ギャップの少ない就職のコツとは?【自己理解編】おさえたい8つのポイント(前編)
就活で避けては通れない「自己理解」。どこに難しさがあるのか、何がカギなのか。転職にも応用できるポイントを、セミナー形式でお送りします。
Contents
この記事は、次のような悩みをお持ちの方々にお届けします。
学生
- 自己PRが自分のなかでしっくりきていない
- 面接対策をしなくても、もっと楽に自分の言葉で話せるようになりたい
- すでに数社の内定をもらっているが、どの企業に決めるか迷っている
転職を考え中の方
- いい転職先があれば検討したいが、自分の軸がいまいち理解できていない
- 一度ゆっくり自分と向き合う時間がほしい
学生支援者
- テンプレートではなく、学生一人ひとりの状況に合わせた支援をしていきたい
- 現在の就活対策に、本当は疑問を感じている
人事
- 採用の精度が上がらない
自分を理解するとは?
前回の記事では、就職活動をはじめる前に、前提としておさえておきたい「捉え方」について、3つのポイントをみてきました。 (前回の記事はこちら)
そして、就職活動の目的は、「自分の働く目的を実現できそうな企業で、力を発揮すること」と定義しました。
前提が揃ったところで、今回はギャップの少ない就職をするための「自己理解編」として、大切にしたい8つのポイントをご紹介します。
はじめに、「自分を理解している」とは、どのような状態を指すのでしょうか?
自分を理解している状態とは、「自分のことを、ありのまま正しく捉え、自分の言葉で言語化できる」状態のことです。
言語化の手段は、書くでも話すでも、まずは得意な方で大丈夫です。自分の言葉で言語化できないうちは、まだ完全に理解できているとは言えません。
なぜ、言語化できないのか。自分の中に何があるのか、まだ正確に捉えられておらず、その正体がはっきりしていないからです。
具体的に、まずは他者の例でみてみましょう。
例えば、
・私は、あの人の気持ちを知っている
・私は、あの人の気持ちを理解している
この2つは、ずいぶん異なりますよね?
あの人の気持ちを知っているとは、ただ、気持ちが「在る」という、存在を知覚している状態です。この場合は、知っているだけなので、自分とつながっておらず、いわば他人事です。
そのため、どのような気持ちか説明しようとしても、まだ曖昧で、憶測でしか捉えられていません。
一方で、あの人の気持ちを理解しているとは、相手の気持ちの正体が明確になっています。その気持ちをありのまま捉えられており、そこに自分の感情や評価は入りません。
ただ相手の気持ちを、そのまま、自分の中に落とし込めている状態です。そのため、相手がどのような気持ちなのか、自分の言葉で説明することができます。
これを自分に置き換えてみると、
・自分の気持ちを知っている
・自分の気持ちを理解している
一度ご自身の中で、置き換えてみてください。
いかがですか?
自分の気持ちを知っているだけでは、それ以上、何も先に進まないと思いませんか?
まだ「自分事」として、つながっていない状態。これが「自分を知っている」という状態で、自分を理解する前の段階です。
例えば、友人に悩みごとを相談したときに、「なんかうまく言えないんだけど、この感じ、伝わる?」という場面、ありませんか?
この “私の言いたいニュアンス伝わりますか?” 状態、これが、自分を理解している一歩手前の状況です。
自分の中に、確かに気持ちが存在するということは知っていても、その中身がはっきりしていないので、言語化できないのです。
もし、この友人が、あなたの気持ちや意図を正確に汲みとってくれて、「それって、こういうことなんじゃない?」と、バシっと言語化してくれた場合、それが言いたかった!そっか、私はそう思っているんだな、と気づくことができ、自分の中で腑に落ちると、やっと「理解している」という状態になるのです。
そして、次からは自分の表現で、その気持ちを言語化できるようになっています。
この場合は、自己理解のために他者の力を借りていますが、これを基本的には、まず自分自身でやっていくことが、就職活動における自己分析・自己理解です。
流れとしては、自己分析で自分を知り、理解することで言語化できます。
今回は、自分の「気持ち」で例を挙げましたが、自分の「考え」だったり、「資質」だったり、自分の内面に応用できます。
この「知る」→「理解する」の間の“矢印部分のプロセス”が、就活生だけでなく、誰もが苦戦しがちなところです。自分事として、つなげていく作業ですね。
就職活動や転職活動で最初にしんどくなる場面は、この “→” を自分で考え、感じて、気づいたり判断したりしながら、理解につなげていく時間かもしれません。
例えば、エントリーシートを書いていて、「あー、もう分からないんだけど!」と、投げ出したい気持ちになるとき、ちゃんと自分で「分からない」って言っていますね。
そう、理解しようとして、まだ理解できていない “→” の時間です。
だから、自分を理解することは、時間がかかり、奥が深いのです。
そして、自分を理解した先に、その自分を受け入れられるか、という「自己受容」の段階がありますが、今回は自己理解までのステップをお伝えしたいと思います。
なぜ、自己理解が必要なのか?
