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伸びる人材を効率よく選考する選考
現在、日本企業における採用選考は、主に「書類選考」「筆記試験」「面接」といった手法がとられています。
採用選考の本来の目的は、職務遂行能力、もしくは職務に関連する学習能力が高い応募者を採用することですが、現在用いている選考手法がどれほどこの目的に合致しているか、立ち返って検討してみたことはありますか。
今回紹介する論文は、人事心理学に基づき、複数の選考手法について、その妥当性及び実用性のメタ分析を行ったものです。
19種に及ぶ選考手法について、実に85年間の研究成果を俯瞰した見解が述べられています。
【原著】
85年間の人事選考に関する研究の統合
過去85 年間の米国での人事選考に関する研究知見を、1980-96 年に発表された15 本のメタ分析論文のデータを再利用して、メタ分析の手法で統合した。
人事選考で広く用いられてきた19 の選考手法について、それらが採用後の職務遂行能力や職務研修学習能力を予測するのにどれほど有用であるか、また、「一般知的能力(GMA) テスト」と他の18 の選考方法を組み合わせた場合の予測的妥当性はどうなるのか、について検討した。
その結果、職務遂行能力予測には、「GMA テスト」+「職務シミュレーションテスト」「GMA テスト」+「高潔性テスト」「GMA テスト」+「構造化面接」の三つの組み合わせが高い有用性を示した。
また、後者二つの組み合わせは、新入社員選考と経験者選考の両方で機能することがわかった。
職務研修学習能力予測には、「GMA テスト」+「高潔性テスト」、「GMA テスト」+「誠実性テスト」の二つの組み合わせが高い有用性を示した。
人事評価法の妥当性、能力の予測因子とは?
実用的観点で人事評価法の最も重要な特性は、将来の職務遂行能力や職務研修学習能力が予測可能かどうかである。
予測的妥当性係数は、評価手法の実用的経済価値(有用性) に正比例することが明らかになっている。
また、予測的妥当性の高い評価手法を採用すると、生産高増加率、生産物の価格価値の増加、職務関連スキル学習の増加で測定される従業員のパフォーマンスが大幅に高まることもわかっている。
過去85 年間の研究から、さまざまな人事手法の妥当性が決定されている。
最もよく知られているのは、経験のない人を雇用する場合、その人の将来のパフォーマンスや学習能力の最も有効な予測因子は、「General Mental Ability (GMA)」つまり知性や一般的認知能力だという点である。
しかし、それ以外にも全体的な妥当性に寄与する手法もいろいろと存在する。
この論文では、メタ分析の知見に基づいて、人事心理学分野の過去85 年間の研究が明らかにしてきたことを検討・要約するとともに、採用、研修、育成配置についての意思決定で利用可能な19 の選考手法による測定の妥当性を明らかにする。
加えて、選考手法について、どのような組み合わせが機能するかも検討する。
実用的観点から、選考手法の妥当性を比較する
表1 は、19 種類の人事選考手法・選考基準が職務遂行能力の予測にどの程度貢献するか(推定平均妥当性)の結果をまとめてある。
19 の人事選考手法の中で、「GMA テスト」が特別な位置を占める。
(1) 新入社員から熟練社員まで、そしてすべての職種で使用できるテストの中で最も妥当性が高く、使用コストが低い。
(2) 職務上の知識習得や職務研修の成績を予測する最良の因子であることもわかっている。
(3) 他の手法よりも理論的基盤が明確である
という理由からである。
「GMA テスト」の単独妥当性0.51 は、高い実用性を示す値である。
「GMA テスト」は選考判断のための主要な人事手法と考えられ、残り18 の人事手法は「GMA テスト」の補足手法と考えることができる。
これらの手法は、それぞれ、「GMA テスト」のみの場合に得られる0.51 よりも、どの程度、職務遂行能力の予測的妥当性を高められるかという点がポイントになる。
妥当性は有用性に正比例するので、第二の尺度を追加することで生じる妥当性の増分は、実用的価値(有用性) の増分でもある。
組み合わせて有用性が大きくなる選考手法は、「高潔性テスト」(有用性増分: 27%)、「構造化面接」(有用性増分: 24%)、「職務シミュレーションテスト」(有用性増分: 24%) である。
ただし、「職務シミュレーションテスト」には、(1) 時間的・経費的にコストがかかる、(2) 職務経験のある応募者にしか使えない、という短所があることに注意が必要。
表2 は、職務研修学習能力の予測に関する研究結果をまとめたものである。
「GMA テスト」の予測的妥当性は0.56 である。
雇用主が「GMA テスト」を利用することは、職務研修から最も多くを学び、職務経験から職務知識をより速く学習する従業員を選んでいることを意味する。
有用性の増加した「GMA テスト」との組み合わせは、「高潔性テスト」(20%) と「誠実性テスト」(16%) であった。
選考手法の改善が人材獲得競争上の優位性となる
会社等の組織では2 つ以上の選考方法を用いることがあり、第3 の変数の追加による妥当性の増加を検討することは有益であろう。
また、GMA を含まない予測変数の組み合わせも、目的によっては有益であろう。
