レジリエンストレーニングの必要性
レジリエンスは精神的回復力という言葉から、トラブルが起きた時の対応力というイメージを持たれるかもしれませんが、そこには「適応力」という意味も含まれます。
そのため、例えば急速な市場変化に直面した企業が、社員の適応力を高めるためにレジリエンストレーニングを行うことで、変化をチャンスと捉えるような個人の姿勢や風土を育てることもできます。
具体的には、生成AIのような未知の領域に対応できる人材を育てることで、組織の成長スピードを早める・・・なんてことも可能なわけです。
レジリエンストレーニングの効果とは?
そんなレジリエンストレーニングでは、具体的に以下のような効果が期待できるでしょう。
- 変化を積極的に受け入れ、柔軟に対応する力が身につく
- セルフマネジメントができるようになり、どのような状況でも安定的なパフォーマンスを発揮できる
- ストレス耐性が高まり、心身の健康維持にも効果がある
- 組織内の人材の自己肯定感を高め、より良い組織作りを行うことができる
- 困難な場面であっても、論理と感情をコントロールし、健全に現実を観察する能力が身につく
- 目標達成力の向上やメンタルヘルスに関する問題の減少につながる
- 企業価値を向上させることができる、など
とは言え、社員が抱える課題は年代や役割によって変わりますので、トレーニングを行う際にはそれぞれのニーズを明確にしておく必要があります。
若手社員が直面するレジリエンスの課題
若手社員において想定される壁は、やはり知識・経験不足から来る失敗でしょう。
例えば、新しいプロジェクトへの参加や、予期せぬクレーム対応など、初めての失敗に直面すると、若手社員は早期退職やメンタルヘルスの問題を抱えることがあります。
また、いわゆる「空気を読む」という行動がストレスにつながることもありますが、レジリエンスの強化を通じて、これらの課題を克服できます。
若手社員の場合は、特に成功と失敗をポジティブな視点で捉え、自尊心を育てることが成長のために不可欠です。
リーダーに要求されるレジリエンス
リーダーには、目標達成、チーム管理、顧客対応など、幅広い分野で課題があるため、それに対応するためのレジリエンスが求められます。
また、自身だけではなくチームや部下のレジリエンスも重視しなくてはなりません。
若手は個人的なレジリエンスの構築に、リーダー層は組織全体のレジリエンス強化に焦点を当てたトレーニングが必要となります。
レジリエンスを高め、逆境を乗り越える方法
では、レジリエンスを高めるために、どんなトレーニング方法が効果的なのでしょうか?
今回は「論理」と「感情」の視点から具体的な3つの方法をお伝えしておきます。
1.ABC理論
ABC理論は、アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスが提唱した、認知行動療法理論の1つです。
- 出来事(Activating events)
- それに対する信念(Belief)
- その結果生じる感情(Consequences)
の頭文字をとって、ABC理論と呼ばれています。
具体的には、出来事(A)から感情(C)が生まれる間には信念(B)が存在しており、この信念を見直すことで、感情を変化させる(出来事の解釈を変える)という方法です。
具体的な事例として、職場での状況を考えてみましょう。
<具体的な事例>
出来事(A): 上司にプレゼンテーションの内容で厳しいフィードバックを受ける。
信念(B): 「上司は私の能力を疑っている。私はダメな社員だ」と自分を責める。
感情(C): 落ち込み、不安を感じる。
この場合、ABC理論に基づき信念(B)を見直します。
例えば、「上司は私を成長させようとしている。このフィードバックは私のスキル向上のチャンスだ」というようにポジティブな解釈をすることで、感情(C)が変化し、向上心や学ぶ意欲を感じるようになるでしょう。
この理論を通じて、感情や反応をより良くコントロールする方法を学びます。
2.マインドフルネス瞑想
マインドフルネスは、これまでの研究により、不安や抑うつ、睡眠の質向上、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の軽減などに効果がある可能性が示されていることからも、レジリエンス向上に期待できます。
ちなみにマインドフルネスと聞くと、多くの場合で「呼吸を使って瞑想すること」と思われがちです。
しかし、マインドフルネスとは現在の瞬間に集中し、自分の感情や考えを客観的に観察することを指します。