自己理解がどのようなものであるかをお伝えしたところで、次は、なぜ?です。
みなさんは、なぜ、自己理解が必要だと思いますか?人それぞれこたえがあると思いますが、筆者は次のように捉えています。
・自分のことは、自分以外の人が100%理解することは不可能だから
・外側でどんな変化があっても、落ち着いて対応できるから
・次の行動のための判断軸になるから
・他者を理解できるようになるから
まだまだ、たくさんあると思いますが、この4点、ひとつ共通点があります。
こたえは、「就職活動と関係ない」です。
そう、自分を理解することは、就職活動だから必要なのではありません。この自分と、これから先もずっと付き合っていくことになります。キャリアを積み重ねていく中で、新しい自分を発見することもあります。
しかも、自己理解が進めば進むほど、自分のことで悩む時間が減っていき、自分にとって必要なものとそうでないものとが、はっきりしてきます。そのため、自分の軸ができていきます。
軸ができると、他者や世間に振り回されにくくなり、その軸で楽しく行動できます。そして、自分のことが明確になるので、自分以外の人を理解しようとする余裕が生まれます。
これって最強、メリットだらけです。
しかし、私たちは残念ながら、就職活動で自己分析をするときがやってくるまで、自分が何を考えているのか、どう感じているのか、ゆっくり向き合い理解する時間を、自ら意識して確保しない限りは、一律に与えられてきていません。
小学校・中学校・高校と、勉強では毎日新しいことを知り、理解してきたと思いますが、自分自身のことを理解してきたかと聞かれると、自己理解に使った時間は少ないか、ほとんど無かった人もいると思います。
だから、就職活動でいきなり自己分析をしましょうと言われても、今までやってきたことがない人にとっては、何をすればいいのか困ってしまい、難しいと感じるのですね。
ただ、前向きに捉えれば、じっくり向き合える時間を、やっと確保できるわけです。
さて、就職活動では、自分の何を知り、理解しておけばいいのでしょうか?
就職活動における自己理解の進め方
就職活動がはじまると、最初に取り組むことになるのが、エントリーシートです。
「自己PR、まずは自分の強みと弱みだよな、何があるだろう・・・」
「ガクチカ、サークルかアルバイトか、どっちで書けばいいかな・・・」
「志望動機、企業研究しないとよく分からないな・・・」
その進め方、危険です。エントリーシートのために自己分析をするという考え方を、一度手放してみてください。
そして、内定のための自己理解ではなく、これから長い人生を生きていくうえで、理解できている今の自分のこと、という捉え方を、筆者はおすすめします。
さて、自分を理解すると一口に言っても、いろいろな切り口があります。
冒頭にお伝えしたように、自分が選んだ企業で「力を発揮できる」ために、そしてギャップの少ない就職をするために、最初に何を把握しておけばいいのでしょうか?
