シリーズ「ビジネスエゴグラム」~ゲーム分析その2・ゲームの具体例と対処法~

性格分析手法の「エゴグラム」についてご紹介するシリーズ「ビジネスエゴグラム」。今回は、ゲームの具体例と対処法などについてです。

  

長い歴史と確かな実績を持ち、ビジネスの現場に活用する企業も増えてきている性格分析手法の「エゴグラム」について詳しくご紹介していくシリーズ「ビジネスエゴグラム」。

6回目の今回は、前回に引き続きエゴグラムの基となっている交流分析理論の柱の一つである「ゲーム分析」を取り上げます。

前回のおさらい~人間関係がこじれるのはゲームをしているから⁈~

今回はゲーム分析の中で挙げられているゲームの具体例やその対処法についてご紹介していきますが、その前に「そもそも『ゲーム分析』って何?」など前回のおさらいをさせて頂こうと思います。

交流分析における「ゲーム分析」とは、コミュニケーションの中で時として行われる罠やインチキといったものが内蔵されたやりとりを一種の心理ゲームと捉えて、その詳細を分析した理論のことです。

「ゲーム」に分類されるやりとりの特徴としては、建前の裏に本音がこもった「裏面的やりとり」が繰り返され定型化しているものという点があります。

またその他の特色として、

●当事者も気づかない動機や目的が隠れている場合が多い
(例:ケンカという表面的なコミュニケーションの裏で、改めて互いの存在を認め合うケースが多い夫婦ゲンカ)
●ゲームには予測可能なエンディングがある
(例:「いずれ別れるのではないか」と思っていた二人が、案の定別れる)
●「自分や他人がOKではない」という証明のために行われることがある
(例:意図的に職場でひんしゅくを買ったり、常習的に遅刻を重ねたりすることで、「自分はOKではない」という自己否定的な構えを証明する)
●結末には多くの場合で、後悔や怒りといった不快で非建設的な感情がともなう
(例:親が自分の子供を叱っている中で思わず手を出してしまい、後悔の念に駆られる)
●生活時間を構造化するために行われることがある
(例:定年退職後に日々の生活パターンを自分で決められないため、同居する家族や周囲の粗探しで時間を過ごす)

ゲームを演じてしまう理由としては主に、

●周囲から愛情や注目を得る手段
●生活時間を構造化する手段
●自他に対する「基本的な構え」を証明する手段

といったことが考えられています。

またゲームを演じる当事者の中には、「ラケット感情」と呼ばれる感情を持つ人がいます。

ラケット(racket)とはペテン、不正、詐欺といった意味合いです。

例えば子どもが親からの反応を気にするがあまり、本当は不安なのに強がって見せるというように、実際の本心を偽りの本心で置き換えるケースを指します。

結果、大人になってからも本当は不安であるにも関わらず周囲には「平気、平気」とラケット感情によってゲームを演じてしまい、不安や恐怖、イライラといった不快な感情を味わい続けてしまうのです。

ゲームの具体例

ここからは、ゲームの例について具体的にご紹介していきましょう。

●はい、でも…

患者「先生、これからはどのようなことに気をつければいいですか?」
医師「塩分の取り過ぎに注意しましょう」
患者「はい、でも私は塩辛いものが大好きなもので…」
医師「とは言え、それを直さないと改善しませんよ」
患者「でも実行できるかわかりません」

といったように、相手に見せかけの相談をしておいて、相手が出してくれる解決策や提案の全てに「はい、でも…」と反論するというものです。

このようなゲームを演じることで、自らが持つ自己肯定・他者否定の構えを確認しているのです。

●キック・ミー(私を嫌ってくれ)

勤務態度不良や非常識な行動によって失業を繰り返すといったように、相手の不評を買うような言動を重ねたり、相手を挑発して自分を卑下したりといった行為によって、自分自身を追い込むというゲームのことです。

