全米女子オープン2023 プレビュー~ペブルビーチのトリビア~
今回は、開催コースであるペブルビーチ・ゴルフリンクスに関するトリビアも折り込みながら、今年の全米女子オープンを展望したいと思います。
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今回は、開幕が間近に迫ったペブルビーチ・ゴルフリンクス(ペブルビーチGL)での全米女子オープンをプレビューします。
全米女子オープン初開催のペブルビーチ
先日行われた全米オープンでの熱戦の興奮もさめない中、今度はペブルビーチGLでの全米女子オープン開幕が近づいています。
過去に男子の全米オープンは6度も開催されている世界的名コースですが、全米女子オープンの開催は初めて。果たしてどのような展開になるのか、興味は尽きません。
そこで今回は、開催コースであるペブルビーチGLに関するトリビアも折り込みながら、トーナメントを展望したいと思います。
コースを設計したのは素人の2人
ペブルビーチの物語は、1910年代後半に始まります。
名門イエール大学出身のサミュエル・モールス(モールス信号の発明者は遠戚)は、弁護士だった父の多額の遺産を相続した後、西海岸へと移住。不動産開発に携わっていました。
そんな中、当時西海岸で隆盛を誇っていた持ち株会社であるパシフィック・インプルーブメント・カンパニー (PIC)が設立者の死去に伴い事業を清算することとなり、1916年にモールスは清算業務を担うゼネラルマネージャーに任命されます。
モントレー半島の潜在価値に注目していたモールスは、PICの優良資産を自ら引き受けるべく「デルモンテ・プロパティーズ(DMP)」を設立。
資金提供を得た上で、名門ホテルであった「ホテル デルモンテ」の他、今ペブルビーチGLのある土地を含むモントレー海岸の広大な土地などを購入しました。
(ちなみに食品製造大手「デルモンテ」の社名は、「ホテル デルモンテ」向けに用意したコーヒーを自社で販売する際に、ブランドとして「デルモンテ」を冠した事に由来しています。)
その後まもなく、モールスは購入した海岸沿いの土地へゴルフコースを作る事を計画します。
コース設計にはチャールズ・マクドナルド(ナショナル・ゴルフ・リンクス・オブ・アメリカなどを設計した)か、アリスター・マッケンジー(オーガスタナショナル・ゴルフクラブなどを設計)を考えていましたが、共に断られてしまいます。
そこでモールスが白羽の矢を立てたのが、モールスの会社の社員でカリフォルニア・アマに数回優勝していたジャック・ネビルです。
ネビル自身、コース設計に強い関心は持っていました。とは言え、実際の設計は初めて。
そこでネビルは、同じくカリフォルニア・アマの歴代優勝者であった親友のダグラス・グラントにも協力を求めます。
こうして2人の共同設計によって、ペブルビーチGLは1919年に開場しました。
コースはその後、何度かの改造を経て現在の姿となっています。しかし、世界的な名コースの大本を設計したのは、コース設計は素人だった2人のアマチュアゴルファーだったのです。
ペブルビーチGLは誰でもプレーが可能!しかし…
ペブルビーチGLの特徴の一つとして、会員制クラブのコースではないということがあります。そのため誰でもあの有名コースでプレーすることができるのです。
ただしプレーするには、コースに隣接する「ザ・ロッジ」などの系列ホテルに最低2泊(ハイシーズンなら3泊)宿泊する必要があります。
ちなみに「ザ・ロッジ」の宿泊費は一番安いタイプの部屋で最低1,100ドルから。加えて、プレー料金として別途625ドルがかかります。
なかなかな出費にはなりますが、系列ホテルは各ホテルガイドでも高い評価をうけていますから、快適さは折り紙つき。
きっと一生の思い出に残るゴルフ旅行になる事でしょう。
また運が良ければ、系列ホテルに宿泊していなくても空き枠に入れてもらえるといった事もあるようですよ。
ペブルビーチ周辺は名コースの宝庫
ペブルビーチGLがあるモントレー半島は、実は名コースの宝庫です。具体的には、
・アリスター・マッケンジー設計の「サイプレス・ポイント」
・ロバート・トレント・ジョーンズ設計の「スパイグラス・ヒル」
・ロバート・トレント・ジョーンズJrが手掛けた「リンクス・アット・スパニッシュベイ」
・同じくロバート・トレント・ジョーンズJr設計の「ポピー・ヒルズ・ゴルフコース」
・36ホールを有する「モントレー・ペニンシュラ」
・ペブルビーチGLを設計したジャック・ネビルらが設計を手掛けた、パブリックコースの「パシフィック・グローブ・ゴルフリンクス」
・アメリカ西部最古の18ホールコースである「デルモンテ・ゴルフコース」
といったコースが集まっています。
(※周辺のGoogleマップはこちらです https://goo.gl/maps/DjhdRnJWnueeuA4m6)
中でも「サイプレス・ポイント」は、様々な世界のゴルフ場ランキングでも必ずベスト5には入っている、名コース中の名コースです。
また、「パシフィック・グローブ・ゴルフリンクス」は、ペブルビーチGLと同じ設計者のコースでありながら市営のムニシパルコースのため料金が安い事から、「貧者のペブル」の別名もあります。
これらのコースと風光明媚な海岸線を結ぶように走る有料道路は「17マイル・ドライブ」と呼ばれ、この道路のドライブは観光の目玉となっています。
勝負のポイントは「雑草でできたグリーン」?
