Contents
私はコーチとして、クライアントの目標達成はもちろん、コミュニケーション能力向上のサポートをさせて頂いています。
そんな立場から、私はこれまでこんな方をたくさん見てきました。
✔︎仕事はできるが、同僚や部下とのコミニケーションがうまくいかず正当に評価されない。
✔︎1人で仕事を抱え込むことで、仕事の質が下がっている。
✔︎大切なタイミングで必ず誰かと揉めてしまう。
あなたにもピンとくるものがあるでしょうか?
これらは全て「コミュニケーション能力」がもたらす課題と言えます。
そういった状況を少しでも改善していけるよう、今回は「アサーション」についてお話をしてみたいと思います。
ただし「アサーションがとは何か?」といった話は、いたる所で見つけることができます。
単に内容をお伝えするだけでは面白みに欠けるので、コーチ視点から以下のことも併せてお伝えします。
・アサーション以外のタイプ別コミュニケーション
・自分の思考と感情を整理してモヤモヤを言語化する方法
・チームビルディングに効果的なアサーショントレーニング
私はこれまでコーチングセッションの中に、ユングの心理学をもとにした「タイプ診断」を活用してきました。
そんな経験から、今回はアサーションの知識をより深めるための「タイプ別コミュニケーションの違い」についても触れてみたいと思います。
アサーションと組み合わせることで、 人材育成により良い効果が発揮されるはずです。
アサーションとは何か?定義と重要性
アサーションとは、一言で言うと「適切な自己主張」という意味です。
自分の意見や感情、権利、ニーズを、相手を尊重しながら、正直かつ適切に自己主張することを指します。
だからこそアサーションを学び実践することで、メンバーの相互理解が深まります。
・・・と、言葉にすると簡単に聞こえますが「正直かつ適切な自己主張」は、多くの人にとってハードルが高いのではないでしょうか?
なぜなら、多くの人は「自分がいま何を感じているのか?」すら理解できていないからです。
思考を言語化できていないので、うまく伝えられずにモヤモヤしたり、怒りに任せて余計なことを言ってしまったりするのです。
ではどうすれば自分が感じていることを、適切に言葉にできるのか?その方法は後ほどお伝えします。
アサーションのメリット
なぜアサーションなのか?と聞かれたら、こんなメリットがあるからです。
・権威や立場に左右されずに話ができる
例えば上司や部下だけではなく、顧客や外部業者など、 立場が違う人を相手にしても、適切に自己主張することができるようになります。
これにより社内コミュニケーションはもちろん、提供するサービスの質向上が期待できるでしょう。
・相手の気分を損ねずにNOと言える
本当の意味で良い仕事をするためには「YESではなく、何に対してNO!と言うか?」が重要です。
NOを示すことで本当に大切なことを優先し、取り組むことができるからです。
これらの理由だけでも、アサーションを扱うメリットはとても大きいと言えるでしょう。
アサーションの3タイプ
アサーションは、主に3つのタイプに分けることができます。
それぞれのタイプについて説明します。
1.攻撃型
自分の意見や要望を、強く主張しすぎるタイプです。
相手に対する配慮が足りず、自分のことだけを考えてしまうので、他人を不快にさせたり、人間関係が悪化する可能性があります。
<ありがちなシチュエーション>
他人からの反発や対立が生じ、チームワークが乱れます。
これにより職場の雰囲気が悪化し、生産性が低下する恐れがあります。
2.非主張型(ノンアサーティブ)
非主張型は、自分の意見や感情を表現せず、他人の意見や要望に従うことが多いです。
これにより自分の要望が満たされず、ストレスが蓄積される可能性があります。
<ありがちなシチュエーション>
自己主張ができない状態が続くと、自分の意見や要望が無視されることで、職場での満足度が低下します。
また長期的には、職場の雰囲気の悪化や個人のストレス増加に繋がります。
3.アサーティブ
最もバランスが取れたタイプです。
適切な自己主張は、自分の意見や要望を尊重しつつ、相手の意見や要望も尊重します。
これにより相互理解と協力が生まれ、効果的なコミュニケーションが実現されます。
<ありがちなシチュエーション>
適切な自己主張を維持することで、生産性やチームワークが向上します。
しかしアサーティブタイプであっても、人それぞれで状況は異なります。
ケースによっては自分の意見を押し付けてしまったり、相手を尊重し過ぎてバランスが崩れることもあるでしょう。
