Contents
突然ですが、みなさんは最近、体調はいかがですか?
なんだか調子がいまいち、病院に行くほどでもないけれど毎日疲れている。
何かとせわしない現代社会に生きていると、そんな状況の方も多いのではないでしょうか。
もしくは、身体に良いと言われている食生活を意識しているのに、あまり効果がない・・・
そんな方もいらっしゃるかもしれません。
さて、今回は、そんなビジネスパーソンや人事の方のためのコラム。
自分の健康を見直すきっかけになり、なんと人事の仕事にも活用できてしまう一石二鳥の医学、「アーユルヴェーダ」の叡智を、2回にわたりお届けします。
インドの伝承医学「アーユルヴェーダ」とは?
アーユルヴェーダ、最近はこの言葉を聞いたことのある方も増えてきているのではないでしょうか。
5000年以上の歴史をもち、世界最古の医学とも言われているインド伝承医学です。
サンスクリット語で、アーユスは生命、ヴェーダは科学・知識・知恵。
アーユルヴェーダとは、生命の科学という意味です。
つまり、人間だけでなく、すべての生命の取り扱い説明書のようなものですね。
そのため、植物や動物のためのアーユルヴェーダも存在します。
日本では、医学というよりは、アンチエイジングやリラクゼーションの一環として広まっている傾向があります。
オイルマッサージや、上の写真のような、おでこにオイルを垂らすシロダーラという施術のイメージが強いかもしれませんね。
もちろんそのような側面もあるものの、本来は外科や内科から小児科(産婦人科も含む)や精神科まで8つの診療科目があり、それらが統合された普遍的な医療体系と、三大古典医書が存在するれっきとした学問です。
アーユルヴェーダはWHOも認めている医学で、インドではAYUSH省という、日本の厚生労働省のような立ち位置の機関があり、アーユルヴェーダをはじめとする代替医療が、国の医療として成立しています。(残念ながら、日本では医療行為としては認められていません)
また、インドやお隣のスリランカでは、先祖代々続くアーユルヴェーダドクターの家系がいくつもあり、数千年前から存在する智慧は、親から子へ、または師匠から弟子へ、口伝で受け継がれてきた歴史があります。
さらにインドでは大学でアーユルヴェーダを学ぶこともでき、日本の大学のような西洋医学を学ぶ医学部とは別途、アーユルヴェーダを研究できる専門コースがあります。
ここで読者のみなさんの中には疑問もあると思います。
学問とはいえ、あんなに食文化も気候も異なるインドの医学は、日本では応用できないのでは?
いいえ、そんなことはないんです。
インドは熱帯のイメージがありますが、北と南では大きく気候が異なり、気温も湿度も地域差があります。
北インドのデリーなどは、12月~1月は防寒が必要なほど冷え込みます。
食事の内容も異なり、北部は小麦、南部は米が主食。カレーの具材も、北インドは肉類、南インドは野菜や豆が中心になります。
確かに治療に用いるハーブなどは、一部インド特有のものもありますが、理論はとても普遍的で、汎用性があるため、日本の生活に当てはめることも十分可能なのです。
少し個人的な話になりますが、筆者は過去に体調を大きく崩し、長期療養をしていた時期があります。
当時勤めていた企業の定期健康診断で引っかかり、大学病院をいくつか回りましたが原因不明、いくつも難病や病気の疑いをかけられ、不安だらけで検査通いの日々を送った経験があります。
幸い悪性のものではなかったので安堵したものの、原因が分からないので、とりあえずステロイド飲んでみますか?というドクターの打診。
・・・とりあえず?
