を決める

(小杉・清水(2014).『M-plusとRによる構造方程式モデリング入門』(北大路書房)第15章参照)

[↑本文に戻る]


以上の予備的知識を持っていただいたうえで、本論文の要約紹介に進んでいこう。

 

論文の要約

・5 因子モデル (FFM) を採用してパーソナリティ・プロファイルを同定する研究が増えている。

・しかし、これまでのところ、パーソナリティ・プロファイルの数と特徴についてコンセンサスは得られていない。

・本レビューでは、パーソナリティ・プロファイル(FFM利用)に関する個人中心アプローチ研究の知見を包括的にまとめた。

・36 の独立サンプル集団による研究のレビューから、パーソナリティ・プロファイル・ソリューションは4種類あり、3プロファイルと4プロファイルのソリューションが優勢だった。

・「神経症傾向」は、各個人を異なるプロファイルにグループ化するための最も有用な特性であった。

・「開放性」は、この目的には有用ではなかった。

・プロファイルの名称に関する混乱を収拾するために、これらの研究で同定された主要な5つのプロファイルの名称を「適応力保持者(Resilients)」「自己開放者(Undercontrollers)」「自己抑制者(Overcontrollers)」「普通人(Ordinary Persons)」「反適応力保持者(Anti-Resilients)」とすることを推奨した。

 

はじめに

人事採用や人事配置において、適性検査(とりわけパーソナリティ特性に関する検査)の利用は一般的で、いわゆるパーソナリティ特性のFive Factor Model (FFM) (開放性、勤勉性、外向性、協調性、神経症傾向)が中心となっている。

このような「変数(パーソナリティ特性)」に焦点をあてたアプローチに対して、近年、「個人」に焦点をあてたアプローチの研究と利用の事例が増えてきている。

方法論的には、このアプローチでは、旧来は、伝統的な技法(Q-因子分析、クラスター分析)が使われていたが、最近では、従来の手法よりも方法論的利点のある潜在プロファイル分析 (Latent Profile Analysis:LPA)[3]や潜在クラス分析 (Latent Class Analysis:LCA)[4]という手法が使われるようになっている。

潜在プロファイル分析(専用の分析プログラムがある)を使うことで、サンプル集団に存在する複数の潜在グループ(プロファイルと呼ぶ)を導出することができる。

近年、多くの研究者が、FFMの設問への反応を用いてパーソナリティ・プロファイルを同定している。しかし、これまでのところ、パーソナル・プロファイルの数と、それらにどのような特徴があるのかについてのコンセンサスは得られていない。

 

本研究の目的と研究課題

プロファイルに関するこれまでの研究結果のあいまいさを明確にするために、FFM 利用によるプロファイル(分析にLPA/LCA を使用)の実証研究を収集・調査し、次の研究課題に焦点を当てた定量分析レビューを実施するのが本レビューの目的である。

研究課題は次のとおりである。

研究課題1: FFM の5特性に基づいていくつのプロファイルを同定できるか?また、どれが支配的であるか?

研究課題2: 最も頻繁に同定されるプロファイルの共通の特徴は何であるか?

研究課題3: 同定された各プロファイルは、レベルと形状の両方で異なるのか?

研究課題4:5特性のなかで、同定されたプロファイルの区別に最も重要なもの・重要でないものはどれか?

研究課題5:サンプルの特徴 (サンプルサイズ、平均年齢、性別比) は、プロファイルの数に影響するか?

研究課題6:国の文化的価値観は、プロファイルの数とどのように関連しているか?

 

研究課題群に関連する現状

【研究課題1】 FFM特性に基づくプロファイルの数

FFM特性に基づく個人中心アプローチでは、Block and Block (1980) が提唱した、「自我制御(ego-control)」と「自我適応力(ego-resiliency)」のモデルの中核にある自己制御の動的プロセス論が、プロファイルを理解し解釈するための基本的な理論的枠組みとみなされている。

Robins et al. (1996) は、彼らと同じ用語を使用して、個人中心アプローチを適用してプロファイルを実証的に調査した最初の研究であり、特に3つのプロファイルを同定し、それらを「適応力保持者(Resilient)」「自己抑制者(Overcontroller)」「自己開放者(Undercontroller)」と分類した。

