逆境に強い人材を育てる「レジリエンス・トレーニング」とは?

この記事では、最近注目されている「レジリエンス」について、具体的なトレーニング方法や注意点などを分かりやすく解説します。

逆境に強い人材を育てる「レジリエンス・トレーニング」とは?
 

今回のテーマは現代の人材育成において、最も重要なポイントと言っても過言では無い「レジリエンス」について解説します!

・・・と、勢いよく始めたいところなのですが。

最近注目されているとは言え、まだまだ「レジリエンス」という言葉を日常的に使う方は、そこまで多くないように思います。

私は自身のコーチングに「レジリエンスを高める」というテーマを加えていることもあり、クライアントには毎回「レジリエンスって知ってますか?」という質問をしています。

すると、実際6〜7割くらいの方からは「知りません」という答えが返ってきます。

恐らく、レジリエンスと聞いてパッと分かるのは、人事を担当されている方や、何かしらの形で人材教育やメンタルケアに関わっている人くらいなのかな?という認識です。

ただ興味深いことに、今回記事を執筆しながらGoogleを調べていると、どうやら「マネジメント」という言葉よりも検索されている数が多くなっている様子。

それだけ注目されているということですね。

まだ馴染みがなかったり、分かるようで分からない言葉かもしれませんが、レジリエンスは人材育成においてものすごく重要なポイントなのです。

というわけで、今回はそんなレジリエンスについて、言葉の意味はもちろん

  • 組織の人材育成においてレジリエンスがなぜ重要なのか?
  • 個々のレジリエンスが高まるとどうなるのか?
  • 具体的にどうやってレジリエンスを高めるのか?

について解説します。

なるべく分かりやすくお伝えしますので、是非最後まで読んで、人材育成に活かしてくださいね。

レジリエンスとは?

レジリエンスとは?

では早速言葉の意味について、レジリエンスを一言で表すと「精神的回復力」のことです。

念の為、Wikipediaの説明も補足しておきましょう。

「脆弱性(vulnerability)」の反対の概念であり、自発的治癒力の意味である。「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」「再起力」などとも訳されるが、訳語を用いずそのままレジリエンス、またはレジリアンスと表記して用いることが多い。

言葉の使い方としては「レジリエンス(回復力)が高い・低い」という使い方がされます。

よく柔軟性のある人のことを「竹のようにしなやかな人」といった表現をしますが、まさにあのイメージがレジリエンスにぴったりですね。

たとえば、ある営業マンが大きな失敗を経験した後、それを教訓として新しい戦略を考え、成功を収めたとすると、この営業マンは「レジリエンスが高い」と言えるでしょう。

トラブルやミスがあったとしても、柔軟に対応し早期に立ち直れる力を持っている人は、組織にとって頼もしい存在ですよね。

最近で言えばコロナのような世界的なトラブルが起きたとしても、レジリエンスが高い人が集まっている組織(=レジリエンスが高い組織)は回復が早いはずです。

レジリエンスは、個人や組織にとって非常に重要なんです​​​​ね。

レジリエンストレーニングの必要性

レジリエンスは精神的回復力という言葉から、トラブルが起きた時の対応力というイメージを持たれるかもしれませんが、そこには「適応力」という意味も含まれます。

そのため、例えば急速な市場変化に直面した企業が、社員の適応力を高めるためにレジリエンストレーニングを行うことで、変化をチャンスと捉えるような個人の姿勢や風土を育てることもできます。

具体的には、生成AIのような未知の領域に対応できる人材を育てることで、組織の成長スピードを早める・・・なんてことも可能なわけです。

レジリエンストレーニングの効果とは?