いや、とりあえずは違う気がする。
そのときに感じた違和感がきっかけで、自分の主治医はあくまで自分、よきアドバイザーやツールをうまく選択していこう、という考え方に大きくシフトしました。
自分の身体のSOSを無視していたことに気づき、今思えば、恥ずかしながら自分の健康を他人任せにしない最初の1歩だったと思います。
そんなときに、アーユルヴェーダと出会いました。
その奥深い魅力にはまり、理論を学んだり、実際にインドで臨床されているインド人アーユルヴェーダドクターの講義を受けたり、自分の身体と照らし合わせて実践しながら集中的に勉強していた時期があります。
そして現在では引き出しのひとつとして、日々の生活にアーユルヴェーダの智慧を取り入れています。
このようにアーユルヴェーダ医学は、西洋医学のようにドクターだけが薬を処方できるようなものではなく、私たちが日常で広く応用できる知恵袋のような役割もあるのです。
古いのに新しい、アーユルヴェーダの魅力
では、実際にアーユルヴェーダはどのような診察があるのでしょうか。
主に3つ、視診・脈診(触診)・問診があります。
なかでも患者の脈に触れる脈診は、アーユルヴェーダの特徴のひとつです。
筆者も、スリランカの都市部から5時間かけて、ローカルなアーユルヴェーダ病院のドクターに診てもらいに行ったことがあります。
既往歴などの前情報は一切伝えないまま、左手首の脈診がスタート。(男性は右手首を診ます)
すると10秒もしないうちに、脈に触れたまま、すでに日本の精密検査で明らかになっていたことも含めて、身体の臓器や血液がどのような状態になっているか、どのようなことが原因で、今の身体にどのように作用しているか、さらに今後の日々の食事の内容や食べ方、生活全般から精神面まで、積極的に取り入れることや禁忌事項など、次々に説明がありました。
なんで脈を触るだけでここまでわかるの?と本当に不思議なのですが、これも魔法でも超能力でもなく、数千年も前から確立されている脈診のスキルなんですね。
このようにアーユルヴェーダの診断では、人間を生理的な観点、情緒など内的な観点、季節や職業、毎日の食事など一人ひとりを総合的に診て、さまざまな因果関係・相互関係を大きく捉えていきます。
それに対し、西洋医療は、患者の表に出ている症状や数値にフォーカスした対症療法が中心のため、一般的にはそこまで包括的に診ることはしません。
そのため、同じ症状でも異なった結論を出すことも珍しくありません。
目にみえる症状が出ているが、その原因は、この人の場合は何なのか
この考え方をもとに、さまざまな角度から解決していくのが、アーユルヴェーダ医学の特徴です。
一見すると同じような症状にみえても、原因は人それぞれ。
その原因を正確に捉えることができれば、根本的な治療が可能になります。
そのため、本人がしっかり原因と対策を理解できれば、病気の再発を予防することにもつながります。
これが、原因よりも結果に注目し、症状を薬で抑え込んだり患部を切り取ったりしてしまうような対症療法とはまったく異なる、根本治療の考え方なのです。
人を治療するのか、病気を治療するのか。
病気はある日突然なるわけではなく、必ず原因があります。
日本でも統合医療という言葉が浸透しつつありますが、現代科学の観念に囚われてしまうと、現代が最も進んでいて、西洋医学を代表とする現代医療こそが最先端で有効であると思ってしまいがちです。
もちろん西洋医学も必要不可欠で、特に外科手術や救命救急、急性疾患などに迅速に対応できるのが大きな強みですが、インドや中国で少なくとも数千年以上ものあいだ、有効性も理論も成立している医学に比べて、西洋医学はまだたった数百年の歴史しかないことも忘れてはいけません。
世界にはさまざまな伝統医学がある中で、まだまだ民間療法の一部として宗教や迷信のようなものと同様に捉えている人がいるのも事実ですが、アーユルヴェーダは一貫した理論基盤があり、実際に学んでみると、心と身体のバランスが崩れがちな現代社会にこそ必要な知恵がつまっていると筆者は感じています。
調和という言葉も、この医学のキーワードでしょう。
また、アーユルヴェーダは、健康な人をより健康にするための医学でもあります。
予防医学という考え方も広まってきていますが、病気の治療だけでなく、自分の生命を最大限に活かし、より幸福な人生を送るために説かれている、ある意味とても最先端な要素もあるのです。
「体質改善」はあり得ない!?
