そのエントリーシートは、もう限界かもしれない【後編】就活×AIが生みだす功罪、いまを疑う企業が生き残る
前編に続き、ESをさまざまな角度から疑います。AIの進化により、新卒採用は転換期を迎えそうです。特に中小企業の人事のみなさん必見です。
Contents
3つの時代の変化からESを問う
前編では、就活生のリアルな悩みとエントリーシート(以下ES)の歴史、当たり前のように続いているES選考の入口に、根本的なエラーが起きているかもしれない点を、特に「志望動機」に注目し、統計データとともにお届けしました。(前編はこちらから)
後編では、これまで以上に変化の激しい次の時代にむけて、各企業にとって有効な採用手法のポイントはどこにあるのか、現在のES選考を前向きに疑いながら、一緒に考えていきたいと思います。
新型コロナウイルスが今年5月に5類に引き下げられることになり、日本もやっと平常運転に戻ることになりますが、アメリカの銀行破綻や買収など、世界経済にも動きがみられ、これからどのような時代になるのか、各企業が動向に注目している状況かと思います。
その中で、新卒採用にかかわる時代の変化はどのようなものがあるのか、3つの事実を整理し、改めてES選考の必要性・有効性を考えてみたいと思います。
① 生産年齢人口の減少×ES
総務省のデータによると、日本の生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに、2030年には6,875万人、2050年には5,275万人まで減ると予測されています。
2021年から2050年までに約30%減る計算になりますが、この減少分をAI等がどのように補う時代になるのかは、まだ分かりません。
・働ける人が減る
・少子化が加速し、新卒枠の18歳~23歳前後の人口は激減する
・企業は生産性を上げなければならない
・消費人口も減るため、企業の付加価値がないと生き残れない
となると、一人あたりの生産性を上げるために、自社にとっての戦力人材を獲得することは必須です。
前編でお伝えしたとおり、現在のESは、生産年齢人口がピークを迎える1990年頃に生まれた選考方法です。
学歴不問のオープンな採用が広まったことで、大手企業や人気企業に応募者が集中したため、結果的にESは入口のスクリーニング機能として定着しました。
現在も、学生の応募が殺到する企業においては、有効な側面もあると思います。
しかし、中小企業を中心に、すでに人材不足・人材獲得競争の時代がきており、これからますます加速することがわかっている状態で、同じ方法をとり続けることに意味があるのかどうかは、一度検討してみる価値があるように思います。
そして、大企業も、新卒入社枠に当てはまる総人口が減り続けていく事実を考えると、そもそも新卒一括採用が成り立たず、将来的には通年採用を選択するケースも増えてくるかもしれません。
短期間に応募が集中することを緩和できるのであれば、選考入口でのスクリーニングの必要性も弱まっていくかもしれません。
このように、企業の規模や体制によっては、積極的に現行のES選考を疑っていく必要があるのではないでしょうか。
② AIの進化×ES
昨年アメリカの人工知能研究所オープンAIが発表した対話型AI「ChatGPT」にはじまり、現在は進化版のGPT-4が搭載されたマイクロソフトの「Copilot」、Googleの「Bard」など、ここにきて急速にAIが進化しています。
すでにChatGPTは日本でも浸透してきており、人によっては、仕事でもAIをうまく活用し、大きな戦力になっているケースも出てきています。
膨大なデータから必要な情報をリサーチし、人が書く文章となんら遜色ないアウトプットが出るという、リサーチと言語化のプロセスにおける能力は、現在のあらゆる仕事が、部分的にAIに置き換わる協働の時代になっていくことを、利用されたことのある方は感じていらっしゃるのではないでしょうか。
さて、ここで今回のES問題です。
結論として、進化し続けるAIで秀逸なESが書けてしまうということです。実際に活用している学生や、早速ChatGPTを利用した就活生向けのサービスも出てきています。
最初のプロンプトは応募者本人が考えるので、使い方によってはアウトプットに差が出ますが、AIが書いたESを人事が選考する、という構図が成立してしまうわけです。
実際に選考通過したとしても、それは学生が考えたり調べたりしたものではなく、ほぼAIの能力です。
さらに、すでに一部の大手企業では、ES選考にかかる人的労力と時間を削減するため、AI選考を導入しているケースもあります。
あらかじめAIに選考通過のESを学習させておき、膨大な数のESを効率よく選抜していく仕組みです。