例えば、通勤途中で歩いている時など、自分の手足を動かす感覚に集中することもマインドフルネスに入るのです。
お昼休憩など少しの時間で、手軽に試せる方法と言えます。
3.感情日記の記録
これは「ジャーナリング」という方法で、書く瞑想とも呼ばれています。
感情やそれに関連する状況を日記に記録し、自己の感情パターンを理解するのに役立ちます。
ABC理論でも出てきましたが、感情は出来事の結果や印象を左右する、とても重要な要素です。
ジャーナリングを通じて感情に注目し、なぜその感情を抱いたのか?という分析から、ABC理論へ繋ぐこともできるでしょう。
ここでは分かりやすく「感情」としていますが、頭の中に浮かんだことを、制限なく書いていく方法でも全く問題ありません。
以上がレジリエンスを高める3つの方法です。
トレーニングを行う前提条件
レジリエンストレーニングは決して難しいものではなく、個人であれば今この瞬間から始めることが可能です。
しかし、もしチームで行う場合には、いくつか前提条件がありますのでお伝えしておきます。
<心理的安全性を高める>
心理的安全性とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる環境のことであり、レジリエンストレーニングの効果を高める上で必要不可欠です。
心理的安全性が高いチームでは、メンバーは失敗を恐れずに意見やアイディアを共有し、新しいことにチャレンジする意欲を持つことができます。
このような環境は、個人のレジリエンスだけではなく、結果的にチームとしてのレジリエンス向上を促してくれるでしょう。
<個々の資質にも配慮する>
とある論文によると、レジリエンスは「資質的要因」と「獲得的要因」に分けられるとされ、特に資質的要因(例:楽観性、統御力、社交性、行動力など)は先天的な特性が強く、トレーニングでは向上が難しいとも言われています。
例えば、脳科学においては遺伝的な違いから、人間には「楽観脳」と「悲観脳」があるとされています。(欧米人には楽観脳が多く、日本人には悲観脳が多い)
そう考えると、楽観脳の持ち主に対して有効だったトレーニングを、悲観脳の持ち主に行うことは効果的では無い可能性がありますよね。
それに対して、獲得的要因(例:問題解決志向や自己理解)は教育やトレーニングにより身に付けやすく、且つ個人や組織にとっても重要なスキルです。
つまりトレーニングでは、獲得的要因を意識することで、無理なく効果的に行うことができるはずです。
レジリエンスは、個人の特性とトレーニングによって形成される側面があることを理解した上で、それぞれに合ったアプローチが必要となるでしょう。
個人のタイプについてはこちらも併せてご覧下さい。
<具体的なスキル開発に焦点を当てる>
レジリエンストレーニングから得られる効果は、様々なシチュエーションで活用できますが、社内においては具体的な目的がある方が、より成果を感じやすいでしょう。
そのため、チームでのレジリエンストレーニングを通じて、具体的なスキル開発に焦点を当てることも重要です。
例えばレジリエンスを高めた先に、問題解決能力、対人関係のスキルを高めるなど、実践的なスキル獲得を設定します。
そうすることで、チームメンバーは具体的な状況で、過去の自分と比較しながら、レジリエンス向上を目指すことができます。
これらの前提条件を踏まえた上で、レジリエンストレーニングを行うと、より組織としてのメリットも高まるはずです。
トレーニングの効果を確認するチェックリスト
ここまでレジリエンストレーニングの内容と、注意点などをお伝えしてきましたが、肝心なのは「トレーニングの効果が出ているかどうか?」ですよね。
というわけで今回は、レジリエンストレーニングの効果をチェックするためのチェックリストを用意しました。
以下のような視点から、トレーニングの効果を測定してみてください。
- ストレス耐性の向上: 困難な状況に対する耐性が高まったか。
- ポジティブな思考パターン: 逆境に直面しても前向きな姿勢を維持できるか。
- 問題解決能力: 複雑な問題に対して効果的な解決策を見つけられるか。
- 感情の自己管理: 感情をうまくコントロールし、適切に表現できるか。
- 柔軟性: 新たな変化やアプローチに対応できるか。
- 自己効力感の向上: 自分の能力を信じ、積極的に行動できるか。
- 回復力: 困難や失敗から速やかに立ち直ることができるか。
- サポートの利用: サポートが必要な際に周囲に頼ることができるか。
- 目標設定と達成: 明確な目標を設定し、それを達成するための行動がとれるか。
- 自己受容と自己成長: 自己の長所と短所を受け入れ、継続的な自己成長を実感できるか。