- 介護職員の人手不足により一人当たりの担当利用者数が増え、身体的・精神的負荷が大きくなっている
- ストレス増加によりサービスの質が下がり、利用者満足度の低下につながっている
- 高負荷+低賃金により、求人応募者数が増えないどころか離職者が増えている
上記のような人手不足問題を抱えている介護施設も多いのではないでしょうか?
日本では年々高齢者の数が増えているため、介護職員一人に対する施設利用者数は増えるばかりです。
同じようにスタッフの数も増やせるかというと、難しい施設がほとんどでしょう。
しかし、人手不足に陥ってしまう原因を把握し、的確に対処することができれば解決に導くことができます。
実際に、今回ご紹介する対処方法で人手不足の解消に成功した事例もあるので、実施する価値は高いと言えるでしょう。
人材を確保し続けられる仕組みが構築できれば、職員の離職に悩まされることも少なくなるため、ぜひ参考にしてみてください。
介護現場の人手不足問題の現状
厚生労働省の報告によると、2025年までは毎年5万人以上の介護職員が必要だと言われております。
しかし、介護職員の人材不足も右肩上がりで続くわけではなく、2040年度にはピークを迎え毎年3万人の不足へと転じていきます。
介護職員の必要数が減少するとはいえ、まだまだ人材不足の状態に変わりはないため、この15年をどのように乗り切るかが重要です。
また、令和3年度介護労働実態調査によると、常に60%以上が人材不足を感じているとされています。
ここ数年で人手不足と感じている人の割合に変化がないことから、今まで行ってきた政策は効果が薄いということが分かります。
少子高齢化がさらに加速すれば、高齢者が高齢者を介護しなければならない時代になりますので、人材の確保もますます難しくなるでしょう。
介護現場で人手不足問題が起きている原因
ここでは、介護現場で人手不足問題が起きている原因を解説していきます。
主な原因は以下の通りです。
- 社会的価値が低い
- 人間関係のストレスを感じやすい
- 評価制度が整っていない
社会的価値が低い
介護の仕事はネガティブなイメージを持たれやすいため、未経験から転職しようと思う方が少ない傾向にあります。
HELPMAN JAPAN 「介護職非従事者の意識調査」によると、以下のように言われています。
介護職非従事者が就業をためらう主な理由は「体力的にきつい仕事の多い業界だと思うから」(49.8%)と、「精神的にきつい仕事の多い業界だと思うから」(41.8%)。 他には、「給与水準が低めの業界だと思うから」(31.2%)や「離職率が高い業界だと思うから」(24.2%)などがためらう理由の上位に。
なぜ、これほどまでにネガティブなイメージがあるのか?というと、高齢者の「食事・着衣・排泄・入浴」などのサポートをすることに抵抗がある方が多いからでしょう。
子育て経験がある方なら分かると思いますが、人のお世話をする大変さは想像以上です。
それが、他人ましては複数人のサポートをするとなると、必要とされる労力は何倍にもなります。
加えて、介護職員の平均年収は325万円と言われており、日本の平均年収443万円(令和3年時)と比べると低い水準となります。
したがって、労力がかかる割に待遇が悪いと感じる方が多くてもおかしくない状態です。
人間関係のストレスを感じやすい
介護職員の離職も人手不足に陥る原因の一つですが、その理由で最も多いのが「人間関係の問題」です。
前述したように「給与水準が低い、体力的・精神的にきつい」というネガティブなイメージがありますが、実際には収入や仕事量よりも人間関係が原因で辞める人の方が多いのが現状です。
ただ、人間関係が突然悪くなるとは考えづらく、様々な問題があることが予測されます。
- 職員の過労とストレス
- コミュニケーション不足
- 役割の不明確さ
- 価値観や意見の相違
疲労の蓄積によりイライラしたりと精神的に安定しない状態が続けば、適切にコミュニケーションをとることが難しくなります。
しかし、他のスタッフと協力しなければ施設をまとめることは難しいので、コミュニケーションをとらない訳にはいきません。
職員同士の仲が悪くなれば、徐々にコミュニケーションも少なくなり状態はさらに悪化していくと言えるでしょう。
また、介護現場には様々な経歴・年代の人がいるため、マネジメントが難しいことも要因として挙げられます。
画像のように、65歳以上の方が務めている施設も多くあり、最近では外国籍労働者を雇用しているところも増えています。
20代30代が多い会社のように職員の年代や経歴が近ければ統率も取りやすいですが、一人ひとりが全く異なるバックグラウンドを持っているとなると、職員をまとめるのも難しいと言えます。
