AI研究最前線vol.17 AIで仕事は本当に減っている?雇用統計で変化を見る

雇用統計を眺めてみると、「AIで奪われる仕事」が見えてくるかもしれません。

  

「AIによって人間の仕事はなくなるのか?」

 

生成AIが登場して以来、何度も議論されてきたテーマです。

おそらく、工業革命当時も同じ様な議論があったに違いません。

新しい技術が生まれた時、それによって何が消えてしまうのか?というのは、きっと人間誰しもが気になる話題であるようです。

 

話をAIに戻しますと、これまでの議論では「将来的に○%の仕事が自動化される」といった予測が中心でした。

しかし最近になって、少し状況が変わってきました。

“未来予測”ではなく、実際の雇用データにも変化が見え始めているのです。

 

10月21日、Stanford大学のDigital Economy Labが、AIによる経済への影響をリアルタイムで追跡する「AI Economic Indicators」の最新状況を紹介しました。

https://hai.stanford.edu/news/tracking-ais-real-time-footprint-on-the-labor-market

このページでは特に、AIによる労働市場への影響をリアルタイムに追跡した結果が公開されています。

 

この中で特に気になるのが、若手の雇用です。

ソフトウェア開発やカスタマーサービスなど、AIの影響を受けやすい職種において、22〜25歳の雇用は最近では前年比4.4%減少しています。

さらに、ChatGPT登場後の推移を比較すると、AIの影響が大きい職種で働く若者の雇用は、AIの影響が小さい職種と同じペースで伸びていた場合と比べて、19%低い水準になっています。

https://digitaleconomy.stanford.edu/publication/canaries-in-the-coal-mine-six-facts-about-the-recent-employment-effects-of-artificial-intelligence/

もちろん後者の「19%」というのは、あくまで推定であることに注意が必要です。

 

そしてこの現象の主な原因として見えているのは「AIによって大量に解雇された」という現象ではありませんでした。

研究チームによると、差が生まれているのは主に若手の採用が減っていることであるようなのです。

実際に、経験豊富な労働者では、同じような雇用減少は確認されていません。 

 

すなわち、AIが既存社員を一斉に置き換えるのではなく、

これまで若手が担当していた仕事をAIが担うことで、「新しく人を採用する必要性」が少しずつ低下している可能性がある。

ということになります。

 

さらにStanfordは、AIの使われ方にも注目しました。

AIが人間をサポートする「augmentation(能力拡張)」として使われている職種より、AIに仕事そのものを任せる「automation(自動化)」として使われている職種の方が、雇用成長が遅い、あるいは縮小する傾向が見られています。

以前の記事【AI研究最前線vol.16 AIは実は「人件費を削る道具」ではなかったって本当?】では、高スキル・高賃金の人材の仕事をAIで支援することで高い経済効果を得られる、という報告をさせていただいたのですが、経済効果と雇用状況には少し乖離がある様です。

AI研究最前線vol.16 AIは実は「人件費を削る道具」ではなかったって本当?

 

ただし、ここで注意したいことがあります。

Stanfordの研究者自身が強調しているように、「AIによって米国全体の雇用が減っている」と言える段階ではありません。

実際、経済全体を見ると、AIへの曝露度が高い職種だけで失業率が特別に上昇しているという明確な証拠は、今のところ確認されていません。

景気や金利、企業業績など、雇用にはさまざまな要因が影響します。 

https://siepr.stanford.edu/publications/policy-brief/what-really-happening-jobs-separating-ai-hype-reality

私たちは神様ではないため、「仮にAIが誕生しなかったら」という、起き得なかった未来の情報を知ることはできないため、正確な評価が難しいのです。

 

以上の話をまとめると、「AIによる大量失業が始まった」とは言えない、と考えられます。

むしろ今の傾向として、労働市場全体が突然崩れるのではなく、特定の職種や若手採用から、じわじわと構造が変わる可能性が高くなっている様に見受けられます。

 

そして、この変化は企業に新しい問題を投げかけます。

もしAIによって、これまで新人が担当してきた資料作成、調査、簡単なプログラミング、顧客対応などを自動化できるようになったら、企業は当然、採用人数を減らす判断をするかもしれません。

短期的には合理的です。

しかし、その新人たちは5年後、10年後には中堅社員や管理職になるはずだった人たちでもあります。

入口を細くしすぎた会社は、将来の専門家や管理職をどこから育てるべきなのか。

 

以前このメルマガでも、AIを使うことで若手の「成果」は上がっても、必ずしも本人の専門能力が同じように伸びるとは限らない、という研究をご紹介しました。

今回の雇用データを見ると、その問題はさらに一段大きく見えてきます。

AI時代の人事が考えるべきなのは、

「AIで何人減らせるか」

だけではなく、

「AIで若手の仕事が減った後、どうやって次世代を育てるのか」

なのかもしれません。

 

AIが雇用を奪うかどうかという議論は、まだ結論が出ていません。

しかし少なくとも、採用と育成の仕組みを変える必要性は、未来の話ではなくなりつつある。

今回のデータは、その最初のサインなのかもしれません。

 

P.S.

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大学にてデータサイエンスを学ぶ傍ら、多くの人にデータ分析の面白さを伝えたいと日々奮闘中。