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長い歴史と確かな実績を持ち、ビジネスの現場に活用する企業も増えてきている性格分析手法の「エゴグラム」について詳しくご紹介していくシリーズ「ビジネスエゴグラム」。
シリーズ4回目は、自我とコミュニケーションの関係についてご紹介していきます。
コミュニケーションはパターン化できる
人が社会の中で生きていくうえで、人とのコミュニケーションは欠かせません。
私たちは普段から多くのコミュニケーションを行っているがために、その内容を分類するのはとても難しい事のように感じてしまいます。
しかし、エゴグラムの基となっている交流分析理論の提唱者エリック・バーンは、「人と人とのやりとりには、3つの基本的な形がある」と述べています。
3つの基本的な形とはいったいどういうことなのか。
次の章ではまず、その理解の前提となる交流分析におけるコミュニケーションの考え方についてご紹介しましょう。
コミュニケーションとは3つの自我間のやりとり
そもそもバーンが提唱した交流分析においては、私たちの心は親(P)・大人(A)・子供(C)の3つの「自我状態」(自分のあり方)に分かれた構造とされています。
そして交流分析においてコミュニケーションとは、このP・A・Cの3つの自我間でのやりとりであると考えられているのです。
なお、エゴグラムで示される5項目の数値は、3つの自我と次のような関係性にあります。
【親(P)の自我状態】
→CP(批判的な親)、NP(保護的な親)
【大人(A)の自我状態】
→A(大人)
【子供(C)の自我状態】
→FC(自由な子供)、AC(順応する子供)
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この後の内容が、より一層参考になるものになりますよ。
では次からは、いよいよバーンが唱えた「やりとりにおける3つの基本的な形」について、それぞれ具体的にご紹介しましょう。
やりとりのパターンその1~相補的(適応的)やりとり
パターンの1つ目は「相補的(適応的)やりとり」と呼ばれるものです。
これは発信者のある一つの自我状態から発せられたメッセージに対し、相手の予想された自我状態から予想された反応が返ってくるものです。
発信と反応のやりとりを矢印で表した時には、二つの矢印が平行になります。
例えば、
ベテラン社員A:「最近の若い社員はビジネスマナーをわきまえていない」
ベテラン社員B:「まったくです。もう少ししっかりしてほしいものです」
というやりとりは、同じPの自我状態間でのやりとりと言えます(図1)。
図1 相補的やりとり P↔P
また相補的(適応的)やりとりは、同じ自我間に限りません。
例としては、
新人社員:「業務で分からないことがあるので教えてください」
先輩社員:「いいよ、後で都合のいい時に聞きに来なよ」
という場合が挙げられます(図2)。
図2 相補的やりとり A↔P
これは「業務を行わなければならない」という新人社員の自我Aが発した先輩社員の自我Pを頼ってのメッセージに対し、先輩社員の自我Pがそれに応えるという形になっています。
そしてこれも図式にすると、新人社員の自我Aと先輩社員の自我P間の平行したやりとりとなっているのです。
相補的(適応的)やりとりはスムーズに進むため、お互いも心地よさを感じます。
ただし、そのやりとりが生産的なものであるかは別問題であるため、注意が必要です。
やりとりのパターンその2~交叉的やりとり
パターンの2つ目は「交叉的やりとり」と呼ばれるものです。
これは相手に期待した反応に対し、予想外の自我から返ってくるパターンです。
やりとりを図で示した際、多くで矢印が交叉する形になるためこう呼ばれます。
一例としては、
部下:「これから上司から言われた業務に取り掛かります」
上司:「まだ取り掛かってなかったのか。なんでそんなに遅いんだ!」
といったケースです(図3)。
図3 交叉的やりとり A→A,C←P
部下としては単なる業務報告として、自身の自我Aから上司の自我Aに発信するつもりでした。
しかし反応としては上司の自我Pから部下の自我Cに対して、業務の取り掛かりの遅さをとがめられる結果になっています。
また、
母親:「あまりお金の無駄遣いをしちゃいけません」
子供:「お母さんの方こそ、何でも通販で買うのは控えたらどうなの」
といったやりとりも、図にすれば互いに自我Pから相手の自我Cに注意する形となり、矢印は交叉します(図4)。
図4 交叉的やりとり P→C,C←P
なお「交叉的やりとり」には、先の2例のように非難や批判が含まれやりとりが交叉するケースの他、
・相手の反応が期待外れで食い違うもの(図5)
・互いの求めるものが全くずれているもの(図6)
も含まれます。
図5 やりとりが食い違うパターン
図6 やりとりがズレるパターン
話がかみ合わない、あるいは「暖簾に腕押し」といったケースです。