「適応力保持者」は、高レベルの「自我適応力」が特徴で、環境の要求に合わせて「自我制御」のレベルを効果的に調整することができる。

「自己抑制者」は、「自我適応力」が低く、「自我制御」が高いという特徴があり、恥ずかしがり屋で、抑制され、問題を内面化する傾向がある。

「自己開放者」は「自我適応力」と「自我制御」がともに低いという特徴があり、衝動的で問題を外在化する傾向がある。

最近では、同じ3つのプロファイルが再現されている研究と、別のソリューションを発見したとする研究もある。

たとえば、先の3つに加えて第4、第5のプロファイルを同定したとする研究がある。

最近の2つの研究で、2つのプロファイルが同定されたという報告がある。

これらの最近の調査結果を参照すると、FFM 特性に基づくプロファイルは、実際、いくつ存在するのだろうか?現時点では、答えは不明のままである。

LPA と LCA は本質的に帰納的な手法であるため、出現するプロファイルの数に関する正式な予測を行うことはできない。

【研究課題2】FFM特性に基づいて一般的に同定されるプロファイルそれぞれの共通特徴

多くの研究で、「適応力保持者」「自己抑制者」「自己開放者」などの類似のラベルを付したプロファイルが同定されているが、現在、各プロファイル独自の特徴についてはコンセンサスがない。

「自己抑制者」と「自己開放者」の特徴に関する研究結果に比べて、「適応力保持者」の特徴に関する研究結果はより一貫している。

「適応力保持者」は、神経症傾向が特に低く、その他のFFM 特性が高いスコアで示されることが多い。

ただし、いくつかの研究では、開放性が低い、外向性が低いなど、さまざまな特徴を持つ「適応力保持者」のプロファイルが同定されている。

一方で、「自己開放者」と「自己抑制者」のプロファイルの特徴は、研究間で大幅に異なる傾向がある。

たとえば、一部の研究では、神経症的傾向および協調性のスコアが高い人を「自己開放者」と同定しているが、他の研究では反対の結果が報告されている。

同じことが「自己抑制者」にも当てはまる。

いくつかの研究では、「自己抑制者」は勤勉であると同定されているが、他の研究では正反対であることが判明している。

同じラベルを持つプロファイルの特徴に関するこれらの混乱により、複数の研究を直接的に比較するのは意味がなくなっている。

【研究課題3】FFM特性に基づくプロファイル間のレベルと形状の違い

LPA と LCA の決定的な利点は、定量的および定性的に独立したプロファイルを生成できることである。

レベルの明確なプロファイルは、指標の平均値の違いが反映されるが、形状の明確なプロファイルは、モデル内の各指標の相対的な位置の違いを示す。

たとえば、神経症傾向が高く、FFM の他の特性が低い個人は、神経症傾向が低く、他の特性が高い人とは異なるサブグループに属する。

FFM に基づくプロファイルは、レベルと形状の点でどの程度異なるのか?