ところが、質問項目によっては、応募側もAIを駆使することになれば、「AIが書いたESをAIが選考する」という、もはや何の意味があるのかわからない選考過程が出てくることになります。
さらに「学生がAIで書いたかどうか判別するために企業がAIで選考する」という過程が出てくれば、いよいよ互いに本質を見失いかねません。
学生にとっては、企業研究の効率が上がることで、より多くの企業にESを出せる可能性が出てくるという側面では、メリットといえる部分もあるのかもしれませんが、特に企業側にとって、活躍人材の獲得のために必要な選考プロセスなのか、見方によっては早急に現行の選考方法やESの質問項目を検討した方がいいのではないかともいえそうです。
また、別の視点からみれば、AIの急速な進化により、業種・職種によっては、現在の業務の一部もしくは大部分がAIに置き換えられるなど、数年後には人がおこなう仕事内容が大きく変容していく可能性が充分にある時代に、何を問うことが有効なのか、今まで疑ってこなかった質問を疑ってみてもいいかもしれません。
③ ジョブ型雇用×ES
最後の視点は、新卒採用の雇用形態の多様化です。
2020年に経団連が推奨したこともあり、新卒採用において、ジョブ型雇用を採用・検討する企業が増えており、特に技術職やDX分野をめざす学生を中心に注目が高まっています。
ジョブ型雇用とは、あらかじめジョブディスクリプションという職務記述書により担当する仕事を定義し、雇用する方法です。
さて、新卒のジョブ型雇用でESを採用する場合、何が起こり得るでしょうか。
大企業であるほど業務が細分化されているので、例えば、データサイエンスの仕事・営業の仕事・財務の仕事では、求めるスキル・能力の定義が異なります。
そのため、ジョブ型雇用では、それぞれのジョブに対して、メンバーシップ型雇用よりも求められる能力や人物像の定義を、より細かく、明確に絞ることが可能になります。
よって、もし従来の自己PR・ガクチカ・志望動機の3点セットを質問している場合、学生から送られてくるESは、メンバーシップ型雇用の募集時よりも、さらに似たり寄ったりのアウトプットが出てくる可能性が高くなる、という見方はできないでしょうか。
学生にとっては職務内容が限定されることで、イメージがつきやすくなり応募しやすくなっても、企業にとっては入口の見極めが難しくなる、とも言えるかもしれません。
このように、3つの時代の変化を考えると、前編でお送りした志望動機問題も含めて、現在のESは自社の選考において、何の役割を果たしているのか、この先どのような役割になるのか、ならないのか、それぞれ俯瞰してみえてくることも多いのではないでしょうか。
少なくとも、20年以上定着している“定番の質問”は、見直す価値はありそうです。
一方で、結局のところ、もし学歴フィルターのためにESを使用している企業が多いのであれば、このままESは継続されるのかもしれません。
この先の企業動向は、学生も支援側も注目する点ではないかと考えます。
ESを見直した企業の事例
ここからは、実際にESを廃止、もしくは質問の一部を見直している企業の事例をご紹介したいと思います。
2022年の採用からESを廃止し、5分程度でエントリーできるプロセスへ変更
2024年の採用からガクチカを廃止、プレゼン選考を導入
2024年の採用からガクチカを廃止、自分の過去を振り返る「自分史」の記入へ
コロナ禍で学生側がガクチカに書けることが限られるため、という外的な背景も一部含まれるものの、従来のES選考や質問が、もっとも有効とは言えない工程であると判断している企業は、より“個”を深く見極めるために、人柄重視、もしくは能力重視の選考にシフトしている印象です。
土屋鞄製造所では、2022年度の新卒採用からESを廃止しています。
そもそもESは企業が選考しやすくするためのもので、学生には何のメリットもない制度だと思います。学生は1社、2社ではなく多数の会社にエントリーします。その度にESを作成するのは大変な負担です。しかも、今やマニュアル本が多く出回っていますので、型にはまった内容になってしまい、ESでは個性や人間性を見極めにくい状態です。
としています。
日立製作所は、新卒採用でもジョブ型雇用を取り入れている企業です。ガクチカは同じような回答ばかりで見極めに限界があると判断し、2024年卒から廃止。
新たに最終面接で5分間のプレゼンテーションを実施し、「どのような職種で、どのように社会課題の解決に取り組みたいか」というテーマで、論理的思考や職務遂行能力を評価するようです。
企業側がいますぐできること
いかがでしょうか。
今まで当たり前だと思っていたES、一度見直してみてもいいような気がしませんか?