しかし自分自身ではこの過程を自覚できず、結末においてむしろ「なぜ自分はいつもこんな目に遭うのだろう」と犠牲者であるかのように感じてしまうのです。

このゲームの背景には自己否定・他者肯定という基本的な構えがあり、自分に対するネガティブな構えを証明すべくゲームを繰り返してしまいます。

●仲間割れ

自分以外の2人の間に入り双方へ相手の悪口や告げ口をすることで、互いの対立を作ろうというのがこのゲームです。

背景には自己肯定・他者否定という構えがあり、互いにいがみ合っている2人を見て内心で軽べつしたいという思惑が働いています。

●あなたのせいでこんなになった

・自分のミスを棚に上げて、相手に言いがかりをつける

・上司が、成果の上がらない責任を部下のせいにする

といったように、何か上手くいかないことがあっても自分の責任を認めず、他者のせいにしてしまう事です。

このゲームも、自己肯定・他者否定という基本的な構えによるものです。

●決裂

頻繁にケンカをして遂には別れるところまでいくにもかかわらず、結局は元の鞘に収まっているという親子や夫婦が時々いらっしゃいます。それこそが、この決裂のゲームです。

特徴としてはお互いに相手を「OKでない」と思っている人同士で行うということ、そして多くの場合で親密な関係に入ることを恐れていることが挙げられます。

●あら探し

相手の小さなミスや弱みを探し求め、それを見つけると怒りを発散させるというものです。

日本であれば「あげ足取り」や「言いがかり」と言われる類のものであり、部下に対するパワハラや嫁いびりもこの代表例です。

根本には「あなたはOKでない」という他者否定の基本的な構えが影響しています

●苦労性

・妻や母親の他、PTAなどの役員、お稽古事までやってしまい、ついにはダウンしてしまう

・管理職として自分の可能性以上の業務をこなそうとして、やがてはうつ状態になってしまう

このように自分を駆り立てたあげく、疲労困ぱいして発病してしまうというのが苦労性のゲームで見られる典型的なパターンです。

苦労性のゲームを演じる人の多くは幼い時から高い要求を課す親の下で育てられており、自分の中で「まだ足りない」という強力なP(親)の自我を持っています。

そのため大人になってからも「OKでない私」という構えに支配されてしまうのです。

またゲームの相手である配偶者や上司も、プレイヤーのPの自我に似た要素を持っているケースが多くあります。

ゲームの進行には公式がある

先ほど紹介したように、ゲームには様々な種類があります。

しかし交流分析を創案したアメリカの精神科医エリック・バーンは「ゲームが進行する順序は一般化できる」として、以下のような公式を考え発表しています。

どういうことか、例で挙げた“はい、でも…”のゲームに当てはめてご説明しましょう。

【仕掛け人】は、食事療法について質問する患者です。

そして【弱点を持つ相手】は、質問に回答する医師となります。「何とか改善させたい」という熱意が、皮肉にもゲームにおいては弱点となってしまうのです。

ゲームが始まると、まず【反応】として互いのやりとりが行われます。

その中でやがて起こるのが、劇的な【役割の交代】です。拒否反応を示す患者に提案する医師の方が不満を募らせ、その反応に患者の方が優越感を得るようになってくるのです。

こうなるとその後のやりとりでは当然【混乱】が生じてくるわけで、公式ではこれを象徴的にXと表現しています。

そして最後に医師に苛立ちといった不快な感情を持たせながら、患者が「私はOKではない」という自身の基本的な構えを確認するという【結末】をもって、ゲームは終了となるのです。

ゲームを仕掛けられた時の対処法

では相手からゲームを仕掛けられていると感じた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

まず注意として、「あなたはゲームを演じていますね、やめましょう」といった直接的な指摘は慎んでください。

ゲームは、自己あるいは他者に対しOKではないという基本的な構えを持つ人が用いる防衛反応という面があります。

ゲームを指摘することは、相手に対してその防衛を崩し敵意を挑発するものと捉えられ、時として危険なことになりかねないのです。

それを前提とした上で、まずゲームの対処法としては大きく二つの方向性があります。

1.主に相手から挑発してくるゲームに乗らない対抗策を講じる
2.自分自身がゲームを演じることのないようコミュニケーション方法を身につける

そしてそれぞれの方向性に沿った具体的な対処法には、次のようなものがあります。

 