今回は、「自分を知る」ステップと、「自分を理解する」ステップに分けて、次の8つのポイントをご紹介します。
ステップ1. 自分を知る
ポイント① もっている資質を知る
ポイント② 子どもの頃の特徴を知る
ポイント③ 好きな考え方や共感の傾向を知る
ポイント④ 絶対NGを知る
ポイント⑤ 今の優先順位を知る
ステップ2. 自分を理解する
ポイント⑥ 資質を活かした得意な行動を言語化する
ポイント⑦ 価値観を言語化する
ポイント⑧ 働く目的を言語化する
まず前編では、ステップ1.自分を知るための5つのポイントについてご紹介します。
それでは、早速みていきましょう。
ポイント① もっている資質を知る
最初のポイントは、自分がもっている、いくつかの資質を知ることです。
資質とは、一人ひとりが生まれながらにしてもっている要素のことです。その中で、よく表面に出てくるものを、特性とも言います。
資質は、思考と行動で分けたり、○○性・○○型・○○力など、短く単語で表したりすることができます。
英語ができる、プログラミングができるといった、保有スキルとは異なります。
なぜ、資質を知る必要があるのか。
あなたの考え方や言動を生み出している源が、この資質だからです。思考や行動の「起点」というイメージです。
ただし、自分がどのような資質をもっているのか、なかなか主観的に正しく知ることは難しいと思います。そのため、このポイントだけは客観的な視点として、診断ツールを活用することをおすすめします。自分を知るためのお助けアイテムです。
就活サイトやその他の媒体でも、無料で活用できる診断ツールがたくさんあります。
ある程度、自己分析ができていると感じられている方は、自分の中でのこたえ合わせとして、活用してみるのもいいと思います。
資質を知るためのおすすめのツールについては、また別の記事で、具体例とともにご紹介したいと思います。
ポイント② 子どもの頃の特徴を知る
次のポイントも、客観的な視点です。自分が生まれてから2、3歳の頃までの特性を知ることです。
これは、親御さんや幼少期に深く関わっていた方に話を聴いてみる必要があるので、それが可能な方は、ぜひ実践してみてください。
なぜ幼少期かというと、自分の素の状態に限りなく近いからです。
この行動をしたら他人にどう思われるか、この行動は自分にとってどのような影響があるかなど、考える子どもはいません。ありのまま、思うがまま行動します。
そのため、自分の生まれつきもっている資質を存分に発揮している可能性が高いのです。
例えば、筆者の幼少期は、一言でいえば、猪突猛進。自分がこうと決めたら、毎日飽きずに同じ目的に向かって、わき目もふらず一直線、という幼少期だったようです。
そして、それは今も変わっていません。仕事でも趣味でも、これだ!という目的を決めたら、他者に何を言われようが、そこに向かって全力を注ぎます。反面、目的が曖昧で、自分の中で意味を見出せないものに対しては、あまり熱量がわきません。
このような具合に、生まれつきもっている資質は、表面に出てくる度合いは変わっても、大人になっても変わらず自分の中にあるのです。
私たちは大人になるにつれ、何かがきっかけで、本来の資質を表に出さないように生きているケースもあります。
自分を知るヒントとして、どのような子ども時代だったか、一度まわりの方に聴いてみることをおすすめします。
ポイント③ 自分の好きな考え方や共感の傾向を知る
さて、今までみてきたポイント①②は、自分の「思考と行動」についての傾向でした。
どちらかというと、「頭で考える」視点ですね。対して、3つめのポイントは、自分の「思想」について。「心で感じる」視点です。
私たちは日々の暮らしで、どのように考えて動くか、という資質の他に、なぜそのように考えるか、なぜそのように行動・表現するか、なぜそう感じるか、という思想・感性をもっています。
これは、生まれてからどのように育ってきたか、どのような仲間に影響を受けてきたか、という、今まで自分がかかわってきた人や選んできた環境に、大きく左右される部分です。
だから、これからも何か大きな出会いや影響があれば、変化していく可能性もあります。
ここで、資質と思想の特徴を整理してみましょう。
≪資質≫
・生まれながらにしてもっている、不変のもの
・思考や行動の「源・起点」
・縦に伸ばして強化していける
・「得意・不得意」につながる要素
≪思想≫
・生まれてから育まれた、変化していくもの
・思考や行動の「土台」
・円形に広がったり、凝縮したりする
・「好き・嫌い、大切・価値」につながる要素
このように表すことができます。就職活動で、「自分の価値観」と言われるものは、後者の「思想」であることが多いです。
今の時点で、どのような思想をもっていますか?ということですね。自分の心の「土台」の部分です。
これは、先ほどの資質のように、汎用的なツールを使った客観的な把握の方法があるわけではなく、一人ひとり生きてきた中で、自分が積み上げてきたものがベースになります。そのため、基本的には自分で向き合っていく部分です。
この、どのように感じているか、という部分を可視化していく作業は、得意な人と苦手な人に分かれます。
特に、何事も頭だけで考える癖がついている人は、心で感じるという感覚が、あまりピンとこない人もいるかもしれません。
そのため、まずは、自分が好きな考え方・自分の心が動くような考え方を、さまざまな方法で紐解いていくことが大切です。
・何に喜怒哀楽を感じてきたか
・どのようなことに感動してきたか
・どのような言葉に影響を受けてきたか
・なぜその人を尊敬しているのか
という、自己分析でよく行われるような、過去の自分の原体験を振り返ることもひとつの方法です。
それが難しそうであれば、YouTubeの誰かの発言や、SNSのコメント、本に書かれているメッセージなど、自分以外の誰かの考え方に、自分もそう感じる、同じように問題意識を感じている、心が突き動かされる、めちゃくちゃ納得できる、という「共感」を、どのような思想や考え方、言葉から受けているかを観察してみてください。
・どこに共感しているのか?
・なぜその言葉が響いているのか?
