女性・仕事・職場のハッピーな関係に向けて(2):「有意味な仕事」に関する研究は何を語るのか?

女性が仕事や職場でハッピーになるための手がかりとして海外での「有意味な仕事」に関する研究成果を紹介する

はじめに

前回は、自分自身が仕事や職場でハッピーであるためには仕事に対する自分の基準点、軸足を改めて定めておかないといけないということで、仕事をする目的や理由に関して考えてみました。

そして、自分の基準点、軸足が決まったら、そこから前向きに仕事との関係をつくり直していくことをお勧めしました。

今現在の「仕事をする目的」を見直すことができますし、新しい目的や目標を見つけ出すこともできるでしょう。

そのプロセスこそが、自分自身の職場での「ハッピー度」を自分で上げていくことにつながると。

しかしながら、何か動き出してみようと思っても、何をどこから手をつければよいかわからないものです。

そこで、今回は、その参考になりそうな研究を紹介したいと思います。

今回の内容は、仕事や職場でハッピー度を上げていくことと関連して、「意味のある仕事」「仕事の有意味性」といったトピックになります。

 

「有意味な仕事」とはどんなものだろうか?

「意味のある仕事(Meaningful Work)」とか「仕事の有意味性(Meaning of Work)」といった表現をしてきたのですが、それがどのようなものなのか、わかりやすく説明するのは容易ではありません。

そこで、ここでは「有意味な仕事」を測定する尺度を紹介したいと思います。

これは、研究上で実際に個々人の「有意味な仕事」の程度を測定するために開発され、実際に利用されています。

この尺度の質問項目をみれば、「有意味な仕事」が具体的にどのようなものなのかイメージしていただきやすくなると思うのです。

次の表は、Steger et al. (2012)が開発した測定尺度です。

ここから、「有意味な仕事」には「(仕事に対する)ポジティブな意味」「仕事を通じた意味づくり」「より良い動機」という三つの成分があることがわかりますし、それぞれの成分が具体的にどんなことを意味しているのかは該当する質問項目でわかっていただけるでしょう。

 実際には、これらの各質問項目をたとえば5段階のリッカート尺度(「非常によくあてはまる」から「全くあてはまらない」までの段階)で評価します。

 研究者は、この尺度を使って、他の尺度(たとえば、仕事満足度、自己効力感、モチベーションなど)の結果と関連させ、両者の関係性や関連性を調べるということを行うのです。

 みなさんは、これらの質問項目に5段階で回答し、三つのカテゴリーごとの平均点を計算すれば、自分自身の仕事の有意味性、有意味度が見えてくるというわけです。

 「(仕事に対する)ポジティブな意味」「仕事を通じた意味作り」「より良い動機」のどこが弱いかがわかるので、そこを強化するための方策を考えてみることもできるでしょう。

 

仕事を「有意味」だと感じるには?

Bailey et al. (2019) は、1950-2017年の間に英語で公刊された「有意味な仕事」に関する実証研究71件の知見を統合しています。

この研究で明らかになった主な点は次のとおりです。

「有意味な仕事」と正の相関がある「仕事関連の態度・行動」としては、「仕事満足度」「組織へのコミットメント」「組織へのエンゲージメント」「内発的動機づけ」「低い欠勤率」「低い退職率」がありました。

「有意味な仕事」と正の相関がある「個人の特性」には「人生の意味」「人生の満足度」「自己実現」「ワーク・ライフの充実」があります。

また「組織が従業員の「有意味感」の増進に貢献できること」として、「エンパワーメント」「充実感」「タスクの重要性」「スキルの多様性を最大化するように仕事を設計すること」に関する証拠が得られました。

組織が「コミュニティ構築」「帰属意識の醸成」「自己実現支援」に重点を置くことも、従業員の「有意味感」を高めるのに寄与するということです。

 

【女性は男性より「世のため人のため」の仕事に意味を感じている】

「仕事の有意味性」の捉え方は男性と女性で同じでしょうか、それとも、異なるでしょうか?

