長い歴史と確かな実績を持ち、ビジネスの現場に活用する企業も増えてきている性格分析手法の「エゴグラム」について詳しくご紹介していくシリーズ「ビジネスエゴグラム」。
2回目の今回は、エゴグラムで表される5つの自我の特色について取り上げます。
エゴグラムで表される5つの自我
「エゴグラム」においては、まず自分の行動や性格に関する数十問の質問に対して「はい・いいえ・どちらでもない」で回答する性格診断テストを行います。
そして5つの自我(エゴ)の状態を診断し、それぞれの大小を図表(グラム)化して示すのです。
5つの自我とは次のものです。
・CP(Critical Parent):厳しい父親的な部分
・NP(Nurturing Parent):優しい母親的な部分
・A(Adult):冷静で客観的な大人な部分
・FC(Free Child):自由な子どもの部分
・AC(Adapted Child):従順な子どもの部分
しかし、そもそもなぜこの5つなのでしょうか。
実はそこには、エゴグラム誕生の元となっている「交流分析(TA・Transactional Analysis)」といわれる心理療法における考え方が深く関係しています。
続いては交流分析の考え方にも触れながら、5つの自我に分類される理由についてご紹介しましょう。
なぜ5つの自我に分類されるのか
「交流分析」とは、1950年代にアメリカの精神科医エリック・バーンが提唱したといわれる心理療法です。
その特徴としては「交流分析」の名の通り、人と人とのコミュニケーションに焦点を当てている点が挙げられます。
人と関わるときの思考や感情、行動のクセや傾向を「自我状態」と定義し、自身のタイプを知ることでコミュニケーションの改善を図るという療法なのです。
バーンは、「自我状態」の中には
・親の影響で取り入れたもの(P:Parent)
・大人になってから備えたもの(A:Adult)
・子供のころのまま残っているもの(C:Child)
の3つがあり、これらの大小の特徴が思考や行動パターンにも表れると唱えました。
これは「構造分析」と呼ばれ、交流分析における4つの基本理論(構造分析・やりとり分析・ゲーム分析・脚本分析)の一つとなっています。
その後、バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが各々の自我状態を分析するプログラムの一環としてエゴグラムを考案しました。
その際に彼は、構造分析におけるP・A・Cの3つの自我状態のうち親の影響としているPを、厳しい父親的な部分であるCPと優しい母親的な部分のNPに細分化。
さらに子供のころのまま残っているCも、自由な子どもの部分のFCと従順な子どもの部分ACに分けて、より明確化しました。
こうしてエゴグラムにおいては自我の状態が5つに分類されることとなった訳です。
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次の章では、5つの自我それぞれの特色について解説していきます。
5つの自我それぞれの特色
ここからは、エゴグラムにおいて分類される5つの自我それぞれの特色についてご紹介しましょう。
【親:Parent】
●CP(Critical Parent):批判的な親の部分
特色:道徳的、厳格である、理想がある、頑固、批判的
CPは厳しい親の部分を示す要素です。日本における頑固おやじのような性格と言えばわかりやすいでしょうか。
CPが高い人の特徴としては、規律や規則、時間の約束といった道徳や倫理観を重んじる点があります。
また責任感が強く、目標や理想に向かって迷わずに進むことができるということもポイントです。
そのため組織においては、ルールを破る人への注意や部下への指導が必要な管理職に向いている特徴と言えます。
しかし時として、自分とは異なる意見や言動に対して威圧的・支配的に接する側面があり、周囲の人に窮屈さを感じさせかねません。
反対にCPが低い人は、良く言えばおおらかで、悪く言えば自分にも他人にも甘い人。
時間の約束やお金の貸し借りなどの約束事にルーズな面があります。
CPが低い人が管理職となった場合、仕事のやり方等を細かく指示・指導するということは苦手です。
その反面、自分と同じやり方を他人に要求することもないため、同僚や部下も型にハメられる苦しさがありません。
●NP(Nurturing Parent):養育的な親の部分
特色:優しい、思いやりがある、世話好き、過保護・過干渉
NPは優しい母親のような自我の部分です。
NPが高い人の多くには、優しさや調和を重視し周囲とのあつれきを好まないという特徴が見られます。
また、共感しながら話を聞くのも得意で、他の人に対する気づきや気遣いにも優れていることが多いです。
組織においては部下や後輩に対して面倒見の良い、指導役の先輩というポジションが理想的でしょう。
