シリーズ「ビジネスエゴグラム」~ゲーム分析その1・人間関係がこじれるのはゲームをしているから⁈~

シリーズ「ビジネスエゴグラム」。第5回の今回はゲーム分析を通じて、人間関係がこじれる理由について考えていきます。

  

長い歴史と確かな実績を持ち、ビジネスの現場に活用する企業も増えてきている性格分析手法の「エゴグラム」について詳しくご紹介していくシリーズ「ビジネスエゴグラム」。

シリーズ5回目となる今回からは、エゴグラムの基となっている交流分析理論の柱の一つ、「ゲーム分析」を通して人間関係がこじれる理由について解き明かしていきます。

人間関係がこじれるのはゲームをしているから⁈

好き好んで「人間関係で思い悩みたい!」という方は、恐らくいらっしゃらないでしょう。

誰もが心地よくストレスのない人間関係の中で過ごしたいと思うものですが、実際にはこれまでの人生で一度は悩んだ経験があるのではないでしょうか。

人間関係のこじれは他人同士が集まる会社や学校ばかりではなく、血の繋がった家族や親せき間でも起こることが珍しくありません。

どうして人間関係はこじれるのか。エゴグラムの基であり、人の自我とコミュニケーションに焦点を当てた精神分析手法である「交流分析」においても、人間関係のこじれは大きなテーマの一つとなっています。

そして結論として、「人間関係がこじれるのはゲームをしているため」とうたっているのです。

一体どういうことなのか、詳しくご紹介しましょう。

交流分析における「ゲーム」とは

「ゲーム」といっても、テレビゲームやボードゲームといった娯楽的なものではありません。

交流分析における「ゲーム」とは、いわゆる心理戦のような互いの駆け引きを例えて名付けたものです。

しかもその多くでは、罠やインチキといったものがやりとりの中に内蔵されています。

前回記事「パターンで理解するコミュニケーション」の中で、やりとりのパターンの一つとして、建前の裏に本音がこもった「裏面的(仮面的)やりとり」というものがあるとご紹介しました。

この「裏面的(仮面的)やりとり」が繰り返され定型化しているものが、交流分析において「ゲーム」と呼ばれるものなのです。

心理的ゲームの特色

心理的ゲームには、実は多くの特色がみられます。ここからはそれらについてご紹介しましょう。

●ゲームをしている当事者も気づかない動機や目的が隠れている場合が多い

心理的ゲームの典型例と言えるのが、夫婦ゲンカです。

互いのやりとりは確かに見ている者をハラハラさせますが、たいていの場合はいつの間にか仲直りしています。

それはケンカのほとんどが些細な事柄をきっかけに起こるためであり、またケンカという表面的なコミュニケーションの裏で、改めて互いの存在を認め合うケースもあるためです。

「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」という言葉は、これらの事も見通したことわざと言えるでしょう。

●ゲームには予測可能なエンディングがある

傍から見て「いずれ別れるのではないか」と思っていた二人が、案の定別れる。

あるいは、健康に気をつけるよう再三注意されていた仕事人間が、健康を害してしまう…。

予測のしやすさは異なりますが、ゲームは予測可能なエンディングに向かって進行していく特色があります。

●「自分や他人がOKではない」という証明のために行われる

ゲームを演じる人々には、性格形成過程での歪みにより生じた「自分や他人がOKではない」という構えを証明しようという強い傾向が見られます。

例えば、職場でひんしゅくを買う行動をとったり、常習的に遅刻を重ねたりする人にとって、それらの行為は「自分はOKではない」という自己否定的な構えを証明するためのゲームであるということが少なくありません。

また、自分から男性を誘惑しておきながら寄ってきた男性をこき下ろし、「男なんかこんなもんなのよ」といった態度をとる女性も、いわば「自分のような女性はOKだが、男性はOKではない」という構えの表れと言えるのです。

●結末には特定の感情がともなう

自分の子供を叱っている中で思わず手を出してしまった時、多くの親は我に返り後悔の念に駆られることでしょう。

あるいは他人からの振る舞いに我慢し続けた挙句、堪忍袋の緒が切れて怒りを爆発させるとき、その怒りは本人の中では正当化されます。

このように、心理的ゲームでは特定の感情が伴います。

そしてそのほとんどは、先に挙げた後悔、怒りのほか、劣等感、抑うつ、恐怖といった不快で非建設的な感情です。

●生活時間を構造化する

心理的ゲームの特色としては、「生活時間を構造化する」ということも言われます。

「生活時間の構造化」とは、自分の生活パターンに心理的ゲームを組み込んでしまうことです。

例えば親の愛情がもらえないと感じている幼い子供の場合、わざと危なっかしい事をしたり病気を訴えたりといった方法によって親を注目させようという試みを、1日のサイクルとして繰り返してしまうケースがあります。