この疑問にスウェーデンの研究者たちが取り組みました(Burbano et al., 2023)。

スウェーデンでは国が雇用主と従業員に関する詳細な情報をスウェーデン労働環境調査データベースとしてデータ化し、匿名化した上で公開しているそうで、そのデータから抽出した個人データを組み合わせて、合計111,599人のサンプル(女性52%)を利用しています。

そのスウェーデン労働環境調査では、「自分の仕事はほとんど無意味だと感じていますか、それとも有意義だと感じていますか?」という質問項目が含まれているので、この項目を「仕事の有意味性」を測定する尺度として使っています。

「非常に無意味(1)」から「非常に有意味(5)」までの5段階で回答されていて、平均スコアは3.95で、5の人が36%、4の人が35%、3の人は22%、2の人が5%、1の人が2%だそうです。

スウェーデンでは自分の仕事に「意味がある」と思っている人が多いということを示しています。

著者たちは、この尺度で測定される「仕事の有意味性」をもたらす心理的基盤として4つの要素「自律性(自己から発せられ真の自分を反映する性質)」「能力(自己の能力への信頼)」「関連性(他者との社会的関係の積極性)」「慈善性(社会への貢献性、他人のために何かをすること)」を設定しそれらと「仕事の有意味性」の相関を調べています。

また、「職場での職務の階層性(上司、部下)」「仕事の性別によるステレオタイプ指数(看護師は女性的など)」「教育レベル」「出生地」といった要素との関係もあわせて分析しています。

明らかになったことは、まず、 「仕事の有意味性」と4つの心理的基盤要素はいずれも強い正の相関がみられるのですが、特に性差についてみてみると、男性は女性より「自律性」との相関が高く、女性は男性より「慈善性」との相関が高いということです。

女性は「社会への貢献」「他人のために何かをすること」に対して仕事の意味を見出しているということです。

「仕事の有意義性」の経年変化(1991-2019年)をみると、女性は男性よりも仕事に強い意味を感じており、その傾向は近年になるほど拡大してきているそうです。

年齢との関係では、中年層で若年層や高齢層に比べて男女差が大きく、教育レベルでみると最も低い層で男女差が最も少なく、教育レベルが上がると男女差が大きくなると報告しています。

従来の社会学系の研究では、「最初の子育て」が労働市場で男女不平等の拡大(子育てによる就業の中断など)を引き起こす要因となることがわかっているので、「仕事の有意味性」への「最初の子育て」の影響の性差を調べていますが、結果として性差はみられなかったそうです。

これは子育てに関する男女平等が実質的に機能しているスウェーデンだからかもしれないと私は思いました。

職業の「性別ステレオタイプ」との関係をみると、女性は男性よりも高いレベルの「善意性(向社交性)をもつ職業(つまり社会的価値の高い職業)」として定義される有益性の高い職業に就く可能性が高いことがわかりました。

また、女性は仕事における「善意性」のレベルが高い仕事になればなるほど、男性に比べて「有意味性」をより多く見出すこともわかりました。

以上のように、「仕事の有意義性」に関する男女差と「善意(向社会的影響)のレベルの高い職業に女性が多いこと」との間に強い関係があることが証明されたと述べています。

 

「仕事をする意味(Meaning of Work)」はどこから生まれどのような機能で「有意味(Meaningful)」になるのか?

前回紹介した Rosso et al. (2010) の研究ですが、その主目的は「仕事をする意味」に関する従来の研究の知見を統合して、「仕事をする意味」がどこから生まれてきて、どのようなメカニズムで有意味になるのか、全体的な見取り図を示してくれています。

著者らによれば、「仕事をする意味」の起源は大きく分けて前回紹介した三つ、「自己」「他者」「仕事のコンテキスト」に区分できるといいます(原論文ではもう一つ宗教的な「スピリチュアリティ」があるのですが、日本の現状では直接該当しないのでここでは省略しています)。

「自己」の起源としては、「価値観」「モチベーション」「権益」の3つ、「他者」の起源としては「同僚」「上司」「チーム、グループ、コミュニティ」「家族」の4つ、そして「仕事のコンテキスト」の起源では「タスク設計」「組織のミッション」「財務状況」「仕事以外の領域」「国民文化」の5つがかかわってくるといいます。

一方「仕事が有意味になるメカニズム」に関しては、「真正性(自分の行動と自分の正しさの知覚が一致していること)」「自己効力感」「自尊心」「目的意識」「帰属意識」「超越性(自己を超えようとすること)」「文化的意味生成」があがっています。