一部の先行研究では、5つの特性のレベルのみが異なる3つのプロファイルが同定されているが、他の研究では、 レベルと形状の両方が異なるプロファイルが見つかっている。

【研究課題4】 同定されたプロファイルの区別に果たす個々のパーソナリティ特性の役割

プロファイルは完全に独立した個別の存在ではない。

言い換えれば、プロファイル間の境界は曖昧かもしれない。

たとえば、特定の特性の比較的小さな違いにより、個人が「自己抑制者」としてではなく、「適応力保持者」として分類される可能性がある。

FFMの各特性は、プロファイルを区別する上での重要度が同じではない可能性がある。

いくつかの研究では、開放性の特性は、プロファイル間の同定に重要な役割を果たしているようには見えないと報告されている。

対照的に、別の研究では、開放性がプロファイルを区別する最も重要な特性であると報告している。

FFM の他の 4つの特性のそれぞれについても、これまでの研究結果は同様に混乱している。

【研究課題5】 FFM 特性に基づくプロファイル数の変動に関連する要因

さまざまな研究での共通点を同定することは重要であるが、プロファイル・ソリューションが研究間で異なってしまう理由を同定することも重要である。

前述のプロファイル数に関する不一致は、サンプルサイズ、平均年齢、および性別比などの違いが影響している可能性がある。

サンプルサイズは一般に、プロファイルを同定するための統計的検出力に影響を与える。

これまでの多くの研究では、500 未満のサンプルサイズが使用されてきたが、このサンプルサイズは、プロファイルを明らかにするには不十分な場合があるのかもしれない。

さらに、年齢と性別もプロファイルの数に影響を与える可能性がある。

たとえば、100 歳以上の高齢者を2つのプロファイルに分けることができることを発見した研究がある。

また、女性グループでは、3つのプロファイル、男性グループでは4つのプロファイルが生成されたとする研究もある。

【研究課題6】 国の文化的価値観とプロファイル数の関連

最後に、同定されたプロファイルの数は文化によって異なる可能性があることが研究で示されている。

パーソナリティ特性は一般に、社会に存在する行動および道徳基準を反映している。

このように、国の文化は、社会の重要な特徴として個人の思考プロセスと行動パターンに影響を与えるだけでなく、彼らの人格を形成する。

国民文化の特徴(文化的価値観)の最も広く受け入れられている分類法はHofstede (2006) のモデルである。

彼によると、文化的価値観は主に、経験的に同定された6つの次元(「権力格差(power distance)」「不確実性回避(uncertainty avoidance)」「個人主義(individualism)」「男性性(masculinity)」「長期志向(long-term orientation)」「人生を楽しむこと (indulgence)」 )から構成されている。

我々の知る限り、異文化間の価値観とプロファイルの数との関係を調査した研究はこれまでない。

 

研究方法

1. 文献検索および包含基準

FFM 特性に基づいてプロファイルまたはタイプを報告した研究グループを同定するために、最初にWeb of Science、PsycINFO、China Nation’s Knowledge Infrastructure (CNKI)という定評のある研究データベースでキーワード検索を行った。

次に、すべての研究を確実に取得するために、パーソナリティに関する(個人に焦点をあてた)初期の研究の引用文献リストと、より最近のプロファイル研究の引用文献リストを手作業で検索した。

最終的に、次の3つの基準を満たした実証研究を、本レビューの分析対象とした。

1) FFM特性を測定するパーソナリティ尺度 (FFPI、BFI、IPIP-Big-5など)を使用していること。

2) 分析手法としてLPA または LCA のいずれかを採用していること。

3) プロファイルの特徴を描いていること。

最終的には、この条件に合致した34の研究(36サンプル群)が本研究の分析対象となった。

2. 分析的アプローチ

研究課題 1-3に答えるために、さまざまなプロファイル・ソリューションのパーセンテージ、頻繁に同定されるプロファイルの共通特徴、およびレベルまたは形状が異なるプロファイル・ソリューションが、頻度分析によって計算された。

研究課題4に答えるために、さまざまなプロファイルからの各パーソナリティ特性の平均値の分散が計算され、関連データを報告する研究に基づいて比較された。

研究課題 5-6に答えるために、相関分析が行われた。サンプルサイズ、平均年齢、性別比、FFM尺度の設問数、パーソナリティテストが神経症傾向を直接測定したかどうか、およびプロファイルの数(N)に関する情報は、それぞれの研究から直接入手した。

サンプルサイズは非常に歪んでいたため、サンプルサイズの対数を使った。

各サンプルの国民文化は、Hofstede によって開発された6つの次元で測定された。

文化的側面の値は、各サンプルが抽出された国に応じて、Web サイト https://www.hofstede-insights.com  から取得された。

 

研究結果

【研究課題1】 プロファイルの数

多くの研究で、2‐5のプロファイルまでのプロファイル・ソリューションが報告されている。

具体的には、サンプルの 50%が3つのプロファイル、33% が4つ、11% が5つのプロファイルを同定していた。

2つのプロファイルを報告した研究は 2本 (5.6%)だけだった。

3つのプロファイル・ソリューションでは、ラベル(名称)も特徴も一致していなかった。

16件の研究のうち7件はプロファイルを「適応力保持者」「自己開放者」「自己抑制者」と名付けていたが、これらのプロファイルは、Robins et al. (1996) によって最初に同定されたものである。