したがって、人間関係の問題を根本的に解決するには、労働環境やマネジメントの見直しを図ることが必要です。
評価制度が整っていない
評価制度が整っていなければ働きぶりを適切に評価することができないため、やる気のある人材の離職が増えてしまうと予測されます。
前述したように、介護現場には様々な経歴や年代の人がいるため、評価基準を設けていない場合、年功序列の考え方になってしまいます。
ただでさえ人間関係の問題で辞める人が多いのに、評価制度もなければ統率がとれないのは当たり前です。
若い人材が不足している介護業界では、”いかに積極性のある職員を適切に評価するか”が重要ですので、評価制度の構築が必須と言えます。
- 給与が上がる基準
- 昇進基準
- 待遇改善の基準
このような基準をクリアするために必要な具体的な評価項目を用意すると良いでしょう。
介護現場の人手不足問題を解決する方法
ここでは、介護現場の人手不足問題を解決する具体的な方法を解説していきます。
施設で取り入れていないものがあれば、ぜひ導入を検討してみてください。
ITシステムの導入
ITシステムの導入で日々の業務を効率化することで、職員の身体的負担を軽減すること可能です。
具体的な取り組みとしては、以下の6つが挙げられます。
- 日報システムの導入
- シフト管理アプリの導入
- 勤怠管理アプリの導入
- 前払い給与サービスの導入
- 組織課題や人間関係の問題を把握するツールの導入
- 職場・上司への評価を測定するアセスメントツールの導入
介護の仕事は肉体的業務が多いためシステム導入で効率化できる部分は少ないですが、少しでも負担を減らせるのであれば積極的に取り入れていくべきと言えるでしょう。
また、組織課題や評価の見える化は離職率を下げる試みとして効果的です。
ユニットケアの導入
ユニットケアを導入することで、介護職員のストレス軽減を図れます。
ユニットケアと集団ケアの違いは、以下の通りです。
- ユニットケア:個室が用意され、自分のタイミングで食事や入浴が可能
- 集団ケア:一室に4人が暮らす多床室で、食事や入浴などの時間が決まっている
従来の「集団ケア」では、入居者全員の対応を一斉にしなければならなかったため、業務が忙しく職員同士がギスギスした関係になりやすいのが懸念点でした。
しかし、ユニットケアでは、利用者一人ひとりのタイミングに合わせて対応することができるため、心に余裕が持てるのがメリットです。
多くの利用者を少数のスタッフで対応するのは非常に大変ですが、ユニットケアであれば少数スタッフでも対応できるため、人手が少なくても問題ありません。
外国人労働者の受け入れ
外国人労働者を受け入れることで、人材確保の幅が広がります。
外国人労働者が日本の介護現場で働くルートは、以下の4つです。
- EPA(経済連携協定)
- 在留資格「介護」
- 技能実習
- 特定技能1号
これらは、国際貢献や連携強化を目的としたものなので、介護人材の人手不足問題を直接解消するための制度ではありません。
しかし、日本の介護現場で働いてもらえることに変わりはないので、人材確保の手段として活用可能です。
ただし、事業者は外国人を支援するための計画の作成や研修を行う必要があるので、人的・経済的負担がかかるのがデメリットです。
したがって、リソースが確保できる介護施設であれば利用する価値は高いと言えます。
介護福祉士資格取得の推奨
介護福祉士資格の取得を通してキャリアップ支援を行うことで、職員の定着率を向上させることが可能です。
- モチベーションが上がらない
- 給与が上がらないから転職を考えている
- 将来が見えない
このようなキャリアに関する悩みを抱えているスタッフも多いかと思われます。
現在、介護人材は他の事業所との採用競争にあるほど不足しているため、一人ひとりが貴重な存在であると言えます。
したがって、資格取得の推奨以外にもキャリア支援を充実させ、職員一人ひとりの満足度を高めていくことが重要です。
介護職のイメージアップを図る取り組み
介護職はネガティブなイメージを持たれる傾向が強いので、イメージアップを図る取り組みが必要です。
- ホームページで理念や取り組みを公表
- YouTubeや広告での発信
- イベントの開催
上記のように、様々な媒体を用いて情報発信し、介護の魅力を伝えていけると良いでしょう。
「キツイ・汚い・危険」という3Kのイメージを払拭できるよう、「楽しい・清潔・安全」をアピールする内容を盛り込むのがポイントです。
人材派遣会社の利用
65歳以上の方を雇用するほど介護人材は不足しているため、求人を出してただ待つだけでなく、人材派遣会社とのつながりを持っておくことも重要です。