ただし人によっては世話を焼くのが過ぎて過保護・過干渉となり、相手の成長を妨げてしまう場合もあります。
一方NPが低い人の多くは、人との温かいコミュニケーションが得意ではありません。
相手が喜ぶ行動を察するのも苦手なため、どうしても周囲から慕われにくくなります。
見方を変えれば必要以上に構いすぎることもないため、相手の自立が妨げられることもありません。
【大人:Adult】
●A:冷静で客観的な大人な部分
特色:合理的、冷静、クール、情に欠ける
冷静な大人の自我状態であるA。合理的で現実主義的な思考が特色です。
Aが高い人は客観的な事実に基づいて、物事を論理的に考えるのが非常に得意なタイプ。
何か行動を起こす際も、感情に振り回されることなく後先考えて動きます。
仕事上においても有能な人が多いため、意思決定者に適しているタイプです。
反面、業務におけるクールさが時に情に欠けると見られ、周囲の人に近寄り難さを感じさせてしまう可能性もあります。
Aが低い人に見られるのは、考えるより先に行動するパターン。
フットワークが軽く、やらない理由をくどくど考えるということもありません。
しかしAが低い人は後先考えるのが苦手なため、行動もその場の感情や空気で決めることが度々です。
結果として後から後悔することも珍しくありません。
【子供:Child】
●FC(Free Child):自由な子どもの部分
特色:活発、行動的、感情を隠さない、わがまま、自己中心的
子供っぽさの中でも自由奔放、無邪気にふるまう子供の要素です。
FCが高い人の特徴は、活発でアクティブなこと。また好奇心旺盛であり、思った事を素直に表現します。
ビジネスの場面においては、興味を持った業務であれば自分の範囲を超えて取り組もうとしてくれるタイプです。
一方、苦手な仕事に対しては露骨にやる気が低下してしまう傾向があります。
またそれらの傾向が言動にも出てしまうため、周りからわがままで自己中心的に見られがちです。
FCが低い人は思ったことをなかなか素直に言えないため、苦しさを一人で抱え込みやすくなってしまいます。
ただしストレスを抱えている人にとっては、FCが低い状態の人と接するほうが疲れずに済むでしょう。
●AC(Adapted Child):従順な子どもの部分
特色:他者を優先、協調性がある、他者が気になる、自信がない
Adapted(アダプティド)とは、「適合させた、順応させた」という意味。
ACとは素直に周りの言うことを聞き、周りに順応する子供の要素を意味します。
従順で素直、協調的で調和を好むというのがACの高い人に見られる特徴です。
仕事においても上からの指示などに忠実であり、周囲を大切にするタイプに見られるため重宝されます。
しかし、思うところがあるにも関わらずそれを我慢し続けた場合には、結果としてプレッシャーに潰されたりストレスをため込んだりするのです。
逆にACが低い場合は周りに合わせる事がほとんど無いため本人はストレスフリーなのですが、周りの人がストレスを感じやすくなります。
良く言えば他人に左右されないタイプと言えるでしょう。
理想的なエゴグラムはあるのか
ここまでエゴグラムにおける5つの自我についてご紹介してきましたが、皆さんの中には5つの自我が理想的な状態、いわば「理想的なエゴグラム」の有無について気になる方もいるのではないでしょうか。
回答としては、理想的と言われているエゴグラムは一応あります。
例えば欧米において理想的とされているのは、図1のようにAを頂点としたなだらかな山型のエゴグラムです。
図1.Aを頂点とする山型のエゴグラム
どの自我も一定程度の高さを持っている中で温かみのNPと自己表現のFCが一段高く、さらにそれらをコントロールするAが最も高いのが理想という訳です。
一方、日本で理想とされているエゴグラムはこれとは多少異なります。
日本で重視されているのは、優しさの自我であるNPです。
NPが最も高い図2のようなへの字型、また図3のように自らも楽しむFCが同様に高いM字型が日本では理想と言われています。
図2.NPが最も高いへの字型
図3.NPとFCが高いM字型
欧米と違い日本においてNPよりAの高さがあまり重視されないのは、Aに由来する冷静さが時として冷たく人情味が無いように見えるため。
多少そそっかしくても、人情味がある方がいいという訳です。
またエゴグラムを考案したデュセイ自身は、それぞれの自我が平均して高めである図4タイプのエゴグラムも理想的なエゴグラムとしています。
図4.デュセイが理想的とした5つの自我が平均して高めのエゴグラム
しかし、だからといって5つの自我すべてが100点満点というくらいに高い図5のようなタイプは注意が必要です。
非常にエネルギッシュであるがために、頑張り過ぎて過労になるケースがあるためです。
図5.5つの自我が揃って高すぎるエゴグラム
そもそも自分の素直な気持ちで回答するよりも、「自分を良く見せたい、周りに認めてほしい」という思いを反映させたのではないかという疑問も浮かんでしまいます。