他の研究では、プロファイルに異なるラベルを付けていた。逆に、プロファイルのラベルが異なっていても、同じ意味を持つプロファイルもあった。

4つのプロファイルを同定する12のサンプルの中では、「適応力保持者」(12回出現)、「普通人」(10回出現)、「反適応力保持者」(8回出現) 、「自己開放者」(7回出現)、「自己抑制者」(5回出現)の5つのプロファイル名の中の4つ(どの4つの組み合わせになるかは一致しない)が同定される可能性が高かった。

これらの結果を総合的に判断して、将来的に同様の特性を持つことが同定されたプロファイルには、「適応力保持者」「自己開放者」「自己抑制者」「普通人」「反適応力保持者」という5つのラベルを使用していくことが混乱を避ける意味で有効だろう。

【研究課題2】 最も頻繁に同定されるプロファイルの共通特徴

最も頻繁に同定されるプロファイルの共通特徴を探るために、「適応力保持者」「自己開放者」「自己抑制者」「普通人」「反適応力保持者」という5つのプロファイルの特徴をまとめた。

それぞれの研究について、FFMの各特性を、5つのレベル(「最高」「やや高い」「中間」「やや低い」「最低」)に分けて、各プロファイルの特徴を正確に分析した。

主観的なバイアスを減らすために、2人の著者が特性を別々にコード化し、合意に達するまで話し合いをした。

「適応力保持者」(出現したサンプルは29件)は、「最低」レベルの神経症的傾向 (93%[5])、「最高」レベルの協調性(97%)、外向性 (83%)、勤勉性(86%)、開放性(79%)によって特徴付けられた。

「自己開放者」グループ(出現したサンプルは24件)の個人は、協調性(75%) と勤勉性(88%)のスコアが「最低」レベルの傾向があったが、「自己抑制者」(出現したサンプルは18件)では、神経症的傾向(61%)のスコアが「最高」レベルで、外向性(72%)のスコアが「最低」レベルという傾向があった。

「普通人」のプロファイル(出現したサンプルは20件)は、協調性(75%)、開放性(67%)、勤勉性(75%) で中間のスコアを持つ傾向があった。

「反適応力保持者」のプロファイル(出現したサンプルは11件)は、最高レベルの神経症傾向(91%)と最低レベルの協調性(91%)、外向性(91%)、勤勉性(73%)、開放性(82%) によって特徴付けられた。

以上の結果を簡潔にまとめたのが表2である。

【研究課題3】 プロファイル間の「レベル」と「形状」の違い

プロファイル間のレベルと形状の違いを判断するのに役立つ情報(各プロファイルまたはプロファイルチャートの平均値など)が提供されなかった研究が1つあったが、それ以外の35のサンプルは、5つの特性の「レベル」の違うプロファイルを示した。

ただし、ソリューションの「形状」の違いを示す明確なプロファイルを同定できていなかったサンプルが6つ(17%)あった。

【研究課題4】 プロファイルを区別する最も重要な特性と最も重要でない特性

「神経症的傾向」は、プロファイルを区別する上で他のパーソナリティ特性よりも重要であるように見え、サンプルの 50% で同定され、プロファイル全体で最大の分散を示した。

一方、「開放性」が5つの特性の中で最大の分散を示したのは、サンプルの 11% だけで、逆に、最小の分散を示したのが、サンプルの56%だったことから、「開放性」という特性は、個人を下位グループに分類するという点では、最も重要でない特性であると結論づけられる。

【研究課題5】 プロファイルの数に関連する要因

サンプルサイズ、平均年齢、および性別比は、プロファイルの数との間に有意な関連はなかった。

ただ、FFM設問数は、プロファイルの数と負の関係(r = -0.35,p < 0.05) があった。

「神経症傾向」を直接測定するサンプルと感情的安定性を使用するサンプルの間で、得られたプロファイル数に違いはなかった。

【研究課題6】 国の文化的価値観とプロファイルの数の関連

最後に、国の文化的価値を示す6つの次元のうち、「長期志向」のみがプロファイル数と有意に関連していた(r = – 0.38, p = 0.03)。それ以外の次元は関連がみられなかった。