そんなレジリエンストレーニングでは、具体的に以下のような効果が期待できるでしょう。

  • 変化を積極的に受け入れ、柔軟に対応する力が身につく
  • セルフマネジメントができるようになり、どのような状況でも安定的なパフォーマンスを発揮できる
  • ストレス耐性が高まり、心身の健康維持にも効果がある
  • 組織内の人材の自己肯定感を高め、より良い組織作りを行うことができる
  • 困難な場面であっても、論理と感情をコントロールし、健全に現実を観察する能力が身につく
  • 目標達成力の向上やメンタルヘルスに関する問題の減少につながる
  • 企業価値を向上させることができる、など

とは言え、社員が抱える課題は年代や役割によって変わりますので、トレーニングを行う際にはそれぞれのニーズを明確にしておく必要があります。

若手社員が直面するレジリエンスの課題

若手社員において想定される壁は、やはり知識・経験不足から来る失敗でしょう。

例えば、新しいプロジェクトへの参加や、予期せぬクレーム対応など、初めての失敗に直面すると、若手社員は早期退職やメンタルヘルスの問題を抱えることがあります。

また、いわゆる「空気を読む」という行動がストレスにつながることもありますが、レジリエンスの強化を通じて、これらの課題を克服できます。

若手社員の場合は、特に成功と失敗をポジティブな視点で捉え、自尊心を育てることが成長のために不可欠です。

リーダーに要求されるレジリエンス

リーダーには、目標達成、チーム管理、顧客対応など、幅広い分野で課題があるため、それに対応するためのレジリエンスが求められます。

また、自身だけではなくチームや部下のレジリエンスも重視しなくてはなりません。

若手は個人的なレジリエンスの構築に、リーダー層は組織全体のレジリエンス強化に焦点を当てたトレーニングが必要となります。

レジリエンスを高め、逆境を乗り越える方法

レジリエンスを高め、逆境を乗り越える方法

では、レジリエンスを高めるために、どんなトレーニング方法が効果的なのでしょうか?

今回は「論理」と「感情」の視点から具体的な3つの方法をお伝えしておきます。

1.ABC理論

ABC理論は、アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスが提唱した、認知行動療法理論の1つです。

  • 出来事(Activating events)
  • それに対する信念(Belief)
  • その結果生じる感情(Consequences)

の頭文字をとって、ABC理論と呼ばれています。

具体的には、出来事(A)から感情(C)が生まれる間には信念(B)が存在しており、この信念を見直すことで、感情を変化させる(出来事の解釈を変える)という方法です。

具体的な事例として、職場での状況を考えてみましょう。

<具体的な事例>

出来事(A): 上司にプレゼンテーションの内容で厳しいフィードバックを受ける。

信念(B): 「上司は私の能力を疑っている。私はダメな社員だ」と自分を責める。

感情(C): 落ち込み、不安を感じる。

この場合、ABC理論に基づき信念(B)を見直します。

例えば、「上司は私を成長させようとしている。このフィードバックは私のスキル向上のチャンスだ」というようにポジティブな解釈をすることで、感情(C)が変化し、向上心や学ぶ意欲を感じるようになるでしょう。

この理論を通じて、感情や反応をより良くコントロールする方法を学びます​​。

2.マインドフルネス瞑想

マインドフルネスは、これまでの研究により、不安や抑うつ、睡眠の質向上、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の軽減などに効果がある可能性が示されていることからも、レジリエンス向上に期待できます。