【1.主に相手から挑発してくるゲームに乗らない対抗策を講じる】

●交叉的交流を用いる

「交叉的交流」とは、人がある反応を期待して始めた交流に対して、予想外の反応が返ってくるようなコミュニケーションを指す交流分析で使われる用語です。

通常のコミュニケーションにおいてはやりとりを途切れさせかねないためあまりお勧めできないのですが、仕掛けられたゲームでは効果的に作用します。

例えば“はい、でも…”の例であれば、「ご自分ではどのようなことならできると思いますか?」と振ってみるのです。

そして相手が返答に困ったところで、「ぜひ自分の事ですから、ご自身でも考えてみてください」といって会話をクローズさせるといいでしょう。

●フィードバック的交流を心がける

フィードバック的交流とは、相手のありのままの姿を映し出す鏡のような役割をすることによって欲求や態度をそのまま受け止め、ズレのない理解を示す交流のことです。

“キック・ミー”の例でいえば、「あなたもこれまでの事があって、自分に自信が持てないのでしょう」など、相手の言動の奥にある感情を察して共感を示し、それを表面に表すような応対をすることでゲームに陥ることが回避できます。

●否定的な言動に強く反応しない

「そんなにミスをするなんて、あなたの頭はおかしいんじゃないの」「この前○○さんがあなたの悪口を言っていたわよ」といった否定的言動には、こちらを陥れようとする意図が隠れています。

そういった際はA(大人)の自我を発揮し、「なるほど、じゃあどうすればいいと思いますか」「直接○○さんに確かめてみます」など冷静に対応するようにしましょう。

 

【2.自分自身がゲームを演じることのないようコミュニケーション方法を身につける】

●ラケット感情に対してではなく、本心からの感情に対して大いに肯定的な対応をする

先に説明した偽りの本心ともいえる「ラケット感情」をあらわにする人の場合、その感情にまともに対応してしまうとゲームを強化させることになってしまいます。

こういった場合、例えば今までは泣くまいと頑張っていた人であれば、素直に泣くようになったときに大いに肯定的な対応をしてあげるのです。

●体勢をコントロールする

ある交流分析の研究者によれば、次のような姿勢をとることによりAの自我が働きやすくなり、ゲームをプレイしにくくなると言っています。

(1)足を床に密着させ、体を落ち着かせる
(2)腰掛けるか、しっかり立つ
(3)腕は組まず、体と並行した位置に置く
(4)背中をまっすぐに伸ばす
(5)頭を下げず、アゴと床とを平行状態にする

●日頃の関係の中で、相手を肯定するようなふれあいを十分に与える

ゲームは多くの場合で、相手を否定するようなふれあいが習慣化することにより生じてしまいます。

それを断つためには、日頃から相手を肯定するようなふれあいをすることが大切です。

例えば勉強や成績の事などで親子間の交流が気まずくなる場合は、リフレッシュする時間をとって一緒に楽しむのも一つの手です。

またカウンセリングにおいて行われる「傾聴」も、相手の肯定を示す行為と考えられています。

終わりに

今回は前回に引き続き交流分析理論の柱であるゲーム分析について取り上げ、ゲームの具体例や仕掛けられた時の対処法などをご紹介しました。

仕掛けられたゲームの対処には、お互いの親(P)・大人(A)・子供(C)3つの「自我状態」(自分のあり方)を意識することがポイントです。

自分自身の自我状態を知る確実な方法は、自分のエゴグラムを把握しておく事です。

気になった方は「賢者の人事」を運営する株式会社経営人事パートナーズが開設している、無料のエゴグラム診断サイトをぜひご活用ください。

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今回の記事を読んで、心地よいコミュニケーションが図られる組織のためにエゴグラムの導入を検討したいという際は、ぜひお気軽にご相談ください。

※参考資料

中村和子ら著「わかりやすい交流分析」第二版,チーム医療,2007年
桂戴作ら著「交流分析入門」第二版,チーム医療,2007年
杉田峰康ら著「ゲーム分析」第二版,チーム医療,2007年

Who is writing

1982年生まれ。大手建機レンタル会社や書店チェーン、金属材料販売会社に勤務する傍ら、小学生のころにテレビで見たイギリスにあるリンクスコースの光景に衝撃を受けて以来、ゴルフコースに関する情報収集を趣味としている。ゴルフコースに関する蔵書は、洋書も含めて数十冊。
日本交流分析学会 正会員