本研究から、将来の職務遂行能力を予測する場合、手法や手法の組み合わせが非常に異なる妥当性を持っていることがわかる。
「興味関心」や「教育年数」は妥当性が非常に低い。
「筆跡学」のように、基本的に妥当性がなく無作為に採用するのと同じものもある。
また、「GMA テスト」や「職務シミュレーションテスト」などのように、高い妥当性を持つものもある。
「GMA テスト」と「高潔性テスト」の組み合わせ(合成妥当性0.65)、「GMA テスト」と「構造化面接」の組み合わせ(合成妥当性0.63) である。
これらの組み合わせは、経験豊富な応募者だけでなく、職務経験のない応募者(エントリーレベル応募者) にも使用することができる。
職業研修学習能力の予測では、「GMA テスト」と「高潔性テスト」(合成妥当性0.67)、「GMA テスト」と「誠実性テスト」(合成妥当性0.65) の組み合わせがうまく機能する。
そして、どちらの組み合わせも、他の多くの組み合わせよりも使用するコストが低い。
したがって、どちらも優れた選択手法である。
採用に用いる人事手法の妥当性は実用的価値に正比例する。
選考手法の妥当性を高めるか、妥当性の低い手法を使い続けるか? 何百万ドルもの違いが生まれる。
世界中で多くの雇用主が、最適とはいえない選考手法をとっている。
例えば、フランスやイスラエルでは、筆跡鑑定士による筆跡分析に基づいて新入社員を採用している組織が多い。
米国では「非構造化面接」に頼っている組織も少なくない。
より有効な選考手法を採用することで、この競争上の不利を競争上の有利に変えることができるのである。
Notes for Readers
【メタ分析】
・同一テーマについて行われた複数の研究結果を統計的な方法を用いて統合する、統計的なレビュー(山田剛史・井上俊哉,『メタ分析入門』、東京大学出版会、2012、p. 1)。
【妥当性】
・そのスコアを利用するときの解釈が、それまで積み重ねられてきた証拠や理論によってどれだけ支持されているかを示す度合(AERA, APA, NCME, 1999)
【妥当性係数】
・「メタ分析の妥当性係数は、せいぜい0.2-0.3 で、0.4 を超えることはまれ」(二村英幸、『人事アセスメント入門』、2001、日経文庫、p.71)
【職務遂行能力】
・原語ではJob performance
【職務研修学習能力】
・原語では、performance of job training (programs)
【論文のフォローアップ研究】
・2016 年に過去100 年間の研究を同様の方法で検討した結果をworking paper の形で報告している。
・30 の選考手法について検討し、そこでも、「GMA+高潔性テスト」(妥当性増分: 20%) 「GMA+構造化面接」(妥当性増分: 18%) が有効な組み合わせとして報告されている。
【日本での類似した研究】
・都澤・二村・今城・内藤 (2005). 「一般企業人を対象とした性格検査の妥当性のメタ分析と一般化」『経営行動科学』Vol.18, No.1, pp.21-30.
・飯塚・持主・内藤・二村(2005) . 「適性検査の予測的妥当性―職種別および製造・非製造業別の分析―」『産業・組織心理学会第21 回大会発表論文集』159-162 頁。
Researcher′s viewpoints
【論文の独自性・質評価】
・米国心理学会が刊行し、150年続く世界トップクラスの学術誌に掲載された論文。
・第一著者Schmidtは、科学的研究法としてのメタ分析の開発パイオニアでこの研究法の世界的権威。同時に妥当性の研究でも著名。
・1998年の論文だが、現在まで合計約7000件(近年では毎年約300件)、世界中の研究者から引用されており、教科書(例:Armstrong’s Handbook of Human Resource Management Practice, 16th ed. 2023, pp.254-255)にも本論文のデータが表で紹介されている。
【優位性】
・多くのメタ分析論文の知見を基礎データとしたメタ分析で、採用後の職務遂行能力(できる力)と職務研修学習能力(のびる力)を予測できる選考手法の組み合わせを実証的に提示した点が優れている。
・しかも、新人採用でも経験者採用でも適用可能という知見は一般化が可能。
【課題点】
・ただし、85年間の知見を統合するということで、時代背景、経済状況、雇用状況等の変化が、職務の内容や職務遂行能力の捉え方の違いにつながり、均質性の点で問題があるかもしれない(Schmitt&Chan,Personnel selection:A theoretical approach. 1998,Sage)。
【論文の有用性】
・国内でも採用研究の分野で引用されている。特に彼らのメタ分析の具体的手法は現在でも有効で活用されている。
・日本では、募集・選考・採用過程で、さまざまな選考手法、検査キットが開発・使用されてきているが、その多様性がかえって利用者側(企業側、求職者側)に困惑・混乱を生じさせることもある。
・本研究の知見からは、「できる人材、のびる人材」の採用には、新人採用か経験者採用かにかかわらず、シンプルに「一般知的能力」と「性格検査(高潔性・誠実性)」、「構造化面接」の利用でほとんど事足りるように思われる。
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