エゴグラムの目的は自分の行動パターンや性格を知り、自身の適性の把握や自己変容、コミュニケーションの改善に活かすことです。
また、職業やポジションによっても適性のあるエゴグラムは異なります。
理想的なエゴグラムにしようと気持ちにウソをつくのは本末転倒。あるがままの気持ちで質問に回答するのが、何よりも大切です。
自我を変える方法
あるがままの気持ちで質問に回答した結果のエゴグラムを踏まえて、それを理想とするエゴグラムに変える…つまり自我を変えることはできるのでしょうか。
答えはYESです。取り組みによって自我を変えることは可能です。
では、どのように自我を変えていけばいいのか。取り組んでいく際の大きなポイントがあります。
それは、「高い要素を下げることより、低い要素を上げるように心がける」ということです。
なぜなら、最も高い自我の要素はその人の特徴だから。
その特徴である自我を下げることはある意味自分自身を否定する事に繋がり、うまくいかないことが多いのです。
また交流分析においてはそれぞれが持つ心のエネルギーの総量は一定であると考えられているため、どこかの要素を上げればそれに伴って高かった要素はほとんどの場合で下がっていきます。
さてここからは、各要素を上げるための具体的な取り組みについてご紹介しましょう。
●CPを高める方法
CPを高めるとは、目標や理想に向かう実行力を高める、自分の意見や思いを伝えられるようになるということです。
そのためには、
・体調やお金、時間などに関する自己管理能力を高める。また、約束の時間に遅れるなど相手が約束を破った際も、そのことを質す。
・自分の意見や考えを伝えるようにする。実際には相手に伝えられなかった場合でも後で日記などにまとめ、自分の意見や考えを持つ意識をする。
・悪天候の日以外は部屋の換気をするなど自分にとって必要な事や目標を決め、それに向けて行動する。
といった事が効果的です。
●NPを高める方法
NPを高めるために最も大切なのは、相手に対して思いやりを持って接すること。
そのためには、
・相手の話をしっかりと聞き、気持ちに共感するように努める。
・相手の長所や良いところを日頃から探して、伝えてあげる。
・相手が困っている時や悩んでいる時は、手助けやサポートを申し出る。
といったことをしてみましょう。
自分のことはとりあえず置いておいて、相手主体で関わるのがポイントですよ。
●Aを高める方法
冷静な判断を下す自我であるAを高めるために必要なのは、物事を客観的に観察して論理的に考える習慣づけです。
具体的には、
・「なんとなく」という感情の中身を具体化・明確化していく。
・ある物事について、メリット・デメリット両方を考えて判断する。
といったことが効果的です。
また、その日に自分がとった行動を日記にまとめ、客観的に振り返るのも有効でしょう。
●FCを高める方法
FCを高められれば素直な感情表現ができ、やりたいことを存分に楽しむことができるようになります。
そのためには、
・あれこれ考えず、自分の感情のままに行動してみる。
・「ありがとう」を伝える際に「楽しかったです」と更に添えるなど、感情を隠さずに伝える。
といった事がおすすめ。
また併せて、マンガ、ゲーム、スポーツなど自分がやっていて楽しいと感じることを探し、増やしていきましょう。
●ACを高める方法
ACを高めて周囲との協調性を持ちたいという時に必要なのは、相手の想いや気持ちを重視することです。
具体的には、
・誰かと話をする際には聞き上手になるように努め、相手の話は相づちを打ったり、リアクションをとったりしながら聞く。
・自分の考えや意見を伝える際は、相手の反応を確かめながら話す。
・グループで行動する際には、誰かの決定を尊重する。
ということに取り組んでみましょう。
意外な方法としてはドラマの登場人物の誰かに同調して感情を表現してみるのも、他者の気持ちを知る練習になりますよ。
まずはエゴグラムで自我を知ることから始めましょう
シリーズ「ビジネスエゴグラム」の2回目として、今回はエゴグラムで分かる5つの自我について取り上げました。
エゴグラムを通じて自分自身の自我を知ることは社員本人にとってはもちろんのこと、チームビルディングやメンタルヘルスを管理していく会社側にとっても大きなメリットがあることです。
「賢者の人事」を運営する株式会社経営人事パートナーズでは、エゴグラムを活用した人材採用コンサルティングや人事戦略コンサルティングを行っております。
今回の記事を読んでエゴグラムの導入を検討したいという際は、お気軽にご相談ください。
また、ご自身のエゴグラムがチェックできる無料の診断サイトを作りました。
自分のエゴグラムを一度も調べたことが無いという方はもちろん、以前調べたことがあるという方もその時との変化の把握にぜひご活用ください。
※参考資料
新里里春ら著「交流分析とエゴグラム」第二版,チーム医療,2007年