では、具体的にアーユルヴェーダでは人間をどのように捉えているのか、今回は土台となる考え方の一部をご紹介したいと思います。
はじめに、アーユルヴェーダでは、人だけでなく動物や植物、無機質なものも含めて、宇宙にあるすべての物質は五大元素からできていると考えます。
具体的には地・水・火・風・空(または空間)という5つの要素で構成されており、すべてのものには五大元素が存在しています。
私たちの身体もどんどん細分化すれば原子の集まり、原子にもこの五大元素の構造があります。
中国の漢方でも似たような捉え方をしています。
五行といって、木・火・土・金・水の5つの要素が、互いに影響し合うことにより、身体のバランスを保っていると考えます。
中国茶や薬膳を出すカフェなどに行くと、たまに五行を説明する五角形の表を見かけたりしますね。
そして、この五大元素、ただ構造があるだけでは意味がなく、これらを機能させるエネルギーが必要です。
アーユルヴェーダでは、このエネルギーのことを、ドーシャといいます。
私たちはドーシャがないと生きていけません。
そして、ドーシャが正常に働いていれば身体を維持して守ってくれるものとなり、ドーシャがバランスを崩して乱れると病気になる、と考えます。
アーユルヴェーダでは、このドーシャを、3つの基本的な生物学的エネルギーとして捉えています。
ヴァ―タ、ピッタ、カパという3つのドーシャです。
あ、これは聞いたことがある、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
3つのドーシャはそれぞれ、先ほどの五大元素のうち2つの性質をもっています。
それぞれの性質を簡単にご紹介します。
ヴァ―タ:風+空
風のイメージからも分かるように、3つのドーシャの中で唯一、自ら動けるエネルギー。
すべての生命の起点となり、ヴァ―タが働くことではじめてピッタやカパが機能します。
身体の中では、主に、運搬・伝達の役割をします。
例えば、血液の流れや、腸の蠕動運動が起こるのも、ヴァ―タのエネルギーです。
- 性質:乾燥性、軽性、冷性など
- 特に関連する部位:大腸、骨・骨髄、耳、腰など
ピッタ:火+水
ピッタは変換のエネルギーで、身体の中では、消化・代謝の役目をします。
口に入れた食べ物が、身体に吸収される栄養素にかわるのは、このエネルギーのおかげです。
- 性質:熱性、鋭性、軽性など
- 特に関連する部位:体液、血液、目、肝臓、すい臓など
カパ:水+地
水と大地といえば、どっしりとした重さがありますね。
身体の中では維持・安定・固着の役割をします。
身体を守ってくれる免疫機能も、このエネルギーが担当しています。
- 性質:油性、重性、柔性など
- 特に関連する部位:胸(肺)、鼻、喉、粘膜、脂肪など
この3つのドーシャの働きによって、私たちの身体は機能しています。
さて、重要なのはこのドーシャの配分です。
例えば、自然界の石と花では、まったく姿かたちが異なりますね。
同じ五大元素で構成されているけれど、そのエネルギー配分が異なるので、現実には別のものとして認識される、というわけです。
これは、人間にも同じことがいえます。
このドーシャの最適なバランスが、人それぞれまったく異なるのです。
自分の最適なドーシャバランス=自分の体質となります。
その体質が決まるのは、なんと誕生する前、受精時といわれています。
この生まれもった体質のことを、プラクリティといいます。
体質には、体格のような見た目だけでなく、性格や気質、好み、考え方や行動パターンの傾向なども含まれます。
このプラクリティは、一生変わりません。
そして、それがその人の個性である、という考え方です。
一人ひとり、ベストバランスをもって生まれてくる ということです。
そのように考えると、自分でコントロールできないのが個性、だったらもう、個性は受け入れるしかないもの、となるわけです。
ちなみに、よく巷で、“体質改善のために〇〇を飲もう!〇〇が効く!”みたいなフレーズがありますが、生まれもった体質は変わらないので、バランスさせるという考えはあっても、アーユルヴェーダにはそもそも「体質を改善する」という概念がありません。面白いですよね。
アーユルヴェーダでわかる自分の「個性」と「ズレ」
正確にはもっと複雑な要素が絡み合いますが、体質のドーシャバランスをとても単純に表してみましょう。
このように私たちは全員3つのドーシャをもっていますが、それぞれのバランスが異なります。
Aさんは、ヴァ―タとピッタのエネルギーが多い体質で、カパは少なめ。
ヴァ―タ・ピッタ体質です。
Bさんは、ピッタのエネルギーが強く、次いでカパのエネルギーを比較的多くもっています。
ピッタ・カパ体質です。
Cさんの体質は極端な事例ですが、ヴァ―タのエネルギーが突出しています。
ヴァ―タ体質です。
Cさんの場合、現代の適合社会では、もしかしたら少し生きづらい部分もあるかもしれません。
反対に、突出した特性を発揮できる仕事や環境に出会えると、ものすごくチャンスがあるようなタイプです。
