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人材育成は、企業が持続的に成長しするには欠かせない要素です。
最近では「リスキリング」という言葉を聞くようになりましたが、従業員一人ひとりのスキルアップが、企業全体の競争力向上に直結します。
とはいえ、問題なのは「どうやって人材育成をするのか?」ですね。
人材育成の具体的な方法は「研修、ワークショップ、OJT、eラーニング」など様々ですが、現実その全てを行うのは難しいでしょう。
そんな“大切だけど進めづらい”人材育成において、今回は「コーチング」に焦点をあててお伝えしようと思います。
なぜコーチングなのか?理由は次の通りです。
・業務内で対応できるから
・相手とのコミュニケーションが深まるから
・実はコーチ側の育成にもなるから
ちなみに私はこれまでリーダー層に向けて、1,000人以上の方にコーチングやその方法をトレーニングしてきました。
そんな私の経験から、単なる理論の話ではなく「現場で使えるリアルなコーチング」についてお話しします。
人材育成手法としてのコーチングの意義
最近は特にリーダー層向けの人材育成の手法の一つとして、コーチングが注目されています。
コーチングとは従業員自身が自らの問題を解決し、新しいアイデアを見つけ出すサポートを行う手法です。
これにより「モチベーションが高まる」「思いつかなかったアイデアに気づく」「企業のパフォーマンスが上がる」という結果をもたらします。
そんなコーチングのやり方として、よく言われるのが「傾聴と質問」ですね。
「相手の話に耳を傾け、質問を通じて課題に対する対策や、新しいアイデアを導き出す」
みたいなことを、聞いたことがあるかもしれません。
確かに、従業員が自らの思考で解を導き出すことで、深い理解と成長が期待できます。
ただし、それだけだとまず間違いなくコーチングは失敗するのですが・・・その理由は後述します。
コーチングは何をする?
では、コーチングはどうやって行うのでしょうか?
主にコーチ(コーチングを行う人)の役割は、対話を通じてコーチィ(コーチングを受ける人)が自分なりの答えを見つけるのをサポートすることです。
重要なのはコーチがコーチィーに「答え」を提供するのではなく、コーチィー自身が答えを見つけることを手助けする点です。
これにより、コーチィーは自分の考えや信念、価値観を再評価し、より効果的な行動パターンを選択することができるようになります。
またコーチングには、コーチとコーチィの信頼関係が重要です。
例えば上司がコーチで、部下がコーチィとなる場合、部下の上司に対するイメージ次第では、コーチングが機能しないことがあるからです。
そういった場合は、外部の専門家によって提供されることもあります。
「とは言え、それでは意味がないんだよ・・・」
と思われるかもしれませんが、今回はそうならない方法もお伝えしますのでご安心を。
コーチングの目的と5ステップ
コーチングの主な目的には、自己認識の向上、行動の変容、目標の明確化、問題解決能力の向上などが含まれます
ここで一般的なコーチングプロセスを紹介しておきましょう。
1. 意図の共有
まずコーチとコーチィーが「コーチングの目的、期間、期待する結果」について合意します。
特に企業におけるチーム内でのコーチングでは、コーチとコーチイお互いの成長が求められます。
そのために「なぜコーチングを行うのか?」という意図を共有し、丁寧に進めることが重要です。
2. 目標設定
コーチィーは、達成したい具体的な目標をもとにアクションプランを作成します。
特にコーチングは、コーチィの内面にアプローチするため「やる気が出た」など、成果が抽象的に表現されることも多いです。
アクションプランに対する実行と評価を行うためにも「何が達成されると良いのか?」を明らかにしましょう。
3. 自己探求と洞察
コーチは、コーチィーが自己理解を深め、新しい視点や洞察を得るための対話を促進します。
ここがコーチングのメインであり失敗しやすい部分ですので、今回は対話の質を上げる効果的な方法もお伝えします。
4. アクションプランの作成
コーチィーは、得られた洞察をもとに具体的なアクションプランを作成します。
質の高いコーチングができたとしても、そこから得られる「気づき」が機能するのは一瞬です。
1日も経てばその効力が失われ「あれ、昨日は何であんなにやる気があったんだろう?」となりがちです。
だからこそコーチィは、熱が冷めないうちに明確なアクションプランを立てる必要があります。
5. 実行と評価
コーチィーはアクションプランを実行し、コーチと共にその結果を評価します。