ちなみにマインドフルネスと聞くと、多くの場合で「呼吸を使って瞑想すること」と思われがちです。

しかし、マインドフルネスとは現在の瞬間に集中し、自分の感情や考えを客観的に観察することを指します。

例えば、通勤途中で歩いている時など、自分の手足を動かす感覚に集中することもマインドフルネスに入るのです。

お昼休憩など少しの時間で、手軽に試せる方法と言えます。

3.感情日記の記録

これは「ジャーナリング」という方法で、書く瞑想とも呼ばれています。

感情やそれに関連する状況を日記に記録し、自己の感情パターンを理解するのに役立ちます。

ABC理論でも出てきましたが、感情は出来事の結果や印象を左右する、とても重要な要素です。

ジャーナリングを通じて感情に注目し、なぜその感情を抱いたのか?という分析から、ABC理論へ繋ぐこともできるでしょう。

ここでは分かりやすく「感情」としていますが、頭の中に浮かんだことを、制限なく書いていく方法でも全く問題ありません。

以上がレジリエンスを高める3つの方法です。

トレーニングを行う前提条件

トレーニングを行う前提条件

レジリエンストレーニングは決して難しいものではなく、個人であれば今この瞬間から始めることが可能です。

しかし、もしチームで行う場合には、いくつか前提条件がありますのでお伝えしておきます。

<心理的安全性を高める>

心理的安全性とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる環境のことであり、レジリエンストレーニングの効果を高める上で必要不可欠です。

心理的安全性が高いチームでは、メンバーは失敗を恐れずに意見やアイディアを共有し、新しいことにチャレンジする意欲を持つことができます。

このような環境は、個人のレジリエンスだけではなく、結果的にチームとしてのレジリエンス向上を促してくれるでしょう。

<個々の資質にも配慮する>

とある論文によると、レジリエンスは「資質的要因」と「獲得的要因」に分けられるとされ、特に資質的要因(例:楽観性、統御力、社交性、行動力など)は先天的な特性が強く、トレーニングでは向上が難しいとも言われています。

例えば、脳科学においては遺伝的な違いから、人間には「楽観脳」と「悲観脳」があるとされています。(欧米人には楽観脳が多く、日本人には悲観脳が多い)

そう考えると、楽観脳の持ち主に対して有効だったトレーニングを、悲観脳の持ち主に行うことは効果的では無い可能性がありますよね。

それに対して、獲得的要因(例:問題解決志向や自己理解)は教育やトレーニングにより身に付けやすく、且つ個人や組織にとっても重要なスキルです。

つまりトレーニングでは、獲得的要因を意識することで、無理なく効果的に行うことができるはずです。

レジリエンスは、個人の特性とトレーニングによって形成される側面があることを理解した上で、それぞれに合ったアプローチが必要となるでしょう。

個人のタイプについてはこちらも併せてご覧下さい。

<具体的なスキル開発に焦点を当てる>

レジリエンストレーニングから得られる効果は、様々なシチュエーションで活用できますが、社内においては具体的な目的がある方が、より成果を感じやすいでしょう。

そのため、チームでのレジリエンストレーニングを通じて、具体的なスキル開発に焦点を当てることも重要です。

例えばレジリエンスを高めた先に、問題解決能力、対人関係のスキルを高めるなど、実践的なスキル獲得を設定します。

そうすることで、チームメンバーは具体的な状況で、過去の自分と比較しながら、レジリエンス向上を目指すことができます。

これらの前提条件を踏まえた上で、レジリエンストレーニングを行うと、より組織としてのメリットも高まるはずです。

トレーニングの効果を確認するチェックリスト

ここまでレジリエンストレーニングの内容と、注意点などをお伝えしてきましたが、肝心なのは「トレーニングの効果が出ているかどうか?」ですよね。

というわけで今回は、レジリエンストレーニングの効果をチェックするためのチェックリストを用意しました。

以下のような視点から、トレーニングの効果を測定してみてください。

  1. ストレス耐性の向上: 困難な状況に対する耐性が高まったか。
  2. ポジティブな思考パターン: 逆境に直面しても前向きな姿勢を維持できるか。
  3. 問題解決能力: 複雑な問題に対して効果的な解決策を見つけられるか。
  4. 感情の自己管理: 感情をうまくコントロールし、適切に表現できるか。
  5. 柔軟性: 新たな変化やアプローチに対応できるか。
  6. 自己効力感の向上: 自分の能力を信じ、積極的に行動できるか。
  7. 回復力: 困難や失敗から速やかに立ち直ることができるか。
  8. サポートの利用: サポートが必要な際に周囲に頼ることができるか。
  9. 目標設定と達成: 明確な目標を設定し、それを達成するための行動がとれるか。
  10. 自己受容と自己成長: 自己の長所と短所を受け入れ、継続的な自己成長を実感できるか。

