2024年マスターズプレビュー①~選手とコース、せめぎ合いの歴史~

今回は2024年マスターズプレビュー全3回の第1回として、選手とコースのせめぎ合いの歴史についてご紹介します。

今年もまもなく始まる、「ゴルフの祭典」マスターズゴルフトーナメント。

今回から3回にわたって「2024年マスターズプレビュー」として、マスターズとその開催コースであるオーガスタナショナル・ゴルフクラブについて取り上げます。

1回目はマスターズにおける選手とコースのせめぎ合いの歴史についてです。

開催コースを変えることなく続いてきたメジャートーナメント

男子の四大メジャートーナメントのうち、全米プロ、全米オープン、全英オープンの3つは毎年開催コースを変えて開催されています。

それに対しマスターズは、「オーガスタナショナル・インビテーション」として開催された1934年の第1回以来、オーガスタナショナル・ゴルフクラブを会場に行われてきました。

その間ゴルフテクノロジーは進化を続け、それに対応すべくコースも変貌を遂げてきたのです。

「ドローヒッターが有利」は過去の話?

オーガスタに関して長らく言われていた定説に、「オーガスタはドローボール(左に曲がるボール)を打つ選手が有利」というものがあります。

その根拠は、オーガスタにおける左ドッグレッグ(左へ曲がるホール)の多さです。

パー3の4ホールを除く14ホールのうち、左ドッグレッグのホールは2番、5番、9番、10番、13番の5ホール。

また14番は、ストレートなホールながらフェアウェイが左から右に傾斜しているため、ドローボールで攻めるのがセオリーとなっています。

一方、右ドッグレッグは18番の1ホールのみ。左ドッグレッグの偏りがお分かりいただけるでしょう。

左ドッグレッグが多い理由として、一説にはオーガスタの創設者でありコースの設計も行ったボビー・ジョーンズがドローヒッターだったためとも言われています。

しかし「オーガスタはドローヒッターが有利」の定説は、もはや過去のものになろうとしているのが実情です。

実際過去5年のマスターズ優勝者を見ると、2023年のジョン・ラーム、2022年のスコッティ・シェフラー、2020年のダスティン・ジョンソンはボールが右に曲がるフェードヒッターと言われている選手です。

また、2021年の松山英樹と2019年のタイガー・ウッズも、ドロー一辺倒というよりはドローとフェードを打ち分けて優勝をつかみました。

定説が覆りつつある理由は、何と言ってもゴルフにおけるテクノロジーの進化です。

かつてドライバーヘッドの主な材料がパーシモン(柿の木)だった時代、他のコースよりも距離が長く、かつ左ドッグレッグが多いコースの攻略には、飛距離の稼げるドローボールをコースなりに打っていくというのが有効でした。

しかし1990年代以降、クラブやボールといった道具に関するテクノロジーは飛躍的に進化し、それに則したゴルフ理論も確立されます。

結果、トッププロが軒並みキャリー300ヤード以上のショットを放つようになり、コースと選手たちの力関係は逆転。

フェードヒッターでも、オーガスタを攻略できるようになったのです。

中には、「ランが少なく狙いどころに止めることのできるフェードの方が、今やオーガスタには有利」という人もいます。

これから定説はどうなっていくのかという点にも注目です。

長くなり続けるコース

セオリーを覆すような攻め方をされるようになったオーガスタですが、手をこまねいているわけではありません。

選手たちの飛距離に対応するため毎年のようにコースは長くなり、今年の大会は7,555ヤード・パー72で開催されます。

オープン当初と比べれば、実に600ヤード以上全長が伸びた計算です。

実は1999年まで、コースの全長は約7,000ヤードでした。

つまり、オープンから60年以上で100ヤード程度しか延びていなかったものが、この20年余りで約500ヤードも伸びたわけです。

このように方針変更をさせる大きなきっかけとなった大会がありました。タイガー・ウッズが初優勝した1997年の大会です。

当時の大会最少ストローク記録である18アンダー、今でも記録となっている2位に12打差をつけての圧勝劇。

そしてそれを可能にした圧倒的なドライバーの飛距離は、主催するオーガスタナショナル・ゴルフクラブに衝撃を与えました。

これを機にクラブ側はマスターズ開催にふさわしいオーガスタナショナルという舞台を維持すべく、コースの延長をメインとするコース改造を頻繫に行うようになります。

まず1999年には、全長を7,100ヤード台に延長。併せて、それまでなかったラフ(セカンドカット)の導入やフェアウェイへの植樹、グリーンやバンカーの改修も実施しました。

