プロコーチが解説する心理的安全性の低い職場にありがちな特徴
この記事では、チームビルディングがうまくいかない理由として最も多い「心理的安全性の低い職場」について、具体的な事例をもとに解説します。
私はこれまでコーチングを通じて、沢山の経営者や管理職の方々のサポートを行ってきました。
そんな中、相談テーマとして多いのが「チームビルディング」です。
当たり前ですが、個人とチームでは動き方が全く異なります。
個人としては優秀な社員が、チームに合流した途端に自身の才能が活かせず、チームに貢献できないどころか足をひっぱってしまうようなケースも沢山見てきました。
コストをかけて研修などを行い、仮に個々のスキルを伸ばすことができたとしても、実際にチームの中で活かせなければ意味がありませんよね。
そういった意味で、確かにチームづくりは組織成長の要と言えます。
ただ、中にはチームビルディングについて相談される時に、こういった表現を使う方がいます。
- 部下が言うことをきかない
- 自分で考えて動かない
- 私とそりが合わない、など。
気持ちは分かるのですが、実はこの時点で既にチームビルディングについて重要な“あること”が欠けてしまっていることが分かります。
結論から言うとそれは「心理的安全性」です。
この方の組織のメンバーは心理的な安全が確保出来ていないんだろうな・・・ということが、言葉の端々から伝わってくるのです。
チームビルディングについて語る時、何よりも重要なのは心理的安全性です。
今回は、これまで数百名の方にコーチングを提供してきた私の視点から「心理的安全性が低い職場にありがちな特徴」をお伝えしたいと思います。
今日の内容を読んで頂くことで
- チーム作りがうまくいかない理由
- 心理的安全性の高め方
- 自走できるチームづくりの秘訣
が理解できるようになるでしょう。
心理的安全性の勘違い
心理的安全性とは、簡単に言えば「その場に対する安心感」のことです。
職場においては、自分の意見や考えを自由に表現できる環境と言えるでしょう。
これをリーダー層が短絡的に捉えてしまうと「言いたいことが言い合える環境を作れば良いんだ」という結論に至ってしまい、手段を間違えることがよくあります。
例えば、日頃から自信満々で、しばしば周りに威圧感を与える上司から「今日の会議、俺は一切口出しはしない。だからみんな言いたいことを言ってくれ!」と言われたとして、すぐさま従えるでしょうか?
「余計なことを言って、とばっちりを受けたくない」と、上司の目を気にしているメンバーの様子が目に浮かびます。
そう考えた時、あなた自身の普段の行動は、同僚や部下に安心感を与えることにどれだけ意識が向けられていますか?
また、意見や考えを自由に表現すると言っても、各々が何の配慮もなく好き勝手に語り始めるとチームは崩壊します。
これも実は、心理的安全性が確保されていない場によく見られるケースです。
普段から安心・安全であることを感じられない場には、必ず相応の理由があります。
それを理解できないことには、いくらチームメンバーに行動を促しても伝わらないでしょう。
職場での心理的安全性の重要性
心理的安全性の高い職場では、従業員が自己実現を図りやすく、企業全体の生産性にも良い影響を及ぼします。
Googleが「効果的なチームとは?」をテーマに研究した「Project Aristotle」では、チームの成功において最も重要な要素として心理的安全性が挙げられました。
Google のリサーチチームが発見した、チームの効果性が高いチームに固有の 5 つの力学のうち、圧倒的に重要なのが心理的安全性です。リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い、という特徴がありました。
引用:Google re:Work /「効果的なチームとは何か」を知る
数字を交えて説明されると、心理的安全性の重要性がよく伝わってきますね。
逆にそれが低い環境では、従業員のモチベーション低下や離職率の増加が見られることがあります。
例えば、一部の企業ではトップダウンの管理スタイルが心理的安全性の低下を招き、革新的なアイデアが表面化しにくくなっています。
これでは組織成長は望めませんよね。
心理的安全性が低い職場の特徴
心理的安全性が低い職場とは、具体的にどんな職場を指すのでしょうか?
