【社会を知る編①】日本の現実を知り、賢くキャリアを選択しよう!

「木を見て森を見ず」日本社会の盲点とは。全体を俯瞰する力を学生のうちに鍛えておきましょう。社会人のみなさんも必見、知る価値アリです。

  

日本人の弱点

就活がはじまると、毎年人気企業ランキングが発表されます。今年も出ましたね。

一覧をみると、私たちが知っている企業名がずらり。

日々ネットや新聞で目にするのも、上位の企業が中心です。

出典:2024入社希望者対象 就職ブランドランキング調査

ランキングトップの伊藤忠商事は、4年連続で首位をキープ。人気の高さがうかがえます。

このようなランキングを見ていると、まるでこれらの企業で日本が成り立っているような錯覚すら感じてしまう人、もしくは、あまりに日々の暮らしとかけ離れていて、どこか自分とは関係のない遠い世界の話と感じる人もいるでしょう。

けれど、やっぱり大企業に入れば安泰。

そんな時代はいよいよ終わりそうですが、多くの人の心のどこかに、まだこの想いがあるのではないでしょうか。

さて、今回の記事の目的は「賢くキャリア選択をしていくための情報を伝えること」です。

就職活動では、自己分析・自己理解をしたら、次は業種や職種、興味のある企業についての理解を進めるのが一般的な流れだと思います。

しかし、とても肝心なステップが抜けています。

それは、「日本の社会全体の仕組みを知る」ということです。

ポイントは3点あります。

1点目は、各業種や各企業など「部分」をみていく前に、「全体」を把握すること。

実はこれ、多くの日本人がとても苦手で疎い分野です。

なぜなら、とても大事な分野なのに、学校教育では詳しく学ぶ機会がないからです。

特に、経済の仕組みについては、実際のところ、よくわかっていない人が多いのではないでしょうか。

特にお金の話は日本では表立ってするものではない、という暗黙の了解があります。

もし、「日本の経済の仕組みについて具体的に説明してください」と言われたら、就活生のみなさんだけでなく多くの社会人が言葉に詰まると思います。

筆者も、学生の頃は(いや、恥ずかしながら企業で働いていても)、本当に何も知りませんでした。今もまだまだ勉強中です。

でも、一度知りはじめると、まったく社会の見え方・捉え方が変わります。

もし就活のときに知っていたならば、企業の探し方も選択基準も、もっと視野が広がっていただろうなと思います。

2点目は、「縦軸」だけでなく、「横軸」で社会を捉える目をもつこと。

具体的には、それぞれの社会問題の根底はどのようにつながっているか、という視点をもつことです。

先日、24卒の就活生のみなさんがどのような社会問題に関心をもっているかという調査データが出ました。

  • 格差社会
  • 高齢化社会・介護問題
  • 少子化・働く女性支援
  • 物価上昇
  • 食品ロス・フードロス
  • デジタル化・DX

参照:マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査

みなさん、さまざまな社会問題に興味をもっているようです。

さらに、それらの社会問題をどのように解決していったらいいのか、自分の意見をしっかりもっている人も多いようです。

自分の興味のある社会問題とリンクしていたり、解決するために奮闘していたりする業界・企業に興味をもち、応募企業に選んでいるケースもあるかと思います。

素晴らしい動機ですよね。ぜひ、ここにもうひとつ視点を加えてみてほしいと感じます。

その社会問題がなぜ起こっているのか、ということです。

すでに表面化している社会問題の対策を考える前に、原因はどこにあるのかを知ること。

これが結局は、日本の社会の仕組み・現実を知るということにつながっていきます。

3点目は、自分から情報をとりに行くこと。

日本は、情報は自分でとりにいかないと教えてくれないシステムになっています。

2020年からの一連の流れを通して気づいた方も多いと思います。

受動的に流れてくる情報を鵜呑みにせず、能動的に情報をとっていくと、いたるところに情報が開示されています。

そして、それはさまざまな機関の公式データだったりします。

でも、なぜか公には報道されない場合もあります。

結果的に、私たちは自分たちが暮らしている日本社会について、自ら情報をとらないと、勘違いしているかもしれないことに気づく機会すらありません。

