シリーズ「ビジネスエゴグラム」~エゴグラムで社員が輝く、組織が変わる~

シリーズ「ビジネスエゴグラム」。今回はエゴグラムの概要やその特徴、エゴグラムが会社に役立つ理由についてご紹介します。

  

皆さんは「エゴグラム」という言葉を聞いたことがありますか?その手法が生み出されて以来の長い歴史と確かな実績を持つ、性格分析手法の一つです。

そして今、その「エゴグラム」をビジネスの現場に活用する企業が増えてきています。

今回からシリーズ「ビジネスエゴグラム」として、「エゴグラムとは何なのか?」「ビジネスの現場にエゴグラムはどう役立つのか?」といった点について詳しくご紹介していきます。

1回目の今回はエゴグラムの概要やその特徴、エゴグラムが会社に役立つ理由についてです。

社員ひとりひとりの内面を知る性格分析「エゴグラム」

組織において仕事をスムーズに進めて業績を上げていこうとする際、良好な職場の人間関係が必要であることは言うまでもありません。 

また、社員の立場からすれば対人関係でストレスを感じることなく、自分らしさを発揮して業務に取り組める職場が理想的です。

人事や総務などチームビルディングや社員対応の実務にあたる立場の方も、先に述べた状況が希望のはず。

とは言え、現実としては社員数が多くなればなるほど、各社員の個性やメンタルを把握することが難しくなります。

社員間の人間関係が原因のトラブルシューティングにあたることも度々ではないでしょうか。

そのため現在では社員に性格診断テストを受けてもらい、その結果を人事異動や社員の心理状態の把握に役立てる会社が増えてきています。

MBTI 診断のような性格テストとは異なり、個人の自我と対人関係の特性に焦点を当て、ひとりひとりの内面を知ろうとする分析手法が「エゴグラム」です。

 

そもそも「エゴグラム」とは?

「エゴグラム」とは性格診断テストによって自我(エゴ)の状態を5つのタイプに分類し、それを図表(グラム)化したものです。

1950年代にアメリカの精神科医エリック・バーンが提唱した「交流分析(TA Transactional Analysis)」といわれる心理療法におけるプログラムの一環として、バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが考案しました。

バーンは、人の思考や感情、行動のもとには、
・親の影響で取り入れたもの(Parent)
・大人になってから備えたもの(Adult)
・子供のころのまま残っているもの(Child)
の3つの自我状態があると唱えました。

デュセイはこれをさらに5つの自我へと細分化します。5つの自我とは次の通りです。

(親:Parent)
CP(Critical Parent):厳しい父親的な部分
道徳的、厳格である、理想がある、頑固、批判的

NP(Nurturing Parent):優しい母親的な部分
優しい、思いやりがある、世話好き、過保護・過干渉

(大人:Adult)
A:冷静で客観的な大人な部分
合理的、冷静、クール、情に欠ける

FC(Free Child):自由な子どもの部分
活発、行動的、感情を隠さない、わがまま、自己中心的

AC(Adapted Child):従順な子どもの部分
他者を優先、協調性がある、他者が気になる、自信がない

そしてこの5つの自我の程度を、テストによって診断しようと考えました。それがエゴグラムです。

診断の具体的な流れとしては、自分の行動や性格に関する数十問の質問について「はい・いいえ・どちらでもない」で回答するテストを行います。

その診断結果が5つの自我の大小として明らかとなり、自分で把握することで、人間関係における自分の傾向を知り、周りとのよりよいコミュニケーションの構築に役立てることができる訳です。

注意していただきたいのは、「ある数値が高いから良い」といった類のテストではなく、あくまでも「自分の考え方や行動パターンを知る」ためのテストであるということ。

ご自身のエゴグラムが気になった方は、当社経営人事パートナーズで開設している無料のエゴグラム診断サイトでぜひ一度チェックしてみてください。

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では続いて、エゴグラム診断の特徴についてご紹介しましょう。

 

エゴグラム診断の特徴1:長い歴史と多くの実績がある

エゴグラム診断の特徴の一つ目は、「長い歴史と多くの実績がある」ということです。

まず長い歴史についてですが前述の通り、エゴグラムの元となっている交流分析の理論は1950年代に始まってから70年近くの歴史があり、現在までそこから派生した様々な治療法や理論展開が続いています。

日本では1970年代に九州大学心療内科のメンバーによって導入が進められ、より日本人に適した考え方を加味するといった努力を重ねられてきました。

またエゴグラムのテスト自体についても、現在最も多くの人に利用されているエゴグラム診断である東大式エゴグラム(TEG)は約40年前の1984年に東京大学医学部心療内科TEG研究会が開発し、初版が公開されたものです。