そして2002年の大会前には9ホールに及ぶ大改造を断行。その結果、全長は285ヤード伸び7,400ヤード台になります。

その後も数年ごとに改造が行われ、現在のコースは7,500ヤード台にまでなった訳です。

ゴルフ史家やコースの批評家の中には、「もはやオーガスタは、設計したボビー・ジョーンズとアリスター・マッケンジーが思い描いていたコースではなくなった」という厳しい意見もあります。

一方クラブ側は、2002年の改造に際して「改造の目的は、オーガスタを時代に適したコースにすること。それがオーガスタの伝統である」と述べています。

古いコースでありながらも改造・改修によって選手の挑戦を受けて立つトーナメントコースであり続けていることについて、評価する声が多いのも事実です。

今後オーガスタナショナルのコースは、どのように変わっていくのでしょうか。

今年の優勝の行方~勝つのは「経験」か「勢い」か~

そんなオーガスタナショナルで、今年グリーンジャケットを着るのは誰なのか。

記事の最後に、今大会の優勝の行方を占ってみたいと思います。注目するのは優勝者の出場回数です。

まずは過去10回のうち、大会初優勝だった選手たちの優勝時の出場回数をご覧ください。

2023 ジョン・ラーム 7回目
2022 スコッティ・シェフラー 3回目
2021 松山英樹 10回目
2020 ダスティン・ジョンソン 10回目
2018 パトリック・リード 5回目
2017 セルヒオ・ガルシア 19回目(※初優勝までの最多出場回数記録)
2016 ダニー・ウィレット 2回目
2015 ジョーダン・スピース 2回目
(※出場回数にはアマチュア時代も含む。2014年のバッバ・ワトソンと2019年のタイガー・ウッズは初優勝ではないため除く。)

初優勝までの最多出場回数記録となったセルヒオ・ガルシアの19回を筆頭に、8人中5人は大会に5回以上出場した末の初優勝でした。

毎年コースが変わらず、またターゲットに対する的確なショットが求められるマスターズにおいては、経験がものを言うとされています。

事実、初出場で優勝したのは1934年のホートン・スミス、1935年のジーン・サラゼン、1979年のファジー・ゼラーの3人だけ。

1934、35年はそれぞれ第1回、第2回大会だったことを考えると、実質的にはゼラー一人だけと言えるでしょう。

オーガスタでの経験豊富なプレーヤーの中からの優勝候補として挙げられるのが、松山英樹です。

今年2月には難コース・リビエラCCで行われた「ザ・ジェネシス招待」を制し、2年ぶり、そしてアジア勢単独最多となるツアー9勝目を飾りました。

その後も好調を維持しており、2着目のグリーンジャケットも十分に期待できます。

また、「ザ・ジェネシス招待」以来の出場が確実視されているタイガー・ウッズ、16度目の出場で悲願の初優勝とグランドスラム達成を狙うローリー・マキロイにも注目です。

一方で、ジョーダン・スピースとダニー・ウィレットは出場2回目、スコッティ・シェフラーは出場3回目での優勝と、近年では飛躍した選手や直前に好調だった選手が勢いそのままにマスターズを制するというケースも見られます。

今大会に余勢を駆って出場する選手の筆頭が、初出場のウィンダム・クラークです。

大学時代に最愛の母を亡くし2019年のPGAツアーデビュー後もなかなか勝てなかったクラークですが、昨年2023年に一気にブレイク。

5月にツアー初優勝を飾ると、6月の「全米オープン」ではマキロイやリッキー・ファウラーらの実力者をかわしてメジャー初制覇まで成し遂げます。

今年も2月にツアー3勝目を挙げ、その後も優勝争いをしているクラーク。

今や世界ランク5位の実力者となった彼なら、ゼラー以来となる初出場初優勝も夢ではありません。

勝つのは「経験」か「勢い」か…今大会ではぜひその点にも注目してください。

さて今回は主にコースの変化に注目してきましたが、変化してきたのはコースだけではありません。

大会の規模や時代の変化に伴い、実はクラブの敷地やマスターズへの出場資格、さらにはクラブ組織も変わってきたのです。

次回は、そんなコース以外での変化についてご紹介します。

Who is writing

1982年生まれ。大手建機レンタル会社や書店チェーン、金属材料販売会社に勤務する傍ら、小学生のころにテレビで見たイギリスにあるリンクスコースの光景に衝撃を受けて以来、ゴルフコースに関する情報収集を趣味としている。ゴルフコースに関する蔵書は、洋書も含めて数十冊。