女性・仕事・職場のハッピーな関係に向けて(1):「働く目的」を再考してハッピー度を上げよう

どうすれば女性が仕事や職場でハッピーになれるのかを考える出発点として「働く目的や理由」について再考してみよう

  

はじめに

今回の連載では、働く女性がハッピーだと感じられるような仕事や職場について考えてみたいと思います。

言うまでもなく仕事や職場が働く人にとってハッピーであることは女性に限らないのですが、一般論だけでなく特に働く女性の問題としての議論を積極的に紹介してみたいと思います。

「ハッピー」というのはちょっと漠然とした言葉使いなのですが、関連するいろいろなテーマを幅広く紹介するためにあえて使ってみています。

Krekel et al. (2019) によれば、Happiness という用語は日常語では「楽しさ(joy)」などの感情的な経験(しかも瞬間的な経験)をあらわすのですが、「主観的な幸福感(Subjective well-being)」の研究者たちは「多くの好ましい感情的状態を含む幅広い要素から構成される概念」だと定義していて、瞬間的というよりもある程度の時間的な持続性が求められるようです。

今回の連載で使う「ハッピー」はこのような考え方に沿っていて、「自分にとってとてもいい感じ」といったニュアンスで使いましょう。

自分自身で「ハッピーな職場で恵まれているな」と思う人もあるでしょうし、逆に「この職場、最低だな」「すぐにでも辞めたいわ」と思って、自分は不幸だと感じる人もいるでしょう。

でも、同じ職場にいても、AさんとBさんでは「ハッピー度」(「ハッピーの程度」)は異なっているかもしれません。

そうです、「ハッピー」であると感じるか感じないかは一人ひとりの主観的な感じ方によるのです。

ただ、同じ働くのであれば、できればみんな「ハッピー」と感じられるような仕事や職場に身をおきたいですし、そのような職場や職場環境に変えていけるのであれば、そうあってほしいものです。

 第一回(今回)では、仕事や職場が「ハッピー」であると感じるための基準点というか出発点になる「仕事をする目的(なぜ仕事をするのか?)」について考えてみたいと思います。

どこに軸足をおいて「ハッピー度」を考えるか、それがとても大事だからです。

第二回では、自分自身の「ハッピー度」にどのような要因が影響を与えるのか、どのような影響があるのかについて紹介していきたいと思います。

最後の第三回では、「働きやすさ」を取り上げてみるのですが、じつはこの「働きやすさ」というのが日本独自の概念であって海外には研究もないものなので、「なぜ働きやすさという概念がないのだろうか」ということを楽しんでいただければと思っています。

では、まず一歩下がって、「仕事をすることの目的や理由」といった話から紹介していきましょう。

 

日本人の考える仕事をする目的や理由

そもそも、ヒトはなぜ仕事をするのでしょうか?

仕事をする目的や理由を取り扱った調査は、研究機関や研究者によるよりも民間企業(就職支援企業等)や民間の調査機関(シンクタンク等)が積極的に行ってきています。

ただ調査対象や調査方法によって回答の分布は変化するので、ここでは個別のデータではなく、仕事をする目的や仕事をする理由の選択肢や回答カテゴリーと多かった回答をみてみたいと思います。

それによって、日本人がどのような目的や理由を想定しているかが見えてくると思うのです。

まず、国の機関による調査として、内閣府が行っている継続調査の一つに「国民生活に関する世論調査」というのがあるのですが、この中に「働く目的は何か」という項目があります。

そこでは、「お金を得るため」「社会の一員としての務めを果たすため」「自分の才能や能力を発揮するため」「生きがいをみつけるため」という4つの選択肢があります。

平成5年度の最新データでは、「お金を得るため」というのが最も多く65%を占め、「生きがい」が13%、「社会の一員としての務めを果たす」が11%となっていますが、この傾向は長年変わっていません。

平河・山本 (2022) のサラリーマンの生活と生きがいに関する調査では、働くことの意味を問うていますが、その回答項目は「人との関わりや社会との接点をもつこと」「生きることそのもの」「新しいことを生み出すこと」「自分自身を成長させること」「知識や専門性を得ること」「健康の維持や老化防止」「人の役に立つこと」「社会貢献」「社会的地位を得ること」「収入を得ること」となっています。

複数回答ができるのですが、「収入を得ること」が84%、「人との関わりや社会との接点をもつこと」が33%、「自分自身を成長させること」が23%と続きます。

新井・宮口・加藤 (2022) の転職者に対する意識調査でも働く目的を聞いていて、「生活に必要なお金を得るため」「家族や将来の為にお金を得るため」「自己成長のため」「社会や人とのつながりのため」「顧客や他者への貢献や感謝されるため」「生きている証であり人生そのものである」「社会や世の中をより良くするため」という選択肢があります。

ここでは、各項目について5段階評価を行って平均得点で順位が示されていて、「生活に必要なお金を得るため」(4.20) 「家族や将来の為にお金を得るため」(4.06)の2項目が飛びぬけて高く、「自己成長のため」(3.33)がそれに続いています。