一方で、人は誰でも自分に都合の良い情報だけを見る習性があります。

例えば、友人同士で互いのYouTubeアカウントに表示されている動画を見比べると、人それぞれまったく内容が異なるでしょう。

ヒトの情報収集の特性をうまく利用したアルゴリズムが組まれているため、そこには自分の興味のある分野の動画だけが展開されています。

ですから、視野を広げたいと思ったときは、普段とは別の情報を仕入れてみるために、敢えて苦手な分野や、取っ付きにくいカテゴリーをのぞいてみるのはオススメです。

今回のシリーズでは、「良い・悪い」というジャッジではなく、基本的な知識や、さまざまな現実をご紹介したいと思います。

それが正しいか間違っているか、という視点はまた別にあり、人それぞれ捉え方は異なるでしょう。

でも、まずはその前提となる、実際に起きている現実を知らなければ、何もはじまりません。

特に、社会の全体像を把握することに苦手意識をもっている学生のみなさん必見です。

正直なところ、知らなくても就職活動はできるのですが、現実を知ることで視野が広がり、きっと今よりも冷静に、高い視点で、賢くキャリアを選択できると思います。

最終的に、本当に「人」を大事にしている企業はどこなのか、ヒントがみえてくるはずです。

今回は、まず全体像をみてみたいと思います。

 

資本主義とは

はじめに、日本の社会の仕組みのうち、経済がどのように動いているのか、全体像を捉えていきましょう。

日本は「資本主義」の国です。

「資本主義」とは、生産する手段をもつ人が、資本を使い、自由にお金を稼げる仕組みのことです。

「資本」とは、価値を生み出すもの、という意味です。

それはお金だけでなく、モノを生産するための工場や、株・債券、そして仕事を通して価値を生み出しているヒトも資本です。

この資本主義のシステムに基づいて行われる活動を「資本主義経済」といいます。

会社をつくること、商品・サービスを生み出すこと、いくらで売るか、従業員を何人雇用するか、基本的にはすべて企業・個人が自由に決めることができます。

平たく言えば、個人で自由にお金儲けしていいですよ、という社会システムです。

対義語としては、「社会主義」があります。

お金は国が管理し、富は皆で平等に分け合いましょう、という経済体制です。

日本は「民主主義」ではないのか?

そのとおりで、日本は民主主義の国でもあります。

民主主義とは、国民が主権をもち、行使することのできる政治の仕組みのことです。

ただ、例えば直近の国政選挙(令和4年7月参議院議員通常選挙)の投票率52.05%という数字をみても、日本の実態が民主主義とかけ離れていることは事実ですが、基本的には多数決で物事が決められ、国民の自由や人権が尊重されます。

資本主義は経済、民主主義は政治、それぞれ別のカテゴリーの体制を指します。

 

資本主義経済の成り立ち

ここで、資本主義経済の歴史と特徴を整理しましょう。

資本主義経済は、18世紀のイギリスで起こった産業革命からスタートしたといわれています。

当時、織物業が人気だったイギリスでは、各自が道具を揃えて自宅で作業する家内制手工業が中心でした。

ところが、資本をもつ人が工場をつくり、多くの人を集めることで作業を分業化し、大量生産が可能になる工場制手工業へと生産方法が変化していきます。

さらに、技術の進歩により工場に機械を導入することで、工場制機械工業へと発展し、他国を圧倒する生産力をもつようになり、経済が発展していきました。

イギリスの都市圏に多くの工場がつくられ生産効率が上がったことで、個人で生計を立てていた同業者は稼ぐことができなくなり、人々が仕事をもとめて都市に集まります。

結果的に、生産手段をもつ資本家と、その指揮の下で働くたくさんの労働者、という階級が生まれました。

これが最初の資本主義経済の成り立ちといわれています。

ちょうど日本が江戸時代の頃ですね。

出所:国立国会図書館ウェブサイト

日本に資本主義が導入されたのは、明治維新がきっかけです。

当時、イギリスだけでなく、欧米では各国が資本主義経済を確立していました。

日本は、政府主導で欧米諸国へのキャッチアップを行い、西洋の文明を学びました。

外国人技術者を“お雇い外国人”として招き、富岡製糸場などの近代的な工場を建設し、まずは軽工業分野で大規模な機械生産を行ったことで、綿糸や生糸の大量生産・大量輸出が始まり、産業革命がおこります。

