AIに乗り遅れる焦り、まず何から手をつけるべきか?

その焦りの正体は何か?

先月ある製造業の社長と話した。

「AI、うちも何かやらなきゃまずいよね」

そう言った後、少し黙ってこう続けた。

「でも、何から手をつければいいのか、正直わからない」

この言葉に、いま多くの経営者の本音が詰まっている。

競合が導入したという噂を聞く。

展示会に行けば生成AIの活用事例が並ぶ。

息子や若手社員は、当たり前のようにChatGPTを使っている。

自分だけが置いていかれているような感覚。

それが焦りの正体だ。

だがこの焦りは悪いものではない。

むしろ、今のタイミングで感じられていることは幸運だと言っていい。

理由は単純だ。

中小企業のAI活用は、まだ本格的な競争が始まっていない。

今動けばまだ「一番手」でいられる。

 

何もしなかった場合何が起きるか?

放置した先に何が起きるかは、想像するまでもなく、いくつかの会社で既に起きている。

一つは若手が辞める。

ある会社では、新卒で入った社員が「この会社、仕事のやり方が古すぎる」と半年で退職した。

手作業の集計、紙の申請、同じ内容を何度も入力する業務。

優秀な人ほど、非効率な仕事に時間を吸われることに耐えられない。

もう一つ、人手不足がそのまま固定化する。

今の日本の中小企業にとって、人を採ることは簡単ではない。

だからこそ、少ない人数で回せる仕組みを作れるかどうかが、これからの数年を左右する。

AIはその手段の一つになり得るが、それは「導入すれば自動的に解決する」という話ではない。

放置しても、会社は今日明日つぶれるわけではない。

ただじわじわと差がつく。

それだけは、一度触れておきたい事実だ。

 

本当の課題は「ツールがない」ことではない

ここで多くの社長が誤解していることがある。

中小企業でAI導入が進まない理由は、ツールが高いから、機能が難しいからではない。

生成AIの使い方自体は、今はかなり簡単になっている。

無料でも試せるし、月数千円のプランで十分な業務効率化ができる場合も多い。

導入コストが障壁になっているケースは、実はそれほど多くない。

本当の課題は、「自社のどの業務に、どう使えば効果が出るのか」を見極められる人が、社内にいないことだ。

生成AIの導入に失敗する会社を見ていると、共通しているのはいきなり「全社でAIを使おう」と号令をかけてしまうパターンだ。

号令だけが先に立ち、現場は「結局何をすればいいのか」が分からないまま、誰も本気で触らない。

数ヶ月後、社長が「あれ、どうなった?」と聞いて、初めて誰も使っていないことに気づく。

これが典型的な失敗の型だ。

AIに何ができるかを知ることと、自社の業務のどこに当てはめれば効果が出るかを判断することは、まったく別の能力だ。

多くの会社に足りないのは前者ではなく、後者を担える人材、つまり社内のAI人材である。

 

巷の解決策を一度斬っておく

書店やセミナーでよく語られる解決策には、いくつか気になる点がある。

一つは、「とにかく全員に研修を受けさせる」という方法。

これは悪くはないが、それだけでは何も変わらない。

研修を受けた社員は「使い方」は分かるが、「自社の業務にどう当てはめるか」までは、研修では教えてもらえない。

研修後、誰も実務で使わないまま終わる会社を何社も見てきた。

もう一つは、「全部外注してシステムを作ってもらう」という方法。

これは初期のコストも時間もかかる上に、社内にノウハウが一切残らない。

作った瞬間から、その仕組みは「他社製」のままだ。

数年後、業務が変わったときに、また外部に頼らざるを得なくなる。

そしてもう一つ。

「まず情報収集だけしておこう」という先延ばし型。

これは一見慎重で正しく見えるが、実際には何も進んでいないことを、別の言葉で言い換えているだけの場合が多い。

これらに共通しているのは、「AIそのもの」に注目しすぎて、誰がそれを使いこなすか」という、人の側の設計を後回しにしていることだ。

 

やるべきことやってはいけないこと

やるべきことはまず小さく始めることだ。

全社一斉ではなく、一つの部署一つの業務に絞る。

そして、そこに「向いている人」を見極めて任せる。

AIの活用がうまくいく会社は、例外なく最初に旗を振る「担い手」の見極めに時間をかけている。

逆に、やってはいけないことは「とりあえずITに強そうな人」に丸投げすることだ。

ITスキルと、業務のどこにAIを当てはめるかを考える力は、別物である。

ここを混同したまま人選をすると、高い確率で頓挫する。

もう一つやってはいけないのは、経営者自身がAIから距離を置くことだ。

「若い人に任せておけばいい」という姿勢では、現場は本気で動かない。

社長が自分の言葉で「何のためにやるのか」を語れているかどうかが、最終的に社内の温度を決める。

 

まず何から始めるか

結局、「AI何から始める」という問いに対する答えはツールの選定ではない。

自社のどこに課題があり、それを見極めて任せられる人材が社内にいるかどうか、という一点に尽きる。

私はこれまで、延べ約5万人規模の採用・人材の現場を見てきた。

その経験から言えることは一つだけある。

組織の変化がうまくいくときは、必ず「この人に任せよう」という見極めが、最初の一歩にある。

AIも例外ではない。

もし、社内のどこから手をつけるべきか、誰に託すべきか、その判断に迷っているなら。

一度、外の目を入れて整理してみるのも一つの方法だ。

焦って動く前に、まず現在地を確認することから始めてもいい。

 

何から始めるか?その見極めを一緒に

AI活用の成否は、ツールではなく「誰に、どの業務を任せるか」で決まる。

その最初の見極めを、外の目を入れて整理してみたい経営者の皆様限定。

延べ5万人規模の採用・人材の現場を見てきた経験から、御社の現在地と任せるべき人材の見立てを、一緒に言葉にします。

焦って動く前の最初の一歩として。

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Who is writing

株式会社経営人事パートナーズ 代表取締役 / 元・日産自動車 グローバル人事部長
横浜国立大学大学院 工学研究科修了
日本交流分析学会 正会員

エンジニア・商品企画から人事へ。少し変わった道を歩いてきた。

2010年、突然のグローバル人事部長への異動。そこから私の人事人生は始まった。任されたのは、世界25万人の社員の採用・離職管理と、約1兆円の人件費マネジメント。人事未経験での船出は、悪戦苦闘の連続だった。それでも3年後には、毎月役員会に報告できる体制をつくり上げていた。

そこで得た教訓は一つ。人事のすべての仕事は、つなげて考えたほうがうまくいく。採用・育成・評価を、バラバラに最適化しない。全体として設計する。この視点が、いま中小企業の現場で、さらに重みを増している。

AIの登場で、人の採用・育成・評価・生産性を"つなげて"動かせる時代が来た。技術に向き合ったエンジニアの目と、組織に向き合ってきた人事の経験。その両方が、いま「経営 × 人事 × AI」を一本の線でつなぐ仕事に結実している。高価なシステムを買うのではない。中小企業が自らの手で、人の悩みをテクノロジーで解いていく。その内製化を、隣で支えるのが私たちの役割だ。

自分を客観視するのは、人も会社も難しい。だからこそ、数多くの成功と失敗を活かし、お客様の課題を一緒に考えるパートナーでありたい。

人は、会社がなくても生きていける。だが、会社は人がいなければ存続できない。その想いに、いま一行を重ねている——テクノロジーは、人を減らすためではなく、人を活かすためにある。