仮に継続するとしても、何のために各質問をしているのか、特にガクチカ・志望動機は自社にとって本当に有効な問いなのか、選考プロセスを考えるきっかけになれば幸いです。
その上で、本記事の前編も踏まえ、今後の新卒採用において、企業側ですぐにでも見直し・検討できるポイントを順番にご紹介します。
①【選考前】求める人材を資質と思想に分けて定義する
募集要項で、企業側の求める人物像を曖昧な表現にしない、という点はよく言われることです。
しかし、企業の規模が大きいほど職種によって求められる要素が異なるため、全体としてのメッセージは、企業の使命や価値観などの「思想」に重きを置いた表現が軸になりやすいと思います。
ジョブ型雇用が増えているとはいえ、日本はメンバーシップ型雇用が中心です。
帰属意識という観点もあるため、学生側も企業が掲げる大項目をもとに、どこか地に足がついていないふわっとした志望動機になりがちです。
そのため、もしES選考を継続するのであれば、具体的に求められる「資質」を応募の時点でどのように学生に発信していくかは、大切なポイントです。
これは、企業によって大きく異なる部分です。
さまざまな凹凸があった方が、互いの強みを活かせる組織になるケースもあれば、ある程度の共通項をもった人材を集める方が事業の付加価値を維持できる場合など、業種・職種によっても異なるでしょう。
また、これからの人材難の時代に生き残っていくためには、同じタイプの人材を集めることに価値があるかどうかは、企業の経営方針や戦略によって異なってくるため、定義が難しい側面もあります。
これらを踏まえて、思想と資質は分けて考え、さらにジョブ型雇用であれば、資質と保有スキルも分けて定義し、何が自社にとってもっとも重要なのかを検討し、学生がイメージしやすい形で示すことは、質的な母集団形成の課題解決にもつながると考えます。
また、求める人材像を、理想像やあるべき姿に設定するのか、ボーダーラインでこれだけは外せませんというラインで設定するのかも、採用人数や企業の課題によって変わってきそうです。
②【選考前】アンマッチ人材を明確にする
マッチする人材の定義よりも、業種の特性によっては、アンマッチな人材・入社してから苦戦しがちな人材は、今までの採用実績から、価値観・資質ともに明確に定義できる部分もあると思います。
学生が募集要項や採用ページを見たときに、自分が明らかにマッチしていないと一次判断ができる情報があれば、そこで一定数のスクリーニング機能がはたらくことにもなります。
見せ方は工夫する必要があるかと思いますが、求めない人物像も、視点のひとつとしてありそうです。
③【選考前】入社後の育成で補える要素を定義する
企業が求める人材の定義に完璧に当てはまるような人はほとんどいないと思います。
それは、学生側からみる企業も同じです。大小あれど、何かしらのギャップは発生します。
通常、そのギャップは企業・学生どちらかがうまくクリアしたり、慣れることで解消したり、互いに補うことで解決したりしていくものです。
しかし、仕事において、被雇用者側の努力だけでは埋められない要素もあり、それを入社後の研修や育成でカバーし、さらに伸ばしていくことが、直接雇用をする企業の役目です。
そのため、採用時に学生側に不足していたとしても、この要素は入社後に企業側で問題なくカバーできるものだ、というバッファを定義すること。
特に採用人数が多い場合、自社が無理なくとれるバッファは具体的に何なのか、その要素をスキル・能力で洗い出すことはポイントになりそうです。
入社後に企業側で解決できる要素が、各企業の人材育成の強みのひとつだとも言えます。
④【選考時】一人ひとりの中にしか解がないものを問う
前述のとおり、AIでESが書ける時代になりました。
論理的な思考で文章を書く力や構成力はAIで何とでもカバーできてしまうので、事前提出の方法でアウトプットの質を判断することは今まで以上に難しくなるでしょう。
