【どんな支援策が「仕事と家庭生活の対立」解消に貢献するのか?】シリーズ 働く女性のワーク・ライフ・バランスを考える vol. 3
育児休暇やフレックス制といった施策は「働く母親」にではなくじつは「働く父親」に大きな影響を与える

Contents
はじめに
今回は、「働く母親」のワーク・ライフ・バランス(以下、WLBと表記します)を考える上で重要な施策である「育児休暇」と「柔軟な働き方(フレキシブルワーク)」をとりあげます。
そしてそれがWLBの課題である「仕事と家庭生活の対立 (Work-Life-Conflict)」の緩和にどのように影響を与えるのかという点に焦点をあてます。
ただ「仕事と家庭生活の対立」という課題の当事者は「働く母親」だけではありません。
パートナーである「働く父親」もまた当事者ということになります。
そのため、「働く母親」「働く父親」のいずれか一方あるいは両方が影響を与える施策を利用すれば、結局のところそれは「働く母親」のWLBに影響を与えるということになるわけです。
今回の研究紹介ではその点をふまえて「働く父親」に影響を与える施策にも目を配ります。
ところで、「仕事と家庭生活の対立」を軽減するための施策としては一般に「育児休暇」と「柔軟な働き方」という制度が想定されています。
「育児休暇」制度はちょっと複雑なので、次の節で少し詳しく説明しますが、「柔軟な働き方」制度のほうは比較的簡単で「フレックス制」「リモートワーク(在宅勤務)」「パートタイム」などのことをいいます。
育児休暇の多様性
最初に育児休暇にはさまざまな種類があることを見ておきましょう。
International Network on Leave Policies and Research という組織が育児休暇に関する年次報告を毎年出しているのですが、その最新版(2023年版)では世界50か国の育児休暇制度を調査して報告しています。
この報告の最初の部分に育児休暇に類型化されるいくつかの休暇の種類が次のように定義されています。

この報告書によれば、出産休暇(産休)のみが世界的に共通して出産する女性に提供されておりそれ以外の育児休暇については「期間」や「母親・父親の期間の分割」「育児休暇中の所得補償のレベル」などの点で非常に多様だということです。
育児休暇を分割して取得することができたりLGBTQパートナーの両方が育児休暇を取得する国もありますし、父親のみが利用できる育児休暇制度をもつ国もあるようです。
このような複雑な育児休暇制度を見直して「包括的育児休暇制度」に一本化する国(アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)も出てきているといいます。
したがって、育児休暇が仕事と家庭生活の対立に与える影響を検討する研究の成果を読み解く場合には「どの国のデータを用いた研究であるのか」「そこでの育児休暇がどういう仕組みで動いているのか」ということに注意する必要があります。
育児休暇制度は仕事と家庭生活の対立にどのような影響を与える?

では次に、育児休暇という制度が仕事と家庭生活の対立にどのような影響を与えているのかを国際比較の観点で研究した論文(Hsiao, 2023)の成果をみてみましょう。
この研究では「アフリカ」「アジア」「欧州」「南米」「北米」の合計24か国(スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイルランド、英、仏、独、スイス、ハンガリー、スロベニア、スペイン、ポルトガル、イスラエル、ロシア、日本、韓国、台湾、フィリピン、豪、ニュージーランド、米、カナダ、メキシコ、南アフリカ)を対象として国際社会調査プログラム(ISSP)の収集したデータから6878名の就労者のデータを無作為抽出して分析しています。
「仕事と家庭のインターフェイス(接点)」を調査するために、「仕事と家庭生活の対立」「家庭状況」「職位」「学歴」「育児休暇制度」(「利用の柔軟性」「期間の長さ」「所得代替率」)と「ジェンダー平等主義」との関係を階層線形モデルという数学モデルで分析・検討しています。
ここで「仕事と家庭生活の対立」を「仕事が家庭生活に干渉する(WFC)」と「家庭生活が仕事に干渉する(FWC)」に分けて取り扱っているのが特徴です。
その結果次のようなことが主に明らかになったと報告しています。
まず「働く父親」の「WFC」「FWC」に大きな影響を与えたのは「育児休暇」の「利用の柔軟性」「所得代替率」であり、「利用の柔軟性」が高くなるとWFCもFWCも両方ともに悪化し、また「所得代替率」が高くなるとWFCやFWCのハードルが下がるそうです。
一方、「働く母親」の「FWC」に大きな影響を与えたのは「育児休暇」の「利用の柔軟性」のみでここでもFWCを悪化させると報告しています。
その理由について著者は、「育児休暇」の「利用の柔軟性」が高い(つまり、時期を調整したり、期間を調整したりしやすい)と仕事のスケジュールを自分でよりコントロールできるようになるため、仕事が家庭生活に侵入したり、家庭生活が仕事に侵入したりするチャンスが増えるといい、仕事と家庭生活の境界があいまいになり「働く父親」「働く母親」ともにFWCが高まるのではないかと述べています。
もう一つ興味深いのは、「育児休暇」の「期間の長さ」という要素は「働く母親」「働く父親」の「WFC」「FWC」のどちらにも影響を与えていません。
また「ジェンダー平等主義」という国レベルの要因の影響については「ジェンダー平等主義」が強い国では「働く父親」のほうがWFCの影響を大きく受けていると報告しています。
その理由について著者は、平等主義社会では男性は家族の問題や家事労働により多くの時間を費やすことが「期待されている」ため、その社会の期待に反して仕事に多くの時間を費やすと男性はより大きなWFCを経験する可能性があるのではないかと述べています。
育児休暇が利用しやすくなる、あるいは柔軟に利用できるようになることは、子育て家族にとってはとてもありがたいことだと思っていました。
しかしこの国際比較研究では「利用の柔軟性」が増すほど仕事のスケジュール管理の自由度が増し、その分仕事と家庭生活の境界線があいまいになって、結果として家庭生活の面でフラストレーションが増したり仕事に支障が出たりする可能性があるということです。
しかもそれは「働く母親」よりも「働く父親」のほうに大きな影響が出るのだというわけです。
育児休暇と柔軟な働き方は父親の介護・家事労働への参加度を高める?