自分の中に、その想いがあるからです。それを単語にして紐解いていくと、自分が何に価値を置いているか、共通点が少しずつ見えてきます。
ひとつだけ誤解していただきたくないのは、他者の発言や考え方を鵜呑みにするという作業ではない、ということです。
誰かの軸を真似るという意味ではなく、あくまで自分の心に響くかどうか、という視点で試してみてください。
ポイント④ 絶対NGを知る
次のポイントは、自分の中の絶対NGを把握しておくことです。
今まで自分と向き合ってきたことがなく、好きなこともやりたいことも特にないし、本当に就職活動がしんどい、と感じる方は、まず、この作業をおすすめします。
自分の絶対NGとは、どう頑張って努力しても、捉え方をポジティブにしてみても、心身が拒否反応を起こすものです。
「耐えられない」「どうしても無理!」という思考や行動、思想や環境ですね。これは、あっても1つか2つ。多くはないはずです。
そして、好きなことより、嫌いなことや苦手なことの方が、理由も明確だと思います。
なぜ、この作業が有効なのか。この絶対NGに当てはまらない他のすべてに可能性がある、多少の困難があっても許容できる、という見方ができるからです。かなり視野が広がります。
就職活動での企業探しも、幅が広がり、少し気持ちが楽になるかもしれません。
結果的に、最初は候補にもなかった意外な業界や職種に惹かれる可能性もあります。
どのような仕事であっても、必ず苦しい場面・踏ん張りどころの場面は出てきます。そこで乗り越えられるかどうかは、スタート時点が自分の中で許容できる要素だからです。
仕事をしていくにつれ、好きでも嫌いでもなかったけれど、だんだん面白さが分かってきて、好きなことに転じることもあります。
ですが、最初から拒否反応が出るほどNGなものに、さらに苦しい状況が重なったら、精神的に耐えられないのも当然です。良い悪いではなく、「合わない」ということです。
結果的に、自分の資質・思想を把握することにもつながります。その資質・思想がないか、ほとんど持ちあわせていない、とも言えるからです。
もし、この要素が最優先で求められる企業に就職してしまった場合は、ミスマッチではなく、アンマッチですね。メンタルが病んでしまう前に、転職をおすすめします。
このポイントは、自分の中ではっきりしていて一致しやすいので、他のポイントと比べて、知る → 理解するが、速攻でできると思います。
これを最初に明確にしておくことも、意外と大切です。
ポイント⑤ 今の優先順位を知る
自分を知るための最後のポイントは、今の優先順位を知ることです。
他のポイントに比べて、それぞれのライフステージによって大きく変化します。
これは、思考・行動・思想とは色合いが異なり、今の自分にとって必要なこと・優先条件という特徴をもちます。
例えば、サポート体制のない環境で、子育てや介護をされている方であれば、
・残業時間が少ない
・急な休みがとりやすい
・リモートワークができる
などが優先順位として高くなる方もいるでしょう。
将来独立を考えられている方であれば、
・さまざまな業界の人とかかわれ、人脈がつくれる
・専門性を高められる
・独立資金を貯める
などが必要になってくるかもしれません。
ここで、今までのポイントを次のような視点で整理してみましょう。
このような整理ができると思います。この「働きやすさ」の視点は、就活対策では、志望動機で言わない方がいいと教えられる部分です。
確かにそうなのかもしれませんが、福利厚生だったり、年収だったり、通勤時間だったり、私たちの毎日の生活にリアルに直結する要素です。
新卒の就活生のみなさんは、ファーストキャリアで、何を重視しますか?
このポイント⑤は、悩むことなく、すぐに自分の中でこたえが出てくると思います。
そして、これが自分の大きなモチベーションになったり、精神的な安心につながったり、目標につながったりする人もいます。
「働きがい」と「働きやすさ」のバランスは、人それぞれです。
そのため、今の自分にとって何が譲れないことか、という視点は、自分の中での指針として知っておくのは大事なポイントです。
ここから理解がはじまる
前編は、ここまでです。前半は自己理解の概念や大切さについて、後半は自分を知るステップをみてきました。なかなかボリュームがあるな・・・と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
就職活動でものすごくエネルギーを使う理由のひとつは、今までそこまで気にしてこなかった、人の永遠のテーマともいえる自己理解を、この短期間で一気にやるからだと思います。疲れますよね。
でも、この準備をしておけば、自分と向き合うということに、徐々に慣れていきます。
自分が何を考えているか、何を感じているか、という、自分につながる回路が太くなっていくので、就職後のさまざまな場面で活かすことができますよ。
後編では、「自分を理解する」ステップと、自己理解をするときに、やっても意味がないことについて、お届けしたいと思います。