それでもES選考を続ける場合、外側に解がないもの、自分の中にしか源泉がなく、中身を調べようがない質問設計というのは、見極めに必要になるのかもしれません。
また、判断したい個性を、人柄・価値観に寄せるのか、能力重視にするのか、総合判断にするのか、戦力人材を獲得するために必要な質問は企業ごとに異なってきそうです。
⑤【選考時】志望動機のハードルを下げ、動機よりも希望を聞く
前編で述べましたが、学生にとってES提出時や一次選考から志望度の高い企業は限られます。
そのため、ESやオリジナルの書類選考で志望動機を問うのであれば、「当社を知ったきっかけ」「当社との出会い」程度にとどめ、「現時点でやってみたいこと」など、動機を聞くのではなく本人の希望を聞くスタンスにすると、学生の心理的なハードルも下がるのではないかと思います。
応募先の企業に本当に魅力を感じている学生は、志望動機という形でなくとも、言葉の端々で自ずとアウトプットが出るのではないでしょうか。
⑥【選考時】学生が萎縮しない選考の環境をつくる
最後に、就職活動は受験ではないことを企業側が示すことは、とても大事です。
普段にも言えることですが、安心できないと、人は本音を出しません。安心しても心を開かないケースも当然あります。
面接で化かし合いをしていても、結局は見極めができないので、これから一緒に働く仲間として学生を尊重し、企業側から先に仮面を取っ払っていく必要がありそうです。
中小企業こそ、母集団形成のチャンス
改めて流れをまとめると、学生は就職活動で以下の準備をします。
① 自己分析・自己理解
② 業種・職種の理解、(既にやりたいことが明確であれば企業研究)
③ 興味のある企業を探す
④ ①と③を一致させるために②の理解を深め、各企業の研究をして、応募
④のプロセスで、ESを中心に、学生側にエラーが起きています。
学生は①~③までの準備で、②と④は、企業側が提供したり判断したりした方が、圧倒的に早く、精度が高いはずです。
そもそも一致するかどうかを互いに確かめるのが、面接の場ではないでしょうか。
対等な関係での確認作業・すり合わせの時間を、選考そのもので確保できることが、これからの人材難の時代においては、非効率なようで、とても近道なのかもしれません。
しかし、ESをはじめとした入口の選考方法が従来のやり方では、そろそろ限界がきそうです。
戦力人材を見極めるための有効な選考指標の見直しと、時代の変化に応じて学生への質問をこまめにアップデートしていくことが、これからは必須になりそうです。
ポジティブに捉えると、この時代の流れは、特に中小企業にとっては新卒採用の精度を上げるための「追い風」です。
思い切ってES廃止を検討することは、応募者を増やすためにはメリットしかありません。
企業側の面接の労力は増えるため、この面接をどのような形で効率よく進めていくかを構築できれば、多くの逸材と出会える可能性が高まります。
前編でご紹介した構造化面接もひとつの選択肢でしょう。
そして、学生がやりたいこと、価値観、得意なこと、普段の思考・行動プロセスを最大限引き出し、企業視点での面接設計ではなく、学生起点で答えられる質問に切り替えていくことで、学生も飾ることなく自分のことを伝える準備だけに集中できると、受験対策のような心境から抜け出せ、少しでも自分のアンテナに引っかかり興味をもった企業に、エントリー時点で企業研究を必要以上に気にすることなく、気楽にトライできるのではないでしょうか。
あらゆる企業が、同じES選考の手法をとることに意味があるのか。
現状を積極的に疑い、本質を捉え、一見不都合にみえる時代の流れをうまく活かせる企業が、今後も生き残っていくのではないかと考えます。
現在のES選考、これからも続けますか?
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