後編でそれぞれの体質の特徴をご紹介しますが、ヴァ―タ体質は、芸術家やクリエイターに多いタイプです。
また、Cさんのような単独のドーシャが優勢な体質は珍しく、基本的に2種類のドーシャが優勢になっている混合タイプの方が多いです。
同じ体質のタイプでも、実際のバランスは誰一人として同じものはありません。
ちなみに、ヴァ―タ・ピッタ・カパのバランスが、ほぼ1:1:1の人は、ほとんど存在しないといいます。
私が講義を受けたアーユルヴェーダドクターも、今までで1人しか診たことがない、とのことでした。
それくらい平均的な人は珍しく、みんな生まれながらに傾きがあり、さまざまな凸凹が存在するということです。
そのため、すべてのドーシャをバランスよく3分の1ずつにすれば健康というわけではありません。
この、それぞれのベストバランスの凸凹をずっと維持できればいいのですが、現実はそうもいきません。
生きていく中で後天的な要素が加わり、ドーシャのバランスは変わります。
この後天的に加わるドーシャのことをヴィクリティといい、増えすぎたり大きくバランスを崩したりすると、病気のもとにもなります。
ヴィクリティは、季節や年齢、過ごし方、食事の偏り、選択する職業、身を置く環境、さまざまなことが影響し、増減します。
たった1日の中でも、ヴァ―タが増えやすかったりカパが増えやすかったり、それぞれのドーシャが優勢になる時間帯があるほどです。
いくつか共通して変化するものをご紹介しましょう。
例えば、一生涯のうち、幼少期はカパが増えやすく、青年期はピッタ、老年期はヴァ―タが増えやすくなります。
そのため、赤ちゃんの疾患は、中耳炎、喘息といったカパ由来のものが多い傾向にあります。
ヴァ―タが優勢の体質の人は、老年期に骨折など、ヴァ―タ由来のトラブルに注意が必要です。
季節では、冬にカパが体内に溜まりやすく、暖かくなる春に増大して、体外に出てきます。
毎年春の花粉症に悩んでいる方は、もともとカパが優勢な体質で、冬にカパのエネルギーをため込みすぎていることが原因かもしれません。
このように、生まれもった体質は、自分の優勢なドーシャが増えやすいタイプであるともいえるので、自分の優勢なドーシャが増大してバランスが崩れると、そのドーシャ特有の病気になりやすくなります。
例えば先ほどのCさんの場合は、ヴァ―タが突出しているので、ヴァ―タ性の病気になりやすい傾向があります。
また、生まれながらの体質に話を戻すと、体質は受精時に決まるので、自分の父親と母親のドーシャの状況が、自分の体質にも大きく影響することになります。
実際はもっと複雑で、それだけで体質が決まるわけではありませんが、同じ親から生まれてきたのに、兄弟でもまったく外見や性格や好みが違うのは、季節や環境、両親の元々の体質や受精時のドーシャの状態、両親どちらのドーシャが強いかなど、さまざまな要因が重なっているからなのです。
そのように考えると、自分の日々の生活の積み重ね方が、自分や子どもの未来をつくっていくということが、概念だけでもリアルに感じられるのがアーユルヴェーダ。
そして、本来の自分との「ズレ」に注目し、自分と向き合うことができます。
そのため、アーユルヴェーダでは、なるべくドーシャのバランスが、本来の自分の体質のバランスに近くなるように、自分の心身の状況を自分でよく観察し、主に日々の食事で整えることを重視します。
こちらも後編で少しご紹介したいと思います。
凸凹が当たり前、完璧は無理をしている証拠
さて、今回ご紹介したアーユルヴェーダの考え方を、人事やキャリア形成の観点で解釈すると、気づくことがあります。
誰ひとりとして同じ凸凹はないこと。
そして、元々の凸凹のバランスが、個々人にとっての最適なバランスで、実はもっともスムーズに本来の力を発揮できる状態であるということです。
そのため、頑張って自分の凹を埋めようとしたり、凸凹を平らにするために1:1:1のバランスにしようとしたりすることが、いかに自分の個性を、自ら遠ざけているかが、お分かりいただけると思います。
健康でイキイキと働くためには、自分の凸凹を守る必要がある。
凸凹がなくなったら、それは無理をしている証拠。
これに気づいたとき、私はとても楽になりました。
そして、人の凸と比較して、あんなふうにならなくちゃ、自分もこうすべきだと考えることが、どれだけ不健康なことか、5000年も前から存在する医学が教えてくれています。
「自分らしく」というのは、なかなか可視化しづらいですが、このアーユルヴェーダの体質論から紐解いていくと、「ありのままでいい」というのは本当で、むしろ完璧になろうとすることは逆効果、かえって平凡になってしまうことが想像できます。
自分のドーシャの最適バランスは目にはみえないですが、自分の心身にとって、とても楽で幸せだな、無理なく力を発揮できるなと感じる状態にすること、その環境を探すことが、本来のバランスに近い状態で生きられることにつながるのではないでしょうか。
後編では、それぞれのドーシャの特徴や見分け方、自分がどのような体質なのか、実際にドーシャのチェックをしながら、就職や転職、組織の適材適所に活かせる点をお伝えしていきたいと思います。