また、多くの実績という点に関してはTEGの開発以降、日本国内において以下のような幅広い場面でテストは活用されてきました。

【医療・看護・福祉/カウンセリング】
● 心療内科や精神科などにおける患者の治療方針決定
● 患者と職場のスタッフ間のコミュニケーション改善

【産業・ビジネス】
● リーダーシップやマネジメントなど各種研修ツールとして
● 他者理解を含めたコミュニケーション能力の向上
● 組織の現状を分析した上での組織づくりに
● 社員のメンタルヘルス把握に

【教育】
● 学級の現状分析と魅力ある学級づくりのために
● 生徒指導・進路指導・職業指導
● 保護者や職場のスタッフとの関係向上

また、これらの活用によって大規模なサンプルが得られたことにより、テスト自体の信頼性・妥当性を検証することが可能になりました。

その検証結果を踏まえての見直し、更には新たな理論の反映もあり、TEGは初版以降、2006年に「新版TEGⅡ」、2019年に「新版TEG 3」と改訂が重ねられ、より信頼のおけるテストへと進化しています。

 

エゴグラム診断の特徴2:「性格の違い」のみならず「現在の心理状況」や「将来的な傾向」もわかる

エゴグラム診断の特徴、その二つ目は「『性格の違い』のみならず『現在の心理状況』や『将来的な傾向』もわかる」という点です。

テストによって各人の性格の違いが把握できるエゴグラム診断ですが、長い歴史における各方面での活用により、5つの自我のパターンを分析することで被験者の現在の心理状況、更には将来的になりやすい傾向もわかるようになってきました。

心理カウンセリングや医療現場での活用では、特定の病気とエゴグラムのパターンの関連性が報告されています。


抑うつになりやすい人のエゴグラム

図1. 抑うつになりやすい人のエゴグラム

例えば抑うつ状態にある人の場合、アルファベットのWのようなエゴグラムになる傾向があります。

CPが極めて高いことは、批判や非難の気持ちが強いことの表れです。

同時に、いわばいい子であろうとするACも高いので、それを外部に向けて出す事が出来ません。

またNPとFCがともに低いということは、他人との心温まる交流ができずに引きこもっている状態を示します。

そしてAの高さからそんな自分自身を痛めつける計画をいろいろ考え、しばしば実行に移しがちなのです。


仕事中毒の人に多いエゴグラム

図2. 仕事中毒でストレスをためやすいFC低位型のエゴグラム

一方、仕事中毒のような人や勤勉な中間管理職に見られるのが、図2のようなFC低位型のエゴグラムパターンです。

このタイプの場合、CPとNP共に高いため部下の指導や世話はしっかり行います。またACの高さにより、上司に対しても従順です。

そのため時として両者の板挟みになりストレスが発生しがちなのですが、FCが低いために遊びや余暇で発散させることができません。

結果としてそのままストレスをため込み、胃潰瘍や高血圧症、心筋梗塞になる傾向があります。

更にAも高めの場合はCPとの関係性で「何事も正確にきっちりすべき」という思いが生まれ、ストレスがより強くなってしまいます。


自分の能力を発揮しきれない人のエゴグラム

図3.逆N型のエゴグラム

ストレスをためやすいFC低位型エゴグラムのタイプと相性が悪いのが、逆N型ともいえるエゴグラムのタイプです。

このタイプはFCの高さにより、良くも悪くも調べる前に身体が動き、特に好きなことに対しては熱心に取り組むことができます。

しかしAやACの低さから、現状を把握する力が弱く、うまくいかない時は人のせいにする傾向が見られるのです。

またNPもそれほど高くないため、我慢しやすい相手であってもなかなかそれを思いやることができません。

FC低位型と逆N型それぞれのエゴグラムを持つ人が一緒に仕事などをした場合、結果としてFC低位型タイプの人は逆N型タイプの人の振る舞いなどに我慢し続けることになり、一層ストレスをためがちです。

この他にも教育現場での活用では、非行や問題行動を起こす子ども、学校に適応できない子どもとエゴグラムの関連性も報告されています。

 

エゴグラム診断の特徴3:互いの相性や社員への対応を考える際の資料となる

エゴグラム診断の特徴、3つ目は「互いの相性や社員への対応を考える際の資料となる」ということです。

そもそも、エゴグラム誕生の元となった心理療法である交流分析は、その名が示すように「それぞれ異なる自我を持つ人同士の交流の分析」が理論の柱の1つとなっています。

そして人と人のコミュニケーションは、それぞれの自我に基づき発せられる言葉や非言語(表情や態度など)のやり取りであるという考え方です。

あらかじめエゴグラム診断によって社員の特性を把握しておけば、例えば「大人の自我が高い者同士で協力し合えそう」「周りの意見を聞かずに一方的にものごとを進めていく心配がある」「子どもの自我が高い者同士で、下手をすると子どもの喧嘩のような状態になりかねない」など、社員同士の相性を踏まえて人事を検討することができます。

また、社員に指導や励ましなどを行う際も、起こったことに対して画一的な対応をするのではなく、事前にひとりひとりのエゴグラムを把握した上でそれぞれに適した接し方をする事で、より本人を納得させ改善につなげることが可能です。

必要であれば、本人と会社の双方にとってより望ましい自我の状態になるように変化をサポートする事もできるでしょう。

 

なぜ今、エゴグラムなのか?