例えばリーダーとして決断を迫られている時や、メンバーのケアを行う時など、目的の優先事項によってバランスが揺らぐこともあります。
アサーション以外に知っておきたい4タイプ
アサーションの概念は、確かにコミュニケーションにおいて非常に有効です。
しかし「なぜそのような行動を取るのか?」という、本質的な理解は更に重要です。
それを理解するために、ここではユングの心理学における「4つのタイプ」をお伝えします。
アサーションと絡めて考えることで、より自分に相応しいコミュニケーション方法について理解が深まります。
4つのタイプとその特徴
ユングはスイスの心理学者であり、 現代の心理学に大きな影響与えた人物です。
ユング心理学では、人間に「直観・感覚・感情・思考」の4つの心理機能があるとし、これらの心理機能のうち「どれが最も働きやすいか?」によって、4つのタイプに分けます。
それぞれの特徴を見てみましょう。
1.直観タイプ(直感ではなく直観)
<強み>
・全体像の把握が得意
・革新的なアイデアを思いつく
・未来志向で人を惹きつける
<弱み>
・突拍子もない人に見られる
・詳細に目を向けることが苦手
・物事を継続させることが苦手
<タイプの概要>
物事の本質を捉えようとするので、一見関係のない事柄から連想させてアイデアが閃きます。
そのため周りからは「突拍子もない人だな」と見られてしまうこともよくあります。
いわゆる一般的なリーダー像に当てはまりますが、弱みが強く出過ぎると「あれ、誰もついてこない・・・」なんてことになりがちです。
次の「感覚タイプ」とは真逆の関係性です。
2.感覚タイプ
<強み>
・現実的に物事を捉える
・調和的で人の気持ちに寄り添える
・利他的で貢献の意識が高い
<弱み>
・自己主張が苦手
・受け身になりがち
・ストレスを溜めやすい
<タイプの概要>
上記の直観タイプとは、真逆に位置するタイプです。
非常に現実的で、ありのままに物事を見ます。
直観タイプのような革新的なアイデアではなく、現状に沿った現実的なアイデアを出すことが得意。
自己主張が苦手なのでストレスを溜めやすいのですが、周りに気づかれないほど頑張ってしまうため、体を壊してしまうこともよくあります。
3.感情タイプ
<強み>
・活気に満ちている
・コミュニケーション能力が高い
・誰とでも仲良くできる
<弱み>
・注意散漫
・八方美人になりがち
・事務作業は苦手
<タイプの概要>
感情タイプの1番の強みは、コミュニケーション能力です。
いつも誰かと話していて、 会話の中から新しいアイデアを生み出します。
その反面、人の意見に流されることで八方美人になったり、事務作業のように1人で黙々と行う作業は苦手です。
次の「思考タイプ」とは真逆のタイプです。
4.思考タイプ
<強み>
・冷静で分析的
・管理能力が高い
・職人気質で専門性を極める
<弱み>
・コミュニケーションが苦手
・専門分野にこだわって視野がせまくなる
・頑固になりすぎる
<タイプの概要>
上記の感情タイプとは逆のタイプです。
分析的で効率を重視し、無駄を省いて改善をすることが得意です。
ただ効率を重視するがあまり、人の気持ちに鈍感になってしまうなど、コミュニケーションを苦手と感じることが多いです。
以上が4つのタイプの解説です。
よくあるタイプ同士のすれ違い
4つのタイプはそれぞれの特性により、すれ違いが起きることがよくあります。
具体的には以下のようなイメージです。
<直観タイプと感覚タイプの場合>
直観タイプが全体像を見て大きなビジョンを描く中、感覚タイプは常に現実を見ています。
以下は直観タイプの上司と、感覚タイプの部下でよく見られるやり取りです。
直観タイプの上司「(頭のなかで想像を膨らませながら)よし、10分後にミーティングをしよう!何でも良いから新しいアイデアを出してくれ。」
感覚タイプの部下「えっ、はい、わかりました。(またいつもの思いつきか。これからアポの準備あるし、みんな忙しいんだけどな。)」
上司は想像に耽って閃いたことをすぐに行動に移したい、部下は目の前のスケジュールや、みんなの気持ちを優先させたい。
これもタイプの特性によるすれ違いと言えます。
<感情タイプと思考タイプの場合>
感情タイプが人とのつながりを大切にしている中、思考タイプは常に効率を優先させています。
これは感情タイプの営業担当と、思考タイプの事務担当でよく見られるやりとりです。
感情タイプの営業「 今日のお客さん新しく契約決まりました!やったー!!」
思考タイプの事務「で、この見積もりの数字おかしくないですか?(またこの人間違えてるし、良い加減にしてよ)」