日本生産性本部が実施している新入社員「働くことの意識」調査では「働く目的」として「楽しい生活をしたい」「経済的に豊かになる」「自分の能力をためす」「社会に役立つ」が選択肢として設定されています。

ここでは新入社員が対象ということで、「楽しい生活をしたい」(約40%)「経済的に豊かになる」(約28%) 「自分の能力をためす」(約11%)となっていて、「経済的に豊かになる」が一位でない点が特徴です。

エン・ジャパン社が行っているユーザーアンケート調査の中に、「働く理由について」という2019年の調査があります。

ここでは回答項目として「収入を得る」「自分の能力・人間性を高める」「社会に貢献する」「社会的に独立する」「人間関係を豊かにする」「顧客に喜んでもらう」「やりたいことを見つける」「ステータスを得る」「仕事自体が生きがい」「次世代の人材を育てる」「働かないと孤立する」「国民の義務」「周りもみな働いている」が提示されています。

「収入を得る」が95%、「自分の能力・人間性を高める」が52%、「社会に貢献する」が47%でした。

リ・カレント株式会社が2022年に行った最新若手意識調査では、働く目的について「報酬を得る」「社会に貢献」「お客様・ユーザーを幸せにする」「一緒に働く仲間をサポート」「自分が成長する」「社会で高い地位を得る」という選択肢が提示されています。

三つまで回答できるのですが、結果は「報酬を得る」が72%、「自分が成長する」が53%、「社会に貢献」が35%でした。

これらの項目をまとめてみたいのですが、ここでは、Rosso et al. (2010) が提唱している仕事の目的の区分を「自己」の問題に限定せずに、「他者」とのかかわりや「仕事のコンテキスト」問題まで含めて考えるやり方にあてはめてみようと思います。

まず、「自己」の問題に関する項目としては、「自己成長」「自己開発」「生きがい」「楽しい生活」「新しいことを生み出す」「健康維持」「やりたいことをみつける」といったものが含まれるでしょう。

「他者」とのかかわりに関する項目としては、「社会貢献」「人の役に立つ」「他者・同僚への貢献」「人間関係を豊かにする」「人材育成」などです。

「仕事のコンテキスト」に関する項目としては、「収入・報酬を得る」「社会的に独立する」「社会的地位を獲得する」「国民の義務」「他人も働いている」などが含まれるでしょう。

こうしてみると、日本人が考える仕事の目的や仕事をする理由は、案外、多様であることがわかります。

もちろん、どこに焦点が当たるかは人によって異なるのですが、これらの調査結果をながめてみると、基本的には「収入・報酬を得る」がだいたいダントツの一位で、「自己の能力開発」や「社会貢献」が続きますが、「収入・報酬を得る」の半分以下という結果が多く、「生きがい」などはもっと少ないようです。

先に紹介したエン・ジャパン社が行っているユーザーアンケート調査に「ベーシックインカムなどの方法で最低限の所得が保障された場合、働き続ける理由」を聞いているのですが、興味深いことに、その理由と回答頻度が、当初の「あなたが働く理由は?」という質問項目に対する回答傾向とほとんど変わらないのです。

第一位はダントツで「さらに多くの収入を得ること」です。

やはり、日本人は、総じて「収入を得るために仕事をする」という意識が強いといえます。

そして、それは「自己」の問題や「他者」とのかかわりではなく、「仕事のコンテキスト」の問題なのです。

 

スイスの難民が考える仕事をする目的

自分たちのことをより客観的に眺める方法の一つは、全く別の世界の事例を合わせ鏡にする方法です。

そこで、ここでは最近発表された「スイスに入国した難民の人々が仕事をする目的」を調査した研究(Fedrigo et al., 2023) でわかったことを紹介してみましょう。

この研究では、スイスにやってきた18歳から35歳までの若い難民22名(アフガニスタン、エリトリア、ソマリア、シリア、トルコ、ウクライナ、イエメン)に構造化されたインタビューの方式で、仕事をする目的、仕事に期待すること、ならびにそれらがスイスに来る前と後でどのように変化したかを調べています。

ここでは、彼らの「仕事をする目的」に関する回答を集約した結果を次の表で示したいと思います。

著者たちは、「仕事の目的」は「個人が人生において仕事に求める目標と機能」を指すとしており、Rosso et al. (2010) の研究を援用して「仕事の意味(Meaning of Work)」の理解を、「自己」に限定せず「他者」や「仕事のコンテキスト」にまで拡張する立場をとっています。

これは先ほど日本の回答項目を整理するときに使った枠組みです。

この表では著者たちは「仕事の目的(働く目的)」を「自己」「他者」「仕事のコンテキスト」の三つに区別して、難民の人たちの「仕事の目的」に関するインタビュー回答を分類しています。

難民の人たちは、「自己」に関連する「働く目的」として「仕事をすることで自分自身が成長・発達できること」「仕事をすることで生活に構造やリズムが生まれること」「仕事をすることで精神的・肉体的に健康になれること」そして「人として充実した日々を送れること」をあげています。

「他者」に関連する「仕事の目的」では、「仕事を通じて社会貢献をしなければという義務感」「仕事を通して他人を助け他人の役に立ちたい」「仕事を通してスイス国民・市民となりたい」ということがあがっています。