チームにおいてはもちろん、個人でも定期的にチェックすることで、業務に対する自信向上に繋げることができると思います。

まとめ:今後の展望とレジリエンスの未来

まとめ:今後の展望とレジリエンスの未来

さて、今回はレジリエンスについて、特に心理的な視点から解説してきました。

なるべく分かりやすくお伝えしたつもりですが、いかがだったでしょうか?

最後に、レジリエンスの向上が今後の私たちの暮らしや働き方に、どんな影響を与えるか?について、いくつかの視点から私なりの考えをまとめておきたいと思います。

リモートワークとレジリエンス

昨今のリモートワークの普及により、私たちの働き方が大きく変化しています。

そんな中で自己管理能力と適応力がさらに重要になっていますが、このようなセルフマネジメントという視点からも、レジリエンスが注目されると思います。

組織文化とレジリエンス

最近では「レジリエンス経営」という言葉があるように、企業文化や組織構造の変化に伴い、レジリエンスを重視した組織開発が更に進むことが予想されます。

環境変化や市場の変動に対応するために、レジリエンスを経営理念に組み込んだ企業が、これから先どんどん増えていくでしょう。

そんな時に求められる人材は、やはりレジリエンスが高い、もしくはそこに共感し自発的に自己開発できる人材ですね。

日常生活におけるレジリエンスの役割

ストレスフルな日常生活において、レジリエンスが個人の幸福感と健康維持に大きく関わります。

学校教育においてもレジリエンスの概念が組み込まれ、子どもたちのストレス管理能力と適応力を高める教育が更に推進されていくと思います。

このように、レジリエンスは今後も私たちの働き方、生活、そして組織の運営に大きな影響を及ぼし続けるでしょう。

冒頭でもお伝えしましたが、私は数年前から自分のコーチングに、レジリエンスを向上させる要素を取り入れています。

なぜなら、私自身レジリエンスが低く、社会生活で息苦しさを感じていたからなんです。

しかし、レジリエンスはトレーニングによって向上させることができます。

そのことを、私自身とクライアントの変化から確信しています。

だからこそ、いま同じような悩みを抱えている方に対して、コーチングを通じてレジリエンスを高めるよう促しています。

是非、この機会にあなたも自分自身と、自分のチームメンバーのレジリエンスを高めるような行動を意識して頂けると嬉しく思います。

Who is writing

岩下 知史(いわした ともふみ)

職業:メンタル&ビジネスコーチ、ライター。

クライアントは経営者、会社役員、ドクター、看護師、個人事業主〜主婦まで多岐に渡る。

大学卒業後は主にホテル業界に従事、東証一部上場企業にてチームマネジメントに携わり20名ほどの部下を抱える。

離職率の高いホテル業界で、人材教育へのプレッシャーから躁鬱病を経験するも、それまで一度も予算達成したことがなかったチームを常勝チームへと成長させる。

その後2015年に独立、様々な成功と失敗体験を積む中で「教育」に情熱があることを再認識し、経験・人脈ほぼゼロの状態から、コーチング、ライティング、Webマーケティング、研修講師業などを通じて本格的に人材教育業界へ。

2020年からは世界で100万人が活用しており、MicrosoftやIBMといった有名企業に人材育成ツールとして導入されている「ウェルスダイナミクス」において、専属のメルマガライター兼・日本に3人しかいない公認トレーナーを務める。

その間は1,000人以上のビジネスパーソン、有資格者の指導にあたり、2022年にトレーナーを卒業〜現在に至る。

人生のミッションは「自ら思考・選択・行動できる人材を育てること」、趣味はギターと筋トレ、心理や精神世界に関する読書、娘と遊ぶこと。