コーチはコーチィの態度や言葉にも注目しながら、必要に応じてプランを調整します。
この段階ではコーチングだけではなく、シンプルに応援する気持ちも必要ですね。
以上が一般的なコーチングのプロセスです。
コーチングと他の人材育成手法の違い
では次に、混乱しやすいコーチングと似たような手法をいくつかご紹介します。
これらの違いを理解しておくと「コーチングのつもりが、ついアドバイスをし過ぎた・・・」という状態を避けやすくなります。
ここではコーチングとティーチング、メンタリング、コンサルティング、カウンセリングの違いについて、比較をしながら解説しますので違いを掴んでください。
1.コーチングとティーチング
コーチング:コーチィーが自ら答えや解決策を見つけるのを助けるプロセスです。
コーチは質問やフィードバックを通じてコーチィーの自己理解を深め、目標達成のためのアクションプラン構築をサポートします。
ティーチング:対してティーチングは、学校の先生が生徒に知識やスキルを直接伝え、教えるプロセスですね。
ティーチングは先生が主導し、生徒は受け取る関係性です。
両者の違い:コーチングは、コーチィーが主体となり、自らの思考で答えを見つけます。
一方で、ティーチングは先生による知識やスキルの伝達が目的です。
2コーチングとメンタリング
コーチング:コーチがコーチィーの自発性と自律性を尊重し、常に並走しているイメージです。
メンタリング:メンタリングは経験豊富なメンター(メンタリングを行う人)が、メンティ(メンタリングを受ける人)にアドバイスや手本となる姿勢を見せる関係です。
メンターは、メンティの成長のために知識や経験を共有します。
両者の違い:この2つは文脈によって、同じような意味で使われることもあるため、違いが分かりづらいかもしれません。
コーチングは質問がメインになるため、実は相手よりスキルや経験値が少なくても行うことができます。(でなければ専門家の集まる組織に、外部のコーチが携わることはできません)
しかしメンタリングはメンターが、一定以上のスキルや経験を保有しておく必要があります。
「メンター=師匠」とすると、分かりやすいかもしれません。
メンター(師匠)は、メンティ(弟子)に対してアドバイスもしながら、背中を見せて引っ張る・・・というイメージです。
企業内では上司が部下を育成することがほとんどのため、コーチングとメンタリングが分けられていないこともよくあります。
手法の意図と目標が明確であれば、さほど問題はありません。
3.コーチングとコンサルティング
コーチング:対話を通じてコーチとコーチィーが、それまで思いもよらなかった気づきを得ることができます。
コンサルティング:専門家がクライアントに対して、専門的なアドバイスやソリューションを提供するサービスを指します。
両者の違い:コーチングはコーチィーの自発性と自己発見を重視し、アドバイスを控えます。
一方で、コンサルティングはクライアントの問題解決を目的とし、専門的な知識やアドバイスを提供します。
コンサルティングはクライアントの問題解決が全てです。
育成方法として、あえてコンサルティングを選ぶことはないですが「時間がないとき」などは、コンサルティングの要領で、明確な答えを伝えることも必要です。
4.コーチングとカウンセリング
コーチング:コーチングは、主に未来の目標達成に焦点を置きます。
カウンセリング:カウンセリングは、クライアントが過去や現在の問題に取り組みます。
カウンセラーはクライアントの感情に寄り添い、自己理解や自己受容を深めるのを支援します。
両者の違い:コーチングは未来志向で、目標達成や潜在能力の開発に焦点を置きます。
つまりコーチィをゼロの状態から、プラスの状態へと変容させるイメージです。
一方カウンセリングは過去や現在の心の問題を解決し、精神的な健康を回復することに焦点を置きます。
これはマイナスの状態をゼロに戻すイメージです。
以上がコーチングと、その他の手法の比較でした。
つまり大切なのは?
例えば時間がない時にじっくりコーチングはできないので、コンサルティングの要領でアドバイスすることも必要でしょう。
また相手が精神的に落ち込んでいる場合は、カウンセリングのスタイルを選択するのが良いでしょう。
つまり大切なのは「コーチが手段の選択に意図を持つこと」です。
これらの違いを理解しないまま、なんとなくコーチングを行うと「行き違い」が起きます。
詳しくは後述の「上司によるコーチングの失敗例」でお伝えします。
コーチングのメリットとデメリット
コーチングについて、少しは理解が深まったでしょうか?