これらの要素が、個人の仕事を有意義なものなるように働きかけるのだということです。

 

要するに、「仕事を意味あるものにする」「仕事が有意味なものになる」のは、「自己」「他者」「コンテキスト」からの働きかけがあり、「自己効力感」「自尊心」「目的意識」などのメカニズムをとおして実現するということです。

それゆえ、自分にとっての「仕事の意味」「仕事の有意味性」は、自分や他者とのかかわりになかで、時間とともに変化するものですし、意識的に変化させることができるということでもあります。

では次に、女性に関係する具体的な問題を検討した研究を二つ紹介したいと思います。

 

男性主導の職場で女性の離職を防ぐには

女性が安心して働けないつまりハッピーでない状況に追い込まれると、最悪の場合、離職を考えるようになってしまいます。

したがって、女性の「離職」あるいは「離職意向」は、「有意味な仕事」の対極に位置する不幸な(アンハッピーな)状況です。

Halliday et al. (2022) は、男性主導の職場で女性が離職していくのを防ぐにはどうすればよいかという問題をとりあげています。

彼らは、上司(男性)の支援があると従業員(女性)の「心理的安全性(psychological safety)」が高くなって結果として女性従業員の「離職率」が下がるだろうと考えています。

この研究のユニークなところは、この関係性を検討する際に国や社会によって異なっている「ジェンダー平等度」という要素の影響を加味してみることに挑戦している点にあります。

24か国の多様な企業の「R&D部門(男性主導の職場)」で働く従業員5,578名(男56%、女44%で、各国から100-300名、米国から1000名)からデータを入手しています。

測定尺度としては「上司の支援が得られているという意識(Perceived Supervisor Support)」「心理的安全性」「転職意向(Turnover Intentions)」の三つの尺度が使用されていますが、具体的な質問項目は次の表のとおりです。

 

 「国別ジェンダー平等度(Country Gender Equality)」には World Economic Forum (WEF) というところが出している Global Gender Gap Index の2017年版の指数が使われています。

144か国の指標の平均値は0.683ですが、最高値はフィンランドの0.85、最低値はトルコの0.62となっていて、上位には欧州とアフリカ諸国が並びますが、とりたてて低い国には韓国、日本、インド、中国、インドネシアが並んでいます。

この研究で明らかになったことは次のとおりです。

(1) 「上司の支援がある」という意識は「心理的安全性」という要素を介して間接的に「転職意向」に影響を与えているのですが、「ジェンダー平等度」の低い国々の女性でその効果が最も高くなり、男性の場合には「ジェンダー平等度」の影響はありませんでした。

(2) 「上司の支援がある」という意識と「心理的安全性」の直接的な関係も同様で、女性の場合は「ジェンダー平等度」の低い国々で最も強く、男性の場合は「ジェンダー平等度」はやはり無関係でした。

(3) 男性主導の職場で働く女性が転職意向を持たないようにするには、「上司の支援がある」と思えることがとても重要で、とりわけ「ジェンダー平等度」の低い国でそのことが明確にあらわれます。

日本も「ジェンダー平等度」が低い典型的な国ですから、この研究でわかったこと、つまり、男性の上司が女性従業員の仕事や職場での日常を積極的に支援する努力を重ねることが女性従業員の離職意向を減らすということを活かしていくべきでしょう。

 

職場のジェンダー不平等解消に有効な施策を探す

職場に「ジェンダー不平等」の風土が蔓延していると、女性従業員個人ではなかなか対処することがむずかしいと考えられます。

特に、その組織風土が「ジェンダー不平等」であるという認識すら社内に(従業員の間に)存在しないような場合はほとんどお手上げで、先に述べたような「離職」や「離職意向」が広がります。

これは「有意味な仕事」「仕事の有意味性」を考える以前の問題です。

どうすれば「組織内のジェンダー不平等」風土を改善できるのでしょうか?