よくあるケースとして、こんな事例が挙げられるでしょう。
<不適切なフィードバックがされている>
ある職場では、上司が公開の場で部下を批判し、吊し上げるような行為がみられました。
当然このようなフィードバックは本人に大きな恥辱をもたらし、他のメンバーが意見や新しいアイデアを共有することを恐れるようになりますよね。
<コミュニケーションが不足している>
ある組織では、情報共有が不十分なばかりに、上層部の意思決定プロセスが不透明でした。
これにより、従業員は自分たちの意見が無視されていると感じ、提案や意見を述べることをためらうようになります。
<暗黙の了解や過度なプレッシャーが多い>
これもよくあるケースですが、いわゆる「暗黙の了解」が存在する場では心理的安全性が確保されません。
例えば、上司が定時を過ぎても帰らないので、部下が帰宅しづらい・・・という意見はよく耳にする事例です。
また締め切りや、業績目標に対する過度なプレッシャーを受けている職場もありますね。
これらの圧力はメンバーのストレスを高め、チーム間での協力を阻害するでしょう。
以上が、心理的安全性が低い職場によく見られる特徴の一部です。
メンバーに与える影響とリスク
このような職場では、職場全体の雰囲気が悪化する可能性はもちろん、長期的には企業のブランド価値や採用能力にも悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば、現代では従業員が職場に対する不満をSNSなどで投稿することも考えられるため、企業の評判を損なう原因となることもあるでしょう。
さらに、継続的なストレスは当然従業員の健康にも影響を及ぼし、心身の問題や休職、最終的には離職につながることもあります。
心理的安全性が低くなってしまう原因
では、なぜ心理的安全性が低下してしまうのでしょうか?
ここではその具体的な原因を、いくつかご紹介しておきます。
<パワハラ上司の存在>
1番多いのは、やはり上司のパワハラや攻撃的な態度が原因となるケースです。
具体的には
- 無理な業務の強要
- 過度な批判
- 人格に対する発言
などが挙げられます。
このケースで注意したいのは、上司本人にそのつもりがあったかどうか?ではなく「周りのメンバーがどう感じたか?」です。
「自分に限ってはそんなことない」と思っている方でも、意外な形でプレッシャーを与えていることもありますので、注意が必要ですね。
本人に自覚がない場合は、自身の内面についてよく観察する時間を設ける必要があります。
事例:ミスがどんどん増えていく負のループ
これは私が昔、組織でマネジメントを行なっていた頃の話です。
一時期、チーム内でお客様との金銭授受におけるミスが多発した時期がありました。
あまりに似たようなミスが続くため、私は現場で金銭授受に関するいくつかのルールを追加しました。
しかし、ミスが無くなることはなく、やがて事業所全体を巻き込む大きな課題になってしまったのです。
焦った私は、会計時における確認事項に、更に細かなルールを追加しました。
その結果・・・ついに十万円単位で、釣り銭が合わなくなる事態が起きてしまったのです。
これは、一見するとパワハラ上司的な行動では無いにせよ、結果的に「無理な業務の強要」を行なった事例です。
プレッシャーを感じる環境では、ミスがミスを誘発します。
それにより、結果としてチーム全体の問題解決能力が低下する・・・という分かりやすい事例ですね。
当時の私には、そんなつもりは一切ないどころか、チームを守るために行なっているという自負すらありました。
しかし、なぜそこまで事態を悪化させてしまったかと言われたら、私の内面における「自分が無能だと思われたくない」という焦りが原因だったのです。
このように本人に自覚がない(むしろ良かれと思っている)場合でも、結果的に心理的安全性を奪ってしまうことがあります。
<ルールが決まっていない>
上司や個人の問題だけではなく、チーム内のコミュニケーションが不足していると、誤解や不信感が生じ、心理的安全性が大きく低下します。
たとえば、ちょっとしたルールや仕組みが決められていないがばかりに、チームメンバー間での情報共有が不足し、チームとしての協力や協調性が欠けてしまうケースがよく見られます。
こういった流れをよく観察していると、決まって見えてくるのは「今は忙しいから仕方ない」といったような、ほんの些細な気持ちから始まっているという事実です。
それが次第にチーム全体を覆うようになり、結果的にメンバーの意識を低下させてしまうのです。
またコミュニケーションが不足すると、人は自分の想像の中で「あの人は〇〇に違いない」という、勝手なストーリーを作り出します。
その結果、不信感が大きくなり、組織内の不満の蓄積につながってしまいます。
ちなみに、情報共有の不足における課題はルールの徹底を習慣化することで、比較的解決しやすいテーマでもあります。
もしあなたのチームにも思い当たる点があれば、ルールを少し整備することで解決できるかもしれません。
<組織の文化や体制>
組織の文化や体制が古い価値観に固執している場合、新しいアイデアや意見が受け入れられにくい環境になります。
これは小規模で、ワンマン経営が行われているような組織によく見られますが、なかなかメンバーだけで解決することが難しく、トップにその自覚がない場合は最も解決に時間がかかる問題です。
このような環境では、経営者が個人の成功事例に固執することで、変化に対する抵抗感が大きくなりがちです。
そのため、職場に新しい情報が入らず、閉鎖的な雰囲気になることで心理的安全性が失われます。
最近では、AIに関する新しいトピックが毎日のように生み出されていますが、こういった新しい技術や手法の導入を控えることで、競争優位性を失うリスクもあります。
ではこのような原因に対しては、どんな対策を講じるべきなのでしょうか?