また、会社勤めという1日が明確に構造化された中で生活をしてきた人が定年退職後に日々の生活パターンを自分で決められないがため、同居する家族や周囲の粗探しをするゲームによって時間を過ごすというのも「生活時間の構造化」の一例です。

なぜゲームを演じてしまうのか

先ほどご紹介した心理的ゲームの特色を見る限り、ゲームはあまり積極的に行うべきことではないように思われます。

にもかかわらず、なぜ当事者たちは繰り返しゲームを行ってしまうのか。

交流分析ではその理由を次のように考えています。

●愛情や注目を得るための手段として

人間は通常、成長する過程で愛情や承認を直接的に受け取る方法を学習します。

しかしそれが学習できなかった場合、その代わりとしてゲームという歪んだ形で自分の存在を周囲に認めてもらおうとするのです。

我が子に対して素直に愛情表現ができない親がからかったり虐待したりといった行動をとるのも、ゲームの一種と考えられています。

そしてそんな親を持つ子もまた、愛情欲求をすねたり、ひがんだりといったゲームで表す癖を身につけていってしまうのです。

●生活時間を構造化する手段として

いわゆる「鍵っ子」として親の帰宅を待たなければいけない子供や定年退職により家で一緒に過ごす時間が長くなった老夫婦の中には、家で過ごす時間にストレスに感じてしまうケースがあります。

そんな時に、子どもから病気と訴えられたり困るような言動をされたりすれば、親は早退して子供に時間を割かざるを得ません。

また、夫婦で互いの粗探しをすれば、ある程度の時間は過ごすことができます。

このように持て余す生活時間を構造化する手段としても、ゲームは演じられることがあるのです。

●自他に対する「基本的な構え」を証明する手段として

交流分析において、人は成長する過程で「自分はOKである・OKではない」のどちらか一つと「他人はOKである・OKではない」のどちらか一つ、計4つの組み合わせのどれかを「基本的な構え」として持つとしています。

このうち「自分はOKではない」「他人はOKではない」のいずれか、あるいは両方を持っている人の場合、ゲームを通じてそのことを証明する場合があります。

ゲームに織り交ぜられるラケット感情

ゲーム分析と強い結びつきを持つのが、「ラケット感情」という考え方です。

ゲームでラケットと聞くと、テニスや卓球のラケットを思い浮かべるかもしれませんね。

単語としては同じラケット(racket)なのですが、ここではペテンや不正、詐欺といった意味合いで使われます。

「ラケット感情」とは「ニセモノの感情」とも表現されるものです。

例えば子供が、ある事に対して親に「怖いよ」と素直な感情を出したとします。

そんな時に親から「そんなことで怖がらないの」とあっさりと対応されたとしましょう。

親から自分が望んだような反応をしてもらえなかった子供は、何とかして自分の望むような反応を引き出そうと色々な種類の感情を出します。

その中で、本心は怖いにもかかわらず「怖がらずに立ち向かった」と伝えたところ親から最も良い反応を得られたとします。

そしてそれが繰り返されるなかで、本心の不安を偽った強がる感情をまるで本心であるかのように置き換えてしまうのです。

この置き換える偽りの感情を「ラケット感情」と呼びます。

結果、大人になってから不安なことに直面しても、周囲には「平気、平気」とラケット感情によってゲームを演じてしまい、不安や恐怖、イライラといった不快な感情を味わい続けてしまうのです。

 

今回はゲーム分析の1回目として、ゲーム分析の考え方を通じて人間関係がこじれてしまう理由についてお伝えしてきました。

ゲームを演じてしまうことの背景には、親(P)・大人(A)・子供(C)の3つの「自我状態」(自分のあり方)が大きく関係しています。

自分自身の自我状態を知る確実な方法は、自分のエゴグラムを把握しておく事です。

気になった方は「賢者の人事」を運営する株式会社経営人事パートナーズが開設している、無料のエゴグラム診断サイトをぜひご活用ください。

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また株式会社経営人事パートナーズでは、エゴグラムを活用した人材採用コンサルティングや人事戦略コンサルティングも行っております。

今回の記事を読んで、心地よいコミュニケーションが図られる組織のためにエゴグラムの導入を検討したいという際は、ぜひお気軽にご相談ください。

次回は「ゲームの公式」とも呼ばれるゲームが演じられる際のパターンや、ゲームの具体例、そしてゲームの止め方・対応法についてご紹介します。

※参考資料

中村和子ら著「わかりやすい交流分析」第二版,チーム医療,2007年
桂戴作ら著「交流分析入門」第二版,チーム医療,2007年
杉田峰康ら著「ゲーム分析」第二版,チーム医療,2007年

Who is writing

1982年生まれ。大手建機レンタル会社や書店チェーン、金属材料販売会社に勤務する傍ら、小学生のころにテレビで見たイギリスにあるリンクスコースの光景に衝撃を受けて以来、ゴルフコースに関する情報収集を趣味としている。ゴルフコースに関する蔵書は、洋書も含めて数十冊。
日本交流分析学会 正会員