営業担当からすれば「せっかく良い感じでまとめてきたのに、まずは喜ぼうよ・・・」と、事務に対して良い印象を持たないかもしれません。
本人が無意識で当たり前のように考えていることが異なるため、必然的に衝突が起きてしまいます。
アサーションタイプ×4つのタイプの効果
実はこれら4つのタイプが分かると、アサーションタイプの理解が深まります。
なぜなら4つのタイプの特性が、アサーションタイプに影響している可能性があるからです。
例えばアサーションにおける「攻撃型」は、直観タイプや感情タイプなど、比較的に自己主張が強いタイプが陥りやすい傾向かもしれません。
逆にアサーションにおける「非主張型」は、感覚タイプや思考タイプの特性が、過度に出すぎてしまった結果かもしれません。
(もちろん攻撃型の思考タイプもいるでしょうし、非主張型の感情タイプもいます)
このように様々な角度から眺めることで、よりアサーションの理解を深めることができます。
タイプ診断を使う際の注意
世の中には様々なタイプ診断があります。
またタイプ診断は人の興味を引きやすく、話題性があるのでとても人気です。
ただし使い方を誤ると「あなたはこのタイプでしょ!」と、人を型に当てはめ過ぎてしまったり、固定観念に囚われるきっかけとなります。
あくまで、他者理解のきっかけとして使うようにしましょう。
アサーションのトレーニング方法
ではここから、アサーションの具体的なトレーニング方法をいくつかご紹介します。
アサーションを向上させるためには、まず自分自身をよく理解し、自己評価を正確に行う必要があります。
そのためのトレーニングとしては、よく「DESC法」や「アイメッセージ」といったトレーニングが紹介されます。
しかし、実は「その前にこれをやっておくべき!」というものがあります。
冒頭で「自分の感じていることが、分からない人が多い」と書きました。
なぜなら、現代社会は「思考」が優先される傾向にあり「感覚や感情」を疎かにしがちだからです。
社会では「この仕事は嫌いなのでやりません」が通らないように、ある程度感情を抑える力が必要ですよね。
この環境に慣れすぎた結果「嫌いなものを嫌いと言えない」「そもそも何が好きなのかさえ分からない」といったように、感覚がマヒしてしまうのです。
まず自分が感じていることを言語化しないことには、適切な自己主張などできません。
そのために「DESC法」や「アイメッセージ」を行う前段階として、思考と感情を適切に整理するトレーニングを方法をお伝えします。
思考と感情を整理するトレーニング
1.ノートと鉛筆を用意する。
手を動かし書くことにも意味がありますが、 パソコンに入力してもかまいません。
2.思考と感情をノートに書いていく。
今日1日を振り返り、感じたことをどんどんノートに書き留めていきます。
(例)「日中の上司とのやりとりでモヤモヤしている」など。
この段階では難しい事は考えずに、頭の中にあるものを言葉にしていきましょう。
3.出てきた言葉を掘り下げる。
更に出てきた言葉の背景を掘り下げてみます。
部下や同僚とのやりとりでモヤモヤしているのであれば、何が気になっているのか?を言葉にしていきます。
(例)部下とのやりとりでモヤモヤしている→部下が目線を合わせなかった→部下からどう思われているか気になる→怒り、焦り、悲しみと感じているなど。
ポイントは思考を整理しながら、感じている感情に名前をつけてみることです。
また思考を書き出す時には、頭の中にある言葉をなるべく言い換えずに、そのまま書き出してください。
「好ましくない例:(頭の中)〇〇さんの、あの時の態度は何だったんだ?→(文章)部下の態度がとても気になっている」
この場合はそのまま「〇〇さんの、あの時の態度は何だったんだ?」と書いてください。
頭の中の言葉を忠実に書き出すことで、感じていることを抑えずに、客観的な気づきを促すことができます。
思考と感情を整理できたら、以下のような個人トレーニングも試してみてください。
録音・録画を使った自己主張トレーニング
1.シチュエーションを決める
特定のシチュエーションを決めて、自分が最も理想だと思う自己主張の仕方をまとめておきます。
「シチュエーション例:優良顧客から無理な商品値下げの交渉があったらどうするか?など。」
2.カメラで録音・録画をする
その上で、スマホなどを使って録音・録画をしながらカメラの前で話す練習をします。
3.気になった部分を調整する
どんな言葉を使う時に抵抗を感じるでしょうか?
話しづらい話題を扱う時、どんな風に感情が動いていますか?
