
AIを何のために導入するか?
企業のAI活用について考える時、「何を解決するために導入するのか?」というのは一番重要な課題です。
ここでまず思い浮かぶのは「業務効率化」ではないでしょうか。
これまで人が3時間かけていた仕事を、AIなら30分でできる。そうなれば人件費を減らせる。
これまで残業が多かったとある部署で、残業を減らせるに違いない。
もちろん、それもAI導入の価値の一つです。
しかし最近の研究を見ると、それ以上に重要な使い方が見えてきます。
結論を先に言うと、AIは「安い仕事をなくす道具」ではなく、「高い人の時間を、もっと価値の高い仕事へ移す道具」になり得るようなのです。
10月14日、コンサルティングファームであるマッキンゼーが「AI value curve」という分析を発表しました。
https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-ai-value-curve-the-economics-of-applying-ai-to-existing-work
こちらの分析は、人が現在行っている仕事のコストと、AIを利用した場合のモデル利用料、人による確認・修正まで含めたコストを比較し、「どの仕事にAIを使うと経済合理性が高いか」を分析したものです。
この分析の結果、AI活用は「単なる業務効率化だけではない」ということが明らかになりました。
経済的な効果が大きいのは、大量の低賃金業務をAIに置き換えること以上に、高スキル・高賃金の人材の仕事をAIで支援することだというのです。
マッキンゼーは、こうしたAI活用による年間の経済機会を世界で約2.5兆ドルと推計しています。
とてつもないインパクトです。
なぜこんなに経済機会が大きくなるのでしょうか。
考えてみれば、理由はシンプルでした。
例えば、経営者が毎週5時間を情報収集、資料の確認、会議準備に使っているとします。
AIによってそのうち3時間を削減できたとしても、経営者がその3時間をさらに別の資料作成に使ってしまえば、会社全体の価値はそれほど変わりません。
しかし、その3時間を、重要顧客との対話、採用、事業戦略、新しい投資判断に使うことができるとしたら、どうでしょうか。
同じ「3時間削減」でも、経営へのインパクトは大きく変わります。
実際に、AIを非常に積極的に利用しているAnthropicでは、とてつもない変化が起きているそうです。
https://www.anthropic.com/research/employment-at-anthropic
2026年8月には、社員が動かすAIエージェントの稼働時間が、人間の勤務時間の6倍に達しました。
一人の社員が、6人のAIエージェントを使って仕事をしていると思うと、もはや一つのグループが出来上がりそうです。
このAI利用の増加とともに、一人当たりのコード量、営業担当者当たりの成約、契約処理なども増加しているとのことでした。
ところが、人間が暇になったわけではありません。
むしろAIが大量の仕事をするようになった結果、今度は人間の注意力がボトルネックになりました。
社員の仕事も、「自分で作業する」ことから、「AIが行った大量の仕事を監視し、判断する」ことへ変わり始めています。
実際に国内のIT企業で働く複数の友人も「プログラミングをしなくなった」と言っていたので、これはアメリカだけでなく、全世界的な影響なのだと思われます。
ちなみに、採用で重視される能力にも変化があり、Anthropicでは特定の技術知識や実装力以上に、自律性や判断力を重視する傾向が強まっているそうです。
AIによって仕事の速度だけを2倍にしても、会社の利益が2倍になるわけではありません。
実際、マッキンゼーの2026年調査では、80%が「AIによって個人の生産性が向上した」と回答している一方、AIによるEBITへのプラス効果を報告した企業は37%。AI活用で高い成果を上げている企業は6%にとどまっています。
つまり、
人は速く働けるようになった。
でも、会社の仕組みは以前のまま。
という企業が少なくないのです。
AI導入で本当に大きな成果を出すには、「この仕事をAIに任せられるか」だけでなく、「AIに任せた結果、人間に空いた時間を何に使うのか」まで設計する必要があります。
特に経営者や管理職、専門職など、1時間当たりの意思決定価値が高い人ほど、この問いは重要です。
AI時代の経営で考えるべきなのは、
「AIで何人減らせるか」ではなく、
「会社で最も価値の高い人の時間を、どこへ移せるか」。
AIは人件費を削るための道具というより、限られた優秀な人材の時間を増やすための道具。
そう考えると、AI投資を見る視点も少し変わってくるのではないでしょうか。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが若手人材です。
熟練者の仕事をAIで効率化するほど、これまで若手が経験を積んできた「下積み」の仕事も減っていきます。
今いる優秀な人の時間を最大化すると同時に、次の優秀な人をどう育てるのか。
AI時代には、この二つを同時に考えることが、経営者にとって新しい人材戦略になるのかもしれません。
(実はこの問題は、大学でも現在進行形で考えるべきものなのですが、本当に難しい課題だと日々実感しています…。)
P.S.
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