最近、カナダの研究者グループ(Son Hing et al., 2023)がこの問題に着目して研究を行っています。

彼らは従業員のライフサイクル(採用から離職まで)全体を研究対象にして、組織が行うさまざまな「ジェンダー平等施策(イニシャティブ)」がジェンダーがらみで組織内に発生する課題や慣行の改善にどの程度効果を発揮するのかを、これまで行われてきた多くの研究のレビューを通して解明しています。

その結果をまとめたものが次の表です。

各施策(イニシャティブ)がどのような仕事や職場の局面、場面、慣行において有効なのか、また、その証拠の強度はどの程度なのかが示されています。

これをみると、「組織の代表に女性が含まれる」という施策は、ほとんどの領域や組織慣行において有効性が確認できていますし、「雇用」「セクハラ」「業績評価」「報償」については強力な証拠が研究で得られているということがわかります。

「メンターシップ」や「成果主義の人事慣行」「女性管理職」といった施策も多くの領域や組織慣行に有効であることが証拠でわかっているようです。

逆に、「反セクハラ風土」という施策は「セクハラ」に対してのみ有効性がみられていますが、それ以外の部分には有効性がある証拠がないようです。

この表を縦に見ると、多様な施策が有効性を示す領域や組織慣行があることに気づきます。

「雇用」「昇格・リーダーシップ」「報償」「離職阻止」にはさまざまな施策(イニシャティブ)が有効であることがわかります。

その反面、「従業員能力開発」については「ジェンダー平等」の取り組みとしては「メンターシップ」以外は効果がみられたという報告がないということです。

この表を利用すれば、各社がどのような領域や組織慣行に「ジェンダー平等問題」をかかえているかを特定し、それに有効性を発揮できる施策(イニシャティブ)を選択して実行に移すことが可能でしょう。

 

おわりに

今回は、個人レベルで自分自身のハッピー度を考えてみる手がかりとして、海外でさかんに研究されている「有意味な仕事」「仕事の有意味性」の研究を紹介してみました。

男性でも女性でも働く人であれば誰もが対象となる「自分の仕事や職場でのハッピー度」ですが、一部、女性労働者のかかえる固有の問題やジェンダー不平等問題とハッピー度との関係もみてみました。

また、自分自身で自分のことを知るためのツール(測定尺度)もご紹介しました。

あのツールを使えば自分自身の「仕事の有意味性」を知ることができます。

そして、先に紹介した「「仕事をする意味」はどこから生まれどのような機能で「有意味」になるのか」の節で紹介したRosso et al. (2010) の成果を援用してみます。

自分自身の「価値観」「モチベーション」「同僚」「上司」「組織のミッション」に対する意識や態度を見直してみるとか、「目的意識」「帰属意識」といったメカニズムを意識して自分にとっての仕事の目的や意義に納得できる修正ができないか、と考えてみることができるでしょう。

個人レベルでも、そしてまた、組織レベル(チームレベル、部門レベル)でも、今回紹介した情報を参考にして、状況改善に取り組まれ、一人でも多くの働く人々、働く女性が、よりハッピーな仕事環境で働けることを願っています。

Who is writing

神戸大学名誉教授・東京理科大学名誉教授/株式会社経営人事パートナーズ 海外文献リサーチャー

研究者としてのキャリアは、 教育学としての科学教育学から。

その後近代科学の異文化性を中核に据え、 異文化としての科学と人間の関係性を、 教育という切り口から研究してきた。

約40年、 合計4つの大学で教員を務め、定年退職を機に、 教育活動、研究活動の中で最も好きで、最も専門的スキルをみがいてきた、 海外文献の調査 探索 検索収集・分析・要約の活動をフリーランスとして行っている。

未知の研究領域 (人文社会科学系) について学ぶことは、 自分の知的好奇心を満たせることなのだが、 現代社会の中で、このような活動と成果を求めているセクターがあることがしだいに明らかになってきて、 その顕在的・潜在的なニースにささやかながら応えられることが楽しいしうれしい。

教育学、歴史学 、 人類学、 民族学、 民俗学、 社会学、 人材開発、 言語学、 コミュニケーション、 などなど、 知らない分野の研究を覗いてきたが、今回は、HRM や人事採用に関する海外文献の調査研究ということで、 また新しい世界を覗ける機会を得てわくわくしている。

HRM や人事採用については、アウトサイダーであるが、 であるがゆえに、インサイダーの方々とはちょっと違った見方も示せればよいかなと思ったりしている。

チャレンジできる仕事に出会えて感謝。