次に、「働く父親」が育児休暇や柔軟な働き方(ここでは、リモートワーク、フレックス制)を利用することは介護・家事労働(無給の労働)の男女平等性にどのような影響を与えるだろうかという問題に取り組んだ研究(de Laat et al., 2023) を紹介します。
カナダで行われた研究です。
カナダの育児休暇のしくみは、米国と同様に連邦制の国なので連邦政府と州政府の関与があるため複雑で、しかも英語圏とフランス語圏(ケベック州)での違いという問題もあります。
育児休暇や育児関連の手当に関しては、主として次の4つのしくみ((1)ケベック州とそれ以外の州で別の育児関連保険プログラム、(2)一部の従業員は政府プログラムを補完する企業提供の賃金補償給付金を受領できる、(3)雇用維持が保証された無給休暇制度が雇用基準法で管理されている、(4)労働組合が団体交渉で組合員の育児関連の手当等を勝ち取る)が機能しているといいます。
それらが絡み合うのでこの国の育児休暇は複雑なのです。
「柔軟な働き方」に関しては育児休暇と比べてそれほど複雑ではないのですが、利用できるかどうかについては全員に均一に提供されるものではない点が特徴です。
カナダでは雇用主に「柔軟な働き方」を提供する法的な義務はありませんが、2018年の調査をみると企業の86%がこれを導入しておりそのほとんどがフレックス制です。
基本的にそれぞれの従業員(自営業者を除く)が柔軟な働き方を利用できるかどうかは雇用主に決める権限がありますが、同時にそれを利用して従業員の仕事の質や量に悪影響が出た場合にはその利用を拒否する権利も保有しています。
この調査研究の参加者ですが、コロナ禍下のカナダを舞台に2021年国際家族調査(10歳以下の子どもと同居する20-59歳までの大人)のカナダ参加者(4683人)から、コロナ禍の前とコロナ禍の時で同じパートナーと同居している男性を無作為抽出して調査への参加を依頼しています。
その結果、分析の対象となったのは988人の「働く父親」でした。
彼らに対して電子メールによる調査を行い、父親の「過去の育児休暇の利用状況」「現在の柔軟な働き方の利用状況」「コロナ禍での父親の介護・家事労働への関与度」を質問しています。
具体的には「育児・家事労働の配分」「家族生活と有給・無給の仕事に関する情報」「欠勤」「メンタルヘルス」「フレキシブルワーク」「子どもの世話のために取得した休暇」「失業」といった事項に関する情報が収集・分析されました。
調査時点が2021年なのでコロナパンデミックの前とコロナパンデミックの最中のデータしかなく、興味があるパンデミック後のデータはこの研究の時点では存在しませんでした。
分析の結果からいくつか興味深いことがわかっています。
まず、柔軟な働き方を利用する父親は介護・家事への直接的な関与の可能性が高くなることがわかりました。
パンデミック中にリモートで働いていた父親は子どもの身体的ケアだけでなく「遊び」「学業の手伝い」「子どもの活動への送迎」といったことにも関与していたと報告しています。
パンデミックは否応なくリモートワークを促進させたため、父親が育児に参加する度合いが強まったことがわかりました。
一方で、もう一つの柔軟な働き方であるフレックス制の利用と育児への参加度との間には統計的に有意な差はなかったのですが、正の相関はあったそうです。
次に、3か月以上の長期の育児休暇を取得した父親は「料理」「食事準備」「キッチン掃除」「室内掃除」「洗濯」「買い物」などの多くの「無給の家事業務」を行っていたことがわかりました。
リモートワークが無給の介護・家事労働への父親母親間での不平等な貢献を是正する可能性があることを指摘しています。
この研究はコロナパンデミックという極めて特殊な社会状況(対面活動の強制的な禁止)が、いわば大規模な社会実験を可能にしたものでとてもユニークな研究だと思います。
WLB施策が機能するための条件とは?