なぜ今、エゴグラムが必要なのか。それはひとえに、少子化により今以上に人材獲得競争の激化が予想されるためです。

文部科学省が実施している「学校基本調査」によれば、短大の四年制大学への移行やいわゆる「大学全入時代」となったこともあり、四年制大学の在学者はこの10年も緩やかに増え続けています。

それに伴って、四年制大学の卒業者および新規学卒者の就職者数もこの10年で5万人以上増えてはいます。

しかしそれ以外の高校や専修学校の在学者数は、右肩下がりが続いている状況です。

そして将来に目を向けると、総務省が2024年4月に発表した最新の人口推計で今の新卒者層である20~24歳の総人口は概算で623万人、その下の15~19歳は548万人、10~14歳は521万人となっています。

単純計算をすればフレッシャーズとして入社してくる層が、この先5年で今より約75万人、さらにその先5年で今より100万人以上少なくなるのが確実な状況です。

「早期退社も見込んで新卒者を大量に確保する」という採用方針は通じなくなる、今以上の売り手市場が迫っています。

また、仮に新卒者を内定で確保できたとしても一安心とは行きません。早い段階での離職率も高いためです。

厚生労働省の調査では新卒者の3年以内での離職率はこの10年、3割以上とほぼ横ばい。

「10人就職したら、3人以上は3年以内に離職する」という状況が続いています。

「新卒で入社した会社で定年まで働き続ける」という常識もすっかり過去のものとなった今、「この会社で働きたい」と思わせる会社であり続ける努力が求められているのです。

では、どうすれば働き続けたいと思ってくれるのか。それを考える上での興味深い資料があります。

転職サービス「doda」を運営するパーソルキャリア株式会社がほぼ毎年実施している、転職を経験した人へ転職理由を複数回答可で尋ねるアンケートがそれです。

2022年7月~2023年6月の1年間に転職した人800人余りを対象に行った最新のアンケート結果によれば、総合の上位3つは次の通りでした。
1位:給与が低い・昇給が見込めない(前年度順位1位)
2位:社内の雰囲気が悪い(前年度順位3位)
3位:人間関係が悪い/うまくいかない(前年度順位7位)

雰囲気や人間関係の悪さが前年から順位を上げてランクインしています。

さらに20代、30代それぞれのランキングをみると、上位は次の通りです。

(20代)
1位:給与が低い・昇給が見込めない(前年度順位1位)
2位:人間関係が悪い/うまくいかない(前年度順位8位)
3位:社員を育てる環境がない(前年度順位14位)

(30代)
1位:給与が低い・昇給が見込めない(前年度順位1位)
2位:社内の雰囲気が悪い(前年度順位6位)
3位:人間関係が悪い/うまくいかない(前年度順位11位)

「給与が低い・昇給が見込めない」がいずれも1位ですが、20代では雰囲気や人間関係の悪さの他、社員を育てる環境がない場合も転職を検討させる要因となることがわかります。

風通しの良い職場の雰囲気や、良好な人間関係、人材育成のいずれでも、その前提となるのは社員一人ひとりを知ることです。

エゴグラムはそのための大きな手助けとなってくれます。

 

エゴグラムで社員が輝く、いきいきとした組織へ

今回はシリーズ「ビジネスエゴグラム」の第1回として、エゴグラムの概要やその特徴、そして今エゴグラムが求められる理由についてご紹介してきました。

希望や愛着をもった会社を人間関係での悩みで辞めるのは、社員としてもつらいことです。

会社側としてもそれはつらいというのであれば、社員の内面を知るエゴグラムの活用をぜひご検討ください。

「賢者の人事」を運営する株式会社経営人事パートナーズでは、エゴグラムを活用した人材採用コンサルティングや人事戦略コンサルティングを行っております。

今回の記事を読んでエゴグラムの導入を検討したいという際は、お気軽にご相談ください。

また、ご自身のエゴグラムがチェックできる無料の診断サイトを作りました。

まだ自分のエゴグラムを調べたことが無いという方は、ぜひ一度お試しになってはいかがでしょうか。

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エゴグラムで社員が輝く、いきいきとした組織を目指しましょう。

※参考資料

中村和子ら著「わかりやすい交流分析」第二版,チーム医療,2007年

新里里春ら著「交流分析とエゴグラム」第二版,チーム医療,2007年

Who is writing

1982年生まれ。大手建機レンタル会社や書店チェーン、金属材料販売会社に勤務する傍ら、小学生のころにテレビで見たイギリスにあるリンクスコースの光景に衝撃を受けて以来、ゴルフコースに関する情報収集を趣味としている。ゴルフコースに関する蔵書は、洋書も含めて数十冊。