続いて、心理的安全性を向上させる具体的な方法を考えてみましょう。
心理的安全性を効果的に向上させる方法
重要な結論からお伝えすると、心理的安全性を確保するためには
- チームと組織全体の自覚
- 心理的安全性を高めるという明確な意志
が必要不可欠です。
それを念頭に置いて、以下の方法を取り入れていきましょう。
<適切なルールを決める>
ここでいうルールとは、メンバーを縛り付けるものではなく
- 自由な発言とは何か?をいくつかの項目で定義しておく。
- 意見が出た時には必ず肯定的に受け止め「でも、しかし」などの言葉を使わない。
- 話を聞く時には、頷くなどのリアクションをする。
など「自分がルールのもとに守られている」という安心感を促すものです。
こういった明確なルールのもと、ミーティングですべての参加者に発言機会を均等に与え、異なる視点を積極的に取り入れたり、誤りを恐れずに発言を促すことで、創造的なアイデアや解決策が生まれる土壌を育てます。
重要なのは、全ての意見や質問が尊重され、価値あるものとして受け入れられる文化を築くことです。
<1on1の面談を活用する>
ルールが決まると、いきなりオープンな場で新しい試みを始めようとする方がいますが、心理的安全性が低い職場で、まず重要なのは「個々の心理的ハードルを下げること」です。
その方法として、導入しやすいのが定期的な1on1の面談を通じて、メンバーの声を聞き、個々に対する具体的なフィードバックを行うことでしょう。
ただし、3ヶ月や半年に1度きりの面談では効果がありません。
1on1の面談を通じて、メンバーの心理状況は以下のように変化していきます。
- 面談を行うことで、自分や周りの状況を理解する。
- 面談終了後に色んな思考が頭を巡る。
- 思考を整理しながら次の面談では前回言えなかったことを言ってみたくなる。
- 実際に伝えて受け入れられることで安心感を覚える。
- 徐々に発言することに意義を感じるようになる。
リーダーはこのプロセスを十分にしておく必要があるでしょう。
これにより、メンバーは自分にも価値があると感じ、より積極的に職場への貢献を図ることができます。
<リーダー層の気づきを促す>
これらの施策を成功させるには、マネジメント層が率先してオープンなコミュニケーションを促進しなければなりません。
しかし、多くのリーダーは「リーダーは完璧でなければならない」という幻想を抱きがちです。
だとしたら、そんな思考が自分自身を心理的安全性から遠ざけ、結果的にメンバーにも同じ思考を押しつけていることに気づく必要があります。
まずは自分の弱点や失敗を公に認めることで、自分自身もラクになりますし、メンバーに対しても完璧でなくて良いというメッセージを送ることができます。
そのためには、リーダー同士でお互いにフィードバックを行うことをオススメします。
フィードバックの具体的な方法はこちらを参考にしてください。
一定のルールのもと、メンバーの心理的なハードルを下げ、リーダー層も自分自身を適切にケアすることで、確実に心理的安全性を確保することができます。
まとめ:心理的安全性向上による具体的な効果
今回は、チームビルディングにおける心理的安全性についてお伝えいたしました。
正直、なかなか目に見えづらいテーマのため「何となくそれっぽい対策をして終わり」というケースもあります。
しかし、2018年に公表された、株式会社リクルートマネジメントソリューションズによる「心理的安全性に関する実態調査」では以下のような結果が見られたとのこと。
●「チーム成果・高群」は、「チーム成果・低群」に比べ、心理的安全性が高い特徴を示し、特に、「チームのメンバーは、問題点や困難な論点を提起することができる」「会議をするときは、各メンバーが同じくらい発言している」「チームのメンバーは、他のメンバーの反応に配慮しながら分かりやすく話をしている」という点に顕著な差が見られた
●「心理的安全性・高群」の方が、仕事のスキル・意欲・倫理性など、いずれの観点においてもメンバーを高く評価していた
引用:株式会社リクルートマネジメントソリューションズによる「心理的安全性に関する実態調査」
この事からも心理的安全性の確保は、組織の生産性をアップさせるための、最も効率の良い方法なのではないか?と私は考えています。
是非、今回の話を参考に、あなたの職場でも具体的な取り組みが行われることを願っています。