明治維新からわずか30年足らずで、日本の資本主義経済が成立しました。

参照:内閣府HP

その後も、いくつかの戦争を経て、資本主義経済は世界中の先進国で発展していきましたが、1929年にアメリカの株式市場で株価が大暴落したことによる世界恐慌で、企業が次々と倒産、多くの失業者を生み出すことになります。

この出来事をきっかけに、自由な市場は認めながらも、個人や企業の努力ではどうにもならない緊急時には積極的に政府が介入して資本主義のバランスを維持していくという考え方が生まれます。「大きな政府」と呼ばれるものです。

その後、この考え方の是非が議論され、1980年代以降は、国が極力介入せず市場の自由化・民営化を促進して、経済を活性化させようという「小さな政府」の考え方が主流となりました。

現在、日本を含む世界主要国は、それぞれ割合は変わりますが、政府介入が可能な資本主義経済を導入しています。

 

頂点がある社会の現実

ここで改めて、資本主義経済の基本的な特徴をみてみたいと思います。


メリット

  • 誰でも自由に起業でき、職業を選択できる
  • 競争が生まれることで、商品やサービスの質が上がる
  • 利益を上げることで、国全体として経済が発展していく

デメリット

  • 競争の結果、貧富の差が生まれ、経済格差ができる
  • 景気に左右され、不況により失業者が出やすい

基本的に、このような特徴が挙げられます。

なかでも、「競争」という点が、とても大きな特徴ですね。

身近なところだと、勝ち組負け組、出世コースという言葉、冒頭のような人気ランキング、いいね!の数。

すべて競争の心理から生み出されているものです。

もう少し突き詰めると、「無い」という意識が起点になりやすいので、「足りない」「もっと上がある」、このような際限なく求める精神も、良くも悪くも増幅される要素ともいえるでしょう。

また、資本主義を形で表せば、ピラミッド。

いつも誰かが「頂点」にいる、という状態になります。

経済学者トマ・ピケティ氏が設立した世界不平等研究所のレポートによると、2022年時点で、世界全体の資産の76%を上位10%の人々がもっており、さらに上位1%の人だけで全資産の38%を所有していることがわかりました。

下位50%の人々の資産をすべて合わせても、全体のわずか2%。

世界規模でみると、ちょっと想像を超える格差ですね。

資本主義経済が導入される前の日本は、形で表現すれば、どちらかというと円に近い仕組みでした。

江戸時代は封建制度があり貨幣経済は存在していましたが、一般的な暮らしをみると、限られた資源の中で循環型社会をめざし、共同体の意識が強く、複数の家族が同じ長屋に住み、衣食住から子育てまで、皆で助け合う仕組みです。

〇から△へ、異質のシステムを超短期間で取り入れたことになります。

ここで、2023年の日本社会の状況に当てはめてみましょう。

個人がやりたい仕事や好きな仕事に挑戦できる環境があり、テレワークや副業ができる企業も増えたことで、以前よりも多様なキャリア選択が可能な社会になっています。

一方で、デメリットの経済格差は確かに存在しますが、どちらかというと日本全体が平均的に苦しい状況。

しかも、格差があるなら競争により利益が生まれ、経済が成長しているはずと思ったら、メリットもほぼ享受されていない。

社会全体では資本主義経済“のようなもの”、という謎の状態になっていることが分かります。

何が起きているのでしょうか。

 

立ち止まって考えることの大切さ

前述のとおり、世界中の多くの国が資本主義をとっているため、私たちの経済活動には、いろいろな指標があります。

特に、お金を尺度にした比較データが多いです。

これも、良いか悪いかは別として、「競争」を可視化したものになります。

その中でも代表的なのが、GDPと呼ばれる国内総生産の数値です。

GDP(Gross Domestic Product)とは、日本に住んでいる人々によって1年間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計のことです。

日本は世界第3位、現在第4位のドイツが僅差という状況です。

この順位だけを見ると、特に問題ないではないかと感じてしまいますが、一人あたりの豊かさを示す一人当たり名目GDPを見てみると、世界で第30位。

しかも名目GDP成長率をみると、各国が成長している中で、30年間経済成長率が横ばいのまま、まさかのマイナス成長を行き来している国は、世界で日本だけです。

出典:内閣府HP

GNIとは、日本国民が1年間で稼いだ所得のことです。

GDPから外国人が稼いだ所得を除き、日本人が海外で稼いだ所得を加えたもので、日本人の儲けを意味します。

一人当たりの国民所得の推移をみても、2021年時点では2005年と比べて、年間わずか+117,000円です。

 