とても強力な人材育成手法ですが、そんなコーチングにもデメリットがあります。
ここではコーチングの主要な「メリットとデメリット」について解説します。
<メリット>
1. 自己理解の向上
コーチングを通じて、コーチィーは自分の価値観、信念、感情、行動パターンについて深く理解できます。
自己理解は、自分の強みや弱み、望みや恐れについて明確にし、より意識的で効果的な選択を可能にするでしょう。
2.モチベーションの向上
モチベーションとは外部からもたらされるものではなく、内面から自然に湧いてくるものです。
コーチングは、コーチィーが自ら自分の目標や価値に基づいて行動することで、内発的なモチベーションを高めます。
また自ら決定し・動いた結果は達成感につながりやすいです。
その達成感こそが、成長の好循環を生み出します。
3. 組織のコミュニケーションの強化
最終的に良い自己理解は他者理解へとつながります。
人は自分の事が理解できると「あの人はどうなんだろう?」と、他人への関心が高まるからです。
またコーチングでは「傾聴・フィードバック・共感」など、コミュニケーションに有効なスキルを活用します。
コーチィがこれらを自ら体感することで、他メンバーとの関係に良い影響が出ることも期待できるでしょう。
そういった意味でコーチングは、組織内コミュニケーションの質を向上させます。
以上。
改めてコーチングは、個人の成長と組織の成功を同時に促進する強力なツールなのです。
<デメリット>
では続いて、コーチングのデメリットもご覧頂きましょう。
1.時間がかかる
コーチングが効果的な結果を生むためには、どうしても時間の投資が必要です。
1回のコーチングセッションでコーチィが激変する!ということは、残念ながらありません。
定期的にセッションを繰り返し、前回からの進捗確認や、フィードバックを行う時間が必要です。
質の高いコーチングを提供するために、経験豊富で資格を持つコーチを採用するという手もありますが、これには高額なコストがかかることがあります。
2.効果の測定が困難
自己理解の向上やコミュニケーションスキルの向上などは、数値で評価するのが難しいため、コーチングの効果を即座に測定するのは難しいです。
これが、組織がコーチングプログラムの導入や継続をためらう一因となることもあります。
3.適切なコーチの不足
質の高いコーチングを提供するには、適切なスキル、知識、経験を持つコーチが不可欠です。
これを組織内のメンバーで補おうとすると、非常に困難なことがあるでしょう。
コーチの質のばらつきは、コーチングプログラムの効果を損なうリスクとなります。
以上。
コーチングが活かされるには、これらのデメリットを最大限回避しながら成果を高める方法を知る必要があります。
そのために次は「コーチングが適用されるケースの見極め」について、理解しておきましょう。
コーチングを使うか?使わないか?
コーチングは効果的な手法ですが、場合によって最適なアプローチであるとは限りません。
矛盾しているように聞こえますが、コーチングの質を上げるには「コーチングを使う場を適切に見極める」ことが重要です。
ここでは、コーチングが特に適しているケースと、必要ではない可能性があるケースについて考察しておきましょう。
コーチングが必要なケース
<個人の自己理解を深めたい>
コーチングは、個人が自己理解を深め、自己成長と発展を促進したい場合に特に効果的です。
<キャリア開発>
キャリアパスの設計には「本当はどうしたいか?」という、本質的な問いに答える必要があります。
しかし現実は「なんとなくイメージで決めた」というケースも少なくありません。
コーチングを使って対話することで、抽象的なイメージを掘り下げ、核心的な答えにたどり着くことが可能です
<リーダーシップの発展>
リーダーシップスキルや、リーダーとしての自己理解を望む人に対して、コーチングは非常に効果的です。
リーダーには他メンバーを巻き込む広い視野が必要なため、コーチングを使って得る客観的な気づきが大いに役立つでしょう。
続いて、コーチングが不要なケースを見てみます。
コーチングが不要なケース
<すぐに解決が必要>
解決策が必要な緊急の問題に対しては、コンサルティング的なアドバイスが適している可能性があります。
<精神的な課題>
心の面でケアが必要な場合は、カウンセリングや心理療法が適しています。
このケースにコーチングを使ってしまうと、一時的にモチベーションが上がるように感じますが、反動で悪化することもありますので注意が必要です。
<明確なアドバイスや指針が必要な時期>
例えば新人教育や、部署異動で環境が変わった社員には、明確な方向性やアドバイスが必要です。
この場合、先輩社員によるメンタリングが有効なこともあるでしょう。
以上。
コーチングは多くのケースで有益ですが、それが最適であるかどうかは状況やニーズによりますので、アプローチを選ぶことが重要です。
続いて「よく見かけるコーチングの失敗例と正しいコーチング方法」をお伝えしておきます。