そして「仕事のコンテキスト」では、「物質的利益として給与等を受け取ることで社会的支援から独立できること」「仕事をすることで居住許可など法的地位を確立すること」が上がっています。

注意してほしいのは、この調査はインタビューなので、それぞれの項目は実際に回答者の言葉として出てきたものをとりまとめたものである点です。

日本の多くの調査のように、回答項目が選択肢として提示されたものから選ぶのではないということですから、リアリティの程度が大きく異なります。

 

日本人の考える「働く目的」と比較すると

さて、これらの項目を先にみてきた日本人の考える「働く目的」と比較してみましょう(下の図参照)。

日本の場合も項目としては幅広く出てくるのですが、回答頻度を思い返すと、一番多かった「お金を得る」というのは「仕事のコンテキスト」に含まれています。

ということは、「お金を得る」というのは、「自己」の問題や「他者」とのかかわりに関する、より本質的な仕事の目的ではないわけです。

しかも、日本人の場合は生活に必要な資金を得ることが目的ですが、難民の人々の場合は自分たちが働いていないときに受けてきた社会的な支援から独立して自立することが目的です。

同じ「お金を得る」でもその目的はかなり異なっていることがわかります。

「国民の義務」「社会の一員としての務め」は、「仕事のコンテキスト」のカテゴリーに該当する目的だといえます。

「自己成長」「自己開発」は「自己」のカテゴリーに含まれますが、「自分の才能や能力を発揮」は「自己」の成長・発達の部分というよりも「他者」への社会的貢献の部分、あるいは、その中に含まれるであろう会社に対する貢献に該当するようです。

「生きがいをみつける」は、「自己」の中のアイデンティティの部分に該当すると思われます。

二つの表を比較し日本人の回答頻度を思い出すと、日本の場合「お金を得る」こと以外に積極的な意味(自己にとっての意味、他者にとっての意味)があまり見いだせていないのかもしれません。

あるいは、それらをあまり意識しないで済ませられる社会的状況に生きているということでしょうか。

しかし、人生のじつに多くの時間を仕事に費やす生活をするにもかかわらず、「お金を稼ぐため」だけに「仕事」をしていると感じているというのはなんだか寂しい気がします。

仕事に費やす時間とエネルギーに見合った目的や意義や意味をもっと見出せるのではないでしょうか?

それができたとき、自分の仕事と職場がそれまでとは違ったものになるかもしれません。

むろん、仕事や職場がネックだということもあるでしょうが、それで手をこまねいているだけでは変化は生じませんから、自分から積極的に一歩前に踏み出して何かを動かしてみるのも大切かもしれません。

難民の皆さんのように、生死を分ける状況でやっと手に入れられる仕事への向き合い方を想像すれば、私たちにもできることがもっとありそうに思えるのです。

 

おわりに

今回は、「仕事をする目的」というテーマで研究を紹介してみました。

それは、働く人がハッピーであろうとする場合の基準点、出発点になると思うからでした。

働く人がハッピーであろうとするためには、「今の自分は何のために働こうとしているのか?」「今の自分は何が魅力でこの仕事を続けようと思っているのか?」といったことに目を向ける必要があります。

軸足が定まったら、それとの比較のなかで今の自分の「ハッピー度」を具体的に考えることができるようになります。

また、会社と仕事、会社の同僚や上司、会社の企業風土などと自分自身の関係性を客観的に捉える眼(俯瞰する眼)を持つことで、今現在の「仕事をする目的」を見直すことができますし、新しい目的や目標を見つけ出すこともできるでしょう。

そのプロセスこそが、自分自身の仕事や職場での「ハッピー度」を自分で上げていくことにつながるように思います。

Who is writing

神戸大学名誉教授・東京理科大学名誉教授/株式会社経営人事パートナーズ 海外文献リサーチャー

研究者としてのキャリアは、 教育学としての科学教育学から。

その後近代科学の異文化性を中核に据え、 異文化としての科学と人間の関係性を、 教育という切り口から研究してきた。

約40年、 合計4つの大学で教員を務め、定年退職を機に、 教育活動、研究活動の中で最も好きで、最も専門的スキルをみがいてきた、 海外文献の調査 探索 検索収集・分析・要約の活動をフリーランスとして行っている。

未知の研究領域 (人文社会科学系) について学ぶことは、 自分の知的好奇心を満たせることなのだが、 現代社会の中で、このような活動と成果を求めているセクターがあることがしだいに明らかになってきて、 その顕在的・潜在的なニースにささやかながら応えられることが楽しいしうれしい。

教育学、歴史学 、 人類学、 民族学、 民俗学、 社会学、 人材開発、 言語学、 コミュニケーション、 などなど、 知らない分野の研究を覗いてきたが、今回は、HRM や人事採用に関する海外文献の調査研究ということで、 また新しい世界を覗ける機会を得てわくわくしている。

HRM や人事採用については、アウトサイダーであるが、 であるがゆえに、インサイダーの方々とはちょっと違った見方も示せればよいかなと思ったりしている。

チャレンジできる仕事に出会えて感謝。