プロファイル数は、文化的な違いにあまり影響を受けない、つまり、国際的にみて、安定しているということがいえよう。

 

総合考察

1. 議論

プロファイルの数に関する決定は、理論に基づいている必要がある。

たとえば、4プロファイル・ソリューションは理論的にはBlock and Block (1980) の自我適応力と自我制御のモデルの中核にある自己制御の動的プロセスを反映している。

それは、パーソナリティの機能、発達、表現の根底にあるメカニズムへの洞察を提供する。

Isler et al.(2017) は、4プロファイル・ソリューションは、3プロファイル・モデルよりも優れた一貫性と予測可能性を提供できると主張した。

これにより、4プロファイル・ソリューションの信頼性が高まったが、より厳密な理論的テストを提供し、将来の再現作業を形式化するための確認アプローチを奨励したい。

自我適応力と自我制御のモデルとそれらの使用頻度に沿って、プロファイルに関する将来の研究では、いくつのプロファイル・ソリューションを同定するかにかかわらず、使用するラベルとしては、「自己開放者」「自己抑制者」「適応力保持者」「普通人」「反適応力保持者」を用いることを、我々は推奨したい。

よく使用されるプロファイルの共通特徴に関する本調査の結果が、研究者や実務家が今後の研究で同定されたプロファイルにラベルを付けるのに役立つことを願っている。

最後に、Hofstedeの6つの文化的側面とプロファイルの数との関係も調べた。

我々の結果は、「長期志向」のみがプロファイルの数と有意に関連していることを示した。

「長期志向」は、ある文化の構成員が物質的、社会的、感情的なニーズの遅れた満足を受け入れるように認知的にプログラムされている程度を表す。

そのような社会で育った人々は、社会規範の影響を受けやすく、他人から影響を受けやすい。

この文脈では、同様のプロファイルが、より簡単に発達する可能性がある。

2. 本研究の限界と今後の課題

この研究にはいくつかの限界がある。

第一に、含まれる独立したサンプルの数が36で、決定的な結論に達するのに十分でない場合がある。

個人中心アプローチの適用が、パーソナリティの分野でより普及し、研究が増えてくれば、より多くのサンプルと研究を使用して、本研究での発見を再現するよう努める必要がある。

第二に、Hofstede (2011) の文化的価値次元の使用には制限がないわけではない。

当初、これらの次元は、職場の従業員(IBM の 117,000 人の従業員など)から導出された。

そのため、この調査で使用した文化的価値観は、さまざまな国の一般集団からではなく、従業員のサンプルから派生したものであるため、完全に正確ではない可能性がある。

3. 結論

我々の知る限りでは、このレビューは、パーソナリティの潜在的プロファイルを、さまざまな要因(サンプル、測定特性、国の文化的価値など)にまたがって、FFM特性に基づいて体系的に要約した最初の研究である。

この研究が、さまざまな状況でプロファイルを決定し解釈するための有用なフレームワークを研究者や実務家に提供することを願っている。

 

Notes for Readers

[1] 「レベル」の違いとは、特定の個人のパーソナリティ・プロファイル(5つの特性で構成される)全体の中で、特定の特性が「高い」「中程度」「低い」という傾向を持つことを指す。仮想例の図2で、各個人の得点が「高い」「中程度」「低い」ということを指す。 [↑本文に戻る]

[2] 「形状」の違いとは、ある人が、各パーソナリティ特性の明確なパターン(それぞれ「高い」「中程度」「低い」)を持つ傾向を指す。[↑本文に戻る]

[3] 量的な観測変数群の背後に想定される複数の母集団をプロファイルという潜在変数として位置づけ、標本がどのプロファイル(i.e., 母集団)に所属するのかを確率的に表すための分析法(馬場,2021)。[↑本文に戻る]

[4] 母集団は観測されない有限の部分母集団から構成されると仮定され、複数のカテゴリカルな顕在変数に対する異なるパターンの反応を、潜在クラスとして抽出する分析法(藤原,伊藤,谷岡,2012, p.44)。[↑本文に戻る]