- 立て続けに離職者が出た場合
- 欠員がなかなか埋まらない場合
人材派遣会社を利用すれば、このような場合でもすぐに対応できるかもしれません。
「長く働いてくれる人を採用したい」という気持ちも分かりますが、人手不足が続けば職員の負担は大きくなり、さらなる離職者の増加につながってしまいます。
人材を確保する手段は多く持っておいて損はないため、利用を検討してみると良いでしょう。
求人サイトの見直し
求人サイトを見直すことで採用にかけるコストを削減するとともに、優秀な人材の確保が可能になります。
求人を出すうえで気をつけたいポイントは、以下の5つです。
- 費用を最小限に抑える
- 多くの人に認知される
- 定期的に応募がくる
- 人材のミスマッチを防ぐ
- 採用にかける工数を最小限に抑える
大手求人サイトに掛け捨て型の求人を出すよりも、成果報酬型の求人サイトを利用した方が費用を安く抑えられます。
また、ネガティブなイメージを感じさせない魅力ある求人内容にすることで、応募者数を増やすことが可能です。
弊社も介護事業を運営している会社のコンサルティングを行っていますが、求人・採用方法を工夫することで優秀な人材を確保することに成功しています。
したがって、効率的な採用を行うならば、「成果報酬型の求人サイト+魅力的な求人内容+適切な採用方法」を構築することが必要となります。
人手不足問題の解決事例
ここでは、人手不足問題の対策で成功した事例を3つご紹介します。
神奈川県の事例
- 実施内容:ICT・テクノロジーの導入
- 効果:タブレット端末による業務記録で記録時間の効率化(52分→42分)
施設利用者の健康状態を管理するうえで、日々の記録はとても重要なことです。
業務量が多く忙しい状態が続けば、記録という行為もおざなりになり、いずれは作業へと化していくでしょう。
しかし、システム化により記録を効率化できれば時間も短縮できますし、より正確な記録ができると言えます。
医療行為ではないため直接利用者の生命に関わることはないかもしれませんが、職員と利用者の両方を守り、業務効率化を図るためには有効な手段だと言えます。
三重県の事例
- 実施内容:介護助手の活用
- 効果:業務量軽減を感じている介護職員(80%)、やりがいや健康維持を感じている介護助手(90%)
資格を持った人材の確保は難しいですが、資格が必要とされない介護助手の採用であれば可能な施設も多いでしょう。
専門性の高い業務は介護福祉士が行い、ベッドメイキングや食事の配膳といった周辺業務は介護助手が行う。
このように、業務の分担ができれば職員一人ひとりの身体的負担を減らすことが可能です。
北九州市の事例
- 実施内容:人とテクノロジーの融合による新たな働き方の「北九州モデル」の構築
- 効果:間接介護業務時間の減少(介護職43%減少・看護職39%減少)
今までは、介護職員が利用者のサポートを全て行わなければなりませんでしたが、最近では「見守り支援機器・記録連携システム・インカム・移乗支援機器・浴室支援リフト」といった様々な機器が開発されているため、職員の負担軽減を図ることに成功しています。
介護ロボットの実証や解析が進められているように、人が行わなくてもよい業務は今後ますます機械化が進むと考えられます。
介護業務は肉体的負担が大きいというイメージが強いため、積極的にテクノロジーを活用していくことで「きつい・大変」というネガティブなイメージを変えていくこともできるしょう。
まとめ
今回は、介護現場の人手不足問題について原因と対策を解説しました。
- 介護職はネガティブなイメージがあることから転職者が少ない傾向にある
- 実際には人間関係が原因で離職する人が多い
- 人手不足を解消するには、多角的視点で労働環境や採用方法を見直す必要がある
人手不足を解消するには、労働環境の改善や、職員同士が良好な人間関係を築けるような取り組みが必要ですが、経歴や年代の異なる職員をまとめるのは容易ではないですよね。
そこで重要なのが、ITシステムやユニットケアの導入です。
ツールや仕組みを使って一人ひとりの役割や課題を明確にすれば、人間関係がこじれることも少なくなり、身体的・精神的負担も減るでしょう。
また、採用人数を増やすには、介護業務の魅力を伝えて興味を持ってもらうことが重要ですので、イメージアップを図る施策や求人サイトの見直しが必要です。
実際に効果が出ている地域もありますので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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