次に紹介する研究(Thehaud and Pedulla, 2022) では、育児休暇やフレックス制といったWLB施策の成否に影響を及ぼす要因として(1)経済的要素、(2)制度利用に伴う悪影響への懸念という二つを取り上げて検討しています。
ここで「経済的要素」というのは「収入に関する短期的な影響」ということで、具体的にいえば育児休暇やフレックス制を利用した場合に本来の給与の全額が保障されるのか、いくらか減額されるのか、といった問題の影響ということです。
「制度利用に伴う悪影響への懸念」というのはその制度(たとえば育児休暇やフレックス制)を利用すると利用しなかった場合に比べて業務評価や賃金査定、昇進チャンスなどの点で不利になるのではないかという懸念のことです。
「働く父親」「働く母親」がWLB施策(育児休暇やフレックス制)を利用するのに、この二つの要因がどのような影響を与えるのかを実験的な手法で解明を試みています。
実験対象者ですが米国の調査会社GfK(人口構成を反映した登録者パネル)を通して、18歳から44歳(つまり、子育て世代)の異性愛者を自認する就労者4444名に参加依頼を行い、結果として最終的に2036名が参加してくれました。
彼らの性別、年齢、人種、教育歴、地域性、世帯収入、持ち家、インターネット環境などの条件は国勢調査の比率で調整済です。
実験は「以下に示すいくつかの条件のもとではあなたは育児休暇やフレックス制を利用しますか」と質問し、回答は利用可能性として1%から100%までの数値で答えてもらう形式です。
まず育児休暇(12週間)に関しては「無給」「有給50%」「有給100%」の三つの条件のもとでの利用可能性を答えてもらいます。
次にフレックス制(総労働時間数は変化せず給与も同じという条件で)の利用可能性を答えてもらいます。
そして、それぞれの条件のもとで以下の追加情報を与えた場合、利用可能性が何%になるかを答えてもらい、それを追加情報を与えなかった場合の結果と比較します。
追加情報の一つは「制度を利用することで昇進チャンスが低下する(高い懸念)」「制度を利用しても昇進に無関係(低い懸念)」です。
もう一つの追加情報は「その制度を利用する人はごく少数(高い懸念)」「その制度は多くの従業員が利用(低い懸念)」です。
さてこの実験から何がわかったでしょうか?
まず育児休暇の利用についてみてみましょう。
追加情報を与える前の状態でみると、(1)制度の利用可能性に大きく貢献するのは「賃金代替率」である、(2)「賃金代替率」の上昇は女性よりも男性に大きな影響を与える、(3)育児休暇の利用希望者は「賃金代替率」に関わらず女性と比べて男性は10%低い、ということです。
一方、追加情報を与えた場合には(1)制度の利用可能性は「昇進に影響しない」場合に高くなる、(2)この効果は性別による違いはない、(3)制度の利用者が多いか少ないかは制度の利用可能性に影響を与えない、ということがわかりました。
ではフレックス制の利用についてみてみましょう。
こちらでは男性も女性も「昇進に影響しない」という条件のもとで利用希望率が上昇したそうです。
以上の結果から明確にいえることは、WLBに関する施策(育児休暇やフレックス制)の利用率を高めるためには(1)短期的には、賃金補償を充実させること、(2)長期的には制度利用が昇進や昇給面で不利にならないしくみにすること、が必要だということです。
ただ「制度利用は昇進や昇給面で不利にならない」というしくみが正式にできたとしても、それがきちんと額面通りに機能するかどうか、その懸念が強いとやはり制度利用は進まないのかもしれないと思いながらこの研究結果を読ませてもらいました。
おわりに

今回は「働く母親」を支援するWLB施策(育児休暇やフレックス制)がどのような条件だったらうまく機能するのかという点に焦点をあてて、海外の研究文献を調査して内容を紹介しました。
リサーチャーとしては「働く母親」への直接的な支援のほかに「働く父親」への強力な直接的支援が効果的なのだということにちょっと感動しました。
「働く父親」にもリッチな支援施策を提供することで、彼らが家族のWLBに貢献しそれが結果的に「働く母親」のWLBの向上につながるのであれば十分に検討の余地があると思いました。
ただ、育児休暇の取り方の自由度が大きかったり柔軟な働き方で仕事のスケジューリングの自由度が大きかったりすると、逆に仕事と家庭生活の境界があやふやになって結果的にWLBがとれなくなるという可能性もあるので、「働く母親」「働く父親」そして雇用主(あるいは人事担当者)も注意をする必要があるでしょう。
さて、皆さんはどのような制度どのような条件だったらもっとWLB施策を利用できるとお考えでしょうか?