録音・録画を確認しながら、気になった部分を調整します。
最初は違和感を感じるかもしれませんが、何度も話しているうちに、理想的な言葉や表現が見つかります。
また声に出して話すことで、自分が感じている事を更に掘り下げることもできるでしょう。
チームでトレーニングを行う場合は以下のような方法があります。
対話を使ったトレーニングや研修
チームや組織で取り組む場合には、積極的に対話の練習を取り入れましょう。
実際に人を目の前にすることで、出てくる言葉や感情は変わります。
また相手にどう伝わったか?を フィードバックしてもらうことで、自分のアサーションタイプがより客観的に理解できます。
トレーニングの内容は、以下の流れを参考にしてください。
1.基礎知識の共有
まずは座学として、アサーションの基礎知識など共有します。
2.ペアやグループでの対話練習
アサーショントレーニングには、やはり対話が最も効果的です。
ペアかグループに分かれて、何度も対話を繰り返しましょう。
対話で扱う内容は、以下のように参加者のレベルや、参加者同士の信頼関係によって変えます。
レベル1:ペアで対話、相手を見て瞬間的に感じたことを伝え合う。
目的:まずは感じたことを、言葉にする練習。
優しそう、安心感がある、元気がもらえるなど、ポジティブフィードバックのみで行います。
レベル2:グループで対話、特定の人に感じたことを伝え合う。
目的:複数人に向けて、能動的に感じたことを発信する練習。
レベル1で行ったことをグループで行います。
他の方が言ったことに対して、更に気づきを追加しても結構です。
「〇〇さん、調子よさそう」「私もそう思った!」など、ポジティブフィードバックを行います。
レベル3:ネガティブフィードバックも含めて行う
目的:ネガティブなことも適切に伝える練習。
レベル1・2について、ネガティブフィードバックも含めて行います。
「〇〇さん元気がない」「少し威圧感を感じる」など。
あくまで相手の成長をサポートするような表現でフィードバックします。
これには参加者同士の信頼と、受容する力が必要です。
まずはリーダー層など、限られたメンバーで行うのが良いでしょう。
3.フィードバックを行う
トレーニング後は必ずフィードバックを行い、気づきの整理を行います。
これらの対話練習を繰り返し行うことで、少しずつ自己主張することに慣れていきます。
そうすることで「攻撃的な主張をしなくても伝わるんだ」「こんなことを言っても良いんだ」と、徐々にアサーティブな感覚を体感することができます。
以上が具体的なトレーニング内容です。
アサーショントレーニングの失敗例
アサーションはコミュニケーションに直結します。
そのためトレーニングを行う際は、関わるメンバーの相互理解が重要です。
トレーニングのつもりが、思わぬトラブルを引き起こしてしまっては本末転倒ですよね。
以下にありがちなトレーニング失敗例をお伝えしておきますので、実施される場合の参考にしてください。
1.理論だけを学ぶ
トレーニングで最も効果が薄いのは「理論だけを学ぶこと」です。
アサーションは決して複雑な理論ではありません。
そのため知識を手に入れただけで、自分のことや他人のことを分かった気になることがあります。
アサーションタイプが分かって良かったではなく、実践的なトレーニングを行わなければ意味がありません。
2.過度に自己主張しすぎる
トレーニングの過程で「思ったことを言っていいんだ!」と感じた参加者が、自分の意見や感情を強く主張しすぎることがあります。
特に慣れないうちは主張のコントロールがしづらく、参加者同士がぶつかることもあるでしょう。
適切な表現のバランスを誤ると、トレーニングが途中で頓挫することになりかねませんので注意が必要です。
3.適切なフィードバックの不足
トレーニングでは、参加者が自分の意見や感情を適切に表現する練習をしますが、ここで適切なフィードバックが得られない場合、参加者は自己表現の方法を正しく学べません。
また不適切なフィードバックは参加者の自信を傷つける可能性があり、アサーションのスキル向上に逆効果となることがあります。
これらの失敗を避け、効果的なアサーショントレーニングを実施するためには、適切なフィードバック、バランスの取れたアサーションの学習、そして理論と実践の組み合わせが重要です。
効果的なトレーニングを実施するためにも
アサーションの効果的な活用方法は、自分の意見や感情を適切に表現し、同時に相手を尊重することです。
アサーションの技術を磨き、日々のコミュニケーションに活かすことで、より良い人間関係や職場環境を構築できます。
しかしコミュニケーションに直接影響を与える分野なので、取り入れる際には注意も必要です。
担当者としては
・トレーニングの目的
・参加者の選定
・カリキュラムの構築
・ファシリテーターの選定
など、明確なプロセスを準備しておくことが大切です。
参加者の主張バランスを整えるためにも、特にファシリテーターの存在が重要です。
事前にリーダー層に研修を行い、最も変化が大きかった方にファシリテーターを務めてもらうなど、工夫をする必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回の内容を以下にまとめておきます。
・アサーションとは適切な自己主張である
・アサーションには3つのタイプがある
・ユング心理学の4つのタイプと組み合わせると更に効果的
・トレーニングには参加者の理解が必要
・トレーニングを実施する際には準備をしっかり行うことが大切
アサーションは古くから活用されている概念ですが、それは企業にとって一定の効果があるからです。
従業員一人一人がアサーションを意識し、適切にコミュニケーションを行うことで、組織全体としての生産性が向上し、企業の競争力が高まります。
今回のお話により、個々のコミュニケーション能力向上につながれば幸いです。