次に、世界時価総額ランキングを見てみましょう。

こちらは平成元年と平成30年の世界時価総額ランキングを表したものです。

出典:週刊ダイヤモンド

時価総額とは、企業価値や規模を示す指標のひとつです。

株式投資において規模や競争力を比較することができ、株価×発行済み株式数で計算されます。

例えば、株価が1,000円で発行済み株式数が100万株の企業の時価総額は、1,000円×100万株=10億円になります。

平成元年はトップ50位までに、なんと日本企業が32社もランクイン。

1位のNTTの時価総額は、当時ダントツでした。

それが、30年後の2018年には、ほぼ米国に塗り替えられています。

日本はトヨタ自動車1社のみ、35位。

おそらく、みなさんもこの事実はご存じだと思います。

ここで、ちょっと立ち止まって考えてみてください。

30年間の“逆・劇的ビフォアーアフター”。

単純に、「なぜ?」って疑問に思いませんか?

こんなに日本中が休まず稼働しているのに、なぜ日本だけ、こんなにも経済に反映されていないのでしょうか。

就活生のみなさんの親御さんも、毎日遅くまで働いていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

資本主義経済を選択している社会として、よほど何か「大きな間違い」をしない限り、このような結果にはならないのではないか、よく指摘される生産性は他国に比べて本当に低いのだろうか?と不思議に思う人がいれば、その違和感を大切にして、次の現実をみていきましょう。

 

デフレはインフレより緊急事態

日本はバブル崩壊後、1998年からデフレーションが続いています。

デフレーションとは、持続的に物価が下落している状態のことを指し、略してデフレと呼ばれます。

デフレは、需要に対して供給が多い状態です。

モノが売れないため、モノの値段が下がる、つまり、モノに対して貨幣の価値が上がります。

すると、お金が貴重な存在になり、個人も企業もお金を積極的に使うというよりは、節約して貯金しておかないと、という心理が働きます。

そのため、市場のお金の流れが鈍くなり、さらにデフレが悪化します。

これをデフレスパイラルと呼びます。

その反対がインフレーション、略してインフレです。

需要に対して供給が少ないため、モノが貴重な存在になり高くても売れるため、モノの値段が上がります。

個人も企業も消費や投資が増え、市場のお金の流れがスムーズになり、経済も成長します。

しかし、需給バランスが崩れると、インフレも緊急事態になります。

欧米各国が原材料の値上がりの影響も含めて大変な状況であることは、ニュースでもよく見聞きしますね。

モノに対して貨幣の価値が下がり続け、物価が上昇し続けるので、ラーメン1杯食べるのに3,000円以上する、日本では考えられない世界になっています。

ちなみに現在の日本の物価上昇は、通常の経済成長につながるインフレではなく、原材料の価格や輸入物価の上昇などが原因で、供給側の生産コストが上がっているため、商品の値段も上げざるを得ないコストプッシュインフレと呼ばれる現象で、需要がさらに低下してしまう悪循環になります。

ここで不思議なのが、海外のインフレのニュースには注目するのに、20年以上も続いている自分たちの国のデフレには、危機感というより「不況だから仕方がないよね」という諦めの空気が日本全体に漂っていることです。

就活生のみなさんは、生まれたときからデフレ経済しか経験されていない世代なので比較対象がないと思いますが、デフレこそ、本当は超緊急事態なのです。

ここからは、中野剛志氏の著書「目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】」を参考に、話を進めていきたいと思います。

出所:中野剛志「目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】」P.53

上の表は、インフレ・デフレの際に、本来行われるべき対策をそれぞれ一覧にしたものです。

日本は失われた20年もしくは30年と呼ばれているように、ずっとデフレが続いてきました。

これは資本主義経済における緊急事態なので、先述のとおり政府が介入し、需給バランスの舵取りをする必要があります。

しかし著者の結論から言うと、日本はデフレなのに、この20年間デフレ対策ではなくインフレ対策をし続けていた、ということです。

表に沿って、今まで起こった主な事実や掲げられてきた言葉だけをみていくと、

①需要を増やすための対策として実際に行われてきたこと

  • 小さな政府
  • 景気の完全回復を待たず削減に切り替わった公共投資、その後の削減
  • 消費税増税 
  • 金融緩和

②供給を抑えるための対策として実際に行われてきたこと

  • 国内市場の開放、生産性向上というワードの浸透
  • 構造改革として人材派遣の自由化・規制緩和
  • 構造改革として郵政民営化、その他公共サービスの民営化
  • グローバル化・グローバルスタンダードに向けた方針