上司によるコーチングの失敗例
上司が部下にコーチングを行う場合、そこには「失敗あるある」とも呼べる失敗パターンが存在します。
コーチングだけに限らず、コミュニケーション全般について適応できることなので、是非参考にしてください。
1.答えを言おうとする
これが最もよく見かける失敗例です。
繰り返しますがコーチングの本質は、コーチィーが自らの答えを見つけることをサポートすることです。
基本的には、アドバイスで人が動くことはありません。
しかし話を進めるうちに、上司がウズウズして答えを伝えようとしてしまうのです。
アドバイスは「ことコミュニケーションにおいて、最もレベルの低い方法である」ことを知っておいてください。
もしうまくいくとしたら、それは相手が自発的かつオープンな態度を取っている時です。(新入社員など)
仮に答えらしきものが見えていても、セッションを進めてみたら「それ以上の発見」が期待できるのがコーチングなのです。
2.指示とコントロール
コーチングセッションと題して、結局のところ指示やコントロールの場として使っていることがあります。
よくあるのは、特定の質問を使って相手の答えを誘導してしまうケースですね。
具体的には以下のような質問です。
(例)「あなたはリーダーシップを発揮すべきだと思いますか?それともチームのフォロワーでいますか?」
これは選択肢が限られるのと同時に、場合によっては上司が期待している答えへ誘導することになります。
3.批判的なフィードバック
コーチングには、コーチからの適切なフィードバック(アドバイスではない)も必要です。
しかしそれが批判的であると、コーチィーの自尊心を傷つけ、心を閉ざす可能性があります。
確かにコーチィの成長を促すために、時にネガティブフィードバックも必要です。
しかしコーチィの人格や価値観を否定するような言い方にならないよう、細心の注意が必要です。
以上。
ではこれらの失敗に対して、どんな心構えをしていくべきでしょうか?
最後に、なるべく簡単にできる方法をいくつか提案します。
失敗から学ぶ:正しいコーチングの実施方法
1.コーチィに関心を持つ
コーチに必要な態度として「コーチィへの関心をもつこと」が挙げられます。
これは極論ですが、相手に関心を持っていることが伝わると、それだけでコーチングはうまくいきます。
なぜなら関心を持っている時は言葉だけではなく、うなずき、身振り手振り、聞く姿勢など、非言語的なコミュニケーションが増えるからです。
関心を示すために最も簡単なのが「質問」です。
質問はそのまま、相手への関心を表現できる手段でもあります。
質問をする際は「何?誰?いつ・どこで?どうやって?」を意識すると良いでしょう。
(例)あなたに必要なサポートは何だと思いますか?その答えを知っているのは誰ですか?など。
※ちなみに「なぜ?」という質問は、必要以上に場を混乱させる可能性もあるので、慣れないうちは使わない方が良いでしょう。
2.基本的に全肯定する
コーチはコーチィーの自己効力感を高め、自発性と自律性を尊重する必要があります。
そのためには「どんな発言であろうが、すべてを肯定する意識」を持っておいてください。
仮に答えが、想定と違ったり期待通りでなかったとしても、それはコーチの問題でありコーチィには関係ありません。
コーチィが持っている答えを引き出すためには、安心感と信頼を構築しなければなりません。
コーチィの発言に対しては「良いですね」「素晴らしいと思います」を基本としましょう。
建設的なフィードバック
フィードバックは具体的、客観的、建設的であるべきです。
そのためには「こうですよね?」ではなく「私はこのように感じました」という伝え方を意識してください。
例えばこんなイメージです。
(悪い例)「ありがとう、言いたいことは分かった。先ほどのあなたの答えは、つまりこのプロジェクトをやりたくないということですね?」
(良い例)「ありがとう、私も共感できる部分があります。ただ先ほどのあなたの答えからは、このプロジェクトへの意気込みに少し弱々しさを感じました。自分ではどのように感じていますか?」など。
あくまで私はこう感じたが、正直なところはどうか?という姿勢を取ることで、相手の本音も引き出しやすくなります。
以上。
これらの方法は質問など特定のテクニックには言及していません。
すべて「自分の心構えに関すること」ですので、意識すれば誰でもできることなのです。
終わりに
さて、いかがだったでしょうか?
私は企業がコーチングの価値を理解することで、人材育成の新たな地平を切り開くことができると信じています。
人材育成については、こちらの記事もご覧ください。
「研修なしで理想的な上司と部下の関係性をつくる“価値観”の使い方」
では、この記事があなたの組織でコーチングを活用するきっかけになることを願っています。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。