[5] ここでの93%とは、出現したサンプル29件のなかの93%、つまり、27件で「最低」レベルに位置づいていたことを示す。以下の%もそういう意味である。[↑本文に戻る]

 

Researcher′s viewpoints

パーソナリティ特性群への反応パターンで各人を類型化するという考え方

このレビュー論文では、LPAやLCAという分析手法を用いて、サンプル内の各個人のパーソナリティ特性への反応パターンに基づいて、少数のパーソナリティ・タイプ(プロファイル)を同定・区分し、各プロファイルの特徴を抽出しようとした研究群の成果をとりまとめ、その全体像を提示しようとしている。

この方法は、パーソナリティ研究だけでなく、さまざまな分野で利用・活用が広がっているようである。

国内での研究動向

Person-centered approach (具体的には、LPAやLCAを研究手法として利用)の研究は、国内でもさまざまな研究領域で増えてきているが、パーソナリティ特性を利用したパーソナリティ・プロファイルに関する研究、とりわけ、企業や職場、採用といった場面を意識した研究は、まだ日本では行われていないようにみえる。(砂原・高尾(2022)は、公務員の組織マネジメントの研究で、Person-centered approach を試みているが、LPAやLCAは使っていない。)

論文の理論的背景

この論文では、潜在的パーソナリティ・プロファイルの理論的な基盤として、Block & Block (1980)の 自我制御(ego-control)と自我適応力(ego-resiliency)のモデル(彼らは、Lewinの透過性モデルに示唆を得たという)があると述べている。

国内で、このモデルに関連する研究は一部行われており、Ego-resiliencyに関する研究は、畑・小野寺(2014)奥上・西川・雨宮(2018)に詳しいので、そちらを参照されたい。

論文が示唆する着目点

この研究の興味深い点は二つある。一つは、パーソナリティ特性への反応パターン・データを使って、サンプル内の個々人を、パーソナリティ・プロファイルという複数の潜在的なグループに分類できることを教えてくれること、もう一つは、その方法を使った研究群の知見がかなり混乱していて、なんとか全体としてわかっていることをとりまとめたいという思いを実現していることであろう。

前者についていえば、データを投入して、LPAやLCAの分析プログラムを走らせて、最適なプロファイル数を決めれば、自動的に各個人がプロファイルのどれかに割り振られるという方法である。

このアイディアは、変数自体は、FFM特性に限定されないはずであるから、企業の適性検査などの結果を利用・活用することも、今後はありうるだろう。

後者については、この分析法には、「プロファイル数が帰納的に導出される」という性質があるため、確定的な結論が出ないことを踏まえたうえで、それでも、多くの研究のなかで共通的にみられる5種類の潜在的プロファイルを同定し、その特徴(各FFM特性への反応の特徴)を注意深く抽出している。

もう一つ、興味深いのは、研究課題6の「国の文化的価値観は、パーソナリティ・プロファイルの数とどのように関連しているか?」についてである。

もとになった、Hofstede (2006)の文化的価値観の6次元が「職場の従業員(IBM の 117,000 人の従業員など)」のデータから導出されたという点である。

職場や企業という文脈での示唆を考えるなら、まさに、ぴったりの条件で抽出された6次元ということになろう。

したがって、5つのパーソナリティ特性に基づくパーソナリティ・プロファイルの数と6次元との関連に関するこの研究の知見、すなわち、「長期志向」以外の5つの次元は関連がなかったという知見は、直接的に意味があるといえよう。

パーソナリティ・プロファイルの数は、職場や企業の文脈では、文化的要因の影響をほとんど受けないということである。

注意を要する点

ただ、このレビューで注意すべき点の一つとして、分析対象となった実証研究の調査対象者は、(Hofstedeの文化的価値の6次元に関する研究と違って)企業の従業員や採用過程における応募者ではないという点をあげておこう。

特定の企業や職場での利用を考える場合には、母集団の違いに注意する必要があるし、企業の採用過程で利用する適性検査は、FFM以外の特性も含んでいるだろうから、それぞれの企業等で、独自にこの種の分析を行って、独自のパーソナリティ・プロファイル群を生成すれば、採用過程に利用できる道が開けるかもしれない。