ここからは今年の大会の展望に話を移しましょう。
コース攻略のポイントとしては美しくも難しいコースレイアウトや吹きつける海風などがありますが、私が一番のポイントだと思っているのはそのグリーンです。
ペブルビーチGLのグリーンは、ポアナ(Poa annua)と呼ばれる芝でつくられています。実はこのポアナ、日本では「スズメノカタビラ」と呼ばれ雑草扱いされている草なのです。
全国各地いたるところに生えていますので、写真を見て見覚えがあるという方もいるのではないでしょうか。
日本のゴルフ場、特にベント芝や高麗芝が多く使われているグリーン整備においては、まさに厄介者。
見た目は悪くする、グリーンは滑らかにならない、そのくせ繁殖力は旺盛と、長年グリーンキーパーを悩ませ続けています。
そんなポアナは、夏涼しく冬暖かい、しかも湿気の多いペブルビーチGLのような土地が大のお気に入り。
そのため、本来は一年草である芝が越年してキレイに生えそろう(正しくは、生えそろってしまう?)ため、そのままグリーンの芝に使われている訳です。
ただし、一見キレイなポアナのグリーンですが、芝の成長が早く、かつその成長が一定ではありません。
そのため、午後になると目に見えて分かるほど表面がポコポコし、ボールの転がりが不規則になるといいます。
アメリカツアーを転戦する中でポアナ芝のグリーンを経験した日本人選手からは、「マジで嫌だ」「ポアナ芝では願う事も大切」といった声が出るほど。
またポアナグリーンのイメージトレーニングとして、厚さ1.5ミリほどある1セントコインを撒き、そこでパッティング練習をする選手もいたのだとか。
中継では、厄介なグリーン上でのパッティングにもぜひ注目してください。
優勝スコアはハイ or ロー?
今回はまもなく始まるペブルビーチGLでの全米女子オープンについて、様々な視点からご紹介してきました。最後に注目するのは優勝スコアです。
とは言え、当地での過去のデータはありませんから、男子の全米オープンから予想してみようと思います。
過去にペブルビーチGLで開催された全米オープンは6回。その優勝者と優勝スコアは、以下の通りです。
・1972年 ジャック・ニクラウス 290(+2)
・1982年 トム・ワトソン 282(-6)
・1992年 トム・カイト 285(-3)
・2000年 タイガー・ウッズ 272(-12)
・2010年 グレーム・マクドウェル 284(±0)
・2019年 ゲーリー・ウッドランド 271(-13)
こうして優勝スコアを見ると、「オーバーパーないしは一桁アンダーのハイスコア」か「二桁アンダーのロースコア」に分かれます。
(もっとも、2000年のタイガー・ウッズは2位に15打差つけての優勝で、今でもメジャーの最多差優勝記録となっていますが…。)
既に発表されている情報によれば全長は6500ヤード程度のパー72と、今の女子ツアーにおいては標準的な設定です。
そこに全米女子オープンならではセッティングと、ポアナグリーンということを加味すると、優勝スコアは伸びても一桁アンダーの後半になるのではないかと思います。
さらにそこへ太平洋からの強い潮風が吹き荒れるような事があれば、ひょっとするとオーバーパーでの決着となるかもしれません。
いずれにせよ、ペブルビーチGLでの記念すべき初の全米女子オープン。ドキドキするような熱戦を期待しながら、4日間楽しみたいと思います。