
「若手こそ、AIを積極的に使った方がいい」
「若手はAIに頼らず、自分の力を磨くべき」
みなさまの意見は上の二つのうちどちらに近いでしょうか。
経験が少ない若手であっても、AIに壁打ちして相談することで、ベテランに近しいような成果を出せる。
わからないこともすぐに教えてもらえることで、若手・ベテラン双方に利点がある。
そういった場面が多くなれば、AIを使うことで若手の成長が加速するはず、と思うようになる方も多いはずです。
ところが9月に入って、とある研究がNBER Working Paperという、アメリカの非営利経済研究機関であるNBERの発行する研究成果の報告書として発表されました。
【Does AI Assistance Enhance or Erode Expertise? Evidence from a Three-Month Field Experiment in Patent Drafting】
https://www.nber.org/papers/w35720
直訳すれば、「AIによる支援は専門性を高めるのか、それとも損なうのか? 特許明細書作成における3か月間の実地実験から得られた知見」というタイトルの報告書です。
この報告書では、アメリカの知財財産法律事務所11社で働く133人の特許実務家を対象として、3ヶ月のランダム化実験を行った結果についてまとめられています。
その実験ではまず、一部の参加者にAIによる特許文書作成支援ツールを提供し、その上で、その後の仕事の成果と、本人の専門能力がどう変化するかを調べました。
成果物は、どの条件の参加者が作ったものかを知らない専門家によって評価されています。
まず、AIを使って仕事をしている間の結果は、多くの方が予想するだろう結果通りになりました。
AIを使ったグループでは、特許文書作成の品質が10日後、90日後問わず向上しました。
しかも、その恩恵は経験の浅い若手ほど大きかったのです。
もしこの報告書がここで終わっていれば、「やはりAIは、若手とベテランの経験差を埋めてくれる」という話で終わります。
しかし、この研究ではさらに、AIを取り上げた後の実務家自身の能力を調べました。
具体的には3か月後、研究者たちは参加者全員に、今度はAIを使わずに既存の特許出願書類を修正してもらう実験を行ったのです。
これは、単に文章を書くだけではなく、「どこに問題があるのか」「どう直すべきか」を判断する、専門家としての知識が必要な仕事だそうです。
すると、AIを使ってきたグループは全体では0.32標準偏差高い成績を取りました。
「やっぱりAIを使うことで、能力自体も向上するに違いない!」
そう見えるのですが、ところが、その効果を経験別に見ると、実はそうではないことがわかります。
ベテラン層では十分な能力向上が確認された一方、若手では平均的には向上が確認されなかったのです(しかも、できる人とできない人の差が広がった、ということが報告されています)。
つまり、結論としては以下の通りになります。
・AIを使っている間に一番助けられたのは若手だった
・一方で、AIを使った経験から最も能力を伸ばしたのは、すでに専門性を持っている人たち(ベテランたち)だった
その理由として研究者たちは、AIから学ぶためにも、土台となる専門知識が必要なのではないかと考察しています。
ここからは推測になりますが、例えば、経験豊富な人であれば、AIが良い提案をしたときに、「なるほど、こういう考え方があるのか」と既存の知識と結びつけられます。
逆にAIが間違えたときにも、「これはおかしい」と気づくことができます。
しかし、まだ基礎知識が十分でない若手の場合、AIが出した良い答えを使うことはできても、なぜそれが良いのかまで理解できない可能性があります。
実は大学でも同じことが起きていまして、特に大学の方針を決めるようなベテランの先生方の頭を悩ましているところではありますが、それはさておき。
これは、企業のAI活用を考えるうえでもかなり重要な示唆が得られる実験です。
もちろんAIを導入すると、若手でも短期間で高い成果を出せるようになるかもしれません。
すると、「以前より早く仕事ができている」「先輩と同じくらいの成果物を作れている」という状態になります。
なるのですが、今回の報告書から考えると「仕事ができるようになったこと」と「本人が育ったこと」は、同じではないという可能性がある、ということです。
これまでOJTでは一般に、若手が自分で考え、失敗し、先輩からフィードバックを受ける過程そのものが、専門性を身につける機会になっていましたと考えられます。
もちろんAIがその過程をショートカットできるようになれば、業務は効率化できます。
一方で、ショートカットした部分に、実は「人が育つために必要な経験」が含まれていた可能性があるのならば。
それは成長機会の阻害に他なりません。
もちろん、今回の研究は133人の特許実務家を対象としたNBERの報告書であり、すべての職種にそのまま当てはめることはできません。
そしてAIによる恩恵をフル活用して成果を出している人がいる以上、AIを全く使わないという選択肢もありません。
AIによって成果を底上げする仕組みと、AIなしでも判断できる力を育てる仕組み。
この二つをどう両立させるかが、AI時代における新しい課題となりそうです。
P.S.
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https://48auto.biz/keieijinji/touroku/sp/scenario13.htm
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