おや?確かに、赤枠の金融緩和以外は、すべて青枠のインフレ対策の方に当てはまります。

20年間、誰も気づかなかったのかという問いに対して、著者は「合成の誤謬(ごびゅう)」という視点で説いています。

合成の誤謬とは、個々では合理的な行動でも、それが積み重なった結果、全体として好ましくない結果となる現象のことを指す経済学の用語です。

デフレ下で支出を切り詰めて楽になろうとしたら、それがさらなる需要縮小を招き、デフレが続いて、生活がますます苦しくなる。このデフレという現象は「合成の誤謬」の典型である

一方、デフレ対策として生産性を向上させることは必要ではないのかと疑問をもつ人もいるでしょう。

しかし、著者は「順番」が大切であると説明しています。

デフレで需要が不足しているのに、全企業が生産性を向上させたら、供給過剰でデフレがさらに悪化します。一企業にとってはよいことである生産性の向上が、デフレという、経済全体として好ましくない結果をもたらす。

まずはデフレ脱却を果たし、経済をインフレにする。その上で、生産性の向上を促し、経済成長を実現する。そういう順番で政策を実行するべきなのです。

よく考えると、その通りかもしれません。

生産性の向上が経済全体にとって良い結果を生むのは、インフレのときだけ、ということです。

こちらの本は、経済が苦手な人こそオススメです。

今回ご紹介したテーマ以外でも目からウロコの内容です。

お金の仕組みを通して日本の社会システムを知りたい方は、ぜひ一度読んでみてください。

 

自らの意志か、誰かの要請か

とはいえ、平成から30年以上も続いたら、誰かが気づいても不思議ではないです。

方向転換できなかった理由が他にあるのでしょうか。

ここからは、こういう事実がある、という情報提供を中心としたいと思います。

自分の視点でどう「横軸」で繋げて考えていくかは、人それぞれの解釈・思想にもよるからです。

日本は構造改革を中心に、デフレ対策としてインフレ対策をやってきたわけですが、これは、すべて自国だけで考えた対策なのでしょうか。

次の情報をみていきましょう。

「年次改革要望書」

この言葉をご存じでしょうか。

日本政府と米国政府が両国の経済発展のために、改善が必要と考える相手国の問題点についてまとめた文書です。

1993年に当時の宮沢喜一首相と米国のクリントン大統領の会談で合意されて以降、1994年から毎年10月(一部11月)に互いの国への要望書として日米両政府間で交換され、翌年5月か6月に、過去も含めた互いの要望に対する自国の進捗状況を報告しています。

2001年から「年次改革要望書」として運用されており、その後、「日米経済調和対話」など何度か名前を変えながら、現在もこの仕組みは継続されています。

参照:Wikipedia

それぞれの要望書や進捗報告書の内容は、駐日アメリカ大使館や外務省のHPなどで開示されているので、下記リンクから確認することができます。

例えば、1999年の米国側の要望書の冒頭部分です。

米国政府は、日本政府に対し、日本における規制撤廃、競争政策、透明性及びその他の政府慣行に関する本要望書を提出できることを喜ばしく思う。本要望書は、「強化されたイニシアティブ」の下で取り扱われている全ての分野に関する多数の個別、具体的な要望のみならず、広範にわたる大胆な構造的イニシアティブを求めるものである。