実際、FFM以外のパーソナリティ特性を使って、パーソナリティ・プロファイルの生成を試みた例がある。

たとえば、Gebben et al.(2021)は、373人の労働者を対象にして、dark tetrad パーソナリティ特性(マキャヴェリアニズム、ナルシシズム傾向、サイコパシー傾向、サディズム傾向)間の相互作用を、彼らの職場逸脱行動(対人逸脱、挑発的無作法、ネットいじめ、懲戒処分)との関連で検討し、3つの異なるプロファイルを生成している。

また、パーソナリティ特性のHEXACOモデル(6因子)を用いて、LPAで5つの明確なパーソナリティ・プロファイルの生成を2つのサンプルで確認した例もある(Daljeet,et al., 2017)。

おわりに

私事になるが、この論文を読みながら、40年ほど前に、同じようなことを考えて研究してみたことがあったのを思い出したので、追記しておきたい。(本論文のデータと違って、カテゴリカルな(質的な)データを使うものだったのだが。)

当時、学校では1人の教師がクラス(あたかも全員が均質であるかのように)全体に一斉授業をするのが普通だった。(今でも基本はそうだと思われるが。)

しかし、担当教師が、新しい単元の学習に入る前に、事前テストを行い、児童の(得点ではなく)回答パターンの類似性に基づいて、彼らを小グループに振り分け、グループごとの回答パターンの特徴が示された表が手に入っていれば、グループごとに別の教授方略を立てられるのではないか。そんな研究だった。

当時は、8ビットのコンピュータで、マトリクス計算は、50×50も不可能だった時代だったので、悪戦苦闘したことが懐かしく思い出される。

「全国の標準的な児童の情報(平均値)や他クラスの児童の情報は不要。それらは、自分のクラスの授業方略立案の役に立たないから。役立つのは、自分のクラスの情報だけで自分のクラスの教授方略を立てられる情報なのだ。」

この状況は、企業や職場にも当てはまるのかもしれない。

母集団の情報はいらない。我が社の全社員のデータだけから、特定の観点で、社員を少数のグループに分類できたら。。。 パーソナリティ以外の観点でも、この発想は役に立つのではなかろうか。

もちろん、質的データ、量的データ、それぞれで使える統計技法は異なってくるけれども、「我が社の社員を特定の観点からグルーピングできる」方法を使いこなせる人が社内にいてくれたら。。」と思うかもしれない。

むろん、外注という方法もあるのだが。

さて、最後に、最初に戻って、変数中心アプローチと個人中心アプローチの違いであるが、前者は研究者に(母集団に関する)普遍的知識を提供してくれるのに対して、後者は実践家に次の一手を考え、踏み出すための知識を提供してくれるもののような気がするがどうだろうか。

Who is writing

神戸大学名誉教授・東京理科大学名誉教授/株式会社経営人事パートナーズ 海外文献リサーチャー

研究者としてのキャリアは、 教育学としての科学教育学から。

その後近代科学の異文化性を中核に据え、 異文化としての科学と人間の関係性を、 教育という切り口から研究してきた。

約40年、 合計4つの大学で教員を務め、定年退職を機に、 教育活動、研究活動の中で最も好きで、最も専門的スキルをみがいてきた、 海外文献の調査 探索 検索収集・分析・要約の活動をフリーランスとして行っている。

未知の研究領域 (人文社会科学系) について学ぶことは、 自分の知的好奇心を満たせることなのだが、 現代社会の中で、このような活動と成果を求めているセクターがあることがしだいに明らかになってきて、 その顕在的・潜在的なニースにささやかながら応えられることが楽しいしうれしい。

教育学、歴史学 、 人類学、 民族学、 民俗学、 社会学、 人材開発、 言語学、 コミュニケーション、 などなど、 知らない分野の研究を覗いてきたが、今回は、HRM や人事採用に関する海外文献の調査研究ということで、 また新しい世界を覗ける機会を得てわくわくしている。

HRM や人事採用については、アウトサイダーであるが、 であるがゆえに、インサイダーの方々とはちょっと違った見方も示せればよいかなと思ったりしている。

チャレンジできる仕事に出会えて感謝。