いずれにしてもやりとりとしてはギクシャクした、あまり気分の良くないものとなります。
やりとりのパターンその3~裏面的(仮面的)やりとり
パターンの3つ目は「裏面的(仮面的)やりとり」です。
これは相手のある自我に向かって送る表面的なメッセージとは別に、裏面的なメッセージも送るやりとりのケースです。
建前が表面的なメッセージで、裏面的なメッセージが本音と言えば、理解しやすくなるかもしれません。
例をご紹介すると、
(表面的)
友人A:「お前、かっこいい高そうな時計してるな」
友人B:「そうだろ。値は張ったけどどうしても欲しかったんだ」
(裏面的)
友人A:「お前にはちょっと似合ってないんじゃないか」
というやりとりです(図7)。
図7 裏面的(仮面的)やりとりの例
この場合、表面的には友人Aが持ち物をうらやましがる子供のような事を言い、持ち主である友人Bは真に受けて誇らしげにしています。
しかし友人Aの発言はいわゆるお世辞なのであって、自我Aから発する「不釣り合いな時計をつけている」という裏面的な思いこそが本心である訳です。
裏面的(仮面的)やりとりは更に、
・発信者が同じ1つの自我から、表と裏のやりとりを同時に送るもの(シングル・タイプ)
・発信者が2つの自我を使い、表と裏のやりとりを送るもの(ダブル・タイプ)
に分けられます。
●発信者が同じ1つの自我から、表と裏のやりとりを同時に送るもの(シングル・タイプ)
(表面的)
営業担当:「これは、普段からお世話になっていることへのほんの気持ちです」
(裏面的)
営業担当:「当社を他の取引先よりも特別扱いしてください」
営業活動において営業担当が取引先への訪問時に手土産を持参したり、節目に贈り物をしたりすることはよくあるケースです(図8)。
図8 シングル・タイプの裏面的(仮面的)やりとり
この場合、表面上は自分の自我Aから相手先への自我Aに対する社交的なやりとりを行いますが、本心では相手先の自我Pに対して「自社を優遇して欲しい」というメッセージを発信しているわけです。
(表面的)
店員:「お客様の多くは、ハイグレードタイプの商品をご購入されますね」
客:「なるほど、そういうものなんですね」
(裏面的)
店員:「あなたは他の方よりグレードが低いタイプでよろしいんですか」
客:「ハイグレードタイプを買えないと見下してるのかな、自分だってそれくらい買えるさ」
店員は自我Aからの丁重な態度で客の自我Aに接していますが、客の自我Cに対して隠れた働きかけを行うことでより高額な商品を買わせようとしています(図9)。
図9 シングル・タイプの裏面的(仮面的)やりとり
このようなやりとりの特色は、発信者が意識的に自我Aから二重のメッセージを送っているのに対し、受信者側はあまり意識せずに受け取っているという点です。
●発信者が2つの自我を使い、表と裏のやりとりを送るもの(ダブル・タイプ)
(表面的)
夫:「今日は疲れた。明日も早いからもう寝るぞ」
妻:「私の話を聞きたくないんですね」
(裏面的)
夫:「ただでさえ職場で話を聞いてばかりなんだから、家ではゆっくりさせて欲しい」
妻:「相談したいことや話したい事があるのに…」
言葉を聞く限りは夫、妻とも自我A同士のやりとりをしているように思えます(図10)。
図10 ダブル・タイプの裏面的(仮面的)やりとり
しかしその裏で、夫としては「職場で大変なのだから、家では休ませてほしい」という思い、妻の方は「少しは自分の相談相手になってほしい」との思いを、それぞれの自我Cからにじませているのです。
パターンを知り心地よいコミュニケーションを
シリーズ4回目となる今回は、人とのやりとりにおける3つのパターンについて取り上げました。
最後にそのことを踏まえた上で、気持ちの良いやりとりをするためのポイントについてご紹介しましょう。
まず前提として、はじめは自我Aの状態で対応することです。
相手が自我Pや自我Cから感情的な言葉を発してきたからと言って、それに合わせて自分も感情的になってしまっては収拾がつきません。
その上で、一旦は相補的(適応的)やりとりを心がけましょう。相手の気持ちを、まずはそのまま受け止めるのです。
これにより相手は「理解された」と考え、仮に気持ちが高ぶっていたとしてもクールダウンしていくはずです。
そして、可能な限り相手の言葉の裏に隠された感情をくみ取り、それに対して反応する事を心がけましょう。
こうすることで相手も自分への信頼を深め、望ましい関係になっていくはずです。
ところでP・A・Cの3つの自我のバランスは、人によって異なります。
それにともない、やりとりにおける発信や受け止めの傾向もそれぞれで変わってくる訳です。
やりとりにおける自分自身の傾向を知るためにも、P・A・Cの自我バランスを把握しておきましょう。
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※参考資料
中村和子ら著「わかりやすい交流分析」第二版,チーム医療,2007年
杉戴作ら著「交流分析入門」第二版,チーム医療,2007年