引用:規制改革要望書

文書は大使館により和訳されています。

表向きのタイトルは「要望」「提案」といった柔らかいものですが、文書の中身を読むと、米国側の実態は日本への「要請」「措置」です。

分野をみると、通信、エネルギー、情報技術、医療機器・医薬品、金融サービス、競争政策、司法制度、民営化、流通など多岐にわたり、それぞれ細かく言及しています。

しかも、それを何年後までに行う、という具体的な完了時期まで指定しています。

例えば通信の分野では、真っ先にNTTの再編計画について取り上げています。

NTTといえば、平成元年の時価総額トップ企業でしたね。

実際に日本で行われてきたことの中で、米国側の要望と一致するものを一部挙げてみます。

  • 1997年 独占禁止法改正、持株会社が解禁
  • 1998年 大規模小売店舗法の廃止
  • 1999年 労働者派遣法改正による人材派遣の自由化
  • 2002年 健康保険の3割自己負担スタート
  • 2003年 郵政民営化
  • 2004年 法科大学院の設置
  • 2005年 日本道路公団の解散、新会社法の成立
  • 2007年 三角合併制度

現在の日本社会を見ると、企業は外資に買収され続けており、地方の商店街の多くはシャッター街化、雇用格差が生まれ、若者の貧困化が問題に。

地域に根ざした公共サービスが減り、日々の暮らしにかかわる自己負担額は右肩上がりです。

特に「構造改革」はものすごいスピードで法律が改正され、規制が緩和され、手数料が下がり、外資が参入できるようになりました。

ここで注目したいのは、毎年の自国の進捗報告の内容です。

文章の語尾をよくよく見てみると、日本側の状況報告は、「実行した」「完了した」が多く、まだ着手できていないものも、「〇〇年までに実施予定」と、米国の要請を着実に実行している文言が多いのが事実です。

一方の米国は、「努力する」「継続する」「する予定」など、日本からの要望は、それぞれの報告時点では特に実施されていない模様。

ここからは筆者の解釈ですが、これは米国から日本へ向けた、強化された“イニシアティブ”、ここでの和訳はビジネスで使われる“構想”ではなく、“主導権”だと言えます。

なぜなら日本は敗戦国だからです。

国際的には独立国家ですが、さまざまな条約により、経済活動においても、実質的には主権がない状態が続いていることが、今回取り上げた文書だけでも明らかです。

このような力関係の中で、30年間の日本の経済政策が行われてきたわけです。

これは誰の利益のためなのだろうと、捉えることもできると思います。

  • 明治維新
  • サンフランシスコ平和条約
  • 日米安全保障条約

学校の教科書だけでは知ることができない内容に、現在の日本の社会の仕組みを理解するための事実があります。

もっと知りたいと思った方は、このあたりを含めて、情報をとりに行ってみてください。

 

次は企業を全体像で捉えよう

今回お伝えした「目で確認できる情報」を、どう解釈するかは個人で分かれて当然だと思います。

でも、現在の新聞・主なネットニュース・テレビの内容を改めて冷静に捉えると、人によっては大きな矛盾が出てくるはずです。

あれ?これは本当なのだろうか?と考え始めたら一気、今まで常識だと思ってきたことが逆転する人もいるでしょう。

その視点で再度、冒頭で述べた24卒の就活生のみなさんが関心をもっている、あらゆる社会問題に対する現在の日本の方向性をみて、自分の頭で考えて、疑問に思ったことは調べてみましょう。

今はYouTubeで経済や歴史について学ぶこともできます。

新しいアルゴリズムが加われば、情報は得やすくなるでしょう。

現在の資本主義のカタチがいつまで続くかは分かりませんが、企業に就職するということは、このような仕組みの中で価値を生み出す一員として参加するということです。

ここまで読んでいただくと、なんだかお先真っ暗な社会に思える人もいるかもしれませんが、足元では確実に変化が起きています。

どんな価値を生み出すことが、どんな自分で在ることが、最終的に自分も社会も幸せになるんだろうか。

次回は、このような社会の仕組みの中で、日々付加価値を生み出している日本の企業について、全体像を捉えながら、さまざまな現実をみていくことで、これからどのような企業に可能性があるのか、企業選びの視点に加えられるような情報をお伝えしていきたいと思います。

Who is writing

大学卒業後、人材業界にて法人営業・キャリアコンサルティングに従事。
20代~60代まで幅広い年齢層のキャリア・メンタル相談を経験する。
その後、企業の新卒採用代行、大学生の就職活動支援、さまざまな生きづらさを抱えた学生と向き合う伴走支援に携わり、現在の社会構造と人の活かし方に疑問をもつ。
また、人にかかわる問題の根底は「教育」にあると考え、幼少期の教育・子